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コルトの過去3
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コルトは、村のみんなに見送られて村を後にした。水や食料をたくさんもらい歩いている後ろからは、コルトの名を呼ぶ声が聞こえてきた。振り向くとサラがコルトの名前を呼びながら一生懸命手を振っている。遠目で見ても涙を浮かべているのか目のあたりが太陽の光で光っているのが見えた。
コルトもしばらく手を振っていたが、急に村や手を振っていたサラの姿がかき消えた。思わず立ち止まって目を凝らしてみたが、村らしいものはもちろんのこと、見ている先にあるのは砂漠だけだった。
-だから今まで誰も気づかなかったんだな。
コルトが運よくたどり着けたのは、今にも死にそうでとても悪だくみを考える余裕がなかったのが幸いしたのだろう。確かサイモクが言っていた。悪意を持っている人間はここへはたどり着けないと。これが魔法なのだろう。子ども達も言った通りあの村の人たちは、アシュイラ皇国の人達なのかもしれない。
-あそこにはきっと魔道具があるぞ。
コルトは考えるだけで、顔がにやけて仕方なかった。もし手に入れたら、どれだけ金になるだろう。そう思うと、知らず知らず足取りが軽くなっていくのだった。
コルトは歩いてやっとのことで町にたどり着き、乗合馬車などを利用してやっと自分の住んでいた町に帰ってきた。そしてその足で行商でつながりのある手広く商売をしている商会へと足を運んだ。
そこは手広くやっている大きな商会で、娘が貴族のもとに嫁いでから、そのつてでより大きな商売をするようになった。今や国の中でも有名な飛ぶ鳥も落とす勢いのある店になっている。
「よく戻ってきたな」
案内されたのは、商会奥の部屋だった。そこには商会代表であるアンガスがいた。一見穏やかな外見と優しそうな口調で皆騙されるが、知る人ぞ知る腹黒い男である。裏では、法律すれすれの事までやっているという噂もある。コルトは行商で付き合いがあるので、アンガスの性格はよく知っているつもりだ。
下手な小細工をするよりは、そのまま話したほうがいいだろうと、コルトは自分が行った村の事を話し始めた。
「アシュイラ皇国か。謎の多い国だ。本当にそうなのか?魔道具か。もしそうなら高く売れるな...」
コルトが思った通りアンガスの食指が動いたようだった。コルトははじめ一人で、また乗り込んで魔道具を盗もうかとも思ったが、相手は魔術が使える。それに魔道具を盗んだところで、簡単に売れるわけがない。何せ今この世界に魔道具は数えるほどしかない。それも神殿の奥深くか王宮の宝物庫にあるだけで、一般の人が見たことなどない物なのだ。それだからこそ人は、偽物とわかっていても破片でもほしがるものは多い。もし本物なら破片を手に入れるだけでも、一生遊んで暮らせるお金が手に入るはずだ。
「コルト、どうしたい?」
「少し腕のあるものを数人お借りしたいのですが。相手は魔術が使えます。現に砂漠の中にある村は、誰にも見つかっていません。悪意のない者でなければ入れない魔術がかけられているようなのです。まあ私は入れるようですが」
アンガスはふっと笑った。
「コルト、お前は運がいい。わかった。お前がいないと入れないんだろう。腕の立つものを用意しよう。それに成功したらうちで働いてくれ。お前は若い時の私に似ている」
それはアンガスのほめ言葉だった。ずいぶんコルトを買ってくれたものだ。
それからは早かった。すぐ三人ほど用意された。コルトの兄弟ということにして、親の代わりに未来の花嫁を見に来たという設定だ。さすが抜け目ないアンガスが用意しただけあって、皆顔だちの整ったものばかりだった。しかし裏では、いろいろな悪事を働いているものばかりだ。しかも腕はアンガスのお眼鏡にかなったものなので、コルトは満足した。
顔合わせが終わり、村へ出発する前宿で四人話し合った。
三人のリーダー格のダンがコルトに聞いた。
「あんた、これから行く村に好きな女がいるんだろ。そいつを裏切っていいのかい?」
「ああ、ただ村とつながりを付けるために付き合っただけだ。別に好きでも何でもない」
「ひゃ~、悪いやつだな。ダンとどっちもどっちだぜ。なあいい女いるのか?その村」
それまでダンとコルトの話を聞いていた男が、コルトに聞いてきた。
「どの女もとても田舎に住んでるとは思えないほど身なりもきちんとしている。教養もあるようだしな」
「楽しみだぜ。あ~あ早くいきたいもんだぜ」
「ほんと。ほんと。コルトの女も好きにしていいんだろ」
「ああ、仕事さえしたら好きにしろ」
舌なめずりしながらいやらしく笑っている男達を横目で見て、コルトはダンと打ち合わせをしたのだった。
翌日宿を早く出た4人は、急いで村に向かった。
砂漠に着いてからずいぶん歩いたが、それらしい村はない。
「おいコルト、ほんとにこんなところに村なんかあるのか?」
ダンが砂漠の砂しか見えない景色にうんざりしていった。
「ああ、もうすぐ現れるはずだ」
「ほんとかよ~。俺、もうんざりだぜ。この砂漠」
他の男たちも口々にコルトに聞いてきた。コルトが返事をするのにうんざりしたころそれは現れた。
「あったぁー!村だー!」
急に目の前に現れた村を見た男たちは、皆村に転がるように走っていったのだった。
コルトもしばらく手を振っていたが、急に村や手を振っていたサラの姿がかき消えた。思わず立ち止まって目を凝らしてみたが、村らしいものはもちろんのこと、見ている先にあるのは砂漠だけだった。
-だから今まで誰も気づかなかったんだな。
コルトが運よくたどり着けたのは、今にも死にそうでとても悪だくみを考える余裕がなかったのが幸いしたのだろう。確かサイモクが言っていた。悪意を持っている人間はここへはたどり着けないと。これが魔法なのだろう。子ども達も言った通りあの村の人たちは、アシュイラ皇国の人達なのかもしれない。
-あそこにはきっと魔道具があるぞ。
コルトは考えるだけで、顔がにやけて仕方なかった。もし手に入れたら、どれだけ金になるだろう。そう思うと、知らず知らず足取りが軽くなっていくのだった。
コルトは歩いてやっとのことで町にたどり着き、乗合馬車などを利用してやっと自分の住んでいた町に帰ってきた。そしてその足で行商でつながりのある手広く商売をしている商会へと足を運んだ。
そこは手広くやっている大きな商会で、娘が貴族のもとに嫁いでから、そのつてでより大きな商売をするようになった。今や国の中でも有名な飛ぶ鳥も落とす勢いのある店になっている。
「よく戻ってきたな」
案内されたのは、商会奥の部屋だった。そこには商会代表であるアンガスがいた。一見穏やかな外見と優しそうな口調で皆騙されるが、知る人ぞ知る腹黒い男である。裏では、法律すれすれの事までやっているという噂もある。コルトは行商で付き合いがあるので、アンガスの性格はよく知っているつもりだ。
下手な小細工をするよりは、そのまま話したほうがいいだろうと、コルトは自分が行った村の事を話し始めた。
「アシュイラ皇国か。謎の多い国だ。本当にそうなのか?魔道具か。もしそうなら高く売れるな...」
コルトが思った通りアンガスの食指が動いたようだった。コルトははじめ一人で、また乗り込んで魔道具を盗もうかとも思ったが、相手は魔術が使える。それに魔道具を盗んだところで、簡単に売れるわけがない。何せ今この世界に魔道具は数えるほどしかない。それも神殿の奥深くか王宮の宝物庫にあるだけで、一般の人が見たことなどない物なのだ。それだからこそ人は、偽物とわかっていても破片でもほしがるものは多い。もし本物なら破片を手に入れるだけでも、一生遊んで暮らせるお金が手に入るはずだ。
「コルト、どうしたい?」
「少し腕のあるものを数人お借りしたいのですが。相手は魔術が使えます。現に砂漠の中にある村は、誰にも見つかっていません。悪意のない者でなければ入れない魔術がかけられているようなのです。まあ私は入れるようですが」
アンガスはふっと笑った。
「コルト、お前は運がいい。わかった。お前がいないと入れないんだろう。腕の立つものを用意しよう。それに成功したらうちで働いてくれ。お前は若い時の私に似ている」
それはアンガスのほめ言葉だった。ずいぶんコルトを買ってくれたものだ。
それからは早かった。すぐ三人ほど用意された。コルトの兄弟ということにして、親の代わりに未来の花嫁を見に来たという設定だ。さすが抜け目ないアンガスが用意しただけあって、皆顔だちの整ったものばかりだった。しかし裏では、いろいろな悪事を働いているものばかりだ。しかも腕はアンガスのお眼鏡にかなったものなので、コルトは満足した。
顔合わせが終わり、村へ出発する前宿で四人話し合った。
三人のリーダー格のダンがコルトに聞いた。
「あんた、これから行く村に好きな女がいるんだろ。そいつを裏切っていいのかい?」
「ああ、ただ村とつながりを付けるために付き合っただけだ。別に好きでも何でもない」
「ひゃ~、悪いやつだな。ダンとどっちもどっちだぜ。なあいい女いるのか?その村」
それまでダンとコルトの話を聞いていた男が、コルトに聞いてきた。
「どの女もとても田舎に住んでるとは思えないほど身なりもきちんとしている。教養もあるようだしな」
「楽しみだぜ。あ~あ早くいきたいもんだぜ」
「ほんと。ほんと。コルトの女も好きにしていいんだろ」
「ああ、仕事さえしたら好きにしろ」
舌なめずりしながらいやらしく笑っている男達を横目で見て、コルトはダンと打ち合わせをしたのだった。
翌日宿を早く出た4人は、急いで村に向かった。
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「おいコルト、ほんとにこんなところに村なんかあるのか?」
ダンが砂漠の砂しか見えない景色にうんざりしていった。
「ああ、もうすぐ現れるはずだ」
「ほんとかよ~。俺、もうんざりだぜ。この砂漠」
他の男たちも口々にコルトに聞いてきた。コルトが返事をするのにうんざりしたころそれは現れた。
「あったぁー!村だー!」
急に目の前に現れた村を見た男たちは、皆村に転がるように走っていったのだった。
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