上 下
73 / 91

判明した事実

しおりを挟む
 マークは映像を見終わってキャスリンを見た。先ほどとは違い目に温かみがあるようにキャスリンには見えた。

 「バーバラとは仲が良かったのよ。兄弟のように育ったの。そういえばバーバラはまだ生まれていなかったのよね。クロエは元気?」

 「ええ、元気です。私には女の子が生まれるんですね。名前が先にわかってるって不思議な感じです」
 
 マークはそう言ってキャスリンに笑った。その笑顔に見覚えがあったキャスリンは、目を見張った。やはりキャスリンのたくらみはばれていたらしい。どうしてもバーバラと名付けてほしかったのだ。

 「ねえマーク、もしクロエの調子が少しでもおかしいと感じたら、すぐにシムのところに行ってね。お願いよ」

 キャスリンの真剣なお願いにマークは深くうなずいた。シムはまだ若いが、魔法治療師としていい腕をしている。キャスリンが何でも知っていることに驚いたが、心に深く刻んだ。
 キャスリンは、マークがキャスリンの言葉に真剣に耳を傾けてくれて安心した。これでバーバラも早くに母親を亡くすという悲しみを背負うこともないかもしれない。もしバーバラと二度と会えなくなったとしても、幸せになっていてほしかった。

 王は、至急皇国の人々へお触れを出した。キャスリンの魔力も借り魔法を使い、皇国のいたるところにお触れが書かれた板状のものがたちどころに出現した。このお触れは多少なりとも魔力を持っているものにしか見ることができない特殊なものだった。皇国の民はみな多い少ないの差はあれ魔力を持って生まれてくるので、みな読むことができる。読むことができないものは外から来た者だけだ。これを考えたのは、マークだった。キャスリンはマークからこのアイデアを聞いた時マークらしいと思ったのだった。
 
 人々は急に出たお触れを読もうと群がった。皆が読んでいると、一人の男がそのお触れを読んでいるものに聞いた。

 「なんて書いてあるんだ?あれ、何も書いてないじゃないか」

 その言葉を聞いた者たちが一斉にその男を見た。皆が一斉に男を見るので、男はなんとなくばつが悪くなってすごすごとその場を後にした。

 「おいあいつ、そうか?」

 「そうだろ、だって読めなかったんだぜ」

 「やっぱりお触れの通りこの街にいるのね」

 「そういえばあいつが売っていた疲れがたちどころに取れる薬ってやつ、あれ今考えると怪しいよな」

 「なんでだ?」

 「あの薬を飲んでたやつ、頭いかれちまったのもいるらしいぜ」

 「おお~、俺も聞いた。最初のころは疲れが吹っ飛んで仕事がはかどるって言ってたやつも、今じゃあ人が変わったみたいになっちまったって噂だぜ」

 「あいつやばい薬売ってたのかもな」

 人々は先ほど去った男の後姿を見ながらそう噂しあった。その光景は至ることろで見られることになった。皇国の人々の意識も少しずつ変わり始めてきた。魔法だけではもしかしたら、皇国は守れないんじゃないかと皆が思い始めたのだった。

 
 
 その頃スティーブは、サイモクが率いている騎士団達と旗が立っているもとへ急いだ。スティーブたちが近づくたびに旗が揺れ、まるでここだよと呼んでいるかのように見える。旗の先には、一人の男がいた。まるでごく普通の男に見えた。しかしスティーブたちはその男を拘束した。そして旗の立っている者たちを次々に拘束していった。仲間が次々につかまり慌てて逃げ出す者もいたが、どこに逃げようが容赦なく捕まえられた。中には皇国から出ようとする者もいたが、すべて皇国を出る前に捕まえられた。ついには皇国のどこにも旗が見えなくなった。

 こうして捕まえられた者たちは、それぞれ個室に入れられた。

 「助けてくれ。俺は無実だ!」

 中には無実を訴える者もいたが、ある男が部屋に入ってきて出ていくときには、何も言わなくなっていた。スティーブは、捕まえた者たちをひとりひとり視た。そして見たままの事実をその者たちに突きつけていった。
 スティーブが視たものの中には、家族などのために金ほしさで仕方なくしたものもいたが、自分の欲望のためだけにこの皇国に入ってきたものもいた。特にたちが悪いのは、この皇国で常習性のある薬物を売りさばいていた者もいて、その薬物欲しさに将来このアシュイラ皇国を滅ぼす手助けをするものを作り出すために動いていた者もいた。
 
 スティーブは特にこの薬物を売りさばいていたものを許すことができなかった。ここにいる者たちを視た時に、薬物があることを知って、それを使ってしまった者たちも保護した。薬物を使用していた者たちは一見普通に見えるものもいたが、薬が切れると薬を欲するあまり暴れたり、自分に自己嫌悪して自殺行為をしようとするものまで現れた。中には完全に薬にやられてしまって廃人同様になってしまったものもいた。
 薬物を作った者たちは、明らかにこの皇国を破滅させるためにこの国に入り込んでいた。この国の豊かさをうらやみ魔道具を手に入れたりこの皇国を乗っ取りたかったのだろう。
 
 そもそもこのアシュイラ皇国は、昔は魔法によって守られていた。しかし時間がたつにつれ、皇国の民の魔力は少なくなり、魔道具を完璧に操ることができるものも減ってきていた。と同時に皇国を守るためにかけられていた害をなすものを排除する魔法も、建国当時とは違いずいぶん魔法の威力が薄れてきていた。しかし平和慣れしていた皇国の民には危機感がまるでなかった。悪意を持ったものが皇国に入ってくるようになっても皇国の民ひいては王までが油断していたのだった。

 スティーブはまず魔法をかけなおした。これで一応悪意を持つものは皇国に入ることはできないはずだ。あとはこの危機感のなさをどうにかするしかない。

 キャスリンは、忙しく立ち働いているスティーブの代わりに仕事を引き継いだ。スティーブに代わり捕まえた者たちを一人ずつ調べていった。そしてついに見つけた。将来ペジタ国というどうしようもない国を作ったものを。将来ペジタ国の国王と呼ばれるようになったアシュイラ皇国を滅ぼしたものをだ。キャスリンは、すぐにその者を視た。そしてその者が、あのどうしようもない薬物を作ったものであることを突き止めたのだった。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

公爵令嬢の辿る道

ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。 家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。 それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。 これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。 ※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。 追記  六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います

菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。 その隣には見知らぬ女性が立っていた。 二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。 両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。 メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。 数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。 彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。 ※ハッピーエンド&純愛 他サイトでも掲載しております。

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。 落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。 毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。 様子がおかしい青年に気づく。 ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。 ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ 最終話まで予約投稿済です。 次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。 ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。 楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。

私達、政略結婚ですから。

恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。 それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

成人したのであなたから卒業させていただきます。

ぽんぽこ狸
恋愛
 フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。  すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。  メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。  しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。  それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。  そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。  変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

処理中です...