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6 お隣さんは『エレベーターの貴公子』さんでした
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(えっ! 『 エレベーターの貴公子 』さん?! )
「 おぉぉ____、 おぉ_はようございますぅ。 」
敦子は、そういうなり脱皮のごとく、その場から逃げた。 はずだった........。
「 ずいぶん早く歩かれるんですね。 」
なぜか涼やかな声が、敦子のすぐ後ろから聞こえてきた。
( え~ 嘘、いるの? )
走ったはずなのに、なぜか後ろにいる人物には、早歩きとしか思われていなかったようだ。
( くぅ~~~。コンパスの違いか? 違いなのか。 )
この時ほど、敦子は、自分の足の短さを、恨んだことはなかった。
仕方なく後ろを振り向く。
すぐ後ろに、あの 『 エレベーターの貴公子 』 が、立っていた。
敦子は、走ったせいで、顔に汗がいっぱい出ているのに、彼は、涼やかな顔をしている。
「 同じアパートに引っ越してきた玉山です。よろしくお願いします。」
「 こちらこそよろしくお願いします。.......滝村です。 」
お互い挨拶をして、二人並んで歩きだす。
「 どちら方面に行かれるんですか。 」
敦子は、( 知っていますか、同じビルですよ )とは言えず、ぼかしにぼかしていった。
「 ○○のほうです。 」
「 じゃあ、いっしょの路線ですね。僕もそうなんです。 」
「 ...........そうなんですね。 」
玉山は、敦子の歩幅に合わせて、歩いてくれている。
駅に着くと、電車がちょうどきて、これまた二人で、一緒の車両に乗ることになった。
「 どの駅で、降りられるんですか。 」
「 .......○○駅です。 」
「 同じですね。 」
横にいる玉山を見れば、にっこり微笑まれてしまった。
そばにいるほかの乗客も、玉山を見ている。というかガン見している人もいる。
玉山のほほえみを、目撃してしまった女の人が、なぜか鼻を抑えているのが、目の端にうつった。
玉山のオーラは、すさまじいものがあった。
女性の乗客だけでなく、男性の中にも、玉山を凝視しているものがいる。
きっと有名人ではないかと思っている人も、いるのかもしれない。
それくらい玉山という人には、破壊力があった。
敦子は、横に立ってるだけで恐れ多くて、もう逃げ出したい気持ちになっていた。
そんな敦子の気持ちなんて、つい知らず玉山は、敦子に話しかけてくる。
「 あのアパート、住み心地はどうですか。 」
「 .......大家さんも一階にいてくれますし、駅からも近いですし、気に入っています。 」
「 よかったです。実はあのアパート、僕の母の姉がやっていまして。ちょうど住むところを探していたときに、空いた部屋があると聞いて、引っ越してきたんです。 」
「 ......そうなんですね。 」
敦子は、玉山との会話を続けながら、わきの下に、ぐっしょりと汗をかいているのを感じた。
たぶん玉山のそばにいる乗客のほとんどが、この会話を聞いているのだろう。
なぜか車内からは、物音ひとつ聞こえない。
いつもならイヤホンでスマホを聞いているはずの人も、なぜか耳からイヤホンをはずしている。
( イヤホンはずれてますよ~。いいんですか? そうですか。 )
玉山は、いつもの日常のワンシーンだろうが、敦子にとっては、非日常といっていいぐらいのインパクトのある時間だ。
何の拷問だろうか、敦子にとっては、この時間が無限のように感じた。
「 滝村さんは、いつもこの時間の電車に乗るんですか。 」
「 .........ええ、そうです。 」
「 そうなんですね。僕も、毎日これくらいの時間に乗ると思うので、またよろしくお願いします。 」
シ___________ン
混んでいるにしては、静かな車内が、玉山の発言で一段と静まりかえった。
敦子は、つい苦笑いを浮かべそうになってしまい、ひどくまじめな顔を作っていったのだった。
「........こちらこそ、よろしくおねがいします。 」
敦子は、先ほどの玉山の言葉で思った。
( 明日から、この時間の電車混むな。電車の時間、もう少し早くしよう。 )
拷問とも思えた電車が、やっと駅について二人降りた。
「 滝村さんと、同じ駅なんて、本当に世間は狭いですね~。 」
何も知らない玉山は、さわやかな笑顔で、いった。
敦子は、会社まで一緒に行くと、周りに何を言われるかわからないと、頭を巡らせてた。
「 私、そこのコンビニで、買うものがありますので、じゃあまた。 」
玉山が、何か言おうとしたのを、無視して一気にいい、コンビニに走って入った。
コンビニの奥まできてから、後ろを振り返ると、玉山の姿はなかった。
( よかった!同じビルってわかったら、大変だったよ。精神衛生上、大変よろしくない。 )
敦子は、今日の朝だけで、一日働いたような気分になり、コンビニで、なぜか二つもお菓子を買ってしまった。
そして、会社の、更衣室に行くと、同期の大橋なみがいた。
彼女とは、同期入社で、歳も一緒である。
違いは、同じ会社に、彼氏がいることだ。
「 おはよう~。あっちゃん、ずいぶんお疲れの顔してない? 」
「 なみちゃ~ん、なんか疲れたよ。今日寝坊しちゃって。 」
さすがになみにも、今朝の『 エレベーターの貴公子 』こと玉山さんの事は、いいづらかった。
「 それで、元気の元、買ってきたんだ。 」
なみは、敦子が手に持っていた袋を見ていった。
「 二つあるから、あとでみんなで食べよう。 」
「 わ~い! 楽しみ。 」
そういって大橋なみは、先に更衣室を出て行った。
敦子は、なみと話して、やっと日常が戻ってきたと実感したのだった。
「 おぉぉ____、 おぉ_はようございますぅ。 」
敦子は、そういうなり脱皮のごとく、その場から逃げた。 はずだった........。
「 ずいぶん早く歩かれるんですね。 」
なぜか涼やかな声が、敦子のすぐ後ろから聞こえてきた。
( え~ 嘘、いるの? )
走ったはずなのに、なぜか後ろにいる人物には、早歩きとしか思われていなかったようだ。
( くぅ~~~。コンパスの違いか? 違いなのか。 )
この時ほど、敦子は、自分の足の短さを、恨んだことはなかった。
仕方なく後ろを振り向く。
すぐ後ろに、あの 『 エレベーターの貴公子 』 が、立っていた。
敦子は、走ったせいで、顔に汗がいっぱい出ているのに、彼は、涼やかな顔をしている。
「 同じアパートに引っ越してきた玉山です。よろしくお願いします。」
「 こちらこそよろしくお願いします。.......滝村です。 」
お互い挨拶をして、二人並んで歩きだす。
「 どちら方面に行かれるんですか。 」
敦子は、( 知っていますか、同じビルですよ )とは言えず、ぼかしにぼかしていった。
「 ○○のほうです。 」
「 じゃあ、いっしょの路線ですね。僕もそうなんです。 」
「 ...........そうなんですね。 」
玉山は、敦子の歩幅に合わせて、歩いてくれている。
駅に着くと、電車がちょうどきて、これまた二人で、一緒の車両に乗ることになった。
「 どの駅で、降りられるんですか。 」
「 .......○○駅です。 」
「 同じですね。 」
横にいる玉山を見れば、にっこり微笑まれてしまった。
そばにいるほかの乗客も、玉山を見ている。というかガン見している人もいる。
玉山のほほえみを、目撃してしまった女の人が、なぜか鼻を抑えているのが、目の端にうつった。
玉山のオーラは、すさまじいものがあった。
女性の乗客だけでなく、男性の中にも、玉山を凝視しているものがいる。
きっと有名人ではないかと思っている人も、いるのかもしれない。
それくらい玉山という人には、破壊力があった。
敦子は、横に立ってるだけで恐れ多くて、もう逃げ出したい気持ちになっていた。
そんな敦子の気持ちなんて、つい知らず玉山は、敦子に話しかけてくる。
「 あのアパート、住み心地はどうですか。 」
「 .......大家さんも一階にいてくれますし、駅からも近いですし、気に入っています。 」
「 よかったです。実はあのアパート、僕の母の姉がやっていまして。ちょうど住むところを探していたときに、空いた部屋があると聞いて、引っ越してきたんです。 」
「 ......そうなんですね。 」
敦子は、玉山との会話を続けながら、わきの下に、ぐっしょりと汗をかいているのを感じた。
たぶん玉山のそばにいる乗客のほとんどが、この会話を聞いているのだろう。
なぜか車内からは、物音ひとつ聞こえない。
いつもならイヤホンでスマホを聞いているはずの人も、なぜか耳からイヤホンをはずしている。
( イヤホンはずれてますよ~。いいんですか? そうですか。 )
玉山は、いつもの日常のワンシーンだろうが、敦子にとっては、非日常といっていいぐらいのインパクトのある時間だ。
何の拷問だろうか、敦子にとっては、この時間が無限のように感じた。
「 滝村さんは、いつもこの時間の電車に乗るんですか。 」
「 .........ええ、そうです。 」
「 そうなんですね。僕も、毎日これくらいの時間に乗ると思うので、またよろしくお願いします。 」
シ___________ン
混んでいるにしては、静かな車内が、玉山の発言で一段と静まりかえった。
敦子は、つい苦笑いを浮かべそうになってしまい、ひどくまじめな顔を作っていったのだった。
「........こちらこそ、よろしくおねがいします。 」
敦子は、先ほどの玉山の言葉で思った。
( 明日から、この時間の電車混むな。電車の時間、もう少し早くしよう。 )
拷問とも思えた電車が、やっと駅について二人降りた。
「 滝村さんと、同じ駅なんて、本当に世間は狭いですね~。 」
何も知らない玉山は、さわやかな笑顔で、いった。
敦子は、会社まで一緒に行くと、周りに何を言われるかわからないと、頭を巡らせてた。
「 私、そこのコンビニで、買うものがありますので、じゃあまた。 」
玉山が、何か言おうとしたのを、無視して一気にいい、コンビニに走って入った。
コンビニの奥まできてから、後ろを振り返ると、玉山の姿はなかった。
( よかった!同じビルってわかったら、大変だったよ。精神衛生上、大変よろしくない。 )
敦子は、今日の朝だけで、一日働いたような気分になり、コンビニで、なぜか二つもお菓子を買ってしまった。
そして、会社の、更衣室に行くと、同期の大橋なみがいた。
彼女とは、同期入社で、歳も一緒である。
違いは、同じ会社に、彼氏がいることだ。
「 おはよう~。あっちゃん、ずいぶんお疲れの顔してない? 」
「 なみちゃ~ん、なんか疲れたよ。今日寝坊しちゃって。 」
さすがになみにも、今朝の『 エレベーターの貴公子 』こと玉山さんの事は、いいづらかった。
「 それで、元気の元、買ってきたんだ。 」
なみは、敦子が手に持っていた袋を見ていった。
「 二つあるから、あとでみんなで食べよう。 」
「 わ~い! 楽しみ。 」
そういって大橋なみは、先に更衣室を出て行った。
敦子は、なみと話して、やっと日常が戻ってきたと実感したのだった。
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