なぜか水に好かれてしまいました

にいるず

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54 おそろいです

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「 今日は日用品がほしいんだ。 」

「 日用品? トイレットペーパーとか? 」

敦子は日用品と聞いてすぐ思い浮かべたものを口に出していた。

すると玉山は、なぜかうっと言葉に詰まったようになってしまった。

「 あ~あ、洗剤ですか? それともティッシュペーパーとか。 」

敦子が思いつく日用品をいくつか挙げると、今度は玉山のじと~とした視線に出会った。

「 違う。今日あっちゃんが来るから、おそろいのマグカップとかいろいろ........ 。 」

最後は、なんだか小さすぎる声になってしまい、敦子には聞き取れなかった。

しかし耳を真っ赤にしている玉山を見ると、敦子もそれ以上聞き返せなかった。

それより言葉の意味を理解して、今度は敦子まで顔が赤くなってしまった。

玉山はそんな敦子を見て溜飲を下ろしたのか、急に元気になったようだった。

「 じゃあ行こうか。 」

玉山の元気な声の元、ふたりは車に乗り込んだ。

ふたりは郊外にある大型ショッピングセンターに行くことにした。

休日のせいか混んでいたが、少し待ってやっと駐車場に車を停めることができた。

専門店街に食器を売っているお店があったので、二人はいっていく。

ちょうど気になったペアマグカップがあった。

白地に青いデザインの大きなカップと同じく白地に桜色のデザインのちょっと小ぶりのマグカップだった。

敦子は、その小さな方を手に取ってみた。

思ったより軽くて手になじむ。

桜色のデザインもかわいらしい。

「 それにする? 」

敦子が手に取って眺めていたからだろうか、玉山も青いデザインのほうを手に取っていた。

「 軽いし手に持ちやすいね。 」

「 いいんですか。 」

「 うん、これいいね。 」

そういって玉山は、少し離れたところにいた店員さんを呼んだ。

飛んできた店員さんは、カップを取ろうとして、その前に玉山のほうをちらっと見た。

若いその店員さんはぽっと顔を赤くして、二つのカップを手に取って走ってレジに行ってしまった。

玉山もレジのほうに向かった。

敦子は、しばらくほかの商品を眺めていたが、なかなか玉山が戻ってこないので、レジのほうを見てみた。

すると顔を真っ赤にした店員さんがあたふたとカップを入れた箱を包装している。

そのそばには失敗したのだろうか、ぐちゃぐちゃになった包装紙がいくつも机の上に転がっていた。

「 お待たせ。 」

しばらくして玉山が戻ってきた。

その手には、きれいな包装紙に包まれたカップが入った箱がこれまたきれいな紙バックの中に入っていた。

敦子はふとレジのほうを見た。

レジの前にはまだ顔を真っ赤にさせた店員さんが、玉山のほうをぼ~と見ているのが見えた。

お客さんがいなくてよかったと思った敦子だった。

それにしてもあの店員さんを見て思った。

自分も玉山にあったばかりのころは、あんな感じだったなあと。

それが今は、ずいぶん慣れた。

敦子が玉山の顔を見て、一人感慨にふけっていたからだろうか。

玉山が敦子を見て首をこてっとさせて、不思議そうな顔をして見てきた。

なんだか急にめまいがした。

敦子は思った。

だめだ、やっぱりまだ慣れてない。

玉山がコーヒー豆を買いたいというので、また店を探して歩いた。

途中スイーツの店があっておいしそうなケーキがあったので、帰りに寄ることにした。

豆も買い目的は達したのだが、そのあともふたりぶらぶらといろいろなお店を見て歩いた。

もう来年のカレンダーや手帳も売られていて、いろいろ見るのは楽しかった。

玉山は卓上のカレンダーを一つ買った。

玉山が買ったものは、いろいろな風景写真のものだった。

「 どれがいいかなあ? 」
 
ふたりで選んでいるときに、ある卓上カレンダーの何枚目かに敦子の家のそばに似た滝の写真があったのにはびっくりした。

敦子が食い入るようにカレンダーの見本の滝の写真を見ているので玉山もそばに来て一緒に眺めた。

一瞬玉山の目が大きくなった気がした。

「 きれいな写真だね。ほんとに夏らしいな。 」

7のところに滝の写真が使われていた。

「 この滝、うちのそばにある滝に似ているんですよ。 」

敦子がそういうと玉山は、なぜかはっとしたようになって、敦子に何か言おうとしたが、やめたようだった。

敦子もそんな玉山に深く聞くこともなかった。

玉山は結局その卓上カレンダーを買った。

帰るときに先ほど見たケーキも買い、帰ることにした。

駐車場を出るときには、あたりはすっかり暗くなっていた。

アパートに帰るときに敦子が言った。

「 今日の夕食、私が作ったものでよければ食べませんか。 」

「 いいの? じゃあうちで食べる? 」

夕食は、玉山の部屋で食べることになった。

ふたりは、いったんお互いに部屋に戻ることにした。

敦子は部屋に着くと、料理を鍋とフライパンに入れて持っていくことにした。

玉山のインターホンを鳴らす。

玉山がすぐ出てきて、鍋とフライパンを受け取って敦子を通した。

玉山の部屋はモノトーンで統一されていておしゃれだった。

ごちゃごちゃしている敦子の部屋とは大違いだ。

ただなんだか生活感は、あまり感じない部屋だと思った。

敦子がきょろきょろしていたからだろう。

「 片づけたんだけどどう? 」

「すっきりしてますね。うちとは大違い。 」

男の人の部屋に入るのは、初めての事だったので、なんだか新鮮でまだいろいろ気になってしまい、傍目から見たら挙動不審になってしまっていたかもしれない。

「 ここに座って。 」

いつまでたっても敦子がきょろきょろしていたからだろう。

玉山が、敦子をクッションが置かれている場所に案内した。

「 すみません。きょろきょろしちゃって。男の人のお部屋に入るの初めてなので。珍しくて。 」

いってしまってから、あっと思い口を閉じた。

思いっきり恥ずかしさがこみあげてきてしまい、ついうつむいてしまった。

「 そうなの? うれしいな。じゃあ僕の部屋が初めてなんだ。 」

玉山の初めて聞くすごい弾んだ声に敦子が顔を上げると、満面の笑みをした玉山がいた。

「 あっそうだ。キッチンかりますね。 」

恥ずかしさのあまり、敦子はそういうと、キッチンに逃げた。

キッチンもすごくきれいで、というより何も物が置いてなくて、敦子は思わず言ってしまった。

「 竜也さん、お皿とかありますよね。 」

玉山はしまったという顔をした。

「 そういえば、皿はあるけど3枚ぐらいしかないんだ。 」

玉山は、キッチンの棚を開けて何やらごそごそしだしたが、やはりなかったらしい。

「 じゃあうちで食べて、コーヒーとケーキはこちらでいただきましょう。 」

敦子がそう提案すると玉山はほっとしたようだった。

「 ごめん。いつもあんまり家事しないから忘れてた。 」

ぼりぼり頭をかきながら、そう小声で言った。


お料理しないのは知ってますよ。この前しっかり見ましたから!とは言えなかった敦子だった。










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