大切なあのひとを失ったこと絶対許しません

にいるず

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ハビセル侯爵のあせり

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 キャスリンは、それから毎日ハビセル侯爵邸のハビセル侯爵の執務室にいった。はじめの頃こそ別段ハビセル侯爵はいつもと同じようにしていたが、3、4日たった頃からハビセル侯爵の様子が、今までと明らかに違ってきた。執務室でもイライラするようになり、使用人や執事に当たることも多くなってきたのである。
 キャスリンはその様子をずっと見ていたが、自分の屋敷に戻った時マークに言った。

 「お父様にお願いしたいことがあるのよ。お父様にお会いしたいわ」

 マークはすぐにダイモック公爵当主であるキャスリンの父スコットに連絡をした。父のスコットはすぐに自分の執務室にキャスリンを呼んだ。

 「何か話があると聞いたんだが」

 「お父様、あの噂効いてきたようですわよ。王にあのお手紙を見てもらって、王自らということにして調べていただきたいの。その時にはまた連絡させていただきますわね。たぶんあと数日で片付くと思うわ」

 「そうなのかい。じゃあ直ぐでもに王にはまずあの手紙を見てもらって、いつでも対処できるように手配していただこう」
 
 キャスリンは父スコットの言葉に満足した。

 「あとお父様、ちょっと助けてもらいたい人たちがいるの。お願いできるかしら」

 「わかった、何でもするよ」

 父スコットの言葉にキャスリンは、ドレスの下に隠した手紙を王宮に運んだ侍女とその家族の保護を頼んだのだった。


 
 ちょうどキャスリンがマークに依頼して一週間たった時だった。キャスリンがいつものようにハビセル侯爵邸の執務室に転移すると、ハビセル侯爵が執事に怒鳴っていた。

 「賭博場の事が噂になってるぞ。ちゃんとやってるんだろうな」

 「はい、今は賭博場を封鎖しております。それにつきましては、何の証拠もないかと。それより大変なことが...」

 「なんだ!大変なことって!」

 「実はこの前キーラ妃様にあてた旦那様の手紙が紛失していたようなんです」

 「なんだって!!!どういうことだ!」

 「賭博場のうわさが出てから、キーラ妃様にも目立つ動きを差し控えていただくようお伝えしましたところ、この前旦那様がキーラ妃様に当てた手紙をキーラ妃様は知らなかったのです」

 「ちゃんと届けたんだろうな」

 「はい、いつものように侍女にドレスに紛れ込ませて王宮に運ばせました」

 「じゃあなんでだ!」

 「キーラ妃様に届いていないことがわかってすぐ、あの侍女を探して聞こうとしたんですが、昨日からその侍女が見つからないんです」

 「どこかに逃げたのか?」

 「はい、たぶん...」

 「その侍女の実家は探したのか?」

 「それが...。その侍女の実家ですが、賭博場で金を使い込んだ父親の代わりにこちらで働かせていたんですが、使い込む元となった侍女の弟の病気がひどくなって、その弟は死んでしまったらしいのです。その父親も将来を悲観して死んでしまったらしく、侍女にはもう行くところがないのでどこに行ったのか皆目見当がつかないのです」

 「一体何やってるんだ!!!」 

 ハビセル侯爵はあまりの怒りに、机の上にあったものを執事にめがけて投げつけた。執事はそれが顔面に当たって顔を抑えた。

 「どうするんだ!あの男に連絡を取ろうにも、あの商会はもぬけの殻になっていたし、しかもあそこは王直轄の部隊が調べていたというじゃないか!このままではわがハビセル侯爵家が終わってしまうではないか!早く行け、この屑!早く侍女を探し出せ!」

 執事は顔を抑えたまま部屋を後にした。

 執事が部屋から出るとすぐハビセル侯爵は後ろの棚のところにいった。棚に飾ってあるものをすべて取り除くと、棚の奥の方に指ひとつ分入る隙間があった。ハビセル侯爵がその隙間に指を入れると、棚が静かに動いて奥へ続く道があった。
 ハビセル侯爵は、その奥へと向かう。キャスリンもそのあとをつけていった。どうやらここはもう一つの隠し部屋になっているらしい。しかもその部屋の奥にはまだ細い道が続いており、万が一この侯爵邸が攻撃されたりした時には、逃げるためのどこかに続く隠し通路の役目も果たしているようだ。
 ハビセル侯爵は、奥へ続く道には行かずその手前の横にある箱を動かした。するとその箱の下にも隠し部屋があり、ハビセル侯爵はそこに入っていった。そこは小さいながらも棚があり書類がいろいろ保管されていた。ハビセル侯爵はそれを一つ手に取って見た。

 「これは大丈夫だ。ちゃんとここにある」

 ハビセル侯爵はそうつぶやくと、また書類を棚に戻して部屋から出ていき執務室に戻っていった。棚に飾ってあるものもきちんと元の場所に戻している。

 「大丈夫だ。賭博場の証拠なんか見つかるはずがない。ハッハッハッ」

 ハビセル侯爵は、自分に言い聞かせるようにそうつぶやくと笑ったが、キャスリンにはその笑いがむなしく聞こえた。

 キャスリンは満足そうな笑みを浮かべると、自分の屋敷に戻っていった。

 キャスリンは自分の屋敷に戻るとすぐまたマークを探した。キャスリンの喜々とした顔を見たマークは、これから忙しくなることを予感したのだった。
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