59 / 91
ハビセル侯爵のあせり
しおりを挟む
キャスリンは、それから毎日ハビセル侯爵邸のハビセル侯爵の執務室にいった。はじめの頃こそ別段ハビセル侯爵はいつもと同じようにしていたが、3、4日たった頃からハビセル侯爵の様子が、今までと明らかに違ってきた。執務室でもイライラするようになり、使用人や執事に当たることも多くなってきたのである。
キャスリンはその様子をずっと見ていたが、自分の屋敷に戻った時マークに言った。
「お父様にお願いしたいことがあるのよ。お父様にお会いしたいわ」
マークはすぐにダイモック公爵当主であるキャスリンの父スコットに連絡をした。父のスコットはすぐに自分の執務室にキャスリンを呼んだ。
「何か話があると聞いたんだが」
「お父様、あの噂効いてきたようですわよ。王にあのお手紙を見てもらって、王自らということにして調べていただきたいの。その時にはまた連絡させていただきますわね。たぶんあと数日で片付くと思うわ」
「そうなのかい。じゃあ直ぐでもに王にはまずあの手紙を見てもらって、いつでも対処できるように手配していただこう」
キャスリンは父スコットの言葉に満足した。
「あとお父様、ちょっと助けてもらいたい人たちがいるの。お願いできるかしら」
「わかった、何でもするよ」
父スコットの言葉にキャスリンは、ドレスの下に隠した手紙を王宮に運んだ侍女とその家族の保護を頼んだのだった。
ちょうどキャスリンがマークに依頼して一週間たった時だった。キャスリンがいつものようにハビセル侯爵邸の執務室に転移すると、ハビセル侯爵が執事に怒鳴っていた。
「賭博場の事が噂になってるぞ。ちゃんとやってるんだろうな」
「はい、今は賭博場を封鎖しております。それにつきましては、何の証拠もないかと。それより大変なことが...」
「なんだ!大変なことって!」
「実はこの前キーラ妃様にあてた旦那様の手紙が紛失していたようなんです」
「なんだって!!!どういうことだ!」
「賭博場のうわさが出てから、キーラ妃様にも目立つ動きを差し控えていただくようお伝えしましたところ、この前旦那様がキーラ妃様に当てた手紙をキーラ妃様は知らなかったのです」
「ちゃんと届けたんだろうな」
「はい、いつものように侍女にドレスに紛れ込ませて王宮に運ばせました」
「じゃあなんでだ!」
「キーラ妃様に届いていないことがわかってすぐ、あの侍女を探して聞こうとしたんですが、昨日からその侍女が見つからないんです」
「どこかに逃げたのか?」
「はい、たぶん...」
「その侍女の実家は探したのか?」
「それが...。その侍女の実家ですが、賭博場で金を使い込んだ父親の代わりにこちらで働かせていたんですが、使い込む元となった侍女の弟の病気がひどくなって、その弟は死んでしまったらしいのです。その父親も将来を悲観して死んでしまったらしく、侍女にはもう行くところがないのでどこに行ったのか皆目見当がつかないのです」
「一体何やってるんだ!!!」
ハビセル侯爵はあまりの怒りに、机の上にあったものを執事にめがけて投げつけた。執事はそれが顔面に当たって顔を抑えた。
「どうするんだ!あの男に連絡を取ろうにも、あの商会はもぬけの殻になっていたし、しかもあそこは王直轄の部隊が調べていたというじゃないか!このままではわがハビセル侯爵家が終わってしまうではないか!早く行け、この屑!早く侍女を探し出せ!」
執事は顔を抑えたまま部屋を後にした。
執事が部屋から出るとすぐハビセル侯爵は後ろの棚のところにいった。棚に飾ってあるものをすべて取り除くと、棚の奥の方に指ひとつ分入る隙間があった。ハビセル侯爵がその隙間に指を入れると、棚が静かに動いて奥へ続く道があった。
ハビセル侯爵は、その奥へと向かう。キャスリンもそのあとをつけていった。どうやらここはもう一つの隠し部屋になっているらしい。しかもその部屋の奥にはまだ細い道が続いており、万が一この侯爵邸が攻撃されたりした時には、逃げるためのどこかに続く隠し通路の役目も果たしているようだ。
ハビセル侯爵は、奥へ続く道には行かずその手前の横にある箱を動かした。するとその箱の下にも隠し部屋があり、ハビセル侯爵はそこに入っていった。そこは小さいながらも棚があり書類がいろいろ保管されていた。ハビセル侯爵はそれを一つ手に取って見た。
「これは大丈夫だ。ちゃんとここにある」
ハビセル侯爵はそうつぶやくと、また書類を棚に戻して部屋から出ていき執務室に戻っていった。棚に飾ってあるものもきちんと元の場所に戻している。
「大丈夫だ。賭博場の証拠なんか見つかるはずがない。ハッハッハッ」
ハビセル侯爵は、自分に言い聞かせるようにそうつぶやくと笑ったが、キャスリンにはその笑いがむなしく聞こえた。
キャスリンは満足そうな笑みを浮かべると、自分の屋敷に戻っていった。
キャスリンは自分の屋敷に戻るとすぐまたマークを探した。キャスリンの喜々とした顔を見たマークは、これから忙しくなることを予感したのだった。
キャスリンはその様子をずっと見ていたが、自分の屋敷に戻った時マークに言った。
「お父様にお願いしたいことがあるのよ。お父様にお会いしたいわ」
マークはすぐにダイモック公爵当主であるキャスリンの父スコットに連絡をした。父のスコットはすぐに自分の執務室にキャスリンを呼んだ。
「何か話があると聞いたんだが」
「お父様、あの噂効いてきたようですわよ。王にあのお手紙を見てもらって、王自らということにして調べていただきたいの。その時にはまた連絡させていただきますわね。たぶんあと数日で片付くと思うわ」
「そうなのかい。じゃあ直ぐでもに王にはまずあの手紙を見てもらって、いつでも対処できるように手配していただこう」
キャスリンは父スコットの言葉に満足した。
「あとお父様、ちょっと助けてもらいたい人たちがいるの。お願いできるかしら」
「わかった、何でもするよ」
父スコットの言葉にキャスリンは、ドレスの下に隠した手紙を王宮に運んだ侍女とその家族の保護を頼んだのだった。
ちょうどキャスリンがマークに依頼して一週間たった時だった。キャスリンがいつものようにハビセル侯爵邸の執務室に転移すると、ハビセル侯爵が執事に怒鳴っていた。
「賭博場の事が噂になってるぞ。ちゃんとやってるんだろうな」
「はい、今は賭博場を封鎖しております。それにつきましては、何の証拠もないかと。それより大変なことが...」
「なんだ!大変なことって!」
「実はこの前キーラ妃様にあてた旦那様の手紙が紛失していたようなんです」
「なんだって!!!どういうことだ!」
「賭博場のうわさが出てから、キーラ妃様にも目立つ動きを差し控えていただくようお伝えしましたところ、この前旦那様がキーラ妃様に当てた手紙をキーラ妃様は知らなかったのです」
「ちゃんと届けたんだろうな」
「はい、いつものように侍女にドレスに紛れ込ませて王宮に運ばせました」
「じゃあなんでだ!」
「キーラ妃様に届いていないことがわかってすぐ、あの侍女を探して聞こうとしたんですが、昨日からその侍女が見つからないんです」
「どこかに逃げたのか?」
「はい、たぶん...」
「その侍女の実家は探したのか?」
「それが...。その侍女の実家ですが、賭博場で金を使い込んだ父親の代わりにこちらで働かせていたんですが、使い込む元となった侍女の弟の病気がひどくなって、その弟は死んでしまったらしいのです。その父親も将来を悲観して死んでしまったらしく、侍女にはもう行くところがないのでどこに行ったのか皆目見当がつかないのです」
「一体何やってるんだ!!!」
ハビセル侯爵はあまりの怒りに、机の上にあったものを執事にめがけて投げつけた。執事はそれが顔面に当たって顔を抑えた。
「どうするんだ!あの男に連絡を取ろうにも、あの商会はもぬけの殻になっていたし、しかもあそこは王直轄の部隊が調べていたというじゃないか!このままではわがハビセル侯爵家が終わってしまうではないか!早く行け、この屑!早く侍女を探し出せ!」
執事は顔を抑えたまま部屋を後にした。
執事が部屋から出るとすぐハビセル侯爵は後ろの棚のところにいった。棚に飾ってあるものをすべて取り除くと、棚の奥の方に指ひとつ分入る隙間があった。ハビセル侯爵がその隙間に指を入れると、棚が静かに動いて奥へ続く道があった。
ハビセル侯爵は、その奥へと向かう。キャスリンもそのあとをつけていった。どうやらここはもう一つの隠し部屋になっているらしい。しかもその部屋の奥にはまだ細い道が続いており、万が一この侯爵邸が攻撃されたりした時には、逃げるためのどこかに続く隠し通路の役目も果たしているようだ。
ハビセル侯爵は、奥へ続く道には行かずその手前の横にある箱を動かした。するとその箱の下にも隠し部屋があり、ハビセル侯爵はそこに入っていった。そこは小さいながらも棚があり書類がいろいろ保管されていた。ハビセル侯爵はそれを一つ手に取って見た。
「これは大丈夫だ。ちゃんとここにある」
ハビセル侯爵はそうつぶやくと、また書類を棚に戻して部屋から出ていき執務室に戻っていった。棚に飾ってあるものもきちんと元の場所に戻している。
「大丈夫だ。賭博場の証拠なんか見つかるはずがない。ハッハッハッ」
ハビセル侯爵は、自分に言い聞かせるようにそうつぶやくと笑ったが、キャスリンにはその笑いがむなしく聞こえた。
キャスリンは満足そうな笑みを浮かべると、自分の屋敷に戻っていった。
キャスリンは自分の屋敷に戻るとすぐまたマークを探した。キャスリンの喜々とした顔を見たマークは、これから忙しくなることを予感したのだった。
3
お気に入りに追加
2,306
あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。

婚約破棄で見限られたもの
志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。
すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥
よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。

婚約破棄を求められました。私は嬉しいですが、貴方はそれでいいのですね?
ゆるり
恋愛
アリシエラは聖女であり、婚約者と結婚して王太子妃になる筈だった。しかし、ある少女の登場により、未来が狂いだす。婚約破棄を求める彼にアリシエラは答えた。「はい、喜んで」と。

悪女と呼ばれた死に戻り令嬢、二度目の人生は婚約破棄から始まる
冬野月子
恋愛
「私は確かに19歳で死んだの」
謎の声に導かれ馬車の事故から兄弟を守った10歳のヴェロニカは、その時に負った傷痕を理由に王太子から婚約破棄される。
けれど彼女には嫉妬から破滅し短い生涯を終えた前世の記憶があった。
なぜか死に戻ったヴェロニカは前世での過ちを繰り返さないことを望むが、婚約破棄したはずの王太子が積極的に親しくなろうとしてくる。
そして学校で再会した、馬車の事故で助けた少年は、前世で不幸な死に方をした青年だった。
恋や友情すら知らなかったヴェロニカが、前世では関わることのなかった人々との出会いや関わりの中で新たな道を進んでいく中、前世に嫉妬で殺そうとまでしたアリサが入学してきた。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

噂の悪女が妻になりました
はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。
国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。
その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。

【完結】貴方の後悔など、聞きたくありません。
なか
恋愛
学園に特待生として入学したリディアであったが、平民である彼女は貴族家の者には目障りだった。
追い出すようなイジメを受けていた彼女を救ってくれたのはグレアルフという伯爵家の青年。
優しく、明るいグレアルフは屈託のない笑顔でリディアと接する。
誰にも明かさずに会う内に恋仲となった二人であったが、
リディアは知ってしまう、グレアルフの本性を……。
全てを知り、死を考えた彼女であったが、
とある出会いにより自分の価値を知った時、再び立ち上がる事を選択する。
後悔の言葉など全て無視する決意と共に、生きていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる