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私、藤倉橙子は運が悪い。
おみくじでは凶か大凶以外出た事ないし、ガラガラ回す抽選ではティッシュ以外当たった事がない。それなのにティッシュを忘れた時は街頭のティッシュ配りのお兄さん(お姉さん)に無視され、雨の日はコンビニの傘立てにたくさん刺さったビニール傘の中から、私のものが盗られてる。
外食に行けば私のお皿だけトッピングを忘れられたり、通販で買った鍋の取っ手が折れてたり、うっかりばら撒いた小銭の大半が側溝に落ちたり、公衆トイレで紙が無かったり、基本的にはそんな些細な不運。
けどこれだけなら単に少し運が悪いだけ。
むしろこの状況に比べれば、運が良い方な気がしてきた。
「女、そこ退けぇぇ!!!」
クレーム対応のせいで遅くなった仕事帰り、人通りも少なく軽くスマホを見がら歩いた私が悪かったのか、角を曲がった瞬間そんな絶叫と共に、ドンっと誰かが私にぶつかってきた。
咄嗟に鞄を盾にしていたらしく、直接接触はしなかったけど、私はその場に尻もちを付いていた。
「す、すいません……ええっぇ!?」
落ちた鞄を引き寄せると、なぜか中身が次々と道路の上に転がった。私は落下やスリ、突然の雨等諸々の対策としてちゃんとファスナーと留め具のあるタイプの鞄を愛用している。落っことしたくらいで中身が散らばるような鞄は使わない。
見ると、頑丈そうという理由で選んだ厚手のキャンバス生地がざっくりと切られていた。
困惑した私はぶつかってきた男と無惨な姿になった鞄を交互に見比べる。
男の手には街灯の灯りを受けてチラチラ光る銀色のものが握られていた。
何!?と、通り魔!?
あれ刃物?暗いしマスクと帽子で顔もよく見えない。逃げなきゃ、でもどうしよう。起き上がれない……
震える腕は身体を支えようとしても途中でガクッと折れてしまって役に立たなかった。
悲鳴を上げようにも、いきなり大きい声なんて出せないし、もはや喉の使い方すらわからない。
ただ見上げることしかできないでいると、男は辺りを見回して舌打ちをして、どこかに走り去っていった。
「た、助かった……?」
身体から一気に力が抜ける。握りしめた拳は冷や汗でベタついて、シャツが背中に貼り付いているのがわかった。
男が走り去った方を呆然と見つめていると、背後で足音がした。
「おい」
「はっ!はい!?え?」
振り向くとそこにはひとりの長身の男が立っていた。
男は私の正面に回ると、大丈夫かと手を差し伸べてくれる。
薄暗い街灯に照らされたその顔は、一度見たら忘れ難い、この顔で説教されたら夢に見そうな強面だった。
反射的に握ってしまったけど、差し出された手は男性らしくゴツゴツしていて、切り傷やら火傷っぽい痣だらけだ。
えっと、もしやあっちの方?
「あんたのおかげで助かった。礼は後でさせてもらう」
「……はい?」
それはどういう意味ですかと聞き返す間も無く、男は通り魔らしき男が走り去った方へ駆け出していった。
男の姿はすぐに見えなくなって、閑散とした通りに私と散らばった荷物だけが残される。
「なん、だったの……?」
もしかしてあの強面の人が通り魔に狙われていて、たまたま通りかかった私がその間に割って入ってしまったということだろうか。
そうと気が付いたのは、散らばった荷物を集め終わった時だった。
そんなのに巻き込まれるなんて、本当に運が無いんだな、私。
改めて実感した。
おみくじでは凶か大凶以外出た事ないし、ガラガラ回す抽選ではティッシュ以外当たった事がない。それなのにティッシュを忘れた時は街頭のティッシュ配りのお兄さん(お姉さん)に無視され、雨の日はコンビニの傘立てにたくさん刺さったビニール傘の中から、私のものが盗られてる。
外食に行けば私のお皿だけトッピングを忘れられたり、通販で買った鍋の取っ手が折れてたり、うっかりばら撒いた小銭の大半が側溝に落ちたり、公衆トイレで紙が無かったり、基本的にはそんな些細な不運。
けどこれだけなら単に少し運が悪いだけ。
むしろこの状況に比べれば、運が良い方な気がしてきた。
「女、そこ退けぇぇ!!!」
クレーム対応のせいで遅くなった仕事帰り、人通りも少なく軽くスマホを見がら歩いた私が悪かったのか、角を曲がった瞬間そんな絶叫と共に、ドンっと誰かが私にぶつかってきた。
咄嗟に鞄を盾にしていたらしく、直接接触はしなかったけど、私はその場に尻もちを付いていた。
「す、すいません……ええっぇ!?」
落ちた鞄を引き寄せると、なぜか中身が次々と道路の上に転がった。私は落下やスリ、突然の雨等諸々の対策としてちゃんとファスナーと留め具のあるタイプの鞄を愛用している。落っことしたくらいで中身が散らばるような鞄は使わない。
見ると、頑丈そうという理由で選んだ厚手のキャンバス生地がざっくりと切られていた。
困惑した私はぶつかってきた男と無惨な姿になった鞄を交互に見比べる。
男の手には街灯の灯りを受けてチラチラ光る銀色のものが握られていた。
何!?と、通り魔!?
あれ刃物?暗いしマスクと帽子で顔もよく見えない。逃げなきゃ、でもどうしよう。起き上がれない……
震える腕は身体を支えようとしても途中でガクッと折れてしまって役に立たなかった。
悲鳴を上げようにも、いきなり大きい声なんて出せないし、もはや喉の使い方すらわからない。
ただ見上げることしかできないでいると、男は辺りを見回して舌打ちをして、どこかに走り去っていった。
「た、助かった……?」
身体から一気に力が抜ける。握りしめた拳は冷や汗でベタついて、シャツが背中に貼り付いているのがわかった。
男が走り去った方を呆然と見つめていると、背後で足音がした。
「おい」
「はっ!はい!?え?」
振り向くとそこにはひとりの長身の男が立っていた。
男は私の正面に回ると、大丈夫かと手を差し伸べてくれる。
薄暗い街灯に照らされたその顔は、一度見たら忘れ難い、この顔で説教されたら夢に見そうな強面だった。
反射的に握ってしまったけど、差し出された手は男性らしくゴツゴツしていて、切り傷やら火傷っぽい痣だらけだ。
えっと、もしやあっちの方?
「あんたのおかげで助かった。礼は後でさせてもらう」
「……はい?」
それはどういう意味ですかと聞き返す間も無く、男は通り魔らしき男が走り去った方へ駆け出していった。
男の姿はすぐに見えなくなって、閑散とした通りに私と散らばった荷物だけが残される。
「なん、だったの……?」
もしかしてあの強面の人が通り魔に狙われていて、たまたま通りかかった私がその間に割って入ってしまったということだろうか。
そうと気が付いたのは、散らばった荷物を集め終わった時だった。
そんなのに巻き込まれるなんて、本当に運が無いんだな、私。
改めて実感した。
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