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8章 星芒の血路
96 叛意の房客
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◯佐呑島_監獄塔最下層
一年前。
佐呑の腹に空いた地獄の大穴で生じた一つの邂逅。
ガスによる毒素、獏による精神汚染。地上を蹂躙する襲撃者たちの咆哮や足音は地獄の底にまで揺れとなって届いてきた。
「地獄の底で指を咥えている気分はどうだ?」
「この特等席にまで響いてくる”死の音”は……逆再生にしても最高なんだろうなぁ」
「私としては期待はずれな展望だ。地上の阿鼻叫喚を生み出した悪の親玉が、私にでも殺せるような哀れな囚人で」
常に軍人然とした精悍な風貌から一変。文字通り全身から血を被ったような赫に濡れている白永淑の姿。
抜き身になった鈍色の刃を独房の格子に差し込む彼女の所作は、物静かな風体とは一線を画した立ち昇るような殺気を漂わせている。
「期待はずれも何も……元から褒められたような人間じゃあないだろう、白永淑」
「名乗った覚えはないが」
「船での動きを見れば嫌でも思い出すさぁ。……舐めプとは言え、反英雄の動きに一瞬でも併せられる剣士世界に何人いると思う?
それに夢想世界闇市であっしのお友達が何人殺されたと思ってんだよ。」
「世界を平和を乱す害悪をいくら摘んだとて誹りを受ける謂れはない。屍に値打ちが付くとしたら、お前の死にはどれだけの価値があるのか試してやろうか」
沸々と湧き上がってくる殺気。
大犯罪者クラウンに備わった人一倍強い殺意を感知するセンサーが、目の前の女の裡に渦巻く練り上げられた悪意を見抜いた。
「軍人として悪人を成敗するのは楽しいかい?」
「私の人間の存在証明に不可欠だ。生きがいの一つと言っても良い」
「生きがい?……憂さ晴らしの為の言い訳の間違いじゃないか?」
「…何が言いたい?」
「世の中には大層な正義を掲げて、ルールを破る人間を嬉々として粛清する馬鹿もいるが、今あっしの目の前にいる馬鹿はそういうタイプには見えないなぁ。
人に指摘されなきゃわかんないかい?
いい加減気づいたらどうなんだい?
アンタがやってることは正義の味方としての軍人ごっこじゃなくて、ただ自分が殺人を肯定される場所に置きたいがためのポジショニングさ。……悪人を斬るのが生きがいなんじゃなく、人間を斬り捨てるのが生きがいなんだよ」
「酷い思い違いだ。……確かに常に正義を掲げているわけじゃない。世の中が綺麗ごとで着飾れない醜悪さを孕んでいるのも認める。
だが、私はそんな世界で軍人として規律と規則の中で"正しく"戦ってきたことに嘘などない」
生乾きの血で貌が昏く塗りたくられた白英淑の表情までは、鉄格子越しのクラウンの独房からは見えなかった。
クラウンはふと真顔に戻ると首を左右に傾け関節を鳴らし、手首に繋がった鎖を揺らして音を鳴らす。
「今、何時?」
「そんなことを知ってどうする」
「きっと、そう遠くない時分にボイジャー:キンコル号が儀式を始めるはずさ。わざわざこんな監獄塔まで拵えて用意周到な奴だね。前からねちっこいタイプだとは思ってたけどさ」
「……なんなんだ。……何故、キンコルやお前のような奴らは自分の為に大勢の人間を犠牲に出来る…?」
「条件が揃えば平気で人を踏みにじる奴と、人を踏みにじるための条件を揃えようとした奴が出くわしたらさ。
…そりゃあ人は踏みにじられるさ。
どうせなら一緒に見ないか?……あっしの眼が確かなら、アンタも根っこの部分は同じタイプなはずなんだけどな」
「………ッ‼‼」
英淑は格子に手を掛けて頭突きするまでに貌を押し付けた。
「お前に私の何が分かるッ‼?」
腹の底から噴き出したような怒号。
地の底にある独房に特殊な反響を齎したそれは、幾重にも重なりながら四畳半の中央に座すクラウンの耳を撫ぜた。
―――
―――
―――
「賑やかな事だな。お友達と談笑中か?」
「‼?‼?」
気配を片鱗すら感じさせずに背後に顕れたそれに英淑は心の底からの畏怖を禁じ得なかった。
船上にて反英雄と対峙した時と同じ、むしろそれを遥かに上回る緊迫感と逼迫感。全身の体毛が総毛立ち、脂汗が皮膚から噴き出してくる。
背を向けていても、それが何者なのか判った。
生涯を通じて逢ったこともなければ、これから逢うこともないと心のどこかで断じていた存在。
「……叢雨禍神」
英淑の頭の中で一瞬にして様々な思考が過る。
何故、どうして、どのようにして、何の為に。
ある意味で日本の象徴として君臨する一大宗教の生ける伝説が、血生臭さ漂うこの佐呑に出現した。
戦乱を鎮めるため?
クラウンと繋がりがあった?
元から佐呑に存在していた?
どんな心境で、どんな思想で、どんな立場で今ここに在るのか。
「貴方、背中に眼がついているんですか?なかなかいませんよ、私を気取ったからとて名前まで当ててくる人は」
今だなお振り返ることすら躊躇われる圧倒的オーラ。反して英淑に向けられたその口調は意外にも丁寧で、柔らかさすら感じさせるものだった。
「私の信徒というわけではなさそうですね。貴方、一瞬ですが私に斬りかかろうと無意識で身体を動かそうとしていましたね。空気の揺らぎだけで私が究極反転でこの場に現れたことを察し、何者であるか判別した上で、居竦んでいながらも自らが戦闘を行う可能性を捨てないとは、とんだ大物だ」
「……私が叢雨禍神を斬る?……無理な話だ」
「閑話休題。貴方が誰でも構いませんが、私は奥で不貞腐れているその男に用があります。この場を後にするか、そこで黙って立っているか申し訳ありませんが、選んでいただけますか?」
「…………」
澐仙の不気味な足音が英淑に近づいた。ずしりとした足音は、物理的な澐仙の常識離れした体躯の大きさをひしひしと連想させ、鉛色の肌が視界の端に現れた時、改めて英淑はその理不尽なまでの存在としての格を痛感させられた。
「無言が答えと受け取りましょう」
「…………」
―――
―――
―――
「子供の遊びは終わりだ、ラーテン」
「ははっ。いい歳こいて子供の遊びに口出すんじゃねぇよババァ。
今キンコル号がやってる事こそ子供の絵空事だろうが。自分の可愛い子供には甘いってのが無駄に人間っぽくて嫌になるね、まったく」
「お前が日本の……それも現実世界に現れるとは思わなかった。どういう風の吹きまわしかと勘案している矢先にこの騒ぎ。放任主義の私でも流石に見逃すわけにはいかない」
大規模な犯罪者たちのネットワークを構築し、夢想世界闇市を起点に世界中の犯罪者たちと密接な関係を気付いてきた仲買人たるクラウン。別解犯罪のコーディネートから、犯罪行為の支援。国際裏社会での発言力は時として現実世界の司法にすら影響を及ぼし、彼の意志一つで武力国家を混迷に陥れることすら可能と呼ばれた悪のカリスマ。
そんな彼には、自らの保身の為に課した掟が存在する。
一つは、現実世界での活動の抑制。これは単にクラウンの情報統制能力や隠密行動能力の高さからそもそも彼の現実世界での活動が認知され辛いという前提こそあるものの、数多の工作機関・特務機関からの追及から逃れるためには避けて通れない道だった。
夢想世界での無法な移動手段とは異なり、現実世界での活動の全てには痕跡が残り、科学的な捜査から未来永劫逃げ続けるのは実質的に不可能な芸当。利権の絡んだ多くの後ろ盾に守られているとはいえ、クラウンは徹底的な主義思想の元で現実世界での活動は慎重に慎重を期してきた。
もう一つは、日本,アメリカ合衆国への直接的な関与、及び侵入。
その理屈は至って明瞭。両国は彼にとって天地がひっくり返っても勝てない天敵が護っている領土であるためだ。
アメリカ全土の悪魔の僕、別解犯罪者をその名一つで牽制し得るだけの価値を与えられた、現代最強のボイジャー:クロノシア号。彼は個人的な感情からもクラウン打倒を志していることからも、アメリカを舞台とした犯罪を彼は回避していた。
そして、富士樹海に根を下ろした天乞いの神たる澐仙の存在。彼女は積極的に悪魔の僕や別海犯罪者を狙う事はないが、夢想世界の管理者としての粛清的介入は多くのアウトローたちの悩みの種だった。
澐仙との接触そのものが死に直結するイベントであるため、必然的に日本そのものへの進出にはあらゆる犯罪者は後ろ向きとなり、クラウンもその例外ではない。
「というか、流石に過剰反応じゃないかい?
根っこの部分を照らしてしまえば、あっしもアンタも同じ穴の狢でしょうがよ」
「小春を解放しろ」
「あぁ。やっぱりね」
クラウンは首を左右に捻った。
「良い大人が……それも神を名乗るような存在がこの期に及んで友情ごっこ。いや、別に悪い事じゃないと思うけどねぇ、流石にその件であっしを責めるのは違うんじゃない?」
「お友達と戯れる生き様を見れば、お前が人のことを言えた口じゃないだろう」
「ンン。さっき認めた通り、あっしのは子供の遊びだけどさ。アンタらは違うじゃん。あっしは別にあの女を口説き落とした訳でもなければ、取引を持ちかけたわけじゃない。
単なる魂の共振。言い換えれば自然な利害の一致。培われた個々人の遍歴がさも運命的な演出を施してはいるものの、本質は欠伸が出るほど単純なシナリオだ。
反英雄はお前を殺すコトを良しとしている。じゃああっしはその恩恵をありがたく享受するだけ。ドロドロとした感情論は勝手にぶつけ合ってくれよ」
「よほど、放っておいて欲しいようだな。人並に死への恐怖心はあるらしいな」
「恐怖……ね」
「憐れにもお前は私を現状で斃す術がない。見苦しくも私に命を乞い、崇め、信じ、祈ることでしかこの場を納める方法を持ち合わせてはいない」
「なんだか八つ当たりに聞こえてならないなァ。俺を脅した所であの女がアンタと友達に戻るわけでもなし。憐れなのはアンタだよ。管理者ずらしてこんな所までわざわざ姿を顕しても出来損ないのカウンセラーみたいなことしか言えず、戦うことなんかできやしない」
闇に包まれた地の底が激しい光の炸裂とその残光に包まれる。
光との誤差なく耳を劈くほどの雷鳴が奈落を揺らし、既に放たれた後の雷撃の跡がクラウンの坐す独房の奥行を倍ほどの広さまで抉り抜いていた。
「戦う?私とお前がか、ラーテン。戦いにすらならないだろう。事実、お前を殺すのに大袈裟な準備も計画も必要ない。いつでも貴様などこの世から葬り去ることが出来る。小春を解放するか、ここで荼毘に伏すか、簡単な選択肢を提示しているに過ぎない」
「アンタはあっしを殺せないよ」
「……………」
「あっしを殺せば反英雄とは逢えない。何故なら、反英雄は叢雨禍神をぶち殺したいと思っていて、自分ひとりじゃあそれが出来ないことをよぉ~く解ってるから。そんでもって反英雄はあっしと組んでそれを成就しようとしている。アンタはあっしをいつでも殺せても、反英雄は準備万端でなくちゃあアンタに挑まない。今まで通り、ふらふらと現世に顕れては道行くパンピーに斬りかかって鬱憤晴らしするだけの悪霊を続けるだけだね。
あっしとしても、アンタは目障りだ。じゃあこちらとそちら側の利害は一致しているとも取れるよな。
あっしが整えたアンタを殺すための舞台で、アンタは大義名分を以て反英雄と対峙できる。しかも、その舞台は遍く昏山羊の因縁を清算し得るだけの夢の世界。昏山羊が望んだ王国だ。アンタの恰好もつくし、都合も良いだろうなぁ」
「……………」
「何が嘘で何が本当か判別つかない程、馬鹿じゃあないよね」
「エイドリアンの夢が叶えば、そんなご都合主義の建国話はご破算だろう」
「ははっ。立ち寄った祭りはただ愉しむだけ。アンタが水を差せば、そりゃあキンコル号の夢だって簡単に叶っちまうだろうなぁ。……奴がそれを望むかは別としてだ」
「私に自分の愛弟子の夢がお前に壊されるのを黙ってみていろと、そう言うのか?」
「自分以外の夢を慮るのは人間に与えられた最も愚かな権能だね。
誰しもが心の裡に主役を望んでいるのに、それが自ら掴みとるものでなく他社に与えられたものであるとするならば、果たしてそこに得られる達成感?快感?自己肯定感?は何処に享受され得るのか。
あっしは数多の"夢の心臓"として、十四系脈を過ぎて夢想世界という体躯の全体に血液を送り出すポンプさ。
張り巡らせたネットワークは然るべき役割を果たすべく夢の世界の脳、肺、臓腑、果ては世界の末端たる指先にまで届けられ、夢想世界の全てに役者と舞台を提供し続けてきた。でもそれはあくまでも仲買人としての仲介。あっしがあれやこれやを命じて犯罪者たちを暴れさせたんじゃない。
個々人の夢を尊重し、彼らが最も自由に在るが為の演出の末席を務めたまで。
世界中に送りだした血液が然るべき道程を経て心臓に巡り戻ってくる時、そこで初めてあっしは本来自分が果たすべく己の夢を持って世界に、時代に、アンタに挑むのさ」
「…………」
「アンタがここであっしを本当に殺すのなら、そういうシナリオでまた別の脚本が書かれるだけ。
主役を務める前のあっしなんて、ただただ裏方でキャストの出入りを管理するだけのプロデューサーさ」
「お前のシナリオに私も含まれていると?」
「さぁね。元より神をコントロールできると思う程は奢っちゃいないさ。でも、さっきも言ったように、アンタが乱入してきやすい舞台は整えるつもりだよ。
……これもさっき言ったけどさ。何が本当で何が嘘か、わかるよね?」
「………救いようのないガキだ」
澐仙から立ち上る殺気のようなものが収まった。
流し見るようにしてクラウンを一瞥した後、彼女の姿がホログラムのように透き通り、綻んでいく。
究極反転による夢想世界から現実世界への到達は人類の科学が未踏であるまさしく神秘の領域。
姿を顕す時、姿を眩ます時、その所作は完全に神出鬼没。さも当然かのように身体を構築するピースを崩し、この世界から姿を消そうとしている。
「…………待て」
白銀の刃が澐仙の心臓を差し貫いた。
「これはこれは、まだ居たのか女兵士。一応、理屈を垂れても構わんぞ」
「私はお前の信徒じゃない。それでも、一瞬でも期待してしまった。
クラウンを断罪する神。地上の動乱を鎮める神。荒れ果てた心象を癒してくれる神。
……何を帰ろうとしている。今まさに、多くの者たちが地上で死んでいる。かつての凄惨な歴史をなぞるように、無辜の民が殺されているんだ。
そして、それを阻止するべくして多くの兵士、軍人、研究者らが職責を果たして殉職している。さっきそこの悪党も言ったように、人にあるべき役割があるのだとしたら、神が果たすべき職責が今ここにはあるばすだ」
自らの心臓を貫く剣の腹を見つめ、澐仙は表情は変えぬまでも確かな驚嘆を感じていた。
(なんだこの女は)
究極反転により現実世界に在る澐仙は夢想世界上の権能であるコプラサーの常時展開が実現できない。それ故にカタログスペックで言うなれば確かに夢想世界に比べて遥かに防御力が微弱な戦闘しやすい状態であるのは間違いない。
しかし、澐仙の真骨頂は世界最大深度を誇る圧倒的な精神汚染の影響力。その気になれば佐呑の人間を殲滅し得るだけの精神汚染の出力を有している彼女からは常に人間が卒倒し得るだけのプレッシャーが生じている。
ボイジャーのように精神汚染に耐える風除けとして生み出された機械装置であってでさえも、澐仙を前にして正常な精神状態を保てる物など少数派に属するだろう。
それほどの毒に当てられてなお、白永淑という女は手にした刃を迷わず澐仙の心臓に突き立てるという暴挙に出た。
(勇気や胆力の類ではない。この女、”自然悪”か?
いや、であればキンコル、ラーテンが揃うこの島で自由行動しているのは道理に合わない)
澐仙の掌に渦巻く白色の気流が生み出された。
「どんな場所にも、思いがけない在野の怪物がいるものだな」
膨張した気流が数舜のうちに強力な冷気を携え、陰鬱とした奈落の通路に強烈な寒波を齎した。
澐仙は寒気の指向性を掌にて英淑に差し向け、人体が受け止めるには余りある絶対零度の凍てつく旋風を彼女にぶつけた。澐仙はすぐに攻撃を辞めたが、一瞬の冷気放射であっても既に英淑の全身は霜に包まれ、徐々に人の形をした氷塊へと姿を変えていった。
「寒っ。おいおい、一人の兵士……それも女に大層な仕打ちじゃないかい?」
「もう佐呑に用は無い。先刻の小春の件、努々忘れるな。然るべき時がくれば私はお前を殺しに向かうぞ」
「あいあい。どうぞそん時は宜しくどうぞー」
―――
―――
―――
「………………」
澐仙が去った独房。
嵐が去ったような静かさが立ち込める反面、クラウンの心境は穏やかではなかった。
それは今後の佐呑の動乱を想い高揚する気持ちが半分、もう半分は眼前で澐仙の手にかけられた哀れな女兵士から放たれる異質なオーラが故だった。
「死んだよねぇ。……死んだ?……なんだ、これ」
目に映る氷塊。物言わぬ死蔵の奥に在る女の姿は、文字通り氷獄の中に囚われている。
「死んだら判るんだけどなぁ。俺の力の都合上、死には敏感なんでね。
澐仙に殺意向けられて攻撃されて、どうして死なないでいられるよ。冷気に晒された瞬間、アンタの心臓はとまった……」
氷が割れる。
静寂に包まれた奈落が揺れる。
蠢動が微動に、微動が拍動に代る。それが確かな心臓の鼓動であることは、夢の心臓を自称する彼にとっては言葉を介さずして理解できた。
ドクン、バクン、ズキン、ガツン。
絶えず変化を続ける奇妙な鼓動。
氷が割れ、崩れた肉屑の中から、人の眼には映らないような魂の化身がよろめいている。
「同調……?…あっしの心臓の音に呼応して半死半生で動き出したってカンジ?
割と意味わからんけど、やっぱり死んでるには死んでるよね。それ」
「教えろ」
「わっ、喋った。すげぇや」
「"死"とは何だ?」
「………………」
ラーテンは呆気に取られるあまり、口をぽかんと開けた。
「あっしは生まれ育ちがあまりに死が溢れてたもんだねぇ。それの回答を持ってはいるよ」
「教えろ」
「残念ながらアンタにはすぐには理解できないだろうね。死が正しく使われないと、死の定義なんて簡単に揺らぐもんさ」
「死の使われ方……」
「そうさ。意味ある死、意味のない死、意味を与えられる死、意味を与えられない死。
世の中には無意味を無意義に溢れているが、あっしの夢の先には意味のある世界がある」
「わからない……意味が分からない」
「今はそれでもいいと思うけどね。今あるアンタの揺らぎはアンタだけのものだ」
クラウンは不敵に笑んだ。
「でも、もしあっしと一緒に来たいのなら、言い訳をあげることはできる」
彼を捕え縛る鎖。
余裕に満ち溢れたマジシャンが自らに施した仕掛けに役割を与えるように、クラウンの五体から自由を奪っていた鎖が土塊のように変質し、朽ち崩れた。
人形のように覚束ない足取りのまま独房の格子まで歩み寄った彼は僅かな隙間から手を差し出した。
「さぁ、あとはこの格子だけ。あっしはこの後、佐呑の夢想世界に援軍として派遣されくるTD2Pの部隊を撃退しなきゃならない。そうじゃないと、初めからこの島のという舞台に配置された役者以外に、後から巻き込まれた三文役者たちの命が無下に散っていくことになるからね。そんな気の毒な彼らを救ってやりたいとは思わないかい?」
―――
―――
―――
―――
―――
―――
―――
―――
―――
〇昏山羊の大聖堂_晩餐会後の決戦
緑の太陽を思わせるような大光源と化した鐘笑の姿が大聖堂の頂点に達し、彼らの周囲の光景を終末の雷光で照らし出していた。
火炎の墓壙より醜煙が舞い上がる中、奈落へと飛び込んでいくクロノシア号、鯵ヶ沢露樹、ドナルド・グッドフェイスの姿を見送る様相で、二人の剣士が対峙していた。
運命に翻弄される若き終末兵器、ボイジャー:クロノシア号こと夢想世界用対冠域指向AI、アーカマクナ:モデル・マーリン。
ニーズランド大討伐作戦の発起人として数多の猛者と渡り合い、過去には大陸軍への対抗組織たる新生テンプル騎士団の爆誕に寄与した戦場のカリスマ、アレッシオ・カッターネオ。
第三圏ではカテゴリー5の位列を冠する反英雄にさえ渡り合った剣術を誇るアレッシオ・カッターネオ。
この奇妙な二人の対峙において、火蓋を切り攻撃を仕掛けたのは、他ならぬ彼だった。
激しい金属音が響き渡り、火花が散る。マーリンの重瞳は世話しなく巡り、剣がぶつかる度に全身に伝わる意外なな程に強固な衝撃に調子を狂わされていた。手に伝わる相手の剣から放たれる実直かつテクニカルな重み。真面目に受けていては先に綻びが出ることを物言わずとも理解させる程に卓越した技量を持つ彼に対して、マーリンは静かな怒りと疑念を感じていた。
(まず誰よりも先にこちらに仕掛けてくるのがこの人とは予想しなかった)
振り下ろされた長剣からの一撃を大太刀茜皿の峰で受けたマーリンは、手を痺れさせる程の相手からの攻撃を受け流すべく器用に体を捩じって剣を振り抜いた。
攻撃に転ずる暇もなく畳みかけてくるアレッシオ・カッターネオの剣線はこれまでの誰の物とも異なる独特な太刀筋をしており、一撃一撃が的確なうえ、恐ろしく無駄がなかった。むしろマーリン側の受け手を想定しているかのようなピンポイントの位置で斬撃を配置し、それが防がれたとて、読まれていたとて、すぐさま次の一手に移行でいるように全身の動きを無駄なく組み立てているのだ。
そもそもが宙に吊るされた晩餐会の椅子を離れ、クロノシア号たち程ではないにしろ瓦礫に混じった落下の最中において、こうも自在に身を動かせるとあれば、流石にこの決戦まで生き残る実力者は伊達ではないとマーリンは感心した。しかし、ここにきて新生テンプル騎士団の代表が自分を狙う理由が見えてこないマーリンとしては、どこか不平不満に似た感情が心を過る。
(強いには強い。間違いなく、この世界でトップレベルでこの最終決戦の場に立つに相応しい力はある)
剣戟に押し負けたマーリンの身体が解れる。間髪入れずに叩き込まれる無数の剣線を回避すべく、マーリンは夢想解像による人蜂形態を構築後、急速な空中旋回によって大聖堂を弧を描くように飛翔した。
(新生テンプル騎士団か……。"人類最高火力"バゼット・エヴァーコール、"裏社会の首魁"ドナルド・グッドフェイスもそうだが、一時期はこいつらが一つの組織で徒党を組んでいたと思えば、あながち大陸軍とやらを退けたというのも納得いく水準なんだろうな。というか、仮にこの三人に加えて、眩旗だの剣聖だの、他の強豪メンバーが万全な状態で連携できていたのなら、大討伐軍すら必要とせずにニーズランド陣営を殲滅できていただろうな)
銀色の装甲に身を包んだ鎧武者が躍動する。
武具を纏っているとは思えぬ敏捷性は獣の動きを彷彿とさせ、自身の残像を残す程のコマ送り的な奇妙な動きはマーリンの意識の外からの追撃を可能としていた。増えた蜂の手足で複製した茜皿と勇厷を握ったマーリンの描く剣
の流れは並みの剣士に対応できるレベルではないが、異形の体躯から成る脅威の連撃すら押しかえす程の強烈な打ち合いにより、マーリンの姿勢は大きく崩された。
「禁断の惑星:真善美叛」
何の気になし放ったようなアレッシオ・カッターネオからの魔法の言葉により、彼の持つ剣が劇的な変化を果たす。水平に薙いだ剣の柄から切先にかけて宇宙の姿を内包した星の海が宿る。
一つの武器から固有冠域を格納した世界そのものと化した刃。鋭利な角度から滑り込ませた斬撃がマーリンの脇腹を狙う。
「”筐庭”……最大出力ッ‼︎」
剣と肉の合間の間隙を埋めるように、数多の半透明で小さなキューブが放出された。
澐仙の持つコプラサーの技巧を真似た即席の極小冠域を防御利用であり、敵の攻撃の受け流し先として冠域を使い捨てることによる擬似的なバリアの役割を果たしている。
だが、無数に放出される筐庭を以ってしても、騎士から放たれる法外の一撃を相殺することは叶わなかった。
(これだ……)
マーリンの体が宙を過ぎ、大聖堂の壁に激突した。
(この男の禁断の惑星を一発でもモロに受ければ死ぬ。しかも手札が強力な割に制約が少なく、通常の近接戦に何の気無しに使ってくるな)
「当たればラッキー。みたいに考えてるのなら、舐められたものだ」
「何を言うか。しっかりと仕留める気で打っているとも」
マーリンは空間そのものに干渉し、自身の周囲に無数の砲門を顕現させる。号令を待たずして発射されたベンガル砲の弾幕が、大聖堂を緩やかに落下する騎士の的を捉える。
アレッシオ・カッターネオは初めの数十発を受けるなり、裁くなり、流すなりで対応したのち、あろうことかその弾幕を足がかりにコマ送りのような残像移動でマーリンへの接近に打って出た。
虫の這い出る隙間もないような弾幕の中、猛烈な速度でマーリンに肉薄した騎士は再度剣を振りかぶる。力を貯めてから技を放つまでの所要時間が殆ど存在しない彼を相手取り、マーリンは通常攻撃と禁断の惑星の二択を迫られた。
「禁断の惑星:真善美叛意」
「ーーーーッ‼︎」
禁断の惑星。一撃必殺を象った斬撃がマーリンの人蜂の体躯から皮一枚を隔てて静止した。
「今、私が剣を止めねば決着が付いていた」
「では何故、剣を止めた」
「頑なに冠域を使わない姿に違和感を感じた。技術的特異点たるアーカマクナ。叢雨禍神さえ屠ったボイジャーでもある君が、私相手に故意に全力を出し惜しんでいると判断した。
我々には会話の余地がある」
絶対の剣技を待つアレッシオ・カッターネオには驕りはなかった。近接戦の純然たる戦闘行為では圧倒していたとはいえ、マーリンがその気になれば収斂進化の冠域展開による形成逆転が実現可能であったという事実は認識していた。
「夢は聞かない。目的だけ簡潔に話してもらいたい」
「君に人造悪魔、鯵ヶ沢露樹を殺して欲しくない」
「それは斬りかかる前にお願いできなかったことか」
「ああ。君は恐らくクラウンより先に鯵ヶ沢露樹から殺そうとしたはず。しかし、私はそれをされると困るからまずは君を殺せるなら殺したかった。
君を殺すことは可能という判断だが、会話の余地があるならばここでお願いするのも一興」
「どの面下げて……。流石にご都合主義が過ぎるのでは?」
「ならば殺し合いが続く。残念ながら、お互いが生半可な心持ちでは場持ちしないことを痛感している以上、それなりに凄惨な果たし合いになるだろうが」
アレッシオ・カッターネオは剣を宙に捨てた。
「必要でないならば、他のやるべきこと、やりたいことのために時間と余力を投じたいのもお互い様。能書きを垂れるまでもなく、聡明な特異点たる君には理解できているはずだ」
あまりに不敵な態度にマーリンはむしろ感心してしまった。
「ならば、鯵ヶ沢露樹の確殺を条件に停戦を受諾しよう。それを違えるならば、癪ではあるが全身全霊をもって貴様を滅ぼす」
「承った。共に夢の一途を辿るもの同士、無為な争いは無用だ」
かくして二つの凶星は聖堂を降る。
手にした刃が狙うは、己が運命に興じるが故の宿敵であった。
一年前。
佐呑の腹に空いた地獄の大穴で生じた一つの邂逅。
ガスによる毒素、獏による精神汚染。地上を蹂躙する襲撃者たちの咆哮や足音は地獄の底にまで揺れとなって届いてきた。
「地獄の底で指を咥えている気分はどうだ?」
「この特等席にまで響いてくる”死の音”は……逆再生にしても最高なんだろうなぁ」
「私としては期待はずれな展望だ。地上の阿鼻叫喚を生み出した悪の親玉が、私にでも殺せるような哀れな囚人で」
常に軍人然とした精悍な風貌から一変。文字通り全身から血を被ったような赫に濡れている白永淑の姿。
抜き身になった鈍色の刃を独房の格子に差し込む彼女の所作は、物静かな風体とは一線を画した立ち昇るような殺気を漂わせている。
「期待はずれも何も……元から褒められたような人間じゃあないだろう、白永淑」
「名乗った覚えはないが」
「船での動きを見れば嫌でも思い出すさぁ。……舐めプとは言え、反英雄の動きに一瞬でも併せられる剣士世界に何人いると思う?
それに夢想世界闇市であっしのお友達が何人殺されたと思ってんだよ。」
「世界を平和を乱す害悪をいくら摘んだとて誹りを受ける謂れはない。屍に値打ちが付くとしたら、お前の死にはどれだけの価値があるのか試してやろうか」
沸々と湧き上がってくる殺気。
大犯罪者クラウンに備わった人一倍強い殺意を感知するセンサーが、目の前の女の裡に渦巻く練り上げられた悪意を見抜いた。
「軍人として悪人を成敗するのは楽しいかい?」
「私の人間の存在証明に不可欠だ。生きがいの一つと言っても良い」
「生きがい?……憂さ晴らしの為の言い訳の間違いじゃないか?」
「…何が言いたい?」
「世の中には大層な正義を掲げて、ルールを破る人間を嬉々として粛清する馬鹿もいるが、今あっしの目の前にいる馬鹿はそういうタイプには見えないなぁ。
人に指摘されなきゃわかんないかい?
いい加減気づいたらどうなんだい?
アンタがやってることは正義の味方としての軍人ごっこじゃなくて、ただ自分が殺人を肯定される場所に置きたいがためのポジショニングさ。……悪人を斬るのが生きがいなんじゃなく、人間を斬り捨てるのが生きがいなんだよ」
「酷い思い違いだ。……確かに常に正義を掲げているわけじゃない。世の中が綺麗ごとで着飾れない醜悪さを孕んでいるのも認める。
だが、私はそんな世界で軍人として規律と規則の中で"正しく"戦ってきたことに嘘などない」
生乾きの血で貌が昏く塗りたくられた白英淑の表情までは、鉄格子越しのクラウンの独房からは見えなかった。
クラウンはふと真顔に戻ると首を左右に傾け関節を鳴らし、手首に繋がった鎖を揺らして音を鳴らす。
「今、何時?」
「そんなことを知ってどうする」
「きっと、そう遠くない時分にボイジャー:キンコル号が儀式を始めるはずさ。わざわざこんな監獄塔まで拵えて用意周到な奴だね。前からねちっこいタイプだとは思ってたけどさ」
「……なんなんだ。……何故、キンコルやお前のような奴らは自分の為に大勢の人間を犠牲に出来る…?」
「条件が揃えば平気で人を踏みにじる奴と、人を踏みにじるための条件を揃えようとした奴が出くわしたらさ。
…そりゃあ人は踏みにじられるさ。
どうせなら一緒に見ないか?……あっしの眼が確かなら、アンタも根っこの部分は同じタイプなはずなんだけどな」
「………ッ‼‼」
英淑は格子に手を掛けて頭突きするまでに貌を押し付けた。
「お前に私の何が分かるッ‼?」
腹の底から噴き出したような怒号。
地の底にある独房に特殊な反響を齎したそれは、幾重にも重なりながら四畳半の中央に座すクラウンの耳を撫ぜた。
―――
―――
―――
「賑やかな事だな。お友達と談笑中か?」
「‼?‼?」
気配を片鱗すら感じさせずに背後に顕れたそれに英淑は心の底からの畏怖を禁じ得なかった。
船上にて反英雄と対峙した時と同じ、むしろそれを遥かに上回る緊迫感と逼迫感。全身の体毛が総毛立ち、脂汗が皮膚から噴き出してくる。
背を向けていても、それが何者なのか判った。
生涯を通じて逢ったこともなければ、これから逢うこともないと心のどこかで断じていた存在。
「……叢雨禍神」
英淑の頭の中で一瞬にして様々な思考が過る。
何故、どうして、どのようにして、何の為に。
ある意味で日本の象徴として君臨する一大宗教の生ける伝説が、血生臭さ漂うこの佐呑に出現した。
戦乱を鎮めるため?
クラウンと繋がりがあった?
元から佐呑に存在していた?
どんな心境で、どんな思想で、どんな立場で今ここに在るのか。
「貴方、背中に眼がついているんですか?なかなかいませんよ、私を気取ったからとて名前まで当ててくる人は」
今だなお振り返ることすら躊躇われる圧倒的オーラ。反して英淑に向けられたその口調は意外にも丁寧で、柔らかさすら感じさせるものだった。
「私の信徒というわけではなさそうですね。貴方、一瞬ですが私に斬りかかろうと無意識で身体を動かそうとしていましたね。空気の揺らぎだけで私が究極反転でこの場に現れたことを察し、何者であるか判別した上で、居竦んでいながらも自らが戦闘を行う可能性を捨てないとは、とんだ大物だ」
「……私が叢雨禍神を斬る?……無理な話だ」
「閑話休題。貴方が誰でも構いませんが、私は奥で不貞腐れているその男に用があります。この場を後にするか、そこで黙って立っているか申し訳ありませんが、選んでいただけますか?」
「…………」
澐仙の不気味な足音が英淑に近づいた。ずしりとした足音は、物理的な澐仙の常識離れした体躯の大きさをひしひしと連想させ、鉛色の肌が視界の端に現れた時、改めて英淑はその理不尽なまでの存在としての格を痛感させられた。
「無言が答えと受け取りましょう」
「…………」
―――
―――
―――
「子供の遊びは終わりだ、ラーテン」
「ははっ。いい歳こいて子供の遊びに口出すんじゃねぇよババァ。
今キンコル号がやってる事こそ子供の絵空事だろうが。自分の可愛い子供には甘いってのが無駄に人間っぽくて嫌になるね、まったく」
「お前が日本の……それも現実世界に現れるとは思わなかった。どういう風の吹きまわしかと勘案している矢先にこの騒ぎ。放任主義の私でも流石に見逃すわけにはいかない」
大規模な犯罪者たちのネットワークを構築し、夢想世界闇市を起点に世界中の犯罪者たちと密接な関係を気付いてきた仲買人たるクラウン。別解犯罪のコーディネートから、犯罪行為の支援。国際裏社会での発言力は時として現実世界の司法にすら影響を及ぼし、彼の意志一つで武力国家を混迷に陥れることすら可能と呼ばれた悪のカリスマ。
そんな彼には、自らの保身の為に課した掟が存在する。
一つは、現実世界での活動の抑制。これは単にクラウンの情報統制能力や隠密行動能力の高さからそもそも彼の現実世界での活動が認知され辛いという前提こそあるものの、数多の工作機関・特務機関からの追及から逃れるためには避けて通れない道だった。
夢想世界での無法な移動手段とは異なり、現実世界での活動の全てには痕跡が残り、科学的な捜査から未来永劫逃げ続けるのは実質的に不可能な芸当。利権の絡んだ多くの後ろ盾に守られているとはいえ、クラウンは徹底的な主義思想の元で現実世界での活動は慎重に慎重を期してきた。
もう一つは、日本,アメリカ合衆国への直接的な関与、及び侵入。
その理屈は至って明瞭。両国は彼にとって天地がひっくり返っても勝てない天敵が護っている領土であるためだ。
アメリカ全土の悪魔の僕、別解犯罪者をその名一つで牽制し得るだけの価値を与えられた、現代最強のボイジャー:クロノシア号。彼は個人的な感情からもクラウン打倒を志していることからも、アメリカを舞台とした犯罪を彼は回避していた。
そして、富士樹海に根を下ろした天乞いの神たる澐仙の存在。彼女は積極的に悪魔の僕や別海犯罪者を狙う事はないが、夢想世界の管理者としての粛清的介入は多くのアウトローたちの悩みの種だった。
澐仙との接触そのものが死に直結するイベントであるため、必然的に日本そのものへの進出にはあらゆる犯罪者は後ろ向きとなり、クラウンもその例外ではない。
「というか、流石に過剰反応じゃないかい?
根っこの部分を照らしてしまえば、あっしもアンタも同じ穴の狢でしょうがよ」
「小春を解放しろ」
「あぁ。やっぱりね」
クラウンは首を左右に捻った。
「良い大人が……それも神を名乗るような存在がこの期に及んで友情ごっこ。いや、別に悪い事じゃないと思うけどねぇ、流石にその件であっしを責めるのは違うんじゃない?」
「お友達と戯れる生き様を見れば、お前が人のことを言えた口じゃないだろう」
「ンン。さっき認めた通り、あっしのは子供の遊びだけどさ。アンタらは違うじゃん。あっしは別にあの女を口説き落とした訳でもなければ、取引を持ちかけたわけじゃない。
単なる魂の共振。言い換えれば自然な利害の一致。培われた個々人の遍歴がさも運命的な演出を施してはいるものの、本質は欠伸が出るほど単純なシナリオだ。
反英雄はお前を殺すコトを良しとしている。じゃああっしはその恩恵をありがたく享受するだけ。ドロドロとした感情論は勝手にぶつけ合ってくれよ」
「よほど、放っておいて欲しいようだな。人並に死への恐怖心はあるらしいな」
「恐怖……ね」
「憐れにもお前は私を現状で斃す術がない。見苦しくも私に命を乞い、崇め、信じ、祈ることでしかこの場を納める方法を持ち合わせてはいない」
「なんだか八つ当たりに聞こえてならないなァ。俺を脅した所であの女がアンタと友達に戻るわけでもなし。憐れなのはアンタだよ。管理者ずらしてこんな所までわざわざ姿を顕しても出来損ないのカウンセラーみたいなことしか言えず、戦うことなんかできやしない」
闇に包まれた地の底が激しい光の炸裂とその残光に包まれる。
光との誤差なく耳を劈くほどの雷鳴が奈落を揺らし、既に放たれた後の雷撃の跡がクラウンの坐す独房の奥行を倍ほどの広さまで抉り抜いていた。
「戦う?私とお前がか、ラーテン。戦いにすらならないだろう。事実、お前を殺すのに大袈裟な準備も計画も必要ない。いつでも貴様などこの世から葬り去ることが出来る。小春を解放するか、ここで荼毘に伏すか、簡単な選択肢を提示しているに過ぎない」
「アンタはあっしを殺せないよ」
「……………」
「あっしを殺せば反英雄とは逢えない。何故なら、反英雄は叢雨禍神をぶち殺したいと思っていて、自分ひとりじゃあそれが出来ないことをよぉ~く解ってるから。そんでもって反英雄はあっしと組んでそれを成就しようとしている。アンタはあっしをいつでも殺せても、反英雄は準備万端でなくちゃあアンタに挑まない。今まで通り、ふらふらと現世に顕れては道行くパンピーに斬りかかって鬱憤晴らしするだけの悪霊を続けるだけだね。
あっしとしても、アンタは目障りだ。じゃあこちらとそちら側の利害は一致しているとも取れるよな。
あっしが整えたアンタを殺すための舞台で、アンタは大義名分を以て反英雄と対峙できる。しかも、その舞台は遍く昏山羊の因縁を清算し得るだけの夢の世界。昏山羊が望んだ王国だ。アンタの恰好もつくし、都合も良いだろうなぁ」
「……………」
「何が嘘で何が本当か判別つかない程、馬鹿じゃあないよね」
「エイドリアンの夢が叶えば、そんなご都合主義の建国話はご破算だろう」
「ははっ。立ち寄った祭りはただ愉しむだけ。アンタが水を差せば、そりゃあキンコル号の夢だって簡単に叶っちまうだろうなぁ。……奴がそれを望むかは別としてだ」
「私に自分の愛弟子の夢がお前に壊されるのを黙ってみていろと、そう言うのか?」
「自分以外の夢を慮るのは人間に与えられた最も愚かな権能だね。
誰しもが心の裡に主役を望んでいるのに、それが自ら掴みとるものでなく他社に与えられたものであるとするならば、果たしてそこに得られる達成感?快感?自己肯定感?は何処に享受され得るのか。
あっしは数多の"夢の心臓"として、十四系脈を過ぎて夢想世界という体躯の全体に血液を送り出すポンプさ。
張り巡らせたネットワークは然るべき役割を果たすべく夢の世界の脳、肺、臓腑、果ては世界の末端たる指先にまで届けられ、夢想世界の全てに役者と舞台を提供し続けてきた。でもそれはあくまでも仲買人としての仲介。あっしがあれやこれやを命じて犯罪者たちを暴れさせたんじゃない。
個々人の夢を尊重し、彼らが最も自由に在るが為の演出の末席を務めたまで。
世界中に送りだした血液が然るべき道程を経て心臓に巡り戻ってくる時、そこで初めてあっしは本来自分が果たすべく己の夢を持って世界に、時代に、アンタに挑むのさ」
「…………」
「アンタがここであっしを本当に殺すのなら、そういうシナリオでまた別の脚本が書かれるだけ。
主役を務める前のあっしなんて、ただただ裏方でキャストの出入りを管理するだけのプロデューサーさ」
「お前のシナリオに私も含まれていると?」
「さぁね。元より神をコントロールできると思う程は奢っちゃいないさ。でも、さっきも言ったように、アンタが乱入してきやすい舞台は整えるつもりだよ。
……これもさっき言ったけどさ。何が本当で何が嘘か、わかるよね?」
「………救いようのないガキだ」
澐仙から立ち上る殺気のようなものが収まった。
流し見るようにしてクラウンを一瞥した後、彼女の姿がホログラムのように透き通り、綻んでいく。
究極反転による夢想世界から現実世界への到達は人類の科学が未踏であるまさしく神秘の領域。
姿を顕す時、姿を眩ます時、その所作は完全に神出鬼没。さも当然かのように身体を構築するピースを崩し、この世界から姿を消そうとしている。
「…………待て」
白銀の刃が澐仙の心臓を差し貫いた。
「これはこれは、まだ居たのか女兵士。一応、理屈を垂れても構わんぞ」
「私はお前の信徒じゃない。それでも、一瞬でも期待してしまった。
クラウンを断罪する神。地上の動乱を鎮める神。荒れ果てた心象を癒してくれる神。
……何を帰ろうとしている。今まさに、多くの者たちが地上で死んでいる。かつての凄惨な歴史をなぞるように、無辜の民が殺されているんだ。
そして、それを阻止するべくして多くの兵士、軍人、研究者らが職責を果たして殉職している。さっきそこの悪党も言ったように、人にあるべき役割があるのだとしたら、神が果たすべき職責が今ここにはあるばすだ」
自らの心臓を貫く剣の腹を見つめ、澐仙は表情は変えぬまでも確かな驚嘆を感じていた。
(なんだこの女は)
究極反転により現実世界に在る澐仙は夢想世界上の権能であるコプラサーの常時展開が実現できない。それ故にカタログスペックで言うなれば確かに夢想世界に比べて遥かに防御力が微弱な戦闘しやすい状態であるのは間違いない。
しかし、澐仙の真骨頂は世界最大深度を誇る圧倒的な精神汚染の影響力。その気になれば佐呑の人間を殲滅し得るだけの精神汚染の出力を有している彼女からは常に人間が卒倒し得るだけのプレッシャーが生じている。
ボイジャーのように精神汚染に耐える風除けとして生み出された機械装置であってでさえも、澐仙を前にして正常な精神状態を保てる物など少数派に属するだろう。
それほどの毒に当てられてなお、白永淑という女は手にした刃を迷わず澐仙の心臓に突き立てるという暴挙に出た。
(勇気や胆力の類ではない。この女、”自然悪”か?
いや、であればキンコル、ラーテンが揃うこの島で自由行動しているのは道理に合わない)
澐仙の掌に渦巻く白色の気流が生み出された。
「どんな場所にも、思いがけない在野の怪物がいるものだな」
膨張した気流が数舜のうちに強力な冷気を携え、陰鬱とした奈落の通路に強烈な寒波を齎した。
澐仙は寒気の指向性を掌にて英淑に差し向け、人体が受け止めるには余りある絶対零度の凍てつく旋風を彼女にぶつけた。澐仙はすぐに攻撃を辞めたが、一瞬の冷気放射であっても既に英淑の全身は霜に包まれ、徐々に人の形をした氷塊へと姿を変えていった。
「寒っ。おいおい、一人の兵士……それも女に大層な仕打ちじゃないかい?」
「もう佐呑に用は無い。先刻の小春の件、努々忘れるな。然るべき時がくれば私はお前を殺しに向かうぞ」
「あいあい。どうぞそん時は宜しくどうぞー」
―――
―――
―――
「………………」
澐仙が去った独房。
嵐が去ったような静かさが立ち込める反面、クラウンの心境は穏やかではなかった。
それは今後の佐呑の動乱を想い高揚する気持ちが半分、もう半分は眼前で澐仙の手にかけられた哀れな女兵士から放たれる異質なオーラが故だった。
「死んだよねぇ。……死んだ?……なんだ、これ」
目に映る氷塊。物言わぬ死蔵の奥に在る女の姿は、文字通り氷獄の中に囚われている。
「死んだら判るんだけどなぁ。俺の力の都合上、死には敏感なんでね。
澐仙に殺意向けられて攻撃されて、どうして死なないでいられるよ。冷気に晒された瞬間、アンタの心臓はとまった……」
氷が割れる。
静寂に包まれた奈落が揺れる。
蠢動が微動に、微動が拍動に代る。それが確かな心臓の鼓動であることは、夢の心臓を自称する彼にとっては言葉を介さずして理解できた。
ドクン、バクン、ズキン、ガツン。
絶えず変化を続ける奇妙な鼓動。
氷が割れ、崩れた肉屑の中から、人の眼には映らないような魂の化身がよろめいている。
「同調……?…あっしの心臓の音に呼応して半死半生で動き出したってカンジ?
割と意味わからんけど、やっぱり死んでるには死んでるよね。それ」
「教えろ」
「わっ、喋った。すげぇや」
「"死"とは何だ?」
「………………」
ラーテンは呆気に取られるあまり、口をぽかんと開けた。
「あっしは生まれ育ちがあまりに死が溢れてたもんだねぇ。それの回答を持ってはいるよ」
「教えろ」
「残念ながらアンタにはすぐには理解できないだろうね。死が正しく使われないと、死の定義なんて簡単に揺らぐもんさ」
「死の使われ方……」
「そうさ。意味ある死、意味のない死、意味を与えられる死、意味を与えられない死。
世の中には無意味を無意義に溢れているが、あっしの夢の先には意味のある世界がある」
「わからない……意味が分からない」
「今はそれでもいいと思うけどね。今あるアンタの揺らぎはアンタだけのものだ」
クラウンは不敵に笑んだ。
「でも、もしあっしと一緒に来たいのなら、言い訳をあげることはできる」
彼を捕え縛る鎖。
余裕に満ち溢れたマジシャンが自らに施した仕掛けに役割を与えるように、クラウンの五体から自由を奪っていた鎖が土塊のように変質し、朽ち崩れた。
人形のように覚束ない足取りのまま独房の格子まで歩み寄った彼は僅かな隙間から手を差し出した。
「さぁ、あとはこの格子だけ。あっしはこの後、佐呑の夢想世界に援軍として派遣されくるTD2Pの部隊を撃退しなきゃならない。そうじゃないと、初めからこの島のという舞台に配置された役者以外に、後から巻き込まれた三文役者たちの命が無下に散っていくことになるからね。そんな気の毒な彼らを救ってやりたいとは思わないかい?」
―――
―――
―――
―――
―――
―――
―――
―――
―――
〇昏山羊の大聖堂_晩餐会後の決戦
緑の太陽を思わせるような大光源と化した鐘笑の姿が大聖堂の頂点に達し、彼らの周囲の光景を終末の雷光で照らし出していた。
火炎の墓壙より醜煙が舞い上がる中、奈落へと飛び込んでいくクロノシア号、鯵ヶ沢露樹、ドナルド・グッドフェイスの姿を見送る様相で、二人の剣士が対峙していた。
運命に翻弄される若き終末兵器、ボイジャー:クロノシア号こと夢想世界用対冠域指向AI、アーカマクナ:モデル・マーリン。
ニーズランド大討伐作戦の発起人として数多の猛者と渡り合い、過去には大陸軍への対抗組織たる新生テンプル騎士団の爆誕に寄与した戦場のカリスマ、アレッシオ・カッターネオ。
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激しい金属音が響き渡り、火花が散る。マーリンの重瞳は世話しなく巡り、剣がぶつかる度に全身に伝わる意外なな程に強固な衝撃に調子を狂わされていた。手に伝わる相手の剣から放たれる実直かつテクニカルな重み。真面目に受けていては先に綻びが出ることを物言わずとも理解させる程に卓越した技量を持つ彼に対して、マーリンは静かな怒りと疑念を感じていた。
(まず誰よりも先にこちらに仕掛けてくるのがこの人とは予想しなかった)
振り下ろされた長剣からの一撃を大太刀茜皿の峰で受けたマーリンは、手を痺れさせる程の相手からの攻撃を受け流すべく器用に体を捩じって剣を振り抜いた。
攻撃に転ずる暇もなく畳みかけてくるアレッシオ・カッターネオの剣線はこれまでの誰の物とも異なる独特な太刀筋をしており、一撃一撃が的確なうえ、恐ろしく無駄がなかった。むしろマーリン側の受け手を想定しているかのようなピンポイントの位置で斬撃を配置し、それが防がれたとて、読まれていたとて、すぐさま次の一手に移行でいるように全身の動きを無駄なく組み立てているのだ。
そもそもが宙に吊るされた晩餐会の椅子を離れ、クロノシア号たち程ではないにしろ瓦礫に混じった落下の最中において、こうも自在に身を動かせるとあれば、流石にこの決戦まで生き残る実力者は伊達ではないとマーリンは感心した。しかし、ここにきて新生テンプル騎士団の代表が自分を狙う理由が見えてこないマーリンとしては、どこか不平不満に似た感情が心を過る。
(強いには強い。間違いなく、この世界でトップレベルでこの最終決戦の場に立つに相応しい力はある)
剣戟に押し負けたマーリンの身体が解れる。間髪入れずに叩き込まれる無数の剣線を回避すべく、マーリンは夢想解像による人蜂形態を構築後、急速な空中旋回によって大聖堂を弧を描くように飛翔した。
(新生テンプル騎士団か……。"人類最高火力"バゼット・エヴァーコール、"裏社会の首魁"ドナルド・グッドフェイスもそうだが、一時期はこいつらが一つの組織で徒党を組んでいたと思えば、あながち大陸軍とやらを退けたというのも納得いく水準なんだろうな。というか、仮にこの三人に加えて、眩旗だの剣聖だの、他の強豪メンバーが万全な状態で連携できていたのなら、大討伐軍すら必要とせずにニーズランド陣営を殲滅できていただろうな)
銀色の装甲に身を包んだ鎧武者が躍動する。
武具を纏っているとは思えぬ敏捷性は獣の動きを彷彿とさせ、自身の残像を残す程のコマ送り的な奇妙な動きはマーリンの意識の外からの追撃を可能としていた。増えた蜂の手足で複製した茜皿と勇厷を握ったマーリンの描く剣
の流れは並みの剣士に対応できるレベルではないが、異形の体躯から成る脅威の連撃すら押しかえす程の強烈な打ち合いにより、マーリンの姿勢は大きく崩された。
「禁断の惑星:真善美叛」
何の気になし放ったようなアレッシオ・カッターネオからの魔法の言葉により、彼の持つ剣が劇的な変化を果たす。水平に薙いだ剣の柄から切先にかけて宇宙の姿を内包した星の海が宿る。
一つの武器から固有冠域を格納した世界そのものと化した刃。鋭利な角度から滑り込ませた斬撃がマーリンの脇腹を狙う。
「”筐庭”……最大出力ッ‼︎」
剣と肉の合間の間隙を埋めるように、数多の半透明で小さなキューブが放出された。
澐仙の持つコプラサーの技巧を真似た即席の極小冠域を防御利用であり、敵の攻撃の受け流し先として冠域を使い捨てることによる擬似的なバリアの役割を果たしている。
だが、無数に放出される筐庭を以ってしても、騎士から放たれる法外の一撃を相殺することは叶わなかった。
(これだ……)
マーリンの体が宙を過ぎ、大聖堂の壁に激突した。
(この男の禁断の惑星を一発でもモロに受ければ死ぬ。しかも手札が強力な割に制約が少なく、通常の近接戦に何の気無しに使ってくるな)
「当たればラッキー。みたいに考えてるのなら、舐められたものだ」
「何を言うか。しっかりと仕留める気で打っているとも」
マーリンは空間そのものに干渉し、自身の周囲に無数の砲門を顕現させる。号令を待たずして発射されたベンガル砲の弾幕が、大聖堂を緩やかに落下する騎士の的を捉える。
アレッシオ・カッターネオは初めの数十発を受けるなり、裁くなり、流すなりで対応したのち、あろうことかその弾幕を足がかりにコマ送りのような残像移動でマーリンへの接近に打って出た。
虫の這い出る隙間もないような弾幕の中、猛烈な速度でマーリンに肉薄した騎士は再度剣を振りかぶる。力を貯めてから技を放つまでの所要時間が殆ど存在しない彼を相手取り、マーリンは通常攻撃と禁断の惑星の二択を迫られた。
「禁断の惑星:真善美叛意」
「ーーーーッ‼︎」
禁断の惑星。一撃必殺を象った斬撃がマーリンの人蜂の体躯から皮一枚を隔てて静止した。
「今、私が剣を止めねば決着が付いていた」
「では何故、剣を止めた」
「頑なに冠域を使わない姿に違和感を感じた。技術的特異点たるアーカマクナ。叢雨禍神さえ屠ったボイジャーでもある君が、私相手に故意に全力を出し惜しんでいると判断した。
我々には会話の余地がある」
絶対の剣技を待つアレッシオ・カッターネオには驕りはなかった。近接戦の純然たる戦闘行為では圧倒していたとはいえ、マーリンがその気になれば収斂進化の冠域展開による形成逆転が実現可能であったという事実は認識していた。
「夢は聞かない。目的だけ簡潔に話してもらいたい」
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君を殺すことは可能という判断だが、会話の余地があるならばここでお願いするのも一興」
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「ならば殺し合いが続く。残念ながら、お互いが生半可な心持ちでは場持ちしないことを痛感している以上、それなりに凄惨な果たし合いになるだろうが」
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「ならば、鯵ヶ沢露樹の確殺を条件に停戦を受諾しよう。それを違えるならば、癪ではあるが全身全霊をもって貴様を滅ぼす」
「承った。共に夢の一途を辿るもの同士、無為な争いは無用だ」
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