大切なあのひとを失ったこと絶対許しません

にいるず

文字の大きさ
上 下
90 / 91

銅像の前で...

しおりを挟む
 拍手が鳴りやんだ後、王妃がキャスリンに話しかけてきた。
 
 「そのドレスよく似合ってるわ」

 王妃がキャスリンの着ているドレスを見ていった。

 「スティーブ、お前の衣装もよく似合っているぞ」

 王も息子であるスティーブの衣装を見て目を細めた。

 「ありがとうございます」

 キャスリンがスティーブのほうを見ると、スティーブがキャスリンにうなづいてから代表して王と王妃にお礼を言った。
 王は満足そうな顔をした。広間にいる貴族たちも皆温かい目でキャスリン達を見ている。



 「今回皆にここにきてもらったのは、庭園に造った銅像を見てもらいたいからだ」

 そういうと、王は王妃の手を取りひな壇から降りてキャスリンとスティーブの前を通り歩いていく。広間からはそのまま庭に出ることができるようになっている。スティーブに促され、キャスリンも王と王妃の後ろを歩いていく。キャスリンが歩いていくと、見覚えのある景色が目に飛び込んできた。
 
 「ねえスティーブ、この景色あの時のままだわ」

 キャスリンがつい声を上げてしまった。横を歩いているスティーブは、キャスリンの声を聞いてキャスリンのほうを向いた。

 「そうだね、あの頃のままだ」

 王と王妃が歩いている方を見ると、噴水広場があった。あの噴水も見たことがあるとキャスリンは思った。王と王妃が噴水のそばで立ち止まった。そのそばには銅像が建っている。まだ幕がかけられているが、少し大きく感じた。 

 「今回の銅像は大きいのね」

 キャスリンがそう感想を漏らすと、スティーブの顔が少し赤くなった。あれっと思った時、王が銅像の前に立ち周りを見渡した。キャスリンもそちらを見ると、キャスリン達の後ろには広間にいた貴族たちもいつの間にか後ろに控えていた。
 王のそばにいた側近が、広間にいた者たち皆がこちらに集まっているのを確認して、王に耳打ちした。
 
 王がそれを聞いて声を上げた。

 「今日は、ここに建っている銅像を披露したいと思う。ここにある銅像は、今建っているものとは違い、我が皇国の発展に尽くした王子と天使の伝説をもとにして作ったものである。
 今日はナクビル国からキャスリン嬢をお迎えしている。ここにいるものの中にも聞いたものもいるかと思うが、彼女はナクビル国で奇跡を起こした。彼女こそ天使の再来といわれている。今日キャスリン嬢を迎えられたことに感謝し、わが国のますますの発展を祈念する」

 王はそういって、銅像の幕を引いた。現れたのは、キャスリンそっくりの像とスティーブそっくりの像が寄り添って天を仰いでいるものだった。もちろん体形も今のキャスリン達の姿で筋肉がふんだんに盛られているということはなかった。

 「「「「「わあ~!」」」」」

 自然に歓声が響き渡り拍手がおこった。その時だ。

 突然銅像がまばゆいばかりに光り輝き、アシュイラ皇国の国花となっているアシュイラの花が空から降り注いできた。あまりの事にその場にいた皆が唖然とする中、キャスリンの頭の中で声がした。そしてつけている腕輪がいきなり光り始めた。

 
 と同時にキャスリンがいた景色ががらっと変わった。突然真っ白な空間にキャスリンは立っていた。

 すぐ目の前に一人の女性が立っている。黒髪に黒いまなざし。その女性が言葉を発した。

 「今までありがとう。私、ある時アシュイラ皇国の悲劇を視てしまったの。いろいろやってみたけれど、未来は変えられなかったわ。
 でもある日私自身におこる不思議なことを視たの。よくわからなかったけれど、とにかく未来を変えたくて不思議なことが起こった時まで戻ることにしたの。それは自分がここに来たばかりの過去だったわ。ただどうしてかわからないけど、今までの記憶がすべてなくなってしまったの。けれど自分の頭の中に誰かがいるのがわかったわ。最初その誰かと話をしたかったけれど、話ができなかったわよね。どうしてあなたが私に入ったのかわからないけれど、今思うと神様がきっと私たちを助けようとしてくれたのね」

 そういってその女性は笑った。

 「あとね、あなたが私の過去や私の人生を見たように私もあなたの過去を視ることができたの。そしてあなたが、私を助けようとしたり、私が悲しい時に歌を歌ってくれたりと慰めようとしてくれたことも知ってる。だから私もあなたを助けたいと思ったの」

 キャスリンは、その女性の話を聞いてすべての謎が解けた気がした。

 「あなたを助けようとしたことで、結果的にアシュイラ皇国も助かることになったの。本当にありがとう。あなたにはいろいろ苦しい思いをさせてしまってごめんなさい。でもこれからは今までの分、幸せになってね。ずっと見守っているわ」

 そう女性がいったときその女性の横にもう一人男性が現れた。その男性はキャスリンを見てほほえんでくれ、女性と二人手を振ってくれた。
 と同時に今までいた真っ白い世界から、また銅像の前に戻っている自分がいた。

 「どうしたの?」

 急にあたりをきょろきょろしだしたキャスリンを見て、横にいたスティーブはびっくりしたようだった。

 「今彼女に会ったの」

 キャスリンのもとにひらひらとアシュイラの花が降ってきた。キャスリンはその花を掌で受け止めた。その花はキャスリンの掌できらきらと輝いていたのだった。


 
 



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

私を売女と呼んだあなたの元に戻るはずありませんよね?

ミィタソ
恋愛
アインナーズ伯爵家のレイナは、幼い頃からリリアナ・バイスター伯爵令嬢に陰湿ないじめを受けていた。 レイナには、親同士が決めた婚約者――アインス・ガルタード侯爵家がいる。 アインスは、その艶やかな黒髪と怪しい色気を放つ紫色の瞳から、令嬢の間では惑わしのアインス様と呼ばれるほど人気があった。 ある日、パーティに参加したレイナが一人になると、子爵家や男爵家の令嬢を引き連れたリリアナが現れ、レイナを貶めるような酷い言葉をいくつも投げかける。 そして、事故に見せかけるようにドレスの裾を踏みつけられたレイナは、転んでしまう。 上まで避けたスカートからは、美しい肌が見える。 「売女め、婚約は破棄させてもらう!」

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

悪女と呼ばれた死に戻り令嬢、二度目の人生は婚約破棄から始まる

冬野月子
恋愛
「私は確かに19歳で死んだの」 謎の声に導かれ馬車の事故から兄弟を守った10歳のヴェロニカは、その時に負った傷痕を理由に王太子から婚約破棄される。 けれど彼女には嫉妬から破滅し短い生涯を終えた前世の記憶があった。 なぜか死に戻ったヴェロニカは前世での過ちを繰り返さないことを望むが、婚約破棄したはずの王太子が積極的に親しくなろうとしてくる。 そして学校で再会した、馬車の事故で助けた少年は、前世で不幸な死に方をした青年だった。 恋や友情すら知らなかったヴェロニカが、前世では関わることのなかった人々との出会いや関わりの中で新たな道を進んでいく中、前世に嫉妬で殺そうとまでしたアリサが入学してきた。

運命の歯車が壊れるとき

和泉鷹央
恋愛
 戦争に行くから、君とは結婚できない。  恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。    他の投稿サイトでも掲載しております。

婚約破棄を求められました。私は嬉しいですが、貴方はそれでいいのですね?

ゆるり
恋愛
アリシエラは聖女であり、婚約者と結婚して王太子妃になる筈だった。しかし、ある少女の登場により、未来が狂いだす。婚約破棄を求める彼にアリシエラは答えた。「はい、喜んで」と。

婚約破棄で見限られたもの

志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。 すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥ よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。

処理中です...