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コルトの過去2
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それからのコルトは、元気になるにつれ村の様子をつぶさに見て歩いた。コルトは行商をしていたぐらいなので、外面はたいそういい。しかも一見柔和な顔をしているので、たちまち子供や女性たちの人気者になっていった。
-ここの村の奴らはずいぶん危機感が薄いよな。なんでだろう。
コルトは持ち前の話術でまず女性たちに話を聞き出そうとした。しかしさすがに女性たちも世間話はするが、どこから来たのかなど肝心な話は決して話してはくれなかった。そこでコルトは、今度は子供たちにターゲットを変え遊びに付き合いながら話を聞き出すことにした。
「お兄さん!これで遊びたい」
子供たちには、コルトが昔遊んだ遊びを教えてあげた。子どもたちはその遊びは初めてだったらしく、夢中になって遊んでいる。コルトも何日も一緒に遊んであげた。女性たちもはじめこそずいぶんコルトと子供の様子を気にしていたが、徐々に警戒感が薄れいつの間にかコルトと子供たちが楽しく遊んでいる様子をちらっと見るだけで、自分たちの仕事をするようになっていた。同じように男たちも最初はずいぶん警戒していた。しかし次第に女たちになにか言われたのと子供の懐く様子を見るにつけ、ずいぶん警戒感が和らいできた。はじめ遠巻きにしていた男たちの中には、コルトに話しかけるものまで現れた。しまいにはここに住めばいいというものまで現れた。
「コルト、君を気に入ってる子がいるんだよ。よかったら今度その子と話してみないかい?」
顔が良く愛想のいいコルトは今や独身の女の子たちの注目の的にまでなった。もうコルトは笑い出したくてしょうがなかった。ここまで簡単に騙されるとは思ってもいなかったのだ。
そしてすっかり元気になって一か月ほど過ぎたころには、そんな大人の様子を見ていた子供たちもずいぶんコルトになじんできた。
「ねえ君たちはどこから来たんだい?」
コルトは遊びながら一人の子供に聞いた。
「僕たちは、アシュイラ皇国から来たんだよ」
「アシュイラ皇国?本当かい?今はそんな国ないよ?」
コルトは、子供が今や伝説となっている国の名前を言ったので、半分冗談かと思った。コルトの不審げな様子にもう一人の子が鼻息も荒くコルトに言い始めた。
「ほんとだよ。僕たちはアシュイラ皇国から来たんだ。魔法を使ってきたんだよ」
「そうだよ、本当の事だよ」
「魔法が使えるのかい?」
「ううん、僕はまだ使えないけど。大人の中にはちょっとだけ使える人も大勢いるよ。なんだっけかな?」
「生活魔法だよ!ここの暮らしはその魔法を使ってるんだって。僕たちももう少し大きくなったら使えるようになるんだって。勉強するんだよ」
一人の子が自慢げに言った。
「それはすごいね。どうやってやるか知ってるのかい?」
「魔道具を使うんだよ。一番すごいのは王様や王妃様だったけど、僕たちを助けるために死んじゃったんだってさ」
「僕は将来サイモク様みたいになりたいなあ~」
「「「僕も!」」」
どうやらそのサイモクという男は子供たちにずいぶん人気らしい。コルトも見たことがあった気がする。確か誰かがサイモク様と呼んでいた。
サイモクという男はまだ30代になるかならないかの年齢だったように見える。ずいぶん端正な顔立ちをしていた。ただ目つきが鋭く、スキがないように見えた。はじめ見た時にはまるで騎士のような印象だった。
「ねえ、その魔道具ってどこにあるの?」
「確かサイモク様が管理しているんだよ」
「ふ~ん」
軽く子供たちにうなずきながら、コルトは油断なく周りを見た。どうやらこの話は大人たちに聞かれていないようだ。コルトはそこで子供たちに言い聞かせた。
「ねえその話、大人の人たちは誰にもしゃべっちゃあいけないって言われてるんだよね」
「そうだ!」
「あっ、そうだったよ!」
子供たちは無邪気に笑っている。どうやらコルトの読みは当たったようだ。
「じゃあ、この話は僕と君たちだけの内緒の話にしよう。僕も誰にも言わないから、君たちも僕に言ったこと大人の人たちに言っちゃあだめだよ。君たちが怒られるのを見たくないからね。内緒だよ」
コルトはわざと笑いながら子供たちの前で、口の前に人差し指を持ってきて小声で言い聞かせるように言った。
「「「わかった!しーだね」」」
子供たちはそんなコルトの様子を見て、コルトがしたのと同じように口の前に人差し指を持ってきた。
コルトは子供たちのそんな様子を見て、どこの国の子も内緒話が好きなんだなとほくそ笑んだ。
それからコルトは村の中を見て回るついでに女性たち、とくに独身の若い子たちに声をかけて回った。その中でも特にコルトを気に入っているサラという名前の女の子にターゲットを絞った。
コルトはサラに独身の女性が好むような話をしながら、サイモクについての情報を聞き出した。サイモクは独身でこの村で一番もてるらしいこと。でも昔好きな女性がいたが、死んでしまったこと。それからは一切女性に興味を持たないこと。などなどやはりサラもちょっとサイモクにあこがれているらしく、半分うらやましそうにいろいろ教えてくれた。
コルトは最後の仕上げとばかりに自分は仕事があるので、一度は故郷に帰らなくてはならないが、君が好きだからまたここに戻ってきたいとサラに切々と話した。
サラはお年頃らしく顔を赤らめて聞いてくれた。そしてほかの村の人たちにもコルトとの事を事細かに説明して歩いた。彼女からしたら、もてるコルトはもう自分のものといいたかったのだろう。
すぐに噂は広まり、子供たちは大喜びし、コルトは男たちからも女たち特に既婚者からは祝福を受けた。独身の女の子たちからは反対にすねられてしまったが。
そうしているうちにコルトは、サイモク本人から話しかけられた。
「本当にサラと結婚する気があるのかい?」
まるで心の内を見透かすような真剣なまなざしにコルトは少したじろぎそうになったが、どうにか普通を装いサイモクにいった。
「はい!私はサラという運命の女性と出会いました。サラと一緒になりたいと思っています」
サイモクはしばらくの間考えていたようだった。
「そうか。サラに聞いたが君は一度故郷に帰るんだったな。じゃあまたここにちゃんと戻ってこれるようまじないをしよう」
サイモクはそういって、コルトの前に立ちコルトに目をつぶらせて、何やら小さな呪文のようなものを唱えた。
そして終わった後言った。
「これは君が安全に来れるようにするまじないさ。悪意を持っているものはここには来られない」
「じゃあ私の父と母は連れてくることはできないんですか?」
コルトは少し悲しそうな顔を装い言った。
「君の事は村のみんなが信頼しているようだから、君と一緒に来るものは大丈夫だよ」
コルトは心の中でほくそ笑んだのだった。しかしそれにサイモクが気づくことはなかった。
-ここの村の奴らはずいぶん危機感が薄いよな。なんでだろう。
コルトは持ち前の話術でまず女性たちに話を聞き出そうとした。しかしさすがに女性たちも世間話はするが、どこから来たのかなど肝心な話は決して話してはくれなかった。そこでコルトは、今度は子供たちにターゲットを変え遊びに付き合いながら話を聞き出すことにした。
「お兄さん!これで遊びたい」
子供たちには、コルトが昔遊んだ遊びを教えてあげた。子どもたちはその遊びは初めてだったらしく、夢中になって遊んでいる。コルトも何日も一緒に遊んであげた。女性たちもはじめこそずいぶんコルトと子供の様子を気にしていたが、徐々に警戒感が薄れいつの間にかコルトと子供たちが楽しく遊んでいる様子をちらっと見るだけで、自分たちの仕事をするようになっていた。同じように男たちも最初はずいぶん警戒していた。しかし次第に女たちになにか言われたのと子供の懐く様子を見るにつけ、ずいぶん警戒感が和らいできた。はじめ遠巻きにしていた男たちの中には、コルトに話しかけるものまで現れた。しまいにはここに住めばいいというものまで現れた。
「コルト、君を気に入ってる子がいるんだよ。よかったら今度その子と話してみないかい?」
顔が良く愛想のいいコルトは今や独身の女の子たちの注目の的にまでなった。もうコルトは笑い出したくてしょうがなかった。ここまで簡単に騙されるとは思ってもいなかったのだ。
そしてすっかり元気になって一か月ほど過ぎたころには、そんな大人の様子を見ていた子供たちもずいぶんコルトになじんできた。
「ねえ君たちはどこから来たんだい?」
コルトは遊びながら一人の子供に聞いた。
「僕たちは、アシュイラ皇国から来たんだよ」
「アシュイラ皇国?本当かい?今はそんな国ないよ?」
コルトは、子供が今や伝説となっている国の名前を言ったので、半分冗談かと思った。コルトの不審げな様子にもう一人の子が鼻息も荒くコルトに言い始めた。
「ほんとだよ。僕たちはアシュイラ皇国から来たんだ。魔法を使ってきたんだよ」
「そうだよ、本当の事だよ」
「魔法が使えるのかい?」
「ううん、僕はまだ使えないけど。大人の中にはちょっとだけ使える人も大勢いるよ。なんだっけかな?」
「生活魔法だよ!ここの暮らしはその魔法を使ってるんだって。僕たちももう少し大きくなったら使えるようになるんだって。勉強するんだよ」
一人の子が自慢げに言った。
「それはすごいね。どうやってやるか知ってるのかい?」
「魔道具を使うんだよ。一番すごいのは王様や王妃様だったけど、僕たちを助けるために死んじゃったんだってさ」
「僕は将来サイモク様みたいになりたいなあ~」
「「「僕も!」」」
どうやらそのサイモクという男は子供たちにずいぶん人気らしい。コルトも見たことがあった気がする。確か誰かがサイモク様と呼んでいた。
サイモクという男はまだ30代になるかならないかの年齢だったように見える。ずいぶん端正な顔立ちをしていた。ただ目つきが鋭く、スキがないように見えた。はじめ見た時にはまるで騎士のような印象だった。
「ねえ、その魔道具ってどこにあるの?」
「確かサイモク様が管理しているんだよ」
「ふ~ん」
軽く子供たちにうなずきながら、コルトは油断なく周りを見た。どうやらこの話は大人たちに聞かれていないようだ。コルトはそこで子供たちに言い聞かせた。
「ねえその話、大人の人たちは誰にもしゃべっちゃあいけないって言われてるんだよね」
「そうだ!」
「あっ、そうだったよ!」
子供たちは無邪気に笑っている。どうやらコルトの読みは当たったようだ。
「じゃあ、この話は僕と君たちだけの内緒の話にしよう。僕も誰にも言わないから、君たちも僕に言ったこと大人の人たちに言っちゃあだめだよ。君たちが怒られるのを見たくないからね。内緒だよ」
コルトはわざと笑いながら子供たちの前で、口の前に人差し指を持ってきて小声で言い聞かせるように言った。
「「「わかった!しーだね」」」
子供たちはそんなコルトの様子を見て、コルトがしたのと同じように口の前に人差し指を持ってきた。
コルトは子供たちのそんな様子を見て、どこの国の子も内緒話が好きなんだなとほくそ笑んだ。
それからコルトは村の中を見て回るついでに女性たち、とくに独身の若い子たちに声をかけて回った。その中でも特にコルトを気に入っているサラという名前の女の子にターゲットを絞った。
コルトはサラに独身の女性が好むような話をしながら、サイモクについての情報を聞き出した。サイモクは独身でこの村で一番もてるらしいこと。でも昔好きな女性がいたが、死んでしまったこと。それからは一切女性に興味を持たないこと。などなどやはりサラもちょっとサイモクにあこがれているらしく、半分うらやましそうにいろいろ教えてくれた。
コルトは最後の仕上げとばかりに自分は仕事があるので、一度は故郷に帰らなくてはならないが、君が好きだからまたここに戻ってきたいとサラに切々と話した。
サラはお年頃らしく顔を赤らめて聞いてくれた。そしてほかの村の人たちにもコルトとの事を事細かに説明して歩いた。彼女からしたら、もてるコルトはもう自分のものといいたかったのだろう。
すぐに噂は広まり、子供たちは大喜びし、コルトは男たちからも女たち特に既婚者からは祝福を受けた。独身の女の子たちからは反対にすねられてしまったが。
そうしているうちにコルトは、サイモク本人から話しかけられた。
「本当にサラと結婚する気があるのかい?」
まるで心の内を見透かすような真剣なまなざしにコルトは少したじろぎそうになったが、どうにか普通を装いサイモクにいった。
「はい!私はサラという運命の女性と出会いました。サラと一緒になりたいと思っています」
サイモクはしばらくの間考えていたようだった。
「そうか。サラに聞いたが君は一度故郷に帰るんだったな。じゃあまたここにちゃんと戻ってこれるようまじないをしよう」
サイモクはそういって、コルトの前に立ちコルトに目をつぶらせて、何やら小さな呪文のようなものを唱えた。
そして終わった後言った。
「これは君が安全に来れるようにするまじないさ。悪意を持っているものはここには来られない」
「じゃあ私の父と母は連れてくることはできないんですか?」
コルトは少し悲しそうな顔を装い言った。
「君の事は村のみんなが信頼しているようだから、君と一緒に来るものは大丈夫だよ」
コルトは心の中でほくそ笑んだのだった。しかしそれにサイモクが気づくことはなかった。
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