大切なあのひとを失ったこと絶対許しません

にいるず

文字の大きさ
上 下
45 / 91

イソベラとの対話

しおりを挟む
 翌日朝から、キャスリンとマークはストラ男爵領のシムの家に行くことにした。

 「ねえマーク、マークをシムの家に連れて行ったら、私行きたいところがあるの。いい?」

 「はい、そういうと思っておりました。シムと待っておりますよ。昔話などしながらでも」

 「ありがとう」
 
 キャスリンは、キャスリンの部屋に来たマークに言った。

 マークとともにシムの仕事部屋に転移する。シムは仕事部屋にいて、この前キャスリンが来たときと同じで薬草を煎じていた。しかしこの前ほど驚いてはいなかった。

 「やあシム、来たよ。今から話をしたいんだが、いいかい」

 「今日はマークも一緒なんだね。この前にそちらのお嬢さんから聞いてたよ」

 「私、今から行かなくてはいけないところがあるのですみません。このお部屋、時を止めておきますね。マーク説明お願いね」

 キャスリンは言うが早いが、たちまち消え失せた。
 
 「マークのお嬢さん、どんどん魔法が上手になってるね」

 シムがおもわずマークに感想を漏らすと、マークは複雑そうな顔をしたのだった。

 キャスリンはまたイソベラの部屋に転移した。今度はトウメイニンゲンになっていない。

 「きゃあ~!誰?」

 いつものようにみすぼらしい格好で座り込んでいたイソベラは、突然現れたキャスリンにびっくりして大声を上げた。しかしキャスリンはこうなることを予想して、防音と時を止める魔法をこの部屋に施していた。

 「びっくりさせてごめんなさい。私キャスリンていうの。ダイモック公爵家のものよ」

 一応家庭教師をつけられているイソベラは、ダイモック公爵家の事を知っているのかびっくりしてキャスリンを凝視した。

 「なんであなたみたいな人が、こんなところに来るのよ!」

 「それは、将来あなたにはめられて婚約破棄されて、毒杯を飲んで死ぬからよ」

 キャスリンの話にイソベラは声も出ないようだった。普通なら絶対にそんな突拍子もないことなんか信じるはずもないのだが、こんな急に現れたりすることができるのだ。もしかしたら本当の事かもしれないとイソベラは思った。

 「でもどうしてこんな私が、公爵家のお嬢様にそんなことができるの?」

 キャスリンはそれには答えないで、黒い大きな箱を出した。そしてイソベラにある映像を見せた。それは前回の人生でキャスリンに起こったことだった。
 イソベラはそれを食い入るように眺めていた。

 その映像が終わった後、今度はシムたち家族に起こるはずの未来の映像を流した。シムの将来を見た時の映像だ。
 キャスリンの映像の時にはただ見ていただけだったが、自分たち家族に起こった悲劇を見た時には、大きな声で意味がわからない言葉をいったり、泣き叫んだりした。その映像が流れ終えた時には、イソベラは放心状態だった。

 「今からあなたの未来を見るわ。そしてそれも見せてあげる。それから決めてほしいことがあるの」

 キャスリンはイソベラに魔法をかけ、イソベラが将来たどるはずの未来を見せた。最後の方では、キャスリンの顔色が少し変わったが、固まっているイソベラにはわかるはずもなかった。
 魔法が終わり、イソベラが動けるようになったのを確認して、キャスリンは再び黒い箱にイソベラの未来の映像を流した。
 その映像を見ているイソベラの顔は、なぜか歪んで見えた。

 「どうだった?このままだとあなた、皇太子妃になれるわよ。幸せな未来じゃない?」

 「いやよ!こんな未来ほしくないわ!シムや母さんみんなの未来をつぶしたうえでの私の未来なんてほしくない。助けて!あなたならできるんでしょ。もしここで死ねっていうんだったら私死んでもいいわ」

 そういったイソベラの顔は悲壮感が漂っていた。

 「ごめんなさい。あなたに選択してもらいたかったの。あとちょっとだけ復讐したかったから。ごめんなさいね。今のあなたの答えであなたを信用できるわ。正直前の人生であなたにはめられたから、ちょっとあなたを信用できなかったのよ」

 キャスリンがそう正直に話したのが、かえって良かったのか、初めてイソベラは笑顔を見せた。その笑顔はとても魅惑的で、こんな貧しい身なりをしていても、やはりキャスリンが知っているイソベラだった。

 「私があなたの立場だったら、けちょんけちょんにしてやるわ。知らなかったことだけど、一応謝っておくわ。ごめんなさい」

 イソベラの言葉にキャスリンも思わずぷうと吹いてしまい、それを見たイソベラも笑い始め二人はおお互い涙が出るほど笑いあった。ひとしきりふたりで笑いあった後、キャスリンが言った。

 「あなたが家族を大切なように、私も家族を大切に思っているの。だからシムはストラ男爵領から逃がすわ。薬を作られてしまっては困るもの。それにシムは私の大切な人の友人でもあるの。だから大切にしないと私は、その人に殺されかねないのよ。その人って怖いのよ」

 キャスリンは今ここにいないマークの事を話した。

 「できたら私もここから出してほしいわ。家族とは一緒にいられなくてもいいから。母さんを不幸にしたストラ男爵なんて大嫌い。でもあの時は仕方なかったの。お金がほしかったから」

 「知ってるわ。私いいことを考えているのよ。お父様にも私が言った怖い人にも力を借りてね。あなたもよかったら一緒に行きましょう」

 そういってキャスリンは、シムたちの移住作戦の事を話した。その話を聞いたイソベラの顔はどんどん輝いていったのだった。
 
 

 


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

婚約破棄を求められました。私は嬉しいですが、貴方はそれでいいのですね?

ゆるり
恋愛
アリシエラは聖女であり、婚約者と結婚して王太子妃になる筈だった。しかし、ある少女の登場により、未来が狂いだす。婚約破棄を求める彼にアリシエラは答えた。「はい、喜んで」と。

女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。 偶然にも居合わせてしまったのだ。 学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。 そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。 「君を女性として見ることが出来ない」 幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。 その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。 「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」 大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。 そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。 ※ ゆるふわ設定です。 完結しました。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

婚約破棄で見限られたもの

志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。 すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥ よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。

噂の悪女が妻になりました

はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。 国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。 その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

処理中です...