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王宮でキーラ側妃に会う
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キャスリンと父のスコットは王宮に着いた。ながい廊下を歩いていく。キャスリンはここは相変わらず荘厳だわと前の人生でも歩いた廊下を歩きながらしみじみ思った。
しかし一つ違っているところがあった。すれ違う人々の顔が笑顔だった。父のスコットに皆挨拶していくのだが、誰もが悲しみを一切感じさせない明るい顔をしている。あの時には王家の人たちが立て続けに不幸が訪れたから仕方ないにしても、あまりに違いすぎるわね。やっぱり上に立つものでずいぶん変わるのねと感心した時だった。前の方から見知った顔が歩いてくるのが見えた。
「ご機嫌はいかが、スコット様」
「ありがとうございます。キーラ側妃様に置きましても、いつもと変わらずお美しくいらっしゃる」
父のスコットが立ち止まって挨拶を交わす相手は、キャスリンの前の人生での婚約者であった第二王子の母であるキーラ側妃だった。キーラ側妃の実家はハビセル侯爵家であり、ハビセル侯爵家当主ロングの妹に当たる。
キャスリンは頭を下げる前にちらっとキーラ妃を見た。やはり少し若い。だがそれよりも父のスコットと話しているキーラ妃を見てびっくりした。あまりに顔の表情が柔らかいのだ。キャスリンが覚えているのは、つんと澄ましている少しきつい表情のキーラ妃だったのでこれにはびっくりした。キャスリンがびっくりしていると、頭の上で声がした。
「こちらにいらっしゃるのは?」
「はい、娘のキャスリンでございます」
「キャスリンと申します」
キャスリンはキーラ妃に挨拶をした。
「まあお行儀が良いこと。奥様にそっくりね」
笑顔で言ったキーラ妃だったが、キャスリンは確かに見た。キーラ妃の目が笑っていなかったのを。それより何か憎しみのようなものを感じた。そしてその目に既視感を覚えたのだった。
「では」
「はい、失礼します」
父のスコットはもう一度キーラ妃にお辞儀をして、キャスリンと父のスコットは王宮の王の間に向かうことにした。キャスリンは先ほど見たキーラ妃の目が忘れられなかった。
王の間に着くと、扉が開けられそこには王と王妃がいた。王妃が父スコットより先に言ってきた。
「まあキャスリン、大きくなって」
キャスリンがお辞儀すると、王妃が優しい目で見ていた。
「本当に大きくなったな。スコットこれから大変だなあ」
王が父スコットを見て笑った。
「そうね、キャスリンはあなたの奥さん似だから、これから大変よ。いいお相手に巡り合うといいわね」
王と王妃は、どうやらキャスリンの未来の旦那様について話しているようだった。
「まだキャスリンの相手はどなたも考えておりません」
父スコットが王を王妃に向かってにらみつけるように言った。これには王と王妃も笑うしかなかった。
「冷酷なダイモック公爵も娘の事になると形無しだなあ」
父スコットが苦虫をつぶしたような顔をしたので、余計二人が笑ったのだった。キャスリンは思った。平和だわ~と。王と王妃を目の当たりにしてこの国の将来に安心した。前の人生ではこの間には側妃であるキーラ妃と第二王子メルビスがふんずりかえって座っていた。上に立つ人たちでこうも雰囲気が変わるのね。キャスリンはハビセル侯爵が本当に許せなくなったのだった。
帰りの馬車でキャスリンは、父であるスコットに聞いてみた。
「ねえお父様、お父様はキーラ妃と親しかったの?」
そう聞いたキャスリンに父であるスコットは目を丸くした。
「どうしてそう思うのかね?」
「だって今日お父様とお話しされていたキーラ妃の顔は、柔和な顔をしていたわ。私の知っているキーラ妃はもっときつかったもの」
父スコットはしばらく何か考えていたが、キャスリンに打ち明けることにしたようだった。
「実はね、キーラ妃は私の婚約者候補の一人だったのだよ」
「そうなの?」
「ああ、ただミシェル君のお母さんと私は幼馴染だったからね。ふたりで子供の時から結婚の約束をしていたんだ。だから周りにはハビセル侯爵家とわがダイモック公爵家が親戚になると、貴族の勢力図が変わってしまうと噂を流してね、私はミシェルと一緒になることができたんだよ。今まで生きてきた中で一番の作戦だったよ」
父スコットはそう笑っていったが、キャスリンは思った。キーラ妃が父スコットを見る目、もしかしたら父スコットを好きだったのかもしれない。だから母に似た私が嫌いだったのね。そう考えると、妙に納得することがたくさんあった。前の人生の時、ハビセル侯爵家からの縁談といいつつもキーラ妃のキャスリンを見る目はいつも冷たかった。いや今ならわかる。たぶんあれは憎しみのこもった目だった。
そしてすごく重大なことに気が付いた。そうだわ私が飲んだあの猛毒。ストラ男爵家にはなかった。ストラ男爵からは隣国ペジタ国と関係する物や人は一切見つかっていない。ではどうやってあれを手に入れたのか。やはりハビセル侯爵しかいない。ハビセル侯爵はもうこの時点で何かペジタ国と接点があるのではないだろうか。もしその証拠さえ手に入れればハビセル侯爵家をつぶすことができる。
キャスリンは王都にあったハビセル侯爵邸を思い出して、力がみなぎるのを感じたのだった。
しかし一つ違っているところがあった。すれ違う人々の顔が笑顔だった。父のスコットに皆挨拶していくのだが、誰もが悲しみを一切感じさせない明るい顔をしている。あの時には王家の人たちが立て続けに不幸が訪れたから仕方ないにしても、あまりに違いすぎるわね。やっぱり上に立つものでずいぶん変わるのねと感心した時だった。前の方から見知った顔が歩いてくるのが見えた。
「ご機嫌はいかが、スコット様」
「ありがとうございます。キーラ側妃様に置きましても、いつもと変わらずお美しくいらっしゃる」
父のスコットが立ち止まって挨拶を交わす相手は、キャスリンの前の人生での婚約者であった第二王子の母であるキーラ側妃だった。キーラ側妃の実家はハビセル侯爵家であり、ハビセル侯爵家当主ロングの妹に当たる。
キャスリンは頭を下げる前にちらっとキーラ妃を見た。やはり少し若い。だがそれよりも父のスコットと話しているキーラ妃を見てびっくりした。あまりに顔の表情が柔らかいのだ。キャスリンが覚えているのは、つんと澄ましている少しきつい表情のキーラ妃だったのでこれにはびっくりした。キャスリンがびっくりしていると、頭の上で声がした。
「こちらにいらっしゃるのは?」
「はい、娘のキャスリンでございます」
「キャスリンと申します」
キャスリンはキーラ妃に挨拶をした。
「まあお行儀が良いこと。奥様にそっくりね」
笑顔で言ったキーラ妃だったが、キャスリンは確かに見た。キーラ妃の目が笑っていなかったのを。それより何か憎しみのようなものを感じた。そしてその目に既視感を覚えたのだった。
「では」
「はい、失礼します」
父のスコットはもう一度キーラ妃にお辞儀をして、キャスリンと父のスコットは王宮の王の間に向かうことにした。キャスリンは先ほど見たキーラ妃の目が忘れられなかった。
王の間に着くと、扉が開けられそこには王と王妃がいた。王妃が父スコットより先に言ってきた。
「まあキャスリン、大きくなって」
キャスリンがお辞儀すると、王妃が優しい目で見ていた。
「本当に大きくなったな。スコットこれから大変だなあ」
王が父スコットを見て笑った。
「そうね、キャスリンはあなたの奥さん似だから、これから大変よ。いいお相手に巡り合うといいわね」
王と王妃は、どうやらキャスリンの未来の旦那様について話しているようだった。
「まだキャスリンの相手はどなたも考えておりません」
父スコットが王を王妃に向かってにらみつけるように言った。これには王と王妃も笑うしかなかった。
「冷酷なダイモック公爵も娘の事になると形無しだなあ」
父スコットが苦虫をつぶしたような顔をしたので、余計二人が笑ったのだった。キャスリンは思った。平和だわ~と。王と王妃を目の当たりにしてこの国の将来に安心した。前の人生ではこの間には側妃であるキーラ妃と第二王子メルビスがふんずりかえって座っていた。上に立つ人たちでこうも雰囲気が変わるのね。キャスリンはハビセル侯爵が本当に許せなくなったのだった。
帰りの馬車でキャスリンは、父であるスコットに聞いてみた。
「ねえお父様、お父様はキーラ妃と親しかったの?」
そう聞いたキャスリンに父であるスコットは目を丸くした。
「どうしてそう思うのかね?」
「だって今日お父様とお話しされていたキーラ妃の顔は、柔和な顔をしていたわ。私の知っているキーラ妃はもっときつかったもの」
父スコットはしばらく何か考えていたが、キャスリンに打ち明けることにしたようだった。
「実はね、キーラ妃は私の婚約者候補の一人だったのだよ」
「そうなの?」
「ああ、ただミシェル君のお母さんと私は幼馴染だったからね。ふたりで子供の時から結婚の約束をしていたんだ。だから周りにはハビセル侯爵家とわがダイモック公爵家が親戚になると、貴族の勢力図が変わってしまうと噂を流してね、私はミシェルと一緒になることができたんだよ。今まで生きてきた中で一番の作戦だったよ」
父スコットはそう笑っていったが、キャスリンは思った。キーラ妃が父スコットを見る目、もしかしたら父スコットを好きだったのかもしれない。だから母に似た私が嫌いだったのね。そう考えると、妙に納得することがたくさんあった。前の人生の時、ハビセル侯爵家からの縁談といいつつもキーラ妃のキャスリンを見る目はいつも冷たかった。いや今ならわかる。たぶんあれは憎しみのこもった目だった。
そしてすごく重大なことに気が付いた。そうだわ私が飲んだあの猛毒。ストラ男爵家にはなかった。ストラ男爵からは隣国ペジタ国と関係する物や人は一切見つかっていない。ではどうやってあれを手に入れたのか。やはりハビセル侯爵しかいない。ハビセル侯爵はもうこの時点で何かペジタ国と接点があるのではないだろうか。もしその証拠さえ手に入れればハビセル侯爵家をつぶすことができる。
キャスリンは王都にあったハビセル侯爵邸を思い出して、力がみなぎるのを感じたのだった。
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