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キャスリンと父スコットの話

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 キャスリンは父の執務室で、第二王子メルビスとキーラ妃の処遇を聞いた。

 「よかったのかい?これで。キャスリン、君が持ってきたハビセル侯爵が書いた手紙、あれを理由にキーラ妃を断罪できることもできたんだよ。それにメルビス王子にしてもそうだ。前の人生であんなつらい思いをしたのに」

 父スコットは、王にハビセル侯爵が書いた手紙と賭博場の証拠を出すときにあることを要望したのだった。キャスリンの訴えが無かったら、父親であるスコットは決してハビセル侯爵だけでなくキーラ妃やメルビス王子を許すことはなかった。それどころか断罪するように王に進言していたことだろう。

 「お父様、私もついこの前までは、イソベラやメルビス第二王子そしてキーラ妃を許せませんでしたわ。でもイソベラやシムそしてバスク達の過去、未来を視た時に考えが変わったんです。ハビセル侯爵は自分の私利私欲のために行動したのですから今でもとても許せませんけど、キーラ妃は同情の余地があると思ったのです」

 「キーラ妃にどんな同情の余地があるのかい?猛毒ガオミールを飲ませたのは、きっとキーラ妃の差し金に違いないんだよ」

 「そうですわね。でもキーラ妃だって好き好んで王の側妃になったわけじゃないんだと思ったんです。だって彼女には好きな方がいたんですもの。でも自分や息子であるメルビス王子を守るためにどんどん歪んでいったんですわ。ハビセル侯爵によって」

 「キーラ妃は、側妃になりたがっていたとばかり思っていたよ」

 「まあ、お父様まで本当に思っていらしたの?キーラ妃が側妃になったのはハビセル侯爵の差し金ですわね、きっと。たぶんキーラ妃だって最初はごく普通の結婚をなさりたかったと思うんです。だって王にはもう最愛の王妃がいらっしゃいましたよね」

 キャスリンの言葉に父スコットは目を丸くした。とても12歳とは思えない。そうだった。今自分の目の前にいるのは12歳の姿をした娘だが、前の人生では17歳にして一度毒殺されるという普通ではありえないほどのつらいことを経験した娘なのだ。キャスリンは自分の言葉に父のスコットがびっくりしたのを知って、もっと驚かせる発言をした。

 「お父様、お父様はお母様一筋ですから気づきもしなかったんでしょうけど、キーラ妃はずっとお父様の事がお好きでしたのよ。前の人生で私を毛嫌いしてあんな目に合わせたのも、嫉妬からきたことかもしれません。だってわたくしお母様にそっくりといわれておりますもの。きっとわたしを私を見るたびに、好きな男性をとったお母様の事を思い出していたに違いありませんわ」

 「えっ、そうなのかい?」

 父スコットは、先ほどとは違う驚きに包まれていた。そういえばと父スコットは思い出したことがあった。結婚する前いやいやいったパーティーで、婚約者候補として一緒にワルツを踊った時のキーラ妃の笑顔。本当に楽しそうだった。もしミシェルの事が無かったら、彼女に惹かれていたかもしれない。あの時には、自分に媚びを売っているだけだと思い込んでいたが、もしかしたらあの姿こそが彼女の本当の姿だったのかもしれない。あの時のキーラ妃は、まだただの内気な可憐なただの少女だったのかもしれないと今更ながらに気が付いたのだった。
 キャスリンは、急に遠い目をした父スコットに、やはり思い当たることがあるのかと確信したのだった。

 「お父様、今はお母様がいらっしゃるんだから、浮気はだめですよ。それにお母様は、いまだにおモテになりますわよ。お父様がちょっとでもよそ見をしたら、すぐにかっさわれてしまいますわよ」

 キャスリンは、父スコットにそう釘をさすことを忘れなかった。娘にそういわれた父スコットは、妻を溺愛しているので、娘の聞き捨てならない言葉に嫉妬して、先ほどまで思い出していたキーラ妃の事はすっかり忘れてしまったのだった。
 そんな嫉妬の目をした父親を見てよかったわとほくそ笑んだキャスリンだった。

 「お父様、それより謎の商会の事ですけど、やはりあの商会の後ろにはペジタ国がいたんですよね。ハビセル侯爵家からもペジタ国とのつながりを示すものが出てきたんですよね?」

 急に話を変えたキャスリンに、父スコットも国に携わる者の顔になった。

 「そうなんだよ。ハビセル侯爵は、ペジタ国からお金の援助を受けていた。ハビセル侯爵領ではここ何年も不作に見舞われたせいで、財政がひっ迫していたようなんだ。賭博場の運営も元はといえばペジタ国からの支援を受けていたらしい。ペジタ国はこの国に入り込んで、自分の手足となるものを探していたんだな。そしてハビセル侯爵がまんまとペジタ国の策略に落ちたというわけだ」

 「恐ろしい国ですね。ペジタ国というのは」

 キャスリンは父スコットの話を聞きながら、アシュイラ皇国の事を思い出した。
 ーやり方が似ているのよね。やっぱり一度ペジタ国に行ってみたいわね。キャスリンはそう思ったのだった。



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