幸薄女神は狙われる

古亜

文字の大きさ
上 下
2 / 28

1-2

しおりを挟む

「あれ、藤倉さん鞄変えたの?」
「ちょっと壊れちゃって」

同僚の質問に「あはは」と乾いた笑いで返す。

「今度は何があったの?釘にでも引っ掛けた?そういえば事務に名刺とか新しい名札ホルダー貰ってたけど、コーヒーでもかけられた?」
「……まあ、そんなところです」

私の不運は、会社内では割と有名だ。こうやって鞄を変えただけで何か不幸なことがあったのかと確信を持って尋ねられる。
そして実際、があるので、同僚たちは「また藤倉さんの不運録に新しい内容が追加された」と盛り上がる。
まあ、私の小さい不幸をなんらかの話の種にしていただけるんなら、もはや有り難くすらあるけど。

「昨日もちょっと残業してたら私が席立ったタイミングでクレーム対応でしょ?藤倉さんって、ほんと何か持ってるよねー」
「お、藤倉の不幸が貯まってきた?」

そんなこんなでわいわい盛り上がる。平和な職場だ。
私の運のなさは神がかり的らしい。
とはいえ、貧乏神的な意味で怖がられる事はないのだけど。
幸い?なことに、私の不幸は人には伝染しない。むしろ、私が使わなかった運は周囲に向くらしい。

「ちょうど今イベント始まっててさ、女神パワーで昼休みに10連ガチャ引いてよ」
「再来月のライブのチケット、一般抽選今日からなんだけど、藤倉さん一緒に申し込んでくれない?」
「俺も、女神の力貸してくれ。彼女がどうしてもこの新作が欲しいって言うんだよ」

人のガチャで当たりを引く、同時に申し込んだチケットは私だけ外れる、次の人が来場1万人記念、転べば他人が落とした割れ物が降ってきて壊れなかったり、電車に乗って運良く座ると、直後に決まって妊婦もしくはご老人が目の前に立つ。いや、譲るよ。席は譲るけど……
そしてついに、つけられたあだ名は女神。
誰が広めたんだか、それは不本意ながら社内で浸透し、ついには「藤倉が何も無いところでコケれば次の日に新規の注文が入る」だの「打合せの前は藤倉を拝めば案が通る」だの、意味不明な信仰が生まれていた。
そしてそれらは決まって、私にはなんのメリットもない。強いて言えば感謝されるくらいか。
確かなのは、私の身に不幸なことが起こると、周りでいいことが起こる、ということだ。
……まあ、さすがに自他共に生命が関わったのは、昨夜のあれが初めてだけど。
結局、あの通り魔らしき男は捕まったんだろうか。それに男の人は、なんで命を狙われていたんだろう。今更だけど、あの方々は一般人が関わっちゃいけないタイプの人たちだよね……
思い出すだけでまだ背筋が冷える。運が無いのは元々だけど、あそこまでとは思わなかった。
とはいえあんなことそうそう起こらないだろうし、早いとこ忘れてしまおう。
気を取り直そうと顔を上げると、少し離れたところで誰かが私に向けて手を合わせているのが見えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヤクザと私と。~養子じゃなく嫁でした

瀬名。
恋愛
大学1年生の冬。母子家庭の私は、母に逃げられました。 家も取り押さえられ、帰る場所もない。 まず、借金返済をしてないから、私も逃げないとやばい。 …そんな時、借金取りにきた私を買ってくれたのは。 ヤクザの若頭でした。 *この話はフィクションです 現実ではあり得ませんが、物語の過程としてむちゃくちゃしてます ツッコミたくてイラつく人はお帰りください またこの話を鵜呑みにする読者がいたとしても私は一切の責任を負いませんのでご了承ください*

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

虚弱なヤクザの駆け込み寺

菅井群青
恋愛
突然ドアが開いたとおもったらヤクザが抱えられてやってきた。 「今すぐ立てるようにしろ、さもなければ──」 「脅してる場合ですか?」 ギックリ腰ばかりを繰り返すヤクザの組長と、治療の相性が良かったために気に入られ、ヤクザ御用達の鍼灸院と化してしまった院に軟禁されてしまった女の話。 ※なろう、カクヨムでも投稿

そんな事言われても・・・女になっちゃったし

れぷ
恋愛
 風見晴風(はるか)は高校最後の夏休みにTS病に罹り女の子になってしまった。  TS病の発症例はごく僅かだが、その特異性から認知度は高かった。 なので晴風は無事女性として社会に受け入れられた。のは良いのだが  疎遠になっていた幼馴染やら初恋だったけど振られた相手などが今更現れて晴風の方が良かったと元カレの愚痴を言いにやってくる。  今更晴風を彼氏にしたかったと言われても手遅れです? 全4話の短編です。毎日昼12時に予約投稿しております。 ***** この作品は思い付きでパパッと短時間で書いたので、誤字脱字や設定の食い違いがあるかもしれません。 修正箇所があればコメントいただけるとさいわいです。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

【完結】お世話になりました

こな
恋愛
わたしがいなくなっても、きっとあなたは気付きもしないでしょう。 ✴︎書き上げ済み。 お話が合わない場合は静かに閉じてください。

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない

絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。

処理中です...