大切なあのひとを失ったこと絶対許しません

にいるず

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ペジタ国の王宮では

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 キャスリンは自分で見た光景にあまりに衝撃を受けていったん自分の屋敷に戻ることにした。自分の部屋に戻る途中廊下で執事のマークに出会い、キャスリンの顔色の悪さにびっくりしたマークが医者を呼ぼうとしたのにはびっくりした。たぶんそれほど顔色が悪かったのだろう。
 キャスリンは、あまりに心配するマークに自分が見たペジタ国の様子を話すことにした。

 「まるでひどかったのよ」

 「そうなんですね。ペジタ国については、何も知られていないんです。奴隷制度がまだ残っているという以外は、謎のベールに包まれた国として知られています。一応国交はありますので、その時に来る使節団は衣装ひとつとってもとてもお金がかかっていて、国がそんなことになっているとは誰も思わないでしょうね」

 「そうね、でも私が見たのは王都の街よ。地方はもっとひどいに違いないわ」
 
 キャスリンは、前にイソベラの未来を視た時に見た、ペジタ国のこの国への侵略を思い出して身震いした。

 キャスリンは翌日今度はペジタ国の王宮に行ってみることにした。昨日の衝撃であまり気が進まなかったが、このままにしておくことはできない。スティーブとの思い出の髪飾りを付けていくことにした。
 また地図とあの謎の男を思い浮かべて転移した。

 気が付くとふかふかのじゅうたんの上だった。キャスリンは、目がちかちかするほどの装飾に施された廊下に立っていた。そのどれもがあまりに豪華で、キャスリンの国の王宮よりはるかにお金がかかっているのが一目瞭然だった。キャスリンはその廊下を歩いていった。通り過ぎる者たちも皆健康そうで、昨日見た王都の光景は幻かと思いたくなるぐらいだった。ただその廊下をずっと歩いていくと一つの扉があり、そこから使用人たちが出入りしているのを見ると、そこから先がどうやら王宮で働いている者たちの建物らしい。
 
 キャスリンはそのままそこを通った。通ったとたん自分の目を疑うような光景が飛び込んできた。ドアひとつ隔てた先には、みすぼらしい身なりをした人たちが仕事をしている。キャスリンはあまりの違いに後ろを向いてドアを確認した。まるで転移したと思いたくなるような違いだった。しかもそこで働いているのは、キャスリンとそう歳も違わない子供が多い。
 豪華な扉を出入りしている者たちは、まるで虫けらでも見るような目で、その子供ぐらいにしか見えない使用人に仕事の指示だけして、自分は一秒でもこんなところにいたくないとばかりにすぐ出て行っていた。
 キャスリンはその様子を唖然と見ていたが、働いている建物をしばらく散策してみることにした。ここで働いているものはどの顔もまだ幼い気がする。
 
 しばらく行くと外に出た。洗濯をしているものが何人かいた。キャスリンはその中の一人に目を止めた。その女性はここで働いている中では、少し年齢が高いように見えたがそれでもまだ20代だろう。ただその女性はあまりに顔色が悪く、体がだるいようで動作が鈍かった。

 「ねえ大丈夫?ちょっと休めば」

 「なに言ってんだよ。休んだらこの子連れていかれちまうよ。ねえもうちょっと頑張んな」

 「そうそう、私たちがあんたの分まで働くからさ、もうちょっと頑張んなよ」

 「すみません、ご迷惑をかけて...」

 「いいっていいって、あんたのお母さんにはみんなよくしてもらったんだから。これぐらいしかできないけどさ」

 一緒に働いている者たちが、だるそうにしている女性に口々に声をかけている。言葉をかけてもらった女性の顔は涙がこぼれていた。みんな真剣に洗濯をしているので、キャスリンはつい声をかけた。

 「休んだら連れていかれるってどこへですか?」

 「そりゃあアンタ、あの部屋に決まってるじゃないか」

 「あの部屋って?」

 「あんたあの部屋の事も知らないのかい?ここで働けなくなったら、みんなあの部屋に連れていかれるのさ。毒を作っている研究所の中にある実験室だよ」

 「毒?」

 「そうさ、確か猛毒を作ってるっていう噂さ。ここで働けなくなったりしたものを実験台にしてるんだってよ」

 「えっ___!」

 「おい、あんたそんなことも知らないのかい?ここじゃあ誰でも知ってるっていうのにさ。それにその猛毒を売ってえらいお方たちはいい生活をしているんだよ。いいご身分だよね」

 話してくれた女性は、そういって自分に話しかけたものを見ようとしてびっくりした。確かに自分の後ろから声がしたはずなのに誰もいないのだ。その女性が、仕事の手を止めてきょろきょろしているのを見たほかの同僚が言った。

 「あんた、何やってるんだよ。珍しいねあんたが手を止めるなんてさ」

 「ねえ今、人がいなかったかい?私に聞いてきた子さ」

 「へっ?」

 その同僚は間抜けな顔をしているように見えた。

 「誰もいないよ、私たちのほかにはね。夢でも見たのかい?」

 そう同僚に言われて先ほどまで話していた女性は、不思議がりながらもまた仕事をし始めたのだった。

 キャスリンは話を聞いて言葉も出なかった。きっと猛毒とはガオミールの事だろう。しかもその実験に人間を使っていたのだ。先ほど通ってきたあの豪華な廊下を思い浮かべて、怒りが込み上げてきたキャスリンだった。
 
 
 
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