なぜか水に好かれてしまいました

にいるず

文字の大きさ
上 下
7 / 80

6 お隣さんは『エレベーターの貴公子』さんでした

しおりを挟む
(えっ! 『 エレベーターの貴公子 』さん?! )

「 おぉぉ____、 おぉ_はようございますぅ。 」


敦子は、そういうなり脱皮のごとく、その場から逃げた。 はずだった........。


「 ずいぶん早く歩かれるんですね。 」

なぜか涼やかな声が、敦子のすぐ後ろから聞こえてきた。

( え~ 嘘、いるの? )

走ったはずなのに、なぜか後ろにいる人物には、早歩きとしか思われていなかったようだ。

( くぅ~~~。コンパスの違いか? 違いなのか。  )

この時ほど、敦子は、自分の足の短さを、恨んだことはなかった。
仕方なく後ろを振り向く。

すぐ後ろに、あの 『 エレベーターの貴公子 』 が、立っていた。
敦子は、走ったせいで、顔に汗がいっぱい出ているのに、彼は、涼やかな顔をしている。

「 同じアパートに引っ越してきた玉山です。よろしくお願いします。」

「 こちらこそよろしくお願いします。.......滝村です。 」



お互い挨拶をして、二人並んで歩きだす。


「 どちら方面に行かれるんですか。 」

敦子は、( 知っていますか、同じビルですよ )とは言えず、ぼかしにぼかしていった。

「 ○○のほうです。 」

「 じゃあ、いっしょの路線ですね。僕もそうなんです。 」

「 ...........そうなんですね。 」

玉山は、敦子の歩幅に合わせて、歩いてくれている。

駅に着くと、電車がちょうどきて、これまた二人で、一緒の車両に乗ることになった。

「 どの駅で、降りられるんですか。 」

「 .......○○駅です。 」

「 同じですね。 」

横にいる玉山を見れば、にっこり微笑まれてしまった。

そばにいるほかの乗客も、玉山を見ている。というかガン見している人もいる。
玉山のほほえみを、目撃してしまった女の人が、なぜか鼻を抑えているのが、目の端にうつった。
玉山のオーラは、すさまじいものがあった。
女性の乗客だけでなく、男性の中にも、玉山を凝視しているものがいる。
きっと有名人ではないかと思っている人も、いるのかもしれない。
それくらい玉山という人には、破壊力があった。

敦子は、横に立ってるだけで恐れ多くて、もう逃げ出したい気持ちになっていた。


そんな敦子の気持ちなんて、つい知らず玉山は、敦子に話しかけてくる。

「 あのアパート、住み心地はどうですか。 」

「 .......大家さんも一階にいてくれますし、駅からも近いですし、気に入っています。 」

「 よかったです。実はあのアパート、僕の母の姉がやっていまして。ちょうど住むところを探していたときに、空いた部屋があると聞いて、引っ越してきたんです。 」

「 ......そうなんですね。 」

敦子は、玉山との会話を続けながら、わきの下に、ぐっしょりと汗をかいているのを感じた。

たぶん玉山のそばにいる乗客のほとんどが、この会話を聞いているのだろう。
なぜか車内からは、物音ひとつ聞こえない。

いつもならイヤホンでスマホを聞いているはずの人も、なぜか耳からイヤホンをはずしている。

( イヤホンはずれてますよ~。いいんですか? そうですか。 )

玉山は、いつもの日常のワンシーンだろうが、敦子にとっては、非日常といっていいぐらいのインパクトのある時間だ。
何の拷問だろうか、敦子にとっては、この時間が無限のように感じた。

「 滝村さんは、いつもこの時間の電車に乗るんですか。 」

「 .........ええ、そうです。 」

「 そうなんですね。僕も、毎日これくらいの時間に乗ると思うので、またよろしくお願いします。 」


    シ___________ン


混んでいるにしては、静かな車内が、玉山の発言で一段と静まりかえった。

敦子は、つい苦笑いを浮かべそうになってしまい、ひどくまじめな顔を作っていったのだった。

「........こちらこそ、よろしくおねがいします。 」


敦子は、先ほどの玉山の言葉で思った。

( 明日から、この時間の電車混むな。電車の時間、もう少し早くしよう。 )




拷問とも思えた電車が、やっと駅について二人降りた。

「 滝村さんと、同じ駅なんて、本当に世間は狭いですね~。 」

何も知らない玉山は、さわやかな笑顔で、いった。


敦子は、会社まで一緒に行くと、周りに何を言われるかわからないと、頭を巡らせてた。

「 私、そこのコンビニで、買うものがありますので、じゃあまた。 」

玉山が、何か言おうとしたのを、無視して一気にいい、コンビニに走って入った。

コンビニの奥まできてから、後ろを振り返ると、玉山の姿はなかった。

( よかった!同じビルってわかったら、大変だったよ。精神衛生上、大変よろしくない。 )

敦子は、今日の朝だけで、一日働いたような気分になり、コンビニで、なぜか二つもお菓子を買ってしまった。



そして、会社の、更衣室に行くと、同期の大橋なみがいた。
彼女とは、同期入社で、歳も一緒である。
違いは、同じ会社に、彼氏がいることだ。

「 おはよう~。あっちゃん、ずいぶんお疲れの顔してない? 」

「 なみちゃ~ん、なんか疲れたよ。今日寝坊しちゃって。 」

さすがになみにも、今朝の『 エレベーターの貴公子 』こと玉山さんの事は、いいづらかった。

「 それで、元気の元、買ってきたんだ。 」

なみは、敦子が手に持っていた袋を見ていった。

「 二つあるから、あとでみんなで食べよう。 」

「 わ~い! 楽しみ。 」

そういって大橋なみは、先に更衣室を出て行った。



敦子は、なみと話して、やっと日常が戻ってきたと実感したのだった。












  

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~ その後

菱沼あゆ
恋愛
その後のみんなの日記です。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。

石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。 すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。 なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。

スカートを切られた

あさじなぎ@小説&漫画配信
恋愛
満員電車から降りると、声をかけられた。 「スカート、切れてます」 そう教えてくれた大学生くらいの青年は、裂かれたスカートを隠すのに使ってくれとパーカーを貸してくれた。 その週末、私は彼と再会を果たす。 パーカーを返したいと伝えた私に彼が言ったのは、 「じゃあ、今度、俺とデートしてくれます?」 だった。 25歳のOLと大学三年生の恋の話。 小説家になろうからの転載

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

処理中です...