70 / 91
アシュイラ皇国でまず出会ったのは
しおりを挟む
キャスリンは、急に真っ暗な中に放り込まれたような気がした。周りは真っ暗で何も見えない。しかも自分の体がぐわんと揺れるようなねじれるような今までにない衝撃を受けた。ただ唯一感じる手のぬくもりだけが、自分ひとりではないことを感じさせてくれる。そのぬくもりが、自分が感じている恐怖をやわらげ希望を与えてくれた。
キャスリンには、永遠に感じたがもしかしたらほんの一瞬のことだったのかもしれない。気が付けば自分の足元が硬い地面の上に立っているのを感じた。
「キャスリン!」
自分の隣から声がした。声の主はスティーブだった。キャスリンはどうやら無意識に目を閉じていたようでやっと目を開けた。眼下にはきれいな街並みが広がっている。どうやら自分たちは、小高い丘の上にいるらしい。ここから見える街並みは、キャスリンの母国ナクビル国よりはるかに大きく繁栄しているのが遠めでもわかった。どの家々もきれいで、整然としている。キャスリンはアシュイラ皇国の初代王妃がいた国を思い出していた。あそこまでは大きな建物はないけれど、整然としている様子は確かに似ている。
「スティーブ、ここがアシュイラ皇国なのね」
いまだ手をつないでいるスティーブの手が、少し小刻みに震えている。キャスリンはスティーブを見ると、スティーブの目から涙が落ちていた。まだ侵略されていない街はとても活気があふれていて、いろいろなところから立ち上る煙突からは、煙が立ち上っていた。
「キャスリン、まだ侵略されていない。間に合うだろうか」
スティーブは涙でぬれた顔をキャスリンとつないでいないもう一方の手で乱暴にぬぐった。
「当たり前よ。間に合うに決まってるわ。だって私とスティーブがいるんだもの」
キャスリンはなるべく明るくスティーブにいった。
「ありがとう」
そう答えたスティーブの顔は決意に満ちていた。
「キャスリン、じゃああそこにある王宮に行ってみよう」
スティーブが指さしたのは、街並みの真ん中にそびえたつ華麗な王宮だった。
「そうね、行きましょう」
ふたりは王宮に転移することにした。スティーブと手をつないでいなかったらきっとキャスリンははじかれていただろう。王宮には魔法がかけられているためか、キャスリンには結構な衝撃があった。
「ついたよ」
キャスリンは衝撃で体がふらついた。スティーブが支えてくれなかったら、倒れていただろう。外から見る建物のイメージとは違い床は板張りだった。左右に柱が立っていて庭の真ん中に通路がある。
「ここは?」
「たぶん王の間に行く途中の廊下だと思うんだが...」
スティーブがそこまでいった時だった。
「何者だ!」
急に目の前に人影が現れた。スティーブは思わず身構えたが、声を出した者の方がまた驚いた声を出した。
「エムル様?」
「あなたサイモクじゃない?」
サイモクと呼ばれた男は、いきなり見ず知らずのましてやいきなり現れた不審な人物に名前を呼ばれて戸惑った。しかも不審な人物の一人は、王にあまりに似すぎている。ただよくよく見ると、瞳の色が違っている。この瞳の色は、あまりに自分が大切に思っている人に似すぎていた。
いつもならすぐに対処するはずが、あまりに混乱しすぎていたせいで何の行動も起こせなかった。
「警戒しないで、私たちアシュイラ皇国を助けるために来たの」
「そうだ、私たちはあなた方を助けるために未来からやってきたのだ」
不審な者たちが何か言っている。ただ自分が使える王にそっくりな男は声まで似ていた。そしてその男がまっすぐにこちらを見据えた時に確かに自分の大切な人の色を持っていたのを確認した。
「あなたたちは誰なんですか?」
サイモクが警戒しながらも、二人に聞いた。
キャスリンは、あのサイモクが生きて目の前に立っているのを見てここがアシュイラ皇国だということを確信した。サイモクのことは過去の映像でしか見たことがなかったが、あの時見た姿より少し若い気がする。キャスリンは思わずサイモクの名前を出してしまったが、名前を出された当の本人もひどく驚いている。名前を呼ばれたのもあるが、半分以上はスティーブの顔のせいだろう。先ほど誰かの名前を言っていた。
「王に会いに来た。話がしたいんだ」
「あなたたちは今未来から来たといいましたが、それをどうやって証明するのです?」
「これを」
スティーブは自分の腕にはまっている腕輪を外してサイモクに見せた。キャスリンも慌てて腕輪を見せる。
「これは!」
王と王妃しかつけることのない腕輪を見せられては、サイモクとしては信じるしかなかった。それだけでなく目の前にいる男の持っている魔力からして王家のものだという証明になってはいたが。
「わかりました。ご案内します」
そういったサイモクは初めて笑顔を見せた。
キャスリンは自分が見たことがない変わった廊下を歩いていった。廊下は板張りで、周りが柱や低い板壁で囲まれている。低い板壁の向こうには庭が見える。石が敷き詰められており、ところどころ大きい石が置いてある。木もまばらに植えられていた。
「枯山水かしら?」
キャスリンが何気なく発した言葉に前を歩いていたサイモクの足が急に止まった。
「よくご存じですね」
サイモクが後ろを歩いていたキャスリンをじっと見た。
「この風景初代王妃の中で見たことがあったの」
キャスリンの言葉に、今度はサイモクの目がこぼれんばかりに見開かれたのだった。サイモクガ立ち止まってしまったせいで、キャスリンと後ろを歩いていたスティーブはすたすたと、廊下を歩いていった。廊下の先には大きな扉があった。以前ペジタ国で見たことのあるレリーフが扉を飾っていたのだった。
キャスリンには、永遠に感じたがもしかしたらほんの一瞬のことだったのかもしれない。気が付けば自分の足元が硬い地面の上に立っているのを感じた。
「キャスリン!」
自分の隣から声がした。声の主はスティーブだった。キャスリンはどうやら無意識に目を閉じていたようでやっと目を開けた。眼下にはきれいな街並みが広がっている。どうやら自分たちは、小高い丘の上にいるらしい。ここから見える街並みは、キャスリンの母国ナクビル国よりはるかに大きく繁栄しているのが遠めでもわかった。どの家々もきれいで、整然としている。キャスリンはアシュイラ皇国の初代王妃がいた国を思い出していた。あそこまでは大きな建物はないけれど、整然としている様子は確かに似ている。
「スティーブ、ここがアシュイラ皇国なのね」
いまだ手をつないでいるスティーブの手が、少し小刻みに震えている。キャスリンはスティーブを見ると、スティーブの目から涙が落ちていた。まだ侵略されていない街はとても活気があふれていて、いろいろなところから立ち上る煙突からは、煙が立ち上っていた。
「キャスリン、まだ侵略されていない。間に合うだろうか」
スティーブは涙でぬれた顔をキャスリンとつないでいないもう一方の手で乱暴にぬぐった。
「当たり前よ。間に合うに決まってるわ。だって私とスティーブがいるんだもの」
キャスリンはなるべく明るくスティーブにいった。
「ありがとう」
そう答えたスティーブの顔は決意に満ちていた。
「キャスリン、じゃああそこにある王宮に行ってみよう」
スティーブが指さしたのは、街並みの真ん中にそびえたつ華麗な王宮だった。
「そうね、行きましょう」
ふたりは王宮に転移することにした。スティーブと手をつないでいなかったらきっとキャスリンははじかれていただろう。王宮には魔法がかけられているためか、キャスリンには結構な衝撃があった。
「ついたよ」
キャスリンは衝撃で体がふらついた。スティーブが支えてくれなかったら、倒れていただろう。外から見る建物のイメージとは違い床は板張りだった。左右に柱が立っていて庭の真ん中に通路がある。
「ここは?」
「たぶん王の間に行く途中の廊下だと思うんだが...」
スティーブがそこまでいった時だった。
「何者だ!」
急に目の前に人影が現れた。スティーブは思わず身構えたが、声を出した者の方がまた驚いた声を出した。
「エムル様?」
「あなたサイモクじゃない?」
サイモクと呼ばれた男は、いきなり見ず知らずのましてやいきなり現れた不審な人物に名前を呼ばれて戸惑った。しかも不審な人物の一人は、王にあまりに似すぎている。ただよくよく見ると、瞳の色が違っている。この瞳の色は、あまりに自分が大切に思っている人に似すぎていた。
いつもならすぐに対処するはずが、あまりに混乱しすぎていたせいで何の行動も起こせなかった。
「警戒しないで、私たちアシュイラ皇国を助けるために来たの」
「そうだ、私たちはあなた方を助けるために未来からやってきたのだ」
不審な者たちが何か言っている。ただ自分が使える王にそっくりな男は声まで似ていた。そしてその男がまっすぐにこちらを見据えた時に確かに自分の大切な人の色を持っていたのを確認した。
「あなたたちは誰なんですか?」
サイモクが警戒しながらも、二人に聞いた。
キャスリンは、あのサイモクが生きて目の前に立っているのを見てここがアシュイラ皇国だということを確信した。サイモクのことは過去の映像でしか見たことがなかったが、あの時見た姿より少し若い気がする。キャスリンは思わずサイモクの名前を出してしまったが、名前を出された当の本人もひどく驚いている。名前を呼ばれたのもあるが、半分以上はスティーブの顔のせいだろう。先ほど誰かの名前を言っていた。
「王に会いに来た。話がしたいんだ」
「あなたたちは今未来から来たといいましたが、それをどうやって証明するのです?」
「これを」
スティーブは自分の腕にはまっている腕輪を外してサイモクに見せた。キャスリンも慌てて腕輪を見せる。
「これは!」
王と王妃しかつけることのない腕輪を見せられては、サイモクとしては信じるしかなかった。それだけでなく目の前にいる男の持っている魔力からして王家のものだという証明になってはいたが。
「わかりました。ご案内します」
そういったサイモクは初めて笑顔を見せた。
キャスリンは自分が見たことがない変わった廊下を歩いていった。廊下は板張りで、周りが柱や低い板壁で囲まれている。低い板壁の向こうには庭が見える。石が敷き詰められており、ところどころ大きい石が置いてある。木もまばらに植えられていた。
「枯山水かしら?」
キャスリンが何気なく発した言葉に前を歩いていたサイモクの足が急に止まった。
「よくご存じですね」
サイモクが後ろを歩いていたキャスリンをじっと見た。
「この風景初代王妃の中で見たことがあったの」
キャスリンの言葉に、今度はサイモクの目がこぼれんばかりに見開かれたのだった。サイモクガ立ち止まってしまったせいで、キャスリンと後ろを歩いていたスティーブはすたすたと、廊下を歩いていった。廊下の先には大きな扉があった。以前ペジタ国で見たことのあるレリーフが扉を飾っていたのだった。
2
お気に入りに追加
2,299
あなたにおすすめの小説
3大公の姫君
ちゃこ
恋愛
多くの国が絶対君主制の中、3つの大公家が政治を担う公国が存在した。
ルベイン公国の中枢は、
ティセリウス家。
カーライル家。
エルフェ家。
この3家を筆頭に貴族院が存在し、それぞれの階級、役割に分かれていた。
この話はそんな公国で起きた珍事のお話。
7/24
完結致しました。
最後まで読んで頂きありがとうございます!
サイドストーリーは一旦休憩させて頂いた後、ひっそりアップします。
ジオラルド達のその後など気になるところも多いかと思いますので…!
断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。
私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。
処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。
魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。
私が妻です!
ミカン♬
恋愛
幼い頃のトラウマで男性が怖いエルシーは夫のヴァルと結婚して2年、まだ本当の夫婦には成っていない。
王都で一人暮らす夫から連絡が途絶えて2か月、エルシーは弟のような護衛レノを連れて夫の家に向かうと、愛人と赤子と暮らしていた。失意のエルシーを狙う従兄妹のオリバーに王都でも襲われる。その時に助けてくれた侯爵夫人にお世話になってエルシーは生まれ変わろうと決心する。
侯爵家に離婚届けにサインを求めて夫がやってきた。
そこに王宮騎士団の副団長エイダンが追いかけてきて、夫の様子がおかしくなるのだった。
世界観など全てフワっと設定です。サクっと終わります。
5/23 完結に状況の説明を書き足しました。申し訳ありません。
★★★なろう様では最後に閑話をいれています。
脱字報告、応援して下さった皆様本当に有難うございました。
他のサイトにも投稿しています。
運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。
ぽんぽこ狸
恋愛
気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。
その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。
だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。
しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。
五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。
お馬鹿な聖女に「だから?」と言ってみた
リオール
恋愛
だから?
それは最強の言葉
~~~~~~~~~
※全6話。短いです
※ダークです!ダークな終わりしてます!
筆者がたまに書きたくなるダークなお話なんです。
スカッと爽快ハッピーエンドをお求めの方はごめんなさい。
※勢いで書いたので支離滅裂です。生ぬるい目でスルーして下さい(^-^;
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる