なぜか水に好かれてしまいました

にいるず

文字の大きさ
上 下
24 / 80

22 今日はお弁当を持っていきました

しおりを挟む
その夜敦子は、夢を見た。

自分が、なぜか着物を着て、滝の前にいる。

すると滝の中から竜が現れた。そして人型になった。
夢の中の自分は、それに少しも驚くことはなく、反対にその人を見たとたんうれしい気持ちになった。
そして自分は、滝のそばにある大きな岩に腰かけようとしたとき、水に映る自分の姿を見た。

あれっ、誰この人? 私じゃない!

そう思ったとき、目が覚めた。

はっとして、飛び起きる。
どう見てもここは、自分のいつもの部屋だ。着ているものは、パジャマだと確認する。

この前聞いた昔話のせいで、こんな変な夢を見たのだろうか。

ただ夢から覚めるとき、声を聞いた気がした。

『 あつぅ____ 』

時計を見れば朝の5時過ぎ。
また眠ろうかと思ったが、結局眠れなかった。



早めに起きて、軽く洗濯をした。
時間があったので、作り置きのものを詰めて弁当を持っていくことにした。

玉山さんの前を通ったが、ドアは開かなかった。

( もういないのかな? 帰るときまた連絡してくれるといっていたけど。 )

昨日玉山は、自分の部屋に帰るとき、また連絡するといってくれた。
しかもごちそうしてもらったお礼に、今度は食事に行こうといってくれた。

その言葉だけで、いつもなら気の重い週初めが、少し気持ちが軽くなる気がする。
ひょんきんな自分に、なんだかおかしくなった。

思わず一人くすっと笑ってしまってから、ここは、電車の中だと気が付いた。

慌ててあたりを見渡すが、皆スマホを見たりしていて、敦子に気が付いた様子はなかった。

今度は、今朝見た夢の事を思い出した。

( そういえば、あの人玉山さんに似てた気がするな。 )

夢の中に出てきた人は、なんだか顔がかすんでいてよく覚えていないが、玉山さんに似ていた気がする。
それとあの夢の中で聞こえた声も、似ているような気がしなくもない。

たぶん昨日夕食まで一緒に食べたせいに違いないが、夢の中に出てくるほど、意識してしまっている自分が少し恥ずかしくなった。




会社に行くと、やはりというべきか三連休の後で、いつもより忙しかった。

お昼になり、いつものように、皆で食べに出ようという話になった。

しかし敦子が、今日弁当を持ってきてると聞くと、いつも一緒に食べる同僚達は、近くで買ってくるから待っててといったので、敦子は休憩室で待つことにした。

敦子が、一人待っていると、名前を呼ばれた。

営業の笹川さんだった。

「 滝村さん、ここにいたのか。悪いけど、この書類またやっておいてくれる? 」

「 あっ、はい。いいですよ。 」

いつものように敦子が言うと、笹川は、敦子の前にあるお弁当箱を見た。

「 滝村さん、今日はお弁当? 」

「 そうです。 」

「 自分で作ったんだよね。 」

「 残り物を詰めただけですけどね。 」

「 へえ~、でも一人暮らしだよね。 」

「 ええ、自炊しないとお金かかるので。 」

「 今度、僕のも作ってよ。 」

いつの間に来たのか、急に笹川が耳元で言ったので、敦子は思わずのけぞってしまった。

「 笹川さんなら、作りたいって人が、大勢いますよ。 」

笹川は、敦子ののけぞった姿にくっくっと笑い、敦子の話を無視していった。

「 三連休は、帰省してたの? 」

「 はい、そうです。 」

笹川は、書類机の上置いておくね~と書類を手に振って、休憩室を出ていこうとした。

しかし出口でまた足を止め、振り返っていった。

「 いつも悪いね。今度なんかおごるよ。 」

なんだか笹川にいいように言われた敦子は、半分疲れてスマホを見ることにした。

( 笹川さん、そういえばよく帰省したこと知っていたなあ。 )

ちょっと不思議に思った敦子だった。



しばらくして、休憩が少なくなっちゃうとどたどたしながら、同僚の大橋奈美と近藤結衣が帰ってきた。

三人でいつものように食事していると、ふと同僚の大橋奈美が言った。

「 さっきあの『 エレベーターの貴公子』見たのよね~、 ねえ~結衣ちゃん。 」

「 そうそう下に行くエレベーターで一緒になったのよ。やっぱりかっこよかった~。 」

「 どうしたの? あっちゃん大丈夫? 」

急に敦子が、むせたので、奈美と結衣の二人がびっくりした。

「 ごめん、むせっちゃた。 」

敦子は、慌てて水筒のお茶を飲んだ。

「 それにしても今日『 エレベーターの貴公子 』と一緒にいた女の人もすごい綺麗だったよね。 」

「 そうそう美男美女で、お似合いのカップルって感じ。 」

「 どうしたの、あっちゃん。まだのどがいたいの? なんだか顔色が悪いみたい。 」

「 何でもないよ、ありがとう。 」

「 そういえばあっちゃん、実家で休息できた? 」

「 うん。 」

敦子は、先ほどの玉山の話で、なんだか食欲がなくなるのを感じた。

「 あっちゃん? 帰省して疲れてる? 気を付けてね。 」

元気のなくなった敦子に二人が、心配して声をかけてくれた。

「 そういえば、週末にあっちゃん誘ったでしょ。坂口さんにあとで聞いたんだけど、あれ、笹川さんが、あっちゃんにいつもお世話になってるから、お礼したかったんだって。また行こうね。笹川さんのおごりらしいから。 」

今までなら、心が浮き立った話も、今日はなんだか心が沈んだままだった敦子だった。



お昼も終わり、席に着くと、午後も仕事がたんまりとあり、敦子は半ばやけくそになって仕事をした。



その姿を見ていた、上司が言った。

「 滝村さん、今日は仕事に精を出しているね。なんだか鬼気迫る勢いだよ。でももう少し肩の力抜いてやってくれていいからね。 」 


 
今日は、デパ地下にでもよって、おいしいデザートでも買って帰ろうと思った敦子だった。









しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~ その後

菱沼あゆ
恋愛
その後のみんなの日記です。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。

石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。 すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。 なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。

スカートを切られた

あさじなぎ@小説&漫画配信
恋愛
満員電車から降りると、声をかけられた。 「スカート、切れてます」 そう教えてくれた大学生くらいの青年は、裂かれたスカートを隠すのに使ってくれとパーカーを貸してくれた。 その週末、私は彼と再会を果たす。 パーカーを返したいと伝えた私に彼が言ったのは、 「じゃあ、今度、俺とデートしてくれます?」 だった。 25歳のOLと大学三年生の恋の話。 小説家になろうからの転載

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

処理中です...