聖女レティシアは微笑む

日向陽陰

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聖女見習いと下女

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洗濯を干し終わる頃には昼食の時間になる。
昼食には、蒸し野菜と魚料理、パンとミルクが出る。

シアとリリアンは、厨房の隅にあるテーブルに向かい合って座り、手を合わせて祈りを捧げる。
祈りを捧げるのはシアのみで、リリアンは手を合わせると直ぐに食べ始めた。

「私達ってただの下女なのに。
  ちゃんとお祈りするシアって、本当に偉いよね。
  シアが聖女見習いにいてもおかしくないもん」
と、パンをちぎりながらリリアンは話す。
「なんとなく癖なのよ。
  私孤児院出身だから」
とシアは恥ずかしそうに答えた。
「うちは貧乏子沢山だったから、3女の私は神殿に売られたの。
  水仕事はキツいけど、ここなら3食食べられるし、自分のベッドはあるし、売られて良かったと思うよ」
リリアンは笑って話すが、その目には寂しさも宿る。
リリアンが聖女様から字を習い、毎月家族に手紙を書いていることをシアは知っていた。

昼食を食べ終えると、リリアンは厨房の片付けを手伝う。
シアは、聖女見習いの浴室の掃除をする。
洗い場も浴槽もブラシで磨きあげ、毎日身体を清める聖女見習い達が気持ち良く使えるように、シアはここでも祈りを込めていた。

浴室掃除が終わる頃には日も傾き、リリアンと共に洗濯物を取りこむ。
取り込んだ洗濯物を仕分けし、リネン室に運び終えた頃には夕飯の時刻となる。

夕飯は、メインに肉料理が必ず出る。
身体が資本の聖女の仕事である。
しっかり肉も食べて、しっかり働いて欲しい、と言う神殿の考えがあり、肉料理は毎晩出ている。

ただ、下女達の肉は少ない。薄くスライスされた小さな肉が1枚である。
そこに具ありスープとパンがつく。
それでも肉を口にできる幸せをシアは噛み締めるのであった。

「そろそろ見習いから聖女にあがるらしいよ」
スープの具をすくいながらリリアンが話す。
「そうなの?前は3ヶ月前にあがられたから、早いわね」
「早いよね。今の聖女見習い達の聖なる魔法の力が、凄く強いらしいよ。
 個として強いのか、集団として相性が良くて強いのか、聖女様たちと神官たちで見極めていくんだって」
厨房で働くリリアンは、情報通である。
食事を取りに来る聖女見習いの侍女や食事を食べに来る下女、はたまた出入りの御用聞きから様々な話を聞いては、シアに教えてくれるのだ。
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