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アシュイラ皇国でまず出会ったのは

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 キャスリンは、急に真っ暗な中に放り込まれたような気がした。周りは真っ暗で何も見えない。しかも自分の体がぐわんと揺れるようなねじれるような今までにない衝撃を受けた。ただ唯一感じる手のぬくもりだけが、自分ひとりではないことを感じさせてくれる。そのぬくもりが、自分が感じている恐怖をやわらげ希望を与えてくれた。
 キャスリンには、永遠に感じたがもしかしたらほんの一瞬のことだったのかもしれない。気が付けば自分の足元が硬い地面の上に立っているのを感じた。

 「キャスリン!」

 自分の隣から声がした。声の主はスティーブだった。キャスリンはどうやら無意識に目を閉じていたようでやっと目を開けた。眼下にはきれいな街並みが広がっている。どうやら自分たちは、小高い丘の上にいるらしい。ここから見える街並みは、キャスリンの母国ナクビル国よりはるかに大きく繁栄しているのが遠めでもわかった。どの家々もきれいで、整然としている。キャスリンはアシュイラ皇国の初代王妃がいた国を思い出していた。あそこまでは大きな建物はないけれど、整然としている様子は確かに似ている。

 「スティーブ、ここがアシュイラ皇国なのね」

 いまだ手をつないでいるスティーブの手が、少し小刻みに震えている。キャスリンはスティーブを見ると、スティーブの目から涙が落ちていた。まだ侵略されていない街はとても活気があふれていて、いろいろなところから立ち上る煙突からは、煙が立ち上っていた。

 「キャスリン、まだ侵略されていない。間に合うだろうか」

 スティーブは涙でぬれた顔をキャスリンとつないでいないもう一方の手で乱暴にぬぐった。

 「当たり前よ。間に合うに決まってるわ。だって私とスティーブがいるんだもの」

 キャスリンはなるべく明るくスティーブにいった。

 「ありがとう」

 そう答えたスティーブの顔は決意に満ちていた。

 「キャスリン、じゃああそこにある王宮に行ってみよう」

 スティーブが指さしたのは、街並みの真ん中にそびえたつ華麗な王宮だった。

 「そうね、行きましょう」

 ふたりは王宮に転移することにした。スティーブと手をつないでいなかったらきっとキャスリンははじかれていただろう。王宮には魔法がかけられているためか、キャスリンには結構な衝撃があった。

 「ついたよ」

 キャスリンは衝撃で体がふらついた。スティーブが支えてくれなかったら、倒れていただろう。外から見る建物のイメージとは違い床は板張りだった。左右に柱が立っていて庭の真ん中に通路がある。

 「ここは?」

 「たぶん王の間に行く途中の廊下だと思うんだが...」

 スティーブがそこまでいった時だった。

 「何者だ!」

 急に目の前に人影が現れた。スティーブは思わず身構えたが、声を出した者の方がまた驚いた声を出した。
 
 「エムル様?」

 「あなたサイモクじゃない?」

 

 サイモクと呼ばれた男は、いきなり見ず知らずのましてやいきなり現れた不審な人物に名前を呼ばれて戸惑った。しかも不審な人物の一人は、王にあまりに似すぎている。ただよくよく見ると、瞳の色が違っている。この瞳の色は、あまりに自分が大切に思っている人に似すぎていた。
 いつもならすぐに対処するはずが、あまりに混乱しすぎていたせいで何の行動も起こせなかった。

 「警戒しないで、私たちアシュイラ皇国を助けるために来たの」

 「そうだ、私たちはあなた方を助けるために未来からやってきたのだ」

 不審な者たちが何か言っている。ただ自分が使える王にそっくりな男は声まで似ていた。そしてその男がまっすぐにこちらを見据えた時に確かに自分の大切な人の色を持っていたのを確認した。

 「あなたたちは誰なんですか?」

 サイモクが警戒しながらも、二人に聞いた。

 
 キャスリンは、あのサイモクが生きて目の前に立っているのを見てここがアシュイラ皇国だということを確信した。サイモクのことは過去の映像でしか見たことがなかったが、あの時見た姿より少し若い気がする。キャスリンは思わずサイモクの名前を出してしまったが、名前を出された当の本人もひどく驚いている。名前を呼ばれたのもあるが、半分以上はスティーブの顔のせいだろう。先ほど誰かの名前を言っていた。

 「王に会いに来た。話がしたいんだ」

 「あなたたちは今未来から来たといいましたが、それをどうやって証明するのです?」

 「これを」

 スティーブは自分の腕にはまっている腕輪を外してサイモクに見せた。キャスリンも慌てて腕輪を見せる。

 「これは!」

 王と王妃しかつけることのない腕輪を見せられては、サイモクとしては信じるしかなかった。それだけでなく目の前にいる男の持っている魔力からして王家のものだという証明になってはいたが。

 「わかりました。ご案内します」

 そういったサイモクは初めて笑顔を見せた。

 キャスリンは自分が見たことがない変わった廊下を歩いていった。廊下は板張りで、周りが柱や低い板壁で囲まれている。低い板壁の向こうには庭が見える。石が敷き詰められており、ところどころ大きい石が置いてある。木もまばらに植えられていた。

 「枯山水かしら?」

 キャスリンが何気なく発した言葉に前を歩いていたサイモクの足が急に止まった。

 「よくご存じですね」

 サイモクが後ろを歩いていたキャスリンをじっと見た。

 「この風景初代王妃の中で見たことがあったの」

 キャスリンの言葉に、今度はサイモクの目がこぼれんばかりに見開かれたのだった。サイモクガ立ち止まってしまったせいで、キャスリンと後ろを歩いていたスティーブはすたすたと、廊下を歩いていった。廊下の先には大きな扉があった。以前ペジタ国で見たことのあるレリーフが扉を飾っていたのだった。

 
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