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ストラ男爵夫婦の終わり

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 キャスリンはいつまでも男爵夫人の高笑いが耳について離れなかった。ここ最近忙しかったので疲れていたのだろう。

 決行は翌日にすることにした。朝からストラ男爵のもとへ転移する。ストラ男爵はと魔法で探すと、ストラ男爵はまだ寝ているようであった。キャスリンはストラ男爵の枕元へ行った。男爵は何やら食べる夢を見ているのか口をもぐもぐしていた。
 キャスリンはストラ男爵に魔法をかけた。

 
 ストラ男爵は、おいしい料理を食べていた。

 「うまい、うまい」

 急に男爵の前のおいしい料理が忽然と消えてしまった。いや今までいたダイニングではないところにいる。急に臭いにおいが鼻を突いた。変な音までする。

 「ブヒィブヒィ」

 なんだここは!と言おうとしたが、自分の口から出たのは先ほど聞こえたブヒィブヒィという言葉だった。慌てて自分の姿を見ようとしたが、首がうまく曲がらない。頑張って下を向くと、豚の足が見える。なんだ?ともう一度見たが、いくら見ても豚の足しか見えない。

 「ブヒィ___!」

 ストラ男爵は思わず叫び声をあげてしまったが、自分の耳に聞こえてきたのは豚の鳴き声だった。ストラ男爵が混乱している間に、男がやってきた。

 「やけにうるさいな。あれ、きょう出荷したばかりなのに一頭残ってるぞ。やけにまるまるしているやつだなあ。こんな奴いたか?」

 男はしきりに首をかしげているが、にんまりと笑った。

 「こいつは丸々してるし、ストラ男爵もさぞ喜ぶだろうよ。こんなに肥えてまるでお前はストラ男爵のようだな」

 男はそう言って何がおかしいのか一人で笑い始めた。ストラ男爵は男に向かってどなろうと思ったが、口から出たのは泣き声だけだった。

 「ブヒィ___!」

 「なんだお前、ストラ男爵と言われて怒ったのか。そうだな、あいつは豚にも劣るやつだからな。ほんとあいつは!」

 男はそう言って豚になったストラ男爵に縄をかけると、ほかの豚たちがいる豚舎に運ぼうとした。しかしストラ男爵豚は動こうとしない。

 「何やってんだお前、さっさっと動け」
 
 「ブヒィ___!」
 
 男に何度も蹴りを入れられストラ男爵豚は、泣き叫びながらいやいやほかの豚たちがいるところへ連れていかれた。そこは明日出荷される豚たちがぎゅうぎゅうに押し込められていて、ストラ男爵豚はたまらなく嫌だった。ストラ男爵豚が、あたりを見渡すと端っこのほうで一頭だけ震えて縮こまっている豚がいた。好奇心でそちらに歩いていくと、声が聞こえた。

 「いやだ、いやだ、これは夢だわ。誰か助けて___」

 確かに人間の声が聞こえる。ストラ男爵豚はその豚に話しかけた。

 「おいお前、私の言葉がわかるか?」

 隅っこで縮こまっている豚は、急に話しかけられてぼ~とした目で声のほうを見た。人間の声はするが、目の前にいるのはどう見ても肥えた豚にしか見えない。

 「いや!___助けて!___」

 「おい!おい!お前俺の言葉がわかるか」

 ストラ男爵豚が泣き叫んでいるように見える豚に話しかけた。泣き叫んでいた豚は、ようやく落ち着くと、ストラ男爵豚のほうを見た。

 「助けて!何が何だかわからないの。私は男爵夫人よ。どうしてこんなところにいるの?ねえ何でよ!」

 ストラ男爵豚にそう言っている間にまた興奮してきたようで、最後のほうはやはり叫んでいた。ストラ男爵豚はといえば、目の前の豚が言った言葉に唖然としていた。この豚はまさか、自分の妻であるカミラではないのか、まさか。ただ言葉がついて出た。

 「お前カミラか?」

 自分の名前を呼ばれた豚は、泣き叫んでいたのも忘れてびっくりして目の前の豚にしか見えないものを見た。

 「まさか、あなたなの?」

 「そうだ、お前の旦那だよ」

 男爵夫人豚は、今まで打ちひしがれていたのに急に立ち上がると、男爵豚に突撃していった。

 「ああぁぁぁ____」

 ストラ男爵豚は、男爵夫人豚に突撃されて柵にぶつかって転がってしまった。

 「痛いな___!何やってるんだ!!」

 ストラ男爵豚が、男爵夫人豚に怒りをぶちまけた。

 「あんたのせいでこうなったのよ__!あんたが悪いことばっかりしているから」

 「なんだって!お前だって俺より悪いことをしていたじゃないか。俺が知らないとでも思っているのか!」

 今度はストラ男爵豚が、立ち上がり男爵夫人豚めがけて突進した。今度は男爵夫人豚が柵に激突して、脇腹から血が出た。こうして朝が来るまで二頭の豚は攻撃しあい、男が豚舎に行った時には二頭の豚は傷だらけになっていた。

 「何やってんだ、お前たち」

 「ブヒィ___!」

 「ブヒィ___!」

 二頭の豚は傷だらけにもかかわらず男に鳴いてきた。そしてあろうことか男のところに二頭同時に突撃してきたのだ。ただ男はこの豚舎で働いて長い。乱暴な豚には慣れている。直ぐに二頭ともに蹴りを入れておとなしくさせた。

 「しょうがない奴らだ。お前らから馬車に運ぶとするか」

 男は豚を運ぶ馬車に縄を付けて二頭を運んでいった。途中すごい反抗を示したが男の手にかかればたやすいことだ。豚は泣き叫びながら馬車に乗せられた。どこに向かうか豚たちは知っている。その目に涙があふれていたが、誰も見る者はいなかった。

 ストラ男爵は目を覚ました。夢か。なんだ。しかし嫌な気持ちが襲い掛かる。自分の足元を見ると豚の足が見えた。ストラ男爵は泣き叫んだ。

 「ブヒィ___!」

 そして向こうを見ると、見たような光景があった。一頭の豚が隅っこで縮こまっている。しかも何やら声も聞こえる。
 
 「これは夢よ。夢なのよ」

 男爵夫人は呪文のように繰り返していた。こうしてストラ男爵達は永遠の夢を見ることになった。

 

 「旦那様、旦那様。起きてください!」

 「ブヒィ___!」

 ストラ男爵は、眠ったまま起きなくなってしまった。たまに声を出すが出るのは豚の声だ。しかもこの現象は、不思議なことに男爵夫人にも表れた。男爵夫人も眠ったままたまに出るのは豚の声だけ。その様子を見ていた使用人たちが噂しあった。

 「何かの呪いじゃない?」

 「怖いわ~」

 「たった一人いた娘もどこかに消えっちゃったんでしょ」

 使用人たちは男爵達の奇妙な様子におびえはじめ、一人辞め二人辞め、いつの間にか執事も含めて全員が屋敷からいなくなってしまい、眠ったままの男爵たちの世話をする者もいなくなってしまった。
 とうの2人は眠ったまま食べることもしなかったのでとうとう死んでしまった。

 そして後継ぎがいないとされた男爵領は王家に返還されてしまったのだった。

 キャスリンは、その様子を眺めていたがやっと終わったことを確認して帰っていった。
 
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