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幕間 ?視点 __化粧品工場にて。化粧品売り場にて__。
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___それは、果てしなく長い旅をしていたような気がした。
もしかしたら、ほんの少しだったのかもしれない。ただ、時間の概念がもう自分にはないのだ。
それ以前に、自分が何者だったのかもわからない。
しかし、___帰りたい___という気持ちだけは、残っている。
それが、どこへ帰りたいのかもわからないのだが。
そうやって、それは真っ暗な中をただ意味もなく漂っていた。
ふわ~り。ふわ~り。
あるときそれは、何かに吸い寄せられる感じを覚えた。
弱い弱い何か。
けれど確かに引き寄せられる。
と同時に、あの気持ち__帰りたい__が、引き寄せられるたび、強くなってきた。
長い時間なのか、それともあっという間なのか、その弱い弱い何かに引き寄せられるようにして、それでも確実にそれは、目的地へ向かっていった。
急になぜか懐かしい感じがした。
自分が行かなくてはいけないところがわかる気がした。
そこへ行くにはここへ行けばいい、そう感じてそこへ行きたいと強く願った。
それはどんどん引き寄せられていく。
あっと思った時には、何かに入っていた。
本当はそこに行くはずじゃなかったのに、もっと別な何かに行くはずだったのに。
それはもう動けなくなってしまった。
ただまた待てばいい。きっと行きたいところへ連れて行ってくれる。
___化粧品工場にて___
館山洋子は、いつものようにベルトを流れてくる、商品の最終チェックをしていた。
この仕事を10年以上している館山洋子は、みんなからベテランと言われている。
しっかりと商品のチェックという作業をしながら、ふと今度の三連休の事を考えた。
(今度の三連休は、私の実家にいくんだったわ。お土産何買ってこうかしら。お母さんの好きな羊羹でもいいわね。あれなら子供たちも、喜ぶし。主人には、車の運転をしてもらうし、今日の夕食は、主人の好きなものにしてあげようかしら)
洋子には、子供が二人いる。
もう二人とも小学生だが、あの年にしては、めずらしく和菓子が好きな子たちだ。
洋子は、自分の実家を思い浮かべた。夏休みには、帰れなかったから、両親も喜ぶだろう。
地元には、有名な滝や湖がある。
まだ暑いこの時期には、子供たちも喜ぶだろう。そう考えたら、自然に顔がほころんできた。
その時、ふと目の前を、きらきら光る小さな破片のようなものが横切った気がした。
(何かしら。目の錯覚?)
もう一度よく見たが、それらしきものは、見えない。
ここは外から変なものが入らないよう空調設備が整っている。
おかしいなあと思いながらも作業に没頭する。
その時、ベルトの前を流れていく一本のネイルボトルの中身が光った気がした。
慌ててそれをつかみ横によける。
そしてベルトが止まり、作業を終える。
洋子が先ほどよけたボトルを念入りにチェックしていると、同僚がやってきた。
「どうしたの?不良品?」
「さっき異物が見えた気がしたの」
「どれどれ?」
洋子と同じ作業を担当している同僚が、洋子からそれを受け取った。
2人で確かめるが、異物らしいものは見えない。
「何もないようね」
「そうね。やっぱり目の錯覚だったのね」
念のためかわるがわる確かめたが、何も見えなかった。
そこで同僚がまたそれを商品のほうに戻した。
「時間よ。終わりましょう。三連休どこいくんだっけ」
「田舎の実家に帰ろうと思ってるの。道路こまないといいわ。 」
「そうなの。それは楽しみね~」
2人はそう話しながら、作業場を後にした。
2人は気が付かなかった。商品の中の一個がまたきらりと光ったのを。
___化粧品売り場にて___
「今日は新作が入荷しました。みなさん、今日も頑張りましょう」
チーフからそういわれて、南直子は新製品を一通りチェックした。
(きれいな色。これなら売れそうだわ)
この仕事について5年目の南洋子は、化粧品を売っている。
夏休みをまだとっていなかったが、遅い夏休みをやっととれる。三日後に。
(実家に帰ったら、のんびりしよう。何にもないけど、こういう都会にいるとよさがわかるようになるのよね~)
都会にあこがれてこちらに就職したのだが、たまにすごく実家が恋しくなる。
お父さんは、またあの池に行って釣りしてるのかしら。
あの滝のほとりかしら。
そういえば、電話で母さん言ってたわね。今年は、滝の水量が久しぶりに豊富だって。
そう考えていると、今回メインで売るはずのネイルボトルのひとつがきらりと光った気がした。
(えっ、何かしら)
不良品か慌てて調べる。しかし何も見えない。念のためと何回も見たが、やはり何もなかった。
(おかしいわね)
そのうちにお客さんがぱらぱらと来て、そのことはいつの間にか頭の中からすっかり忘れてしまった。
「この色、新色なんですよ。お仕事をされてても違和感ないかと」
「そうですね。じゃあこれにします」
時々来るお客さんがネイルを買っていった。
その人は、きれいな手をしていて、いつもきちんとお手入れしているようだった。
(あの人なら、あのネイルの色にあうわね)
あの人に似合う色の新色がでて、なぜかうれしくなった南だった。
あともう少しでお休み、早く帰りたいわ~!と思った南だった。
もしかしたら、ほんの少しだったのかもしれない。ただ、時間の概念がもう自分にはないのだ。
それ以前に、自分が何者だったのかもわからない。
しかし、___帰りたい___という気持ちだけは、残っている。
それが、どこへ帰りたいのかもわからないのだが。
そうやって、それは真っ暗な中をただ意味もなく漂っていた。
ふわ~り。ふわ~り。
あるときそれは、何かに吸い寄せられる感じを覚えた。
弱い弱い何か。
けれど確かに引き寄せられる。
と同時に、あの気持ち__帰りたい__が、引き寄せられるたび、強くなってきた。
長い時間なのか、それともあっという間なのか、その弱い弱い何かに引き寄せられるようにして、それでも確実にそれは、目的地へ向かっていった。
急になぜか懐かしい感じがした。
自分が行かなくてはいけないところがわかる気がした。
そこへ行くにはここへ行けばいい、そう感じてそこへ行きたいと強く願った。
それはどんどん引き寄せられていく。
あっと思った時には、何かに入っていた。
本当はそこに行くはずじゃなかったのに、もっと別な何かに行くはずだったのに。
それはもう動けなくなってしまった。
ただまた待てばいい。きっと行きたいところへ連れて行ってくれる。
___化粧品工場にて___
館山洋子は、いつものようにベルトを流れてくる、商品の最終チェックをしていた。
この仕事を10年以上している館山洋子は、みんなからベテランと言われている。
しっかりと商品のチェックという作業をしながら、ふと今度の三連休の事を考えた。
(今度の三連休は、私の実家にいくんだったわ。お土産何買ってこうかしら。お母さんの好きな羊羹でもいいわね。あれなら子供たちも、喜ぶし。主人には、車の運転をしてもらうし、今日の夕食は、主人の好きなものにしてあげようかしら)
洋子には、子供が二人いる。
もう二人とも小学生だが、あの年にしては、めずらしく和菓子が好きな子たちだ。
洋子は、自分の実家を思い浮かべた。夏休みには、帰れなかったから、両親も喜ぶだろう。
地元には、有名な滝や湖がある。
まだ暑いこの時期には、子供たちも喜ぶだろう。そう考えたら、自然に顔がほころんできた。
その時、ふと目の前を、きらきら光る小さな破片のようなものが横切った気がした。
(何かしら。目の錯覚?)
もう一度よく見たが、それらしきものは、見えない。
ここは外から変なものが入らないよう空調設備が整っている。
おかしいなあと思いながらも作業に没頭する。
その時、ベルトの前を流れていく一本のネイルボトルの中身が光った気がした。
慌ててそれをつかみ横によける。
そしてベルトが止まり、作業を終える。
洋子が先ほどよけたボトルを念入りにチェックしていると、同僚がやってきた。
「どうしたの?不良品?」
「さっき異物が見えた気がしたの」
「どれどれ?」
洋子と同じ作業を担当している同僚が、洋子からそれを受け取った。
2人で確かめるが、異物らしいものは見えない。
「何もないようね」
「そうね。やっぱり目の錯覚だったのね」
念のためかわるがわる確かめたが、何も見えなかった。
そこで同僚がまたそれを商品のほうに戻した。
「時間よ。終わりましょう。三連休どこいくんだっけ」
「田舎の実家に帰ろうと思ってるの。道路こまないといいわ。 」
「そうなの。それは楽しみね~」
2人はそう話しながら、作業場を後にした。
2人は気が付かなかった。商品の中の一個がまたきらりと光ったのを。
___化粧品売り場にて___
「今日は新作が入荷しました。みなさん、今日も頑張りましょう」
チーフからそういわれて、南直子は新製品を一通りチェックした。
(きれいな色。これなら売れそうだわ)
この仕事について5年目の南洋子は、化粧品を売っている。
夏休みをまだとっていなかったが、遅い夏休みをやっととれる。三日後に。
(実家に帰ったら、のんびりしよう。何にもないけど、こういう都会にいるとよさがわかるようになるのよね~)
都会にあこがれてこちらに就職したのだが、たまにすごく実家が恋しくなる。
お父さんは、またあの池に行って釣りしてるのかしら。
あの滝のほとりかしら。
そういえば、電話で母さん言ってたわね。今年は、滝の水量が久しぶりに豊富だって。
そう考えていると、今回メインで売るはずのネイルボトルのひとつがきらりと光った気がした。
(えっ、何かしら)
不良品か慌てて調べる。しかし何も見えない。念のためと何回も見たが、やはり何もなかった。
(おかしいわね)
そのうちにお客さんがぱらぱらと来て、そのことはいつの間にか頭の中からすっかり忘れてしまった。
「この色、新色なんですよ。お仕事をされてても違和感ないかと」
「そうですね。じゃあこれにします」
時々来るお客さんがネイルを買っていった。
その人は、きれいな手をしていて、いつもきちんとお手入れしているようだった。
(あの人なら、あのネイルの色にあうわね)
あの人に似合う色の新色がでて、なぜかうれしくなった南だった。
あともう少しでお休み、早く帰りたいわ~!と思った南だった。
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