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バスクの移住

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 キャスリンが計画をすべて話し終えると、おずおずとバスクが聞いてきた。

 「本当にそこまでしていただいてよろしいのでしょうか。私は将来あんなことをするのに」

 「なに言ってるの?バスク。あなたはまだ何にもしてないわよ。クミールに騙されて賭博場にもいってないし。ほらマークだってこの通りピンピンしてるわよ」

 キャスリンは冗談でも言ってバスクの笑いをとろうと思ったのに、余計バスクを縮こまらせてしまう羽目となってしまった。それもそうだろう。バスクは未来ではマークを殺す原因を作るし第一王子の死にも加担しているのだ。
 
 「ねえバスク、すべてあなたの家族に対する思いを悪用したクミールが悪いのよ。だからもしよかったら私たちの案に乗ってくれないかしら」

 「ありがとうございます。本当にありがとうございます」
 
 バスクは目に涙をためて今度は、テーブルに頭をつけんばかりにしてお礼を言った。

 「じゅあご家族にもお話ししましょう」

 そういってキャスリンはこの部屋だけでなくこの家全体に時を止める魔法をかけたのだった。家族はバスクの話にいちもにもなく同意してくれた。特に上の息子アーチャーの喜びようはなかった。やはり子ども心に母親の病気や父親の心労を心配していたようだ。バスクの妻のメリーも自分の病気が治るとあって嬉しそうだった。やはりメリーも自分のせいで家族に迷惑をかけているのがつらかったようだ。
 
 話がまとまりすぐに荷物の整理をしてもらう事にした。マークが一応最低限のものは用意してあるというと、メリーの状態が落ち着いたらまた片づけに来るといって、とりあえずのものだけを持っていくことにしたのだった。アーチャーの弟は遅く起きてきて、家の中が急にあわただしくなったのにびっくりしていた。
 メリーの病気の事もあり、台所はほぼそのままで、洋服だけまとめた家族はまとまって並んだ。

 「じゃあ行くわね」

 その言葉にバスクやほかの家族が戸惑った顔をする中、キャスリンは家族を転移させた。
 
 初めて魔法を見た家族はびっくりしすぎて転移した後も固まっていた。

 「今日からここに住んでもらいます」

 マークの言葉で初めに我に返ったバスクが、油の切れた人形のようにギギギィと音が出そうなほどぎこちなくマークの指すほうを見た。そして目の前のかわいらしい家に目を丸くしていた。

 「今まで住んでいた家より小さくはなりますが、すみませんね」

 マークの言葉に次々に家を見た家族は驚きの声を出し始めた。

 「かわいいおうちね」

 「すげえ~」
 
 「新しいお家だ」

 マークの後ろに家族皆が付いていった。マークがシムの時と同様家の中を案内していく。キャスリンはその間に荷物を転移させた。今回はマークは驚かなかった。

 「元気になったら早くここでいっぱいお料理をしたいわ」

 「僕の部屋だ」

 「僕の部屋もあるぞ」
 
 シムの時と同様、メリーはキッチンに喜び、子ども達は自分だけの部屋に満足していた。その間にキャスリン達はバスクを外に連れ出し話しはじめた。

 「バスク、あそこに見えるでしょ、あそこが薬師の家よ。とてもよく効く薬を作ってくれるの。今日の午後にでもメリーを連れて行ってあげて。大丈夫よくなるわ。それでね、ここの自警団の馬のお世話をお願いしたいのよ。いい?」

 「バスク、まだ起きていないことをくよくよ考えるよりこれからの事を考えよう」

 そういったマークにバスクは涙を潤ませた。

 「私でいいんですか?ありがとうございます。頑張ります」

 バスクはマークの手を取り、泣いてお礼を言っていた。じゃあとキャスリンとマークはバスクの家を後にした。

 


 キャスリンとマークはその足で再びシムの家を訪れた。シムの仕事部屋である小屋のドアをノックする。シムが出てきた。

 「やあマーク、お嬢様こんにちは」

 シムはもう仕事をしていた。仕事といっても薬を作るのではなく、紙に文字を書いていた。どうやら学校で教える教材を作っていたようだった。

 「シム、もう仕事してくれているのね。ありがとう。さっそくなんだけど今日の午後、昨日言ったバスクの奥さんにここに来るよう言ってあるの。悪いけど薬を調合してもらえないかしら」

 「お安い御用ですよ。全力で直しますね」

 初めて見た時とは違い活力にあふれたシムがいた。この様子ではたちどころに病など治りそうだとキャスリンは思った。

 「お嬢様、よかったら家の方にも寄ってくれませんか。妻がクッキーを焼いたんです。よかったらお茶でもどうぞ召し上がっていってくださいませ」
 
 「ありがとう。じゃあ寄らせていただこうかしら」

 「私はここに残ってシムとまだ少し話をしております」

 「そう?じゃあ行ってくるわね」

 キャスリンは小屋を出て、屋敷のドアをノックした。直ぐにイソベラが出てきてキャスリンを家の中に招いてくれた。

 「いらっしゃい、どうぞ」

 イソベラに案内されて居間に通された。イソベラは、クローゼットにあったかわいらしい洋服の一つを着ていて、昨日までとはうってかわって、とてもかわいらしく顔色もよかった。
 キャスリンはその様子を見てうれしくなった。母のアンが手造りクッキーとお茶を出してくれた。イソベラとアルもちょこんと座った。

 「このクッキー、私も少しお手伝いしたのよ」

 キャスリンが一つとってみると、公爵家で普段出されるものとは違い、形はいびつだったが優しい味がした。

 「おいしいわ。ありがとう」

 キャスリンがそういうとイソベラは可憐な笑みを浮かべたのだった。
 




 
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