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しおりを挟む「あれ、藤倉さん鞄変えたの?」
「ちょっと壊れちゃって」
同僚の質問に「あはは」と乾いた笑いで返す。
「今度は何があったの?釘にでも引っ掛けた?そういえば事務に名刺とか新しい名札ホルダー貰ってたけど、コーヒーでもかけられた?」
「……まあ、そんなところです」
私の不運は、会社内では割と有名だ。こうやって鞄を変えただけで何か不幸なことがあったのかと確信を持って尋ねられる。
そして実際、何かがあるので、同僚たちは「また藤倉さんの不運録に新しい内容が追加された」と盛り上がる。
まあ、私の小さい不幸をなんらかの話の種にしていただけるんなら、もはや有り難くすらあるけど。
「昨日もちょっと残業してたら私が席立ったタイミングでクレーム対応でしょ?藤倉さんって、ほんと何か持ってるよねー」
「お、藤倉の不幸が貯まってきた?」
そんなこんなでわいわい盛り上がる。平和な職場だ。
私の運のなさは神がかり的らしい。
とはいえ、貧乏神的な意味で怖がられる事はないのだけど。
幸い?なことに、私の不幸は人には伝染しない。むしろ、私が使わなかった運は周囲に向くらしい。
「ちょうど今イベント始まっててさ、女神パワーで昼休みに10連ガチャ引いてよ」
「再来月のライブのチケット、一般抽選今日からなんだけど、藤倉さん一緒に申し込んでくれない?」
「俺も、女神の力貸してくれ。彼女がどうしてもこの新作が欲しいって言うんだよ」
人のガチャで当たりを引く、同時に申し込んだチケットは私だけ外れる、次の人が来場1万人記念、転べば他人が落とした割れ物が降ってきて壊れなかったり、電車に乗って運良く座ると、直後に決まって妊婦もしくはご老人が目の前に立つ。いや、譲るよ。席は譲るけど……
そしてついに、つけられたあだ名は女神。
誰が広めたんだか、それは不本意ながら社内で浸透し、ついには「藤倉が何も無いところでコケれば次の日に新規の注文が入る」だの「打合せの前は藤倉を拝めば案が通る」だの、意味不明な信仰が生まれていた。
そしてそれらは決まって、私にはなんのメリットもない。強いて言えば感謝されるくらいか。
確かなのは、私の身に不幸なことが起こると、周りでいいことが起こる、ということだ。
……まあ、さすがに自他共に生命が関わったのは、昨夜のあれが初めてだけど。
結局、あの通り魔らしき男は捕まったんだろうか。それに男の人は、なんで命を狙われていたんだろう。今更だけど、あの方々は一般人が関わっちゃいけないタイプの人たちだよね……
思い出すだけでまだ背筋が冷える。運が無いのは元々だけど、あそこまでとは思わなかった。
とはいえあんなことそうそう起こらないだろうし、早いとこ忘れてしまおう。
気を取り直そうと顔を上げると、少し離れたところで誰かが私に向けて手を合わせているのが見えた。
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