大切なあのひとを失ったこと絶対許しません

にいるず

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シムの話

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 キャスリンはまず自分が時を戻ったこと、どうして魔法を使えるようになったかそしてこの家に来ることになったきっかけを話した。
 シムは時にびっくりしたり、怪訝な表情をしたり、何か怒っているような表情をしたりとキャスリンの話に忙しく表情を変えていた。
 そして今度はマークが聞いた。

 「どうやってここまで逃げて来たんだ?」

 「村が襲われて、大勢が殺された。その時にサイモクが最後に自分の持ってる魔力すべてを使って、残った私たちを転移させてくれたんだ。だが、私たちも旅するうちにひとりまたひとりと病気や飢えで死んでいった。妻も死んでしまった。幼いアルを残して。そして村を転々としているときにこの村にたどり着いて今の妻と出会ったんだ。今の妻も幼いイソベラを連れていた。今は薬師の仕事をしている。少ない魔力でどうにか薬を作ってるんだ」

 「そうだったのか。サイモクが...」

 「ああ、サイモクのおかげで私と息子は生かされた」

 マークにとってサイモクは大事な人だったのだろう。マークはシムからその話を聞いて声を詰まらせていた。

 「それにしてもシム、君と息子が生き延びてくれてよかった」

 「マーク、君も生きていてくれてよかった」

 「いや、私はアシュイラ皇国の王子を守れなかった。記憶にもないんだ。本当にどう王や王妃にお詫びしたらいいか...。キャスリン様から王子の事を聞かされて、やっと心の奥にある空虚の理由がわかった気がするんだ。王子という希望をなくしてしまったことへの悲しみだったんだ」

 そういってマークは素直に自分の気持ちをシムに告げた。今までキャスリンの手前言えなかったのだろう。キャスリンを助けるために自分を犠牲にしたのだから。しかし同じ皇国の仲間には聞いてほしかったのかもしれない。マークの言葉はキャスリンにとって重かった。
 キャスリンは胸に秘めていることを二人に告げた。
 
 「私は、未来を変えたいんです。前の人生で私や家族にしたことを思い知らせてやりたいと思っています。そしてできれば私の大切な人もこの世界に戻してあげたいんです」
 
 「その大切な人ってアシュイラ皇国の王子である方の事ですよね。すみません、私も記憶がないんです。ですが何かむなしさを感じていました。王子の事だったのかもしれませんね」

 シムはそういった。

 「そうです。私のせいでアシュイラ皇国の象徴である王子がいなくなってしまいました。本当にごめんなさい。彼がこの世界にまた戻れるならほかの人なんてどうなってもいいとまで思っちゃうんです」

 「そうですか...。それにしてもあなたが言ったイソベラは、私の知っているイソベラとはとても思えない。もし将来イソベラがそんなことをするのなら、イソベラをそこまで追い立てたやつが許せない。
 私が知っているイソベラは家族思いで、生まれてきた双子にも優しい子です。ストラ男爵がイソベラを迎えに来た時にも、自分からいくといって。ちょうど私が薬草を取りにいった時けがをしてしまって、そのせいで働けなくて私の治療費と生活費がなかった時なんです。ストラ男爵が家に来たのは。今まで見向きもしなかったのに、イソベラの事を噂で聞きつけたのだと思います。イソベラは母親に似てきれいになってきたと評判だったので」

 「お二人にも協力してもらうこともあるかと思います。よろしくお願いします」

 「「はい」」
 
 マークとシムはキャスリンに答えた。

 「ただ私にとってイソベラは、やっぱり大事な家族なんです。妻も男爵家にいるイソベラの事をずいぶん気にかけていて。息子のアルが時々イソベラに様子を聞きに行くんですが。その様子を聞くたびにイソベラがイソベラが不憫で」

 「アル君でしたっけ、どうやってイソベラと連絡を取ってるんですか」

 「私が作る薬を分けてあげている人が、男爵邸で下働きをしてるんです。その人がアルがイソベラと会うのを手伝ってくれています」

 「そうなんですね。葉っぱがその合図なんですね」

 「よく知っていますね!」

 キャスリンがシムの話に感心したように言うとシムがやけに驚いていた。

 「すみません。トウメイニンゲンになって男爵邸を調査していたので」

 なるほどといいシムは少し考え込んだ。

 「キャスリン様私も未来を変えてほしいと思います。できるなら王子を取り戻したい。ただそれと一緒にイソベラも私の大事な家族です。できることならイソベラも私たちと一緒に暮らせるようにしたいんです。妻もきっと望んでいます。話を聞く限りイソベラが、そんなことになる理由があると思うんです。ぜひそれを突き止めてほしい。それが私の願いです。虫のいい話なのは分かっています。キャスリン様をそんな目に合わせたイソベラを許せないのは当たり前です。ですがどうかお願いします。そのためなら何でもします」

 シムはキャスリンに頭を下げた。

 「お嬢様、私からもお願いします。シムは私の大事な友人であり同志でした。その彼の願いを少しでもかなえてあげたいのです」

 マークもシムと同じようにキャスリンに頭を下げた。

 「そうね、私も何度かイソベラを観察していたけれど、今の彼女と私が知っている彼女はあまりに違いすぎるの。何かこれから起きるのよね。それで彼女が変わらなくてはいけない何かがあるのよね。それを突き止めたいわね。ただ私の一番はやっぱりスティーブなの。もし彼を助ける邪魔になるのならイソベラは容赦なく切り捨てるわ。それだけは覚えておいてね。ただそうならないように頑張りましょう!」

 キャスリンは、もうちょっと男爵邸を探ろうと思ったのだった。


 
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