大切なあのひとを失ったこと絶対許しません

にいるず

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前世との違い

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 キャスリンはイソベラが入れてくれたお茶をイソベラも座らせて一緒に飲みながら確信したくて聞いた。今世の人生をすべて覚えているとはいえ、前の人生を思い出した今は、どうしても確認せずにはいられなかった。

 「ねえイソベラ、あなたのお父様は団長のトーマスだったわよね」

 キャスリンが恐る恐るイソベラに聞いてきたのを見て、イソベラはいぶかしげにキャスリンを見た。

 「お嬢様もしかしてさっき倒れたせいで、頭が痛かったりします?」

 「ううんなんともないわよ。あなたのお母様はアンだったわよね」

 キャスリンの問いに、イソベラは少し顔色を悪くして、急に席を立ち部屋を出ていこうとした。

 「待って、本当になんともないの。ちょっと記憶が混乱していて。いえいえ、なんともないわ。見てこの通り元気よ!」

 キャスリンの記憶という言葉に、余計顔を青くさせたイソベラの腕をつかんで席に戻した。

 「ほんとですか?」

 少しも信じていない様子でイソベラは聞いてきた。

 「ほんとよ、そういえば双子ちゃんは大きくなったのよね」

 双子という言葉に急に気を良くしたイソベラが、うれしそうな顔でキャスリンに言った。

 「ええ、もう10歳ですよ。この前お誕生日にお嬢様から頂いた騎士もどきの衣装を着て、毎日ふたりで木刀を振り回しています。母が怒っても父がすぐ許してしまうのでだめですね」

 そういいながらもこの様子ではイソベラも決して怒らないだろう。
 イソベラの父親は、公爵家騎士団の団長であるトーマスだ。確か前の人生では結婚していなかった。田舎に好きな女性がいたが、どこかに奉公に行ってしまったと聞いた気がする。それがイソベラの母アンだったのだろう。ちょうどキャスリンが生まれてすぐ、イソベラもトーマスとアンとの間に生まれた。そのためイソベラは、キャスリンの遊び相手としてよく公爵家に出入りしていたのだ。
 トーマスは前の人生では、騎士団でも有名になるほど鍛錬好きだった。トーマスに捕まったが最後、足が上がらなくなるほど訓練をさせられて、皆屍のようになっていたと聞いた気がする。今ではその面影はどこへやら、やっとできた男の子二人に甘々だ。

 「父親のようになりたいといったんですよ、息子たちは!もうかわいい子達でしょう!」

 キャスリンは、父スコットからトーマスが涙ながらに話していたと聞いていた。

 「もううるさくてかなわなかったよ。あいつがあんな親ばかになるとは思わなかった」

 あまりに息子自慢がうるさくて仕方がなかったと父スコットがぼやいていたので、相当な親バカなのだろう。
 目の前にいるイソベラが結婚すると決めた時にも、すぐにイソベラの結婚相手となる男のもとに突撃していったと、イソベラから聞いた時にはびっくりしたものだ。
 
 「一週間ぐらいどこかに監禁しておくか」

 父スコットが、真顔で言っていた。キャスリンはその話を父から聞いて、イソベラと結婚相手の人が仲良くなるきっかけを作っていたので、トーマスに闇討ちされないか少しだけ心配した覚えがある。
 
 ただ前の人生を思い出していなかったとはいえ、いい仕事をしたものだと自画自賛したい気分だ。なぜならイソベラの婚約者の彼は近衛兵で、イソベラとはキャスリンが王宮にいった時に知り合った。キャスリンはふたりがひと目で恋に落ちる姿を実際にこの目で見て、一目ぼれって本当にあるんだとびっくりしたものだ。しかしキャスリンは、イソベラには内緒で彼の事を調べ上げていた。やはり大事な人を託すには、しっかりした人でなくてはいけないからだ。調べてわかったことだが、彼の評判はとてもいいものだった。
 
 前の人生を思い出してわかったことだが、イソベラの婚約者はキャスリンにとって忘れがたい人だ。なぜなら前世の時、キャスリンをあのメルビス王子や取り巻きたちから守ってくれて、貴族用の牢屋に案内した近衛兵であった彼なのだ。
 あの時取り巻きの一人が、近衛兵である彼を見て『カザリ伯爵の次男』といっていた。記憶を思い出した今、大切なイソベラを誠実な人柄の彼に託せることがとてもうれしい。

 キャスリンが今度はひとりにやにやしているのを見たイソベラは、心の中で思った。やっぱり旦那様にいってお嬢様を一度医者に見てもらおう。

 「お医者様に見てもらわなくていいから。イソベラの考えることはお見通しよ」

 キャスリンがイソベラの胸の内を想像して先に言った。イソベラはまだちょっと不審そうだったが、いつものお嬢様だと安心したのだった。

 次の日、キャスリンは朝から公爵家にある、王宮の蔵書数にも負けずとも劣らない数を誇る図書室に来ている。まずこの国ナクビル国周辺が書かれている地図を見た。地図上にはナクビル国の隣にあったペジタ国がなかった。キャスリンは一安心した。ペジタ国があった場所は、アシュイラ皇国が領土を広げてアシュイラ皇国として存在していた。
 次にアシュイラ皇国の歴史など、アシュイラ皇国の事が詳しく書かれている本を手に取った。初代王と王妃から現王と王妃まで歴代の名前が載っている。正直見たくない気持ちもある。でも見なくてはと震える手でページをめくる。初代王と王妃から続いていく。何代目かで知っている王と王妃の名前があった。

 エムル王 サリー王妃

 心臓が高鳴る中で、その次の名前を見た。

 サリエス王 リリス王妃

 サリエス王はエムル王の第二王子と記述がある。キャスリンがいなくなった後、エムル王とサリー王妃に第二王子が生まれたようだ。じゃあ第一王子であるスティーブはどうなったのだろう。今から約300年前の事となると書かれていないんじゃないかというキャスリンの予想をいい意味で覆してくれていた。
 スティーブはアシュイラ皇国の発展に尽くしたらしい。今のアシュイラ皇国ではもう魔力のあるものはほとんどいない。今アシュイラ皇国は世界でも一番繁栄している国とされているが、その基礎を作ったのがスティーブ第一王子だと簡単な記述があった。キャスリンは読み進めるうちに、涙で文字が見えなくなった。

 スティーブ頑張ったのね。もっと詳しく書かれているものはないかと本を探しているときだった。突然図書室のドアが開いた。

 「キャスリン、ここにいたんだね。よかった、元気そうじゃないか」

 ずかずかと入ってきたのは、メルビスだった。
  

 
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