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男爵領にいました

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 キャスリンはあっと思う間もなくどこかに飛ばされた。
 
 急に土の匂いがする。あたりを見渡すとどうやら畑の中に立っているようだ。
 気配を感じてそちらを見ると、貧しい身なりをした男性がキャスリンを見ていた。手には鍬を持っている。
 急に現れたキャスリンを見て、あっけにとられているようだ。キャスリンはびっくりしている男性にまず会釈をした。そして心の中でトウメイニンゲンをイメージした。
 男性は、キャスリンが急に消えたのを見て、唖然として突っ立っていたが鍬を投げ出しどこかに走って行ってしまった。
 キャスリンは畑を見回した。ちょっと先にこの田舎には不似合いのやけに目立つ屋敷が立っていた。あれが男爵の住む屋敷だろうか。男爵が住むには大きすぎる気がした。
 あそこに行ってみようかと思ったが、あそこに行くには今の恰好では心もとない。なぜなら今は部屋着なのだ。一応護身用のナイフも持っていない。父のスコットから持つようにともらっている。
 結局男爵の屋敷を頭に焼き付けていったん戻ることにした。自分の部屋を思い浮かべる。

 ふわっと浮かび上がる感覚がした後、キャスリンは自分の部屋に戻っていた。ただあの場所にいった証として部屋着の裾が土で汚れてしまっていた。また本の中での女性がやっていたことを思い出した。
 そういえばなんか呪文のようなものを唱えていたわよね。そうしたら洋服が確かきれいになっていた気がする。何だったかしら。まあいいわ。きれいになるイメージを心の中で描いてっと。
 するとキャスリンが薄い白い光に包まれた。光が消えた後を見ると、土がついていた部屋着の裾がきれいになっていた。
 よかったわ。これならまた男爵邸に行けるわね。汚れたままでいるとバーバラに見つかっちゃうしとほっとしたキャスリンだった。

 キャスリンは体の調子も良くなったということで、また家庭教師につくことになった。来年の13歳から貴族学校で学ぶので、この一年で学園で恥ずかしくないぐらいには勉強を予習しておかなくてはいけないのだ。一応学校と行っても勉強だけでなくマナーも学ぶ。もっと言えば婚活の場でもあるのだ。ただキャスリンは前の人生で4年間も学校で学んでいたのでかなり勉強やマナーはマスターしている。
 ということで父に言って午前中だけ家庭教師の下で学ぶことにした。先生たちの口癖は「お嬢様、素晴らしいです」のオンパレードで、なんとなくキャスリンはずるをしているようでちょっと恥ずかしい気持ちになるのだった。
 じゃあ午後はどうしようかということで、父に言って魔法を磨くことにした。これはちょっとだけ魔力のあるマークでも教えられないので、専用の部屋をもらいそこにこもってやるということになった。

 そして今キャスリンは、変わった服装で魔術専用の部屋の真ん中に立っている。女性がいた世界で見た学校とやらの授業で受けていた洋服が気に入ったのだ。上は長い袖があり飾りもなくシンプルで、それに合うくるぶしまであるズボンだ。そして護身用のナイフをポケットと呼ばれていた中に突っ込んでいる。
 
 「じゃあまた男爵邸に行きましょうか」
 
 部屋からキャスリンの姿が煙のように消えた。
 
 目を開けると男爵邸の中にいた。もちろんトウメイニンゲンの魔法をかけている。
 やはり屋敷の中も壁はもちろんの事、外の外観通り上品な家具ではなく下品な色に包まれた家具がごちゃごちゃと置かれていた。

  「なにこのセンス?」

 誰に聞かれるわけでもないので、つぶやきながら歩いて行った。途中廊下でここで働いているであろう何人も人とすれ違ったり通りぬけた。
 どこへ行こうかと思っていると、向こうの方で声がした。どうやらメイドが二人話をしている。

 「ねえ、この食事あの子へもっていってよ」

 「えっ~いやだ~、あの子にかかわりたくないのよね」

 「そういわずにお願い!今度町にいった時あなたが好きだって言ったお菓子買ってくるから。ねっお願い。あなたは奥様のお気に入りだから大丈夫よ!」

 「わかったわよ。絶対買ってきてよ」

 メイドの一人がそういうと、もう一人がいやいや料理らしいものがのったお盆を受け取って廊下を歩きだした。
 キャスリンは好奇心を覚えてそのメイドの後についていった。

 「いやになっちゃうわ。もう~」

 そのメイドはまだぶつぶつ文句を垂れ流しながら歩いていった。廊下は先ほどの下品だがお金のかかっている雰囲気から一変してみすぼらしく暗くなっていく。
 そのメイドは暗くてみすぼらしい廊下にあるこれまたみすぼらしいドアを開けた。ノックもしなかった。

 「食事よ。置いとくからね」

 暗くてわからなかったが、部屋の隅の椅子に座っていた人影にそういって、真ん中に置いてあるテーブルにお盆を置いて出ていってしまった。
 キャスリンはそのまま部屋に戻り、お盆を見た。お盆の中には器が二つだけだった。硬そうなパンとまるで具がないスープのみだった。
 人影がのっそりと動いてテーブルに向かった。
 そこでキャスリンは思わず声を上げてしまった。

 「あなた、イソベラなの?」

 なんとそのみすぼらしい暗い部屋にいたのは、男爵令嬢でありのちに第二王子の婚約者となるイソベラだった。
 



 
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