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いよいよ王都へ
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翌日はいつものようにキャスリンとスティーブ、そしてニーナが馬車に乗り込み王都へ出発した。王都へは道が整備されており、今日の夕方にはつくらしい。
「昨日は楽しめましたか?」
ニーナがにやにやしながらキャスリンに聞いてきた。キャスリンがちょっとびっくりした顔をしたのを見たニーナは、ちらっとスティーブを見た。
「私たち護衛でいましたので」
「そうなの?」
キャスリンは、ニーナたちが護衛していたなんて全く知らなかった。考えてみれば王子であるスティーブに護衛がつかないわけがない。しかし今世でのキャスリンの護衛たちは、彼女のすぐ後ろに控えていたし、前の人生ではスティーブが護衛だったせいで全く失念していた。そこではっと気が付いた。花火を見ていた時も見られていたに違いない。急に恥ずかしくなり、前の席でしれっとしているスティーブのほうをきっとにらみつけてやった。しかしスティーブには少しも堪えていないらしく、平気そうな顔をしてキャスリンに笑いかけてきた。
「ニーナ君も早く婚約者と出かけられるといいな」
「私はキャスリン様の護衛を終えるまで、メルビスには会いません」
ニーナが胸を張って言い切ったので、キャスリンは慌ててしまった。
「ニーナさん、護衛は王都まででいいから、あとはぜひメルビスに会ってあげて」
今のままでは、キャスリンの帰りの護衛までやりかねない。あとでメルビスから延々と恨み言を言われるのは嫌だ。必死にニーナを説得すると、ニーナはしぶしぶ了承してくれた。そのやり取りをスティーブはただにやにやしながら見ていただけだったので、キャスリンは目の前のスティーブのむこうずねを思いっきり蹴ってやった。
「痛あぁ!」
「キャスリン様、その足遣い素晴らしいです」
ニーナに自国の王子を蹴ったので、注意されるかと思いきや、ニーナはキャスリンの足さばきになぜか感動していた。ニーナは今日は筋肉の話ではなくて、敵に立ち向かう時の足さばきの仕方をキャスリンにとうとうと語ってくれた。スティーブは、そんなキャスリン達の話にはじめこそいやそうな顔をしていたものの、またいつものように居眠りをしていたのだった。
「ねえニーナさん、スティーブはよく寝るのね」
「あっ、それはキャスリン様の護衛を自らしているからですよ」
「えっ、どういうこと?」
「自分がしたいからっておしゃって、夜はよくキャスリン様のお部屋の前を警備しています」
キャスリンはニーナが足さばきについて語っているのを中断させて何気なく聞いてみたものの、まさかの答えにびっくりした。スティーブは馬車に乗ると、よく居眠りをする。最初こそニーナの話がつまらなくて居眠りをしているのかと思っていた。しかしいつもいつもあまりにぐっすりと寝ているので、気になったのだ。
ニーナがあまりにさらっというので、王子なのにいいのかと思っってしまった自分はおかしくないと思う。そんな複雑そうな顔をしたキャスリンを見たニーナが言った。
「スティーブ王子が思うのは当然です。自分の大切なものは自分で守りたいものです。私ももしメルビスがここにいたら、メルビスを守ってあげたいと思いますから」
キャスリンは、ニーナが少しはにかんだ顔で言ったのを見て、ニーナの発言をメルビスが聞いてなくてよかったと思った。
「ねえニーナさん、それはメルビスには言わないでね。きっとメルビスはニーナさんを守ってあげたいと思っていると思うから」
「そうなんですか?強いほうが守ればいいと思うんですけど...」
キャスリンの言葉に少し納得がいかない様子のニーナだった。キャスリンは、ニーナの話をメルビスが聞いてなくて心の底からよかったと思った。ニーナはメルビスを『大事な人』と持ち上げておきながら、自分の方が強いとさらりと言っている。メルビスがこれを聞いていたら、きっとへこむだろう。いや、あのメルビスの事だ。きっともっともっと筋肉をつけなくてはと鍛錬を今以上に頑張るかもしれない。
あまりにキャスリンがかけた魔法が効きすぎているのを知って、この国の人たちに申し訳なくなったのだった。
馬車は快調に進んでいき、とうとう王都に入った。王都の街並みは、キャスリンが今まで見た中で一番大きかった。碁盤の目のようにきれいに舗装された道が並んでいる。その道の両側には建物がびっしりと建てられていて、通りを歩いている人たちも多い。
「どうだい?すごいだろう!」
キャスリンは、急に声が聞こえてびっくりしてそちらを見た。
いつの間にかスティーブが起きていて、キャスリンが馬車の窓から食い入るように眺めているのを黙って見ていたようだ。
キャスリンが見る限り、以前見た王都よりはるかに規模が大きくなって繁栄している。
「キャスリン君のおかげだよ」
そういってスティーブは、ちょうど馬車から見えるある銅像を指さした。
そこには昔建てられたものだろうが、最近改修されたと思われるキャスリンにそっくりな顔に、体に羽のついた銅像が建っていた。ただしその銅像は腕にも足にも見事に筋肉がついていたのだった。
「昨日は楽しめましたか?」
ニーナがにやにやしながらキャスリンに聞いてきた。キャスリンがちょっとびっくりした顔をしたのを見たニーナは、ちらっとスティーブを見た。
「私たち護衛でいましたので」
「そうなの?」
キャスリンは、ニーナたちが護衛していたなんて全く知らなかった。考えてみれば王子であるスティーブに護衛がつかないわけがない。しかし今世でのキャスリンの護衛たちは、彼女のすぐ後ろに控えていたし、前の人生ではスティーブが護衛だったせいで全く失念していた。そこではっと気が付いた。花火を見ていた時も見られていたに違いない。急に恥ずかしくなり、前の席でしれっとしているスティーブのほうをきっとにらみつけてやった。しかしスティーブには少しも堪えていないらしく、平気そうな顔をしてキャスリンに笑いかけてきた。
「ニーナ君も早く婚約者と出かけられるといいな」
「私はキャスリン様の護衛を終えるまで、メルビスには会いません」
ニーナが胸を張って言い切ったので、キャスリンは慌ててしまった。
「ニーナさん、護衛は王都まででいいから、あとはぜひメルビスに会ってあげて」
今のままでは、キャスリンの帰りの護衛までやりかねない。あとでメルビスから延々と恨み言を言われるのは嫌だ。必死にニーナを説得すると、ニーナはしぶしぶ了承してくれた。そのやり取りをスティーブはただにやにやしながら見ていただけだったので、キャスリンは目の前のスティーブのむこうずねを思いっきり蹴ってやった。
「痛あぁ!」
「キャスリン様、その足遣い素晴らしいです」
ニーナに自国の王子を蹴ったので、注意されるかと思いきや、ニーナはキャスリンの足さばきになぜか感動していた。ニーナは今日は筋肉の話ではなくて、敵に立ち向かう時の足さばきの仕方をキャスリンにとうとうと語ってくれた。スティーブは、そんなキャスリン達の話にはじめこそいやそうな顔をしていたものの、またいつものように居眠りをしていたのだった。
「ねえニーナさん、スティーブはよく寝るのね」
「あっ、それはキャスリン様の護衛を自らしているからですよ」
「えっ、どういうこと?」
「自分がしたいからっておしゃって、夜はよくキャスリン様のお部屋の前を警備しています」
キャスリンはニーナが足さばきについて語っているのを中断させて何気なく聞いてみたものの、まさかの答えにびっくりした。スティーブは馬車に乗ると、よく居眠りをする。最初こそニーナの話がつまらなくて居眠りをしているのかと思っていた。しかしいつもいつもあまりにぐっすりと寝ているので、気になったのだ。
ニーナがあまりにさらっというので、王子なのにいいのかと思っってしまった自分はおかしくないと思う。そんな複雑そうな顔をしたキャスリンを見たニーナが言った。
「スティーブ王子が思うのは当然です。自分の大切なものは自分で守りたいものです。私ももしメルビスがここにいたら、メルビスを守ってあげたいと思いますから」
キャスリンは、ニーナが少しはにかんだ顔で言ったのを見て、ニーナの発言をメルビスが聞いてなくてよかったと思った。
「ねえニーナさん、それはメルビスには言わないでね。きっとメルビスはニーナさんを守ってあげたいと思っていると思うから」
「そうなんですか?強いほうが守ればいいと思うんですけど...」
キャスリンの言葉に少し納得がいかない様子のニーナだった。キャスリンは、ニーナの話をメルビスが聞いてなくて心の底からよかったと思った。ニーナはメルビスを『大事な人』と持ち上げておきながら、自分の方が強いとさらりと言っている。メルビスがこれを聞いていたら、きっとへこむだろう。いや、あのメルビスの事だ。きっともっともっと筋肉をつけなくてはと鍛錬を今以上に頑張るかもしれない。
あまりにキャスリンがかけた魔法が効きすぎているのを知って、この国の人たちに申し訳なくなったのだった。
馬車は快調に進んでいき、とうとう王都に入った。王都の街並みは、キャスリンが今まで見た中で一番大きかった。碁盤の目のようにきれいに舗装された道が並んでいる。その道の両側には建物がびっしりと建てられていて、通りを歩いている人たちも多い。
「どうだい?すごいだろう!」
キャスリンは、急に声が聞こえてびっくりしてそちらを見た。
いつの間にかスティーブが起きていて、キャスリンが馬車の窓から食い入るように眺めているのを黙って見ていたようだ。
キャスリンが見る限り、以前見た王都よりはるかに規模が大きくなって繁栄している。
「キャスリン君のおかげだよ」
そういってスティーブは、ちょうど馬車から見えるある銅像を指さした。
そこには昔建てられたものだろうが、最近改修されたと思われるキャスリンにそっくりな顔に、体に羽のついた銅像が建っていた。ただしその銅像は腕にも足にも見事に筋肉がついていたのだった。
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