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判明した事実
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マークは映像を見終わってキャスリンを見た。先ほどとは違い目に温かみがあるようにキャスリンには見えた。
「バーバラとは仲が良かったのよ。兄弟のように育ったの。そういえばバーバラはまだ生まれていなかったのよね。クロエは元気?」
「ええ、元気です。私には女の子が生まれるんですね。名前が先にわかってるって不思議な感じです」
マークはそう言ってキャスリンに笑った。その笑顔に見覚えがあったキャスリンは、目を見張った。やはりキャスリンのたくらみはばれていたらしい。どうしてもバーバラと名付けてほしかったのだ。
「ねえマーク、もしクロエの調子が少しでもおかしいと感じたら、すぐにシムのところに行ってね。お願いよ」
キャスリンの真剣なお願いにマークは深くうなずいた。シムはまだ若いが、魔法治療師としていい腕をしている。キャスリンが何でも知っていることに驚いたが、心に深く刻んだ。
キャスリンは、マークがキャスリンの言葉に真剣に耳を傾けてくれて安心した。これでバーバラも早くに母親を亡くすという悲しみを背負うこともないかもしれない。もしバーバラと二度と会えなくなったとしても、幸せになっていてほしかった。
王は、至急皇国の人々へお触れを出した。キャスリンの魔力も借り魔法を使い、皇国のいたるところにお触れが書かれた板状のものがたちどころに出現した。このお触れは多少なりとも魔力を持っているものにしか見ることができない特殊なものだった。皇国の民はみな多い少ないの差はあれ魔力を持って生まれてくるので、みな読むことができる。読むことができないものは外から来た者だけだ。これを考えたのは、マークだった。キャスリンはマークからこのアイデアを聞いた時マークらしいと思ったのだった。
人々は急に出たお触れを読もうと群がった。皆が読んでいると、一人の男がそのお触れを読んでいるものに聞いた。
「なんて書いてあるんだ?あれ、何も書いてないじゃないか」
その言葉を聞いた者たちが一斉にその男を見た。皆が一斉に男を見るので、男はなんとなくばつが悪くなってすごすごとその場を後にした。
「おいあいつ、そうか?」
「そうだろ、だって読めなかったんだぜ」
「やっぱりお触れの通りこの街にいるのね」
「そういえばあいつが売っていた疲れがたちどころに取れる薬ってやつ、あれ今考えると怪しいよな」
「なんでだ?」
「あの薬を飲んでたやつ、頭いかれちまったのもいるらしいぜ」
「おお~、俺も聞いた。最初のころは疲れが吹っ飛んで仕事がはかどるって言ってたやつも、今じゃあ人が変わったみたいになっちまったって噂だぜ」
「あいつやばい薬売ってたのかもな」
人々は先ほど去った男の後姿を見ながらそう噂しあった。その光景は至ることろで見られることになった。皇国の人々の意識も少しずつ変わり始めてきた。魔法だけではもしかしたら、皇国は守れないんじゃないかと皆が思い始めたのだった。
その頃スティーブは、サイモクが率いている騎士団達と旗が立っているもとへ急いだ。スティーブたちが近づくたびに旗が揺れ、まるでここだよと呼んでいるかのように見える。旗の先には、一人の男がいた。まるでごく普通の男に見えた。しかしスティーブたちはその男を拘束した。そして旗の立っている者たちを次々に拘束していった。仲間が次々につかまり慌てて逃げ出す者もいたが、どこに逃げようが容赦なく捕まえられた。中には皇国から出ようとする者もいたが、すべて皇国を出る前に捕まえられた。ついには皇国のどこにも旗が見えなくなった。
こうして捕まえられた者たちは、それぞれ個室に入れられた。
「助けてくれ。俺は無実だ!」
中には無実を訴える者もいたが、ある男が部屋に入ってきて出ていくときには、何も言わなくなっていた。スティーブは、捕まえた者たちをひとりひとり視た。そして見たままの事実をその者たちに突きつけていった。
スティーブが視たものの中には、家族などのために金ほしさで仕方なくしたものもいたが、自分の欲望のためだけにこの皇国に入ってきたものもいた。特にたちが悪いのは、この皇国で常習性のある薬物を売りさばいていた者もいて、その薬物欲しさに将来このアシュイラ皇国を滅ぼす手助けをするものを作り出すために動いていた者もいた。
スティーブは特にこの薬物を売りさばいていたものを許すことができなかった。ここにいる者たちを視た時に、薬物があることを知って、それを使ってしまった者たちも保護した。薬物を使用していた者たちは一見普通に見えるものもいたが、薬が切れると薬を欲するあまり暴れたり、自分に自己嫌悪して自殺行為をしようとするものまで現れた。中には完全に薬にやられてしまって廃人同様になってしまったものもいた。
薬物を作った者たちは、明らかにこの皇国を破滅させるためにこの国に入り込んでいた。この国の豊かさをうらやみ魔道具を手に入れたりこの皇国を乗っ取りたかったのだろう。
そもそもこのアシュイラ皇国は、昔は魔法によって守られていた。しかし時間がたつにつれ、皇国の民の魔力は少なくなり、魔道具を完璧に操ることができるものも減ってきていた。と同時に皇国を守るためにかけられていた害をなすものを排除する魔法も、建国当時とは違いずいぶん魔法の威力が薄れてきていた。しかし平和慣れしていた皇国の民には危機感がまるでなかった。悪意を持ったものが皇国に入ってくるようになっても皇国の民ひいては王までが油断していたのだった。
スティーブはまず魔法をかけなおした。これで一応悪意を持つものは皇国に入ることはできないはずだ。あとはこの危機感のなさをどうにかするしかない。
キャスリンは、忙しく立ち働いているスティーブの代わりに仕事を引き継いだ。スティーブに代わり捕まえた者たちを一人ずつ調べていった。そしてついに見つけた。将来ペジタ国というどうしようもない国を作ったものを。将来ペジタ国の国王と呼ばれるようになったアシュイラ皇国を滅ぼしたものをだ。キャスリンは、すぐにその者を視た。そしてその者が、あのどうしようもない薬物を作ったものであることを突き止めたのだった。
「バーバラとは仲が良かったのよ。兄弟のように育ったの。そういえばバーバラはまだ生まれていなかったのよね。クロエは元気?」
「ええ、元気です。私には女の子が生まれるんですね。名前が先にわかってるって不思議な感じです」
マークはそう言ってキャスリンに笑った。その笑顔に見覚えがあったキャスリンは、目を見張った。やはりキャスリンのたくらみはばれていたらしい。どうしてもバーバラと名付けてほしかったのだ。
「ねえマーク、もしクロエの調子が少しでもおかしいと感じたら、すぐにシムのところに行ってね。お願いよ」
キャスリンの真剣なお願いにマークは深くうなずいた。シムはまだ若いが、魔法治療師としていい腕をしている。キャスリンが何でも知っていることに驚いたが、心に深く刻んだ。
キャスリンは、マークがキャスリンの言葉に真剣に耳を傾けてくれて安心した。これでバーバラも早くに母親を亡くすという悲しみを背負うこともないかもしれない。もしバーバラと二度と会えなくなったとしても、幸せになっていてほしかった。
王は、至急皇国の人々へお触れを出した。キャスリンの魔力も借り魔法を使い、皇国のいたるところにお触れが書かれた板状のものがたちどころに出現した。このお触れは多少なりとも魔力を持っているものにしか見ることができない特殊なものだった。皇国の民はみな多い少ないの差はあれ魔力を持って生まれてくるので、みな読むことができる。読むことができないものは外から来た者だけだ。これを考えたのは、マークだった。キャスリンはマークからこのアイデアを聞いた時マークらしいと思ったのだった。
人々は急に出たお触れを読もうと群がった。皆が読んでいると、一人の男がそのお触れを読んでいるものに聞いた。
「なんて書いてあるんだ?あれ、何も書いてないじゃないか」
その言葉を聞いた者たちが一斉にその男を見た。皆が一斉に男を見るので、男はなんとなくばつが悪くなってすごすごとその場を後にした。
「おいあいつ、そうか?」
「そうだろ、だって読めなかったんだぜ」
「やっぱりお触れの通りこの街にいるのね」
「そういえばあいつが売っていた疲れがたちどころに取れる薬ってやつ、あれ今考えると怪しいよな」
「なんでだ?」
「あの薬を飲んでたやつ、頭いかれちまったのもいるらしいぜ」
「おお~、俺も聞いた。最初のころは疲れが吹っ飛んで仕事がはかどるって言ってたやつも、今じゃあ人が変わったみたいになっちまったって噂だぜ」
「あいつやばい薬売ってたのかもな」
人々は先ほど去った男の後姿を見ながらそう噂しあった。その光景は至ることろで見られることになった。皇国の人々の意識も少しずつ変わり始めてきた。魔法だけではもしかしたら、皇国は守れないんじゃないかと皆が思い始めたのだった。
その頃スティーブは、サイモクが率いている騎士団達と旗が立っているもとへ急いだ。スティーブたちが近づくたびに旗が揺れ、まるでここだよと呼んでいるかのように見える。旗の先には、一人の男がいた。まるでごく普通の男に見えた。しかしスティーブたちはその男を拘束した。そして旗の立っている者たちを次々に拘束していった。仲間が次々につかまり慌てて逃げ出す者もいたが、どこに逃げようが容赦なく捕まえられた。中には皇国から出ようとする者もいたが、すべて皇国を出る前に捕まえられた。ついには皇国のどこにも旗が見えなくなった。
こうして捕まえられた者たちは、それぞれ個室に入れられた。
「助けてくれ。俺は無実だ!」
中には無実を訴える者もいたが、ある男が部屋に入ってきて出ていくときには、何も言わなくなっていた。スティーブは、捕まえた者たちをひとりひとり視た。そして見たままの事実をその者たちに突きつけていった。
スティーブが視たものの中には、家族などのために金ほしさで仕方なくしたものもいたが、自分の欲望のためだけにこの皇国に入ってきたものもいた。特にたちが悪いのは、この皇国で常習性のある薬物を売りさばいていた者もいて、その薬物欲しさに将来このアシュイラ皇国を滅ぼす手助けをするものを作り出すために動いていた者もいた。
スティーブは特にこの薬物を売りさばいていたものを許すことができなかった。ここにいる者たちを視た時に、薬物があることを知って、それを使ってしまった者たちも保護した。薬物を使用していた者たちは一見普通に見えるものもいたが、薬が切れると薬を欲するあまり暴れたり、自分に自己嫌悪して自殺行為をしようとするものまで現れた。中には完全に薬にやられてしまって廃人同様になってしまったものもいた。
薬物を作った者たちは、明らかにこの皇国を破滅させるためにこの国に入り込んでいた。この国の豊かさをうらやみ魔道具を手に入れたりこの皇国を乗っ取りたかったのだろう。
そもそもこのアシュイラ皇国は、昔は魔法によって守られていた。しかし時間がたつにつれ、皇国の民の魔力は少なくなり、魔道具を完璧に操ることができるものも減ってきていた。と同時に皇国を守るためにかけられていた害をなすものを排除する魔法も、建国当時とは違いずいぶん魔法の威力が薄れてきていた。しかし平和慣れしていた皇国の民には危機感がまるでなかった。悪意を持ったものが皇国に入ってくるようになっても皇国の民ひいては王までが油断していたのだった。
スティーブはまず魔法をかけなおした。これで一応悪意を持つものは皇国に入ることはできないはずだ。あとはこの危機感のなさをどうにかするしかない。
キャスリンは、忙しく立ち働いているスティーブの代わりに仕事を引き継いだ。スティーブに代わり捕まえた者たちを一人ずつ調べていった。そしてついに見つけた。将来ペジタ国というどうしようもない国を作ったものを。将来ペジタ国の国王と呼ばれるようになったアシュイラ皇国を滅ぼしたものをだ。キャスリンは、すぐにその者を視た。そしてその者が、あのどうしようもない薬物を作ったものであることを突き止めたのだった。
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