89 / 91
あの時のドレス
しおりを挟む
馬車は滑らかに進んでいく。急に道がずいぶん広くなった。建物は無くなり、両側が大きな石壁に囲まれている通りに入っていた。通りの先に大きな建物が見えてきた。以前見た王宮とは違うまさしく宮殿といってもいいぐらいに荘厳できらびやかな建物だ。
馬車は宮殿の奥まで入っていく。あるところで馬車が止まった。隣に乗っていたニーナが、先ほどまでとは違うきりりとした近衛兵の顔になり先に降りた。スティーブも降りて、キャスリンに手を差し出して降りてくるのを手伝ってくれた。キャスリンが降りると、いつの間にかちょっと離れたところに近衛兵やら大臣が並んでいるのが見えた。
スティーブの横に立つと、待っていた者たちからどよめきが起こった。どうやら、ナクビル国で起こったことが知れ渡っているらしい。おそらくあの場にいたアシュイラ皇国の使者が報告したのだろう。
キャスリンは旅の軽装なドレスだったので、少し気恥ずかしかったが、待っている人たちに目いっぱい胸を張ってお辞儀をした。
「ようこそ、アシュイラ皇国へ。歓迎いたします」
スティーブがキャスリンの手を取って、片膝をつき胸に手を合わせ騎士風の挨拶をした。スティーブの挨拶に周りにいた者たちが皆腰を折ってキャスリンに頭を下げた。
そしてキャスリンは、案内されて王宮の正門をくぐった。今までも銅像の落成式に招待されて王宮に来たことがあるが、この正面の門をくぐったことはなかった。この門は最上級のおもてなしの時だけに使われる特別な門なのだ。
キャスリンは感慨深げにあたりをそっと見回しながら歩いていく。今回は王宮にある貴賓室に案内された。ここで身なりを整えてから王との謁見になるらしい。
キャスリンが部屋に入るとすぐにお茶を持ってきてくれた。まずくつろいでからという気づかいなのだろう。ゆっくりとお茶を飲んでいると、ドアをノックする音がした。ドアを開ける音がして、いつもついてくれている侍女が大きな箱を持ってきた。
「ドレスが入っているそうです。用意してくださっていたんですね」
「そうね」
キャスリンがその大きな箱を開けると、目に飛び込んできた色があった。
「こっ、これって!」
「どうかされたんですか。まあ~素敵なドレスですね」
侍女がキャスリンが驚いているのを見て、すぐに箱を確認した。キャスリンはその黄色いドレスに見覚えがある。どう見ても前の人生でスティーブと王宮の庭で食事をした時に着たものに似ている。ドレスを手に取ってみたが、新品のようにきれいだった。しかしこの繊細なレースを見ると、どう見てもあの時に着たものにしか見えない。
「あっ、それとこの箱が届いておりました。きっとこのドレスにあうアクセサリーですね」
侍女が差し出した箱は、アクセサリーが入るぐらいの小さな箱だった。キャスリンは震える手で箱を開けた。
「まあ!これは!」
小さな箱に入っていたのは、前の人生でキャスリンがずっとつけていたあの腕輪だった。どうしてここにあるのだろう。
「ドレスとよく似合いそうですね。この腕輪も素敵ですね」
キャスリンはぼーとしたまま侍女に手伝ってもらいながら、ドレスを着て腕輪を付けた。侍女が髪をセットしてくれ小さな黄色い花をつけてくれた。
「この花は?」
キャスリンが鏡で小さな黄色い花を見ると、侍女が訳知り顔で言った。
「このお花は、スティーブ王子から髪飾りとして使ってほしいとのことでした。係りの方がそういって持ってきてくれました」
侍女は自分の仕事に満足したのか、満面の笑みでキャスリンに手鏡を差し出してきた。
「このお花もドレスによくお似合いですね」
キャスリンが髪にアシュイラの花をつけた自分の姿を見ていると、係りの人が来たようだった。
案内されて歩いていった先は大きな広間だった。近衛兵がふたりドアの前に控えている。近衛兵がドアを開けると、ドアのすぐそばに立って待っていたスティーブがキャスリンの手を取った。スティーブのその姿にキャスリンは、またまたびっくりしてつい声を出してしまった。
「まあ、その姿!」
「キャスリン様、そのドレスとてもお似合いです」
スティーブはそういった。スティーブも前の人生の時に王から借りたといっていたあの衣装を着ていた。キャスリンが着ているドレスと明らかに対になっている。キャスリンとスティーブが前に進むごとに、広間にいたアシュイラ皇国の貴族たちからため息が漏れている。
「まあなんて素敵なの?」
「本当にお似合いですこと!」
キャスリンは、スティーブに手を引かれて王と王妃の前に立った。
「本日はお招きありがとうございます。キャスリンでございます」
キャスリンがお辞儀をすると、王が答えた。
「よく来てくれた」
「まあ、よく似合っているわ。本当に!」
キャスリンが顔を上げると、一段高いところに座っている王と王妃は、前の人生で見た王と王妃にどことなく似ていた。
「そのドレスの事、話したのか?スティーブ!」
「いえ、驚かそうと思いまして。何も話しておりません」
「駄目じゃない、ちゃんと話さなくては」
キャスリンを置いて王と王妃そしてスティーブが勝手に話をしている。キャスリンが何?と首をかしげてスティーブのほうを見ると、スティーブが教えてくれた。
「僕が記憶を取り戻してすぐ、突然王宮の庭園に箱が現れたんだよ。その箱の中にキャスリン君が着ていたドレスや僕の衣装、それに腕輪が入っていたんだ」
「そうだったの」
キャスリンがうなずくと、今までの話を黙って聞いていた貴族たちが皆、キャスリンとスティーブが着ている衣裳を目を凝らして見ている。中には前のめりになって見ている者もいた。
「今キャスリン嬢やわが息子スティーブが、つけている腕輪は初代王と王妃が付けていたものだ。これはまさに奇跡といえる。今日皆に披露する銅像を置く場所は、先ほど言った箱が現れたところである。この場所こそ奇跡が起こった場所であることからも銅像を置くにふさわしいものと思っている」
王がそういうと、広間全体に拍手が起こったのだった。
馬車は宮殿の奥まで入っていく。あるところで馬車が止まった。隣に乗っていたニーナが、先ほどまでとは違うきりりとした近衛兵の顔になり先に降りた。スティーブも降りて、キャスリンに手を差し出して降りてくるのを手伝ってくれた。キャスリンが降りると、いつの間にかちょっと離れたところに近衛兵やら大臣が並んでいるのが見えた。
スティーブの横に立つと、待っていた者たちからどよめきが起こった。どうやら、ナクビル国で起こったことが知れ渡っているらしい。おそらくあの場にいたアシュイラ皇国の使者が報告したのだろう。
キャスリンは旅の軽装なドレスだったので、少し気恥ずかしかったが、待っている人たちに目いっぱい胸を張ってお辞儀をした。
「ようこそ、アシュイラ皇国へ。歓迎いたします」
スティーブがキャスリンの手を取って、片膝をつき胸に手を合わせ騎士風の挨拶をした。スティーブの挨拶に周りにいた者たちが皆腰を折ってキャスリンに頭を下げた。
そしてキャスリンは、案内されて王宮の正門をくぐった。今までも銅像の落成式に招待されて王宮に来たことがあるが、この正面の門をくぐったことはなかった。この門は最上級のおもてなしの時だけに使われる特別な門なのだ。
キャスリンは感慨深げにあたりをそっと見回しながら歩いていく。今回は王宮にある貴賓室に案内された。ここで身なりを整えてから王との謁見になるらしい。
キャスリンが部屋に入るとすぐにお茶を持ってきてくれた。まずくつろいでからという気づかいなのだろう。ゆっくりとお茶を飲んでいると、ドアをノックする音がした。ドアを開ける音がして、いつもついてくれている侍女が大きな箱を持ってきた。
「ドレスが入っているそうです。用意してくださっていたんですね」
「そうね」
キャスリンがその大きな箱を開けると、目に飛び込んできた色があった。
「こっ、これって!」
「どうかされたんですか。まあ~素敵なドレスですね」
侍女がキャスリンが驚いているのを見て、すぐに箱を確認した。キャスリンはその黄色いドレスに見覚えがある。どう見ても前の人生でスティーブと王宮の庭で食事をした時に着たものに似ている。ドレスを手に取ってみたが、新品のようにきれいだった。しかしこの繊細なレースを見ると、どう見てもあの時に着たものにしか見えない。
「あっ、それとこの箱が届いておりました。きっとこのドレスにあうアクセサリーですね」
侍女が差し出した箱は、アクセサリーが入るぐらいの小さな箱だった。キャスリンは震える手で箱を開けた。
「まあ!これは!」
小さな箱に入っていたのは、前の人生でキャスリンがずっとつけていたあの腕輪だった。どうしてここにあるのだろう。
「ドレスとよく似合いそうですね。この腕輪も素敵ですね」
キャスリンはぼーとしたまま侍女に手伝ってもらいながら、ドレスを着て腕輪を付けた。侍女が髪をセットしてくれ小さな黄色い花をつけてくれた。
「この花は?」
キャスリンが鏡で小さな黄色い花を見ると、侍女が訳知り顔で言った。
「このお花は、スティーブ王子から髪飾りとして使ってほしいとのことでした。係りの方がそういって持ってきてくれました」
侍女は自分の仕事に満足したのか、満面の笑みでキャスリンに手鏡を差し出してきた。
「このお花もドレスによくお似合いですね」
キャスリンが髪にアシュイラの花をつけた自分の姿を見ていると、係りの人が来たようだった。
案内されて歩いていった先は大きな広間だった。近衛兵がふたりドアの前に控えている。近衛兵がドアを開けると、ドアのすぐそばに立って待っていたスティーブがキャスリンの手を取った。スティーブのその姿にキャスリンは、またまたびっくりしてつい声を出してしまった。
「まあ、その姿!」
「キャスリン様、そのドレスとてもお似合いです」
スティーブはそういった。スティーブも前の人生の時に王から借りたといっていたあの衣装を着ていた。キャスリンが着ているドレスと明らかに対になっている。キャスリンとスティーブが前に進むごとに、広間にいたアシュイラ皇国の貴族たちからため息が漏れている。
「まあなんて素敵なの?」
「本当にお似合いですこと!」
キャスリンは、スティーブに手を引かれて王と王妃の前に立った。
「本日はお招きありがとうございます。キャスリンでございます」
キャスリンがお辞儀をすると、王が答えた。
「よく来てくれた」
「まあ、よく似合っているわ。本当に!」
キャスリンが顔を上げると、一段高いところに座っている王と王妃は、前の人生で見た王と王妃にどことなく似ていた。
「そのドレスの事、話したのか?スティーブ!」
「いえ、驚かそうと思いまして。何も話しておりません」
「駄目じゃない、ちゃんと話さなくては」
キャスリンを置いて王と王妃そしてスティーブが勝手に話をしている。キャスリンが何?と首をかしげてスティーブのほうを見ると、スティーブが教えてくれた。
「僕が記憶を取り戻してすぐ、突然王宮の庭園に箱が現れたんだよ。その箱の中にキャスリン君が着ていたドレスや僕の衣装、それに腕輪が入っていたんだ」
「そうだったの」
キャスリンがうなずくと、今までの話を黙って聞いていた貴族たちが皆、キャスリンとスティーブが着ている衣裳を目を凝らして見ている。中には前のめりになって見ている者もいた。
「今キャスリン嬢やわが息子スティーブが、つけている腕輪は初代王と王妃が付けていたものだ。これはまさに奇跡といえる。今日皆に披露する銅像を置く場所は、先ほど言った箱が現れたところである。この場所こそ奇跡が起こった場所であることからも銅像を置くにふさわしいものと思っている」
王がそういうと、広間全体に拍手が起こったのだった。
3
お気に入りに追加
2,299
あなたにおすすめの小説
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います
菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。
その隣には見知らぬ女性が立っていた。
二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。
両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。
メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。
数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。
彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。
※ハッピーエンド&純愛
他サイトでも掲載しております。
【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。
やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。
落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。
毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。
様子がおかしい青年に気づく。
ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。
ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
最終話まで予約投稿済です。
次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。
ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。
楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。
私達、政略結婚ですから。
黎
恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。
それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。
うたた寝している間に運命が変わりました。
gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。
成人したのであなたから卒業させていただきます。
ぽんぽこ狸
恋愛
フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。
すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。
メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。
しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。
それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。
そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。
変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる