大切なあのひとを失ったこと絶対許しません

にいるず

文字の大きさ
上 下
88 / 91

いよいよ王都へ

しおりを挟む
 翌日はいつものようにキャスリンとスティーブ、そしてニーナが馬車に乗り込み王都へ出発した。王都へは道が整備されており、今日の夕方にはつくらしい。

 「昨日は楽しめましたか?」
 
 ニーナがにやにやしながらキャスリンに聞いてきた。キャスリンがちょっとびっくりした顔をしたのを見たニーナは、ちらっとスティーブを見た。

 「私たち護衛でいましたので」

 「そうなの?」

 キャスリンは、ニーナたちが護衛していたなんて全く知らなかった。考えてみれば王子であるスティーブに護衛がつかないわけがない。しかし今世でのキャスリンの護衛たちは、彼女のすぐ後ろに控えていたし、前の人生ではスティーブが護衛だったせいで全く失念していた。そこではっと気が付いた。花火を見ていた時も見られていたに違いない。急に恥ずかしくなり、前の席でしれっとしているスティーブのほうをきっとにらみつけてやった。しかしスティーブには少しも堪えていないらしく、平気そうな顔をしてキャスリンに笑いかけてきた。

 「ニーナ君も早く婚約者と出かけられるといいな」

 「私はキャスリン様の護衛を終えるまで、メルビスには会いません」

 ニーナが胸を張って言い切ったので、キャスリンは慌ててしまった。

 「ニーナさん、護衛は王都まででいいから、あとはぜひメルビスに会ってあげて」

 今のままでは、キャスリンの帰りの護衛までやりかねない。あとでメルビスから延々と恨み言を言われるのは嫌だ。必死にニーナを説得すると、ニーナはしぶしぶ了承してくれた。そのやり取りをスティーブはただにやにやしながら見ていただけだったので、キャスリンは目の前のスティーブのむこうずねを思いっきり蹴ってやった。

 「痛あぁ!」

 「キャスリン様、その足遣い素晴らしいです」

 ニーナに自国の王子を蹴ったので、注意されるかと思いきや、ニーナはキャスリンの足さばきになぜか感動していた。ニーナは今日は筋肉の話ではなくて、敵に立ち向かう時の足さばきの仕方をキャスリンにとうとうと語ってくれた。スティーブは、そんなキャスリン達の話にはじめこそいやそうな顔をしていたものの、またいつものように居眠りをしていたのだった。

 「ねえニーナさん、スティーブはよく寝るのね」

 「あっ、それはキャスリン様の護衛を自らしているからですよ」

 「えっ、どういうこと?」

 「自分がしたいからっておしゃって、夜はよくキャスリン様のお部屋の前を警備しています」

 キャスリンはニーナが足さばきについて語っているのを中断させて何気なく聞いてみたものの、まさかの答えにびっくりした。スティーブは馬車に乗ると、よく居眠りをする。最初こそニーナの話がつまらなくて居眠りをしているのかと思っていた。しかしいつもいつもあまりにぐっすりと寝ているので、気になったのだ。
 ニーナがあまりにさらっというので、王子なのにいいのかと思っってしまった自分はおかしくないと思う。そんな複雑そうな顔をしたキャスリンを見たニーナが言った。

 「スティーブ王子が思うのは当然です。自分の大切なものは自分で守りたいものです。私ももしメルビスがここにいたら、メルビスを守ってあげたいと思いますから」

 キャスリンは、ニーナが少しはにかんだ顔で言ったのを見て、ニーナの発言をメルビスが聞いてなくてよかったと思った。

 「ねえニーナさん、それはメルビスには言わないでね。きっとメルビスはニーナさんを守ってあげたいと思っていると思うから」

 「そうなんですか?強いほうが守ればいいと思うんですけど...」

 キャスリンの言葉に少し納得がいかない様子のニーナだった。キャスリンは、ニーナの話をメルビスが聞いてなくて心の底からよかったと思った。ニーナはメルビスを『大事な人』と持ち上げておきながら、自分の方が強いとさらりと言っている。メルビスがこれを聞いていたら、きっとへこむだろう。いや、あのメルビスの事だ。きっともっともっと筋肉をつけなくてはと鍛錬を今以上に頑張るかもしれない。
 
 あまりにキャスリンがかけた魔法が効きすぎているのを知って、この国の人たちに申し訳なくなったのだった。

 
 馬車は快調に進んでいき、とうとう王都に入った。王都の街並みは、キャスリンが今まで見た中で一番大きかった。碁盤の目のようにきれいに舗装された道が並んでいる。その道の両側には建物がびっしりと建てられていて、通りを歩いている人たちも多い。

 「どうだい?すごいだろう!」

 キャスリンは、急に声が聞こえてびっくりしてそちらを見た。
 いつの間にかスティーブが起きていて、キャスリンが馬車の窓から食い入るように眺めているのを黙って見ていたようだ。
 キャスリンが見る限り、以前見た王都よりはるかに規模が大きくなって繁栄している。

 「キャスリン君のおかげだよ」

 そういってスティーブは、ちょうど馬車から見えるある銅像を指さした。

 そこには昔建てられたものだろうが、最近改修されたと思われるキャスリンにそっくりな顔に、体に羽のついた銅像が建っていた。ただしその銅像は腕にも足にも見事に筋肉がついていたのだった。
 







  



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

婚約破棄で見限られたもの

志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。 すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥ よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。

婚約破棄を求められました。私は嬉しいですが、貴方はそれでいいのですね?

ゆるり
恋愛
アリシエラは聖女であり、婚約者と結婚して王太子妃になる筈だった。しかし、ある少女の登場により、未来が狂いだす。婚約破棄を求める彼にアリシエラは答えた。「はい、喜んで」と。

婚約破棄?結構ですわ。でも慰謝料は請求いたします

ゆる
恋愛
公爵令嬢アナスタシア・オルステッドは、第三王子アレンの婚約者だった。 しかし、アレンは没落貴族の令嬢カリーナと密かに関係を持っていたことが発覚し、彼女を愛していると宣言。アナスタシアとの婚約破棄を告げるが── 「わかりました。でも、それには及びません。すでに婚約は破棄されております」 なんとアナスタシアは、事前に国王へ婚約破棄を申し出ており、すでに了承されていたのだ。 さらに、慰謝料もしっかりと請求済み。 「どうぞご自由に、カリーナ様とご婚約なさってください。でも、慰謝料のお支払いはお忘れなく」 驚愕するアレンを後にし、悠々と去るアナスタシア。 ところが数カ月後、生活に困窮したアレンが、再び彼女のもとへ婚約のやり直しを申し出る。 「呆れたお方ですね。そんな都合のいい話、お受けするわけがないでしょう?」 かつての婚約者の末路に興味もなく、アナスタシアは公爵家の跡取りとして堂々と日々を過ごす。 しかし、王国には彼女を取り巻く新たな陰謀の影が忍び寄っていた。 暗躍する謎の勢力、消える手紙、そして不審な襲撃──。 そんな中、王国軍の若きエリート将校ガブリエルと出会い、アナスタシアは自らの運命に立ち向かう決意を固める。 「私はもう、誰かに振り回されるつもりはありません。この王国の未来も、私自身の未来も、私の手で切り拓きます」 婚約破棄を経て、さらに強く、賢くなった公爵令嬢の痛快ざまぁストーリー! 自らの誇りを貫き、王国を揺るがす陰謀を暴く彼女の華麗なる活躍をお楽しみください。

悪女と呼ばれた死に戻り令嬢、二度目の人生は婚約破棄から始まる

冬野月子
恋愛
「私は確かに19歳で死んだの」 謎の声に導かれ馬車の事故から兄弟を守った10歳のヴェロニカは、その時に負った傷痕を理由に王太子から婚約破棄される。 けれど彼女には嫉妬から破滅し短い生涯を終えた前世の記憶があった。 なぜか死に戻ったヴェロニカは前世での過ちを繰り返さないことを望むが、婚約破棄したはずの王太子が積極的に親しくなろうとしてくる。 そして学校で再会した、馬車の事故で助けた少年は、前世で不幸な死に方をした青年だった。 恋や友情すら知らなかったヴェロニカが、前世では関わることのなかった人々との出会いや関わりの中で新たな道を進んでいく中、前世に嫉妬で殺そうとまでしたアリサが入学してきた。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

噂の悪女が妻になりました

はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。 国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。 その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。

処理中です...