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昔聞いた言葉だそうです
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キャスリンが思いだしてがっくりしていたとき、またドアをノックする音がした。
「飲み物をお持ちいたしました」
部屋に入ってきたのはカートを押したバーバラと執事のマークだった。
「お嬢様、ご気分はいかがですか」
「もうよくなったわ」
キャスリンは先ほど思い出してがっくりきた気分のまま返事してしまった。
「懐かしいお顔です」
キャスリンが思わず声を出したマークのほうを見ると、マークは懐かしい者でも見るかのように目を細めていた。
「そうなの?」
「ええっ、私がお仕えしました王もあの本を読まれたときに、今のキャスリン様と同じお顔をなさっていました」
「何か聞いてる?本の内容」
「いえっ、恐れ多くて何も聞いておりません」
キャスリンは苦いものを飲み込んだ時のような顔になった。思わず遠い目をしていたのだろう。
「そのようなお顔もなさりましたよ。よほど大変だったのですね」
そういって香りのよいお茶を入れたカップをキャスリンに差し出した。
「こちらにお嬢様のお好きなクッキーも用意してございます。ごゆっくりなさってくださいませ」
マークはそういっていたわるような目をして部屋を出ていった。
「バーバラも一緒に食べましょう。さあ来てちょうだい」
バーバラもそばの椅子に座らせてキャスリンはおいしいお茶を飲んだ。
「チートねえ」
クッキーを飲みながらそうつぶやいたキャスリンの言葉を、後でバーバラが父親であるマークに伝え、マークが「王も同じことを言っていた!」と涙を流してうれしがっっていたとは知らないキャスリンだった。
そんなことがあってから二日後の事、キャスリンは父親であるスコットの執務室に呼ばれた。
「キャスリン、体はもう大丈夫かね」
「はい、もう元通りになりました」
「そうかよかった」
キャスリンは父親のスコットを見た。最近スコットは 忙しくしていて朝食はもちろんの事夕食にも会うことがなかった。今も目の下に黒い隈ができている。
「お父様、お父様のほうがお疲れのようですわ。大丈夫ですの?」
「いや、この前キャスリンが言った名前の男が見つかったのだけれどね、今そいつを断罪するのは難しくてね。今そいつはやはりというべきかストラ男爵家に今いる。執事のまねごとをしているらしい」
「そうなんですの。名前は同じだったのですね。でもどうしてジェームス叔父様の紹介状を持ってきたんでしょうね」
「今はわからない。ジェームスのバリントン伯爵家とストラ男爵家には何のつながりもないことはわかっているんだが」
「お父様、私少し魔術を磨いたんですのよ。ストラ男爵家にいるというあの男コルトを調べてみましょうか」
「なに言ってるんだ、キャスリン。危ないことはやめてほしい。魔力があるとはいえ、まだ12歳なんだぞ」
「...わかりましたわ」
「本当にわかってるんだろうね」
「...はい」
父親であるスコットに、この件にかかわるなと何度も念押しされたキャスリンは部屋に戻った。
やはりあの男コルトは男爵家にいたんだと思うと、なんだか怒りが込み上げてきた。あの男は、この公爵家で好き勝手していたに違いない。この家の事はすべてストラ男爵家、ひいては後ろで糸を引いていたハビセル侯爵家に筒抜けだったのだ。ストラ男爵家と聞いてすぐ、あの第二王子メルビスの婚約者となった男爵家の令嬢イソベラのことも思い出した。自分に猛毒ガオミールを飲ませたことと何か関係があるに違いない。
父親のスコットにはかかわるなと言われたが、調べるぐらいいいだろう。キャスリンには誰にも持っていない武器があるのだから。
本の中身を知ってからキャスリンはひそかに訓練していた。
訓練といっても、あの女性のまねをしてるだけだが。あの女性の頭の中にいた時、あの女性はいろいろなことをやっていた。
確か王妃になってからも浮気を疑って探ったりしたのよね~。なんと言ったかしら?トウメイニンゲン?そうそうまるで自分がいないかのように、縦横無尽に王宮を歩き回っていたわ。
キャスリンは女性がやったことを頭の中でイメージした。すると部屋にある目の前の鏡からキャスリン自身が突然消えた。
「わあ~!」
びっくりして大声を出したが、どうやら誰にも聞こえていないらしい。もし聞こえていたらきっと誰かすぐこの部屋に飛び込んできただろう。
キャスリンが時戻りしてから、この屋敷の警備は以前よりもずいぶん厳しくなった。
キャスリンはそお~っと部屋を出た。ドアは開けなくてもそのまま通り抜けることができた。まず今日の夕食をのぞいてみようと厨房に行ったが、誰一人気づく者はいなかった。それから公爵家直属の騎士たちが訓練する訓練場に行ってみたがやはり誰も気づかなかった。ひとり団長であるトーマスだけは、キャスリンの気配を感じたのかきょろきょろしていた。キャスリンは慌てて訓練場を離れたのだった。
急いで部屋に戻ったキャスリンは、鏡の前に立ち姿を現すイメージをした。鏡にキャスリンの姿が映った。
こうして丸二日間キャスリンは、トウメイニンゲンの訓練をしたのだった。頑張ったおかげで楽に使えるようになった。
しかしただ一つ困ったことがあった。キャスリンはお嬢さまなので一人で家を出たことがない。だからストラ男爵家に行けないのだ。家庭教師について勉強をしているし、前の人生の時にも勉強したので、地図ではどこにあるか理解できている。しかしそこへ行く手段がない。前の人生でもいつもどこか出かけるときには、馬車に乗って出かけていた。
今日父のスコットに念押しされたので、誰もキャスリンを連れて行ってくれないだろう。注意されていなくても連れて行ってくれるはずがない。敵地なのだから。
キャスリンは、まずストラ男爵家がどこにあるのか確認しようと、本棚にある地図を机の上に開いた。ストラ男爵家領地を確認すると、キャスリンのダイモック公爵家の領地からは遠いが、ハビセル侯爵家領地には近い。隣国のペジタ国からはもっと近い。ただこのペジタ国とストラ男爵家領の間には、第一王子の婚約者であるサーシャの実家ロスタル侯爵領が横たわっている。しかもロスタル侯爵家に連なるトレント辺境伯爵領が直接ペジタ国と接している。
キャスリンはストラ男爵家のある場所を指でなぞった。
「ここは遠いわね。簡単に行けたらいいのに」
キャスリンがそうつぶやいた瞬間、キャスリンは部屋から見事に消えていた。
「飲み物をお持ちいたしました」
部屋に入ってきたのはカートを押したバーバラと執事のマークだった。
「お嬢様、ご気分はいかがですか」
「もうよくなったわ」
キャスリンは先ほど思い出してがっくりきた気分のまま返事してしまった。
「懐かしいお顔です」
キャスリンが思わず声を出したマークのほうを見ると、マークは懐かしい者でも見るかのように目を細めていた。
「そうなの?」
「ええっ、私がお仕えしました王もあの本を読まれたときに、今のキャスリン様と同じお顔をなさっていました」
「何か聞いてる?本の内容」
「いえっ、恐れ多くて何も聞いておりません」
キャスリンは苦いものを飲み込んだ時のような顔になった。思わず遠い目をしていたのだろう。
「そのようなお顔もなさりましたよ。よほど大変だったのですね」
そういって香りのよいお茶を入れたカップをキャスリンに差し出した。
「こちらにお嬢様のお好きなクッキーも用意してございます。ごゆっくりなさってくださいませ」
マークはそういっていたわるような目をして部屋を出ていった。
「バーバラも一緒に食べましょう。さあ来てちょうだい」
バーバラもそばの椅子に座らせてキャスリンはおいしいお茶を飲んだ。
「チートねえ」
クッキーを飲みながらそうつぶやいたキャスリンの言葉を、後でバーバラが父親であるマークに伝え、マークが「王も同じことを言っていた!」と涙を流してうれしがっっていたとは知らないキャスリンだった。
そんなことがあってから二日後の事、キャスリンは父親であるスコットの執務室に呼ばれた。
「キャスリン、体はもう大丈夫かね」
「はい、もう元通りになりました」
「そうかよかった」
キャスリンは父親のスコットを見た。最近スコットは 忙しくしていて朝食はもちろんの事夕食にも会うことがなかった。今も目の下に黒い隈ができている。
「お父様、お父様のほうがお疲れのようですわ。大丈夫ですの?」
「いや、この前キャスリンが言った名前の男が見つかったのだけれどね、今そいつを断罪するのは難しくてね。今そいつはやはりというべきかストラ男爵家に今いる。執事のまねごとをしているらしい」
「そうなんですの。名前は同じだったのですね。でもどうしてジェームス叔父様の紹介状を持ってきたんでしょうね」
「今はわからない。ジェームスのバリントン伯爵家とストラ男爵家には何のつながりもないことはわかっているんだが」
「お父様、私少し魔術を磨いたんですのよ。ストラ男爵家にいるというあの男コルトを調べてみましょうか」
「なに言ってるんだ、キャスリン。危ないことはやめてほしい。魔力があるとはいえ、まだ12歳なんだぞ」
「...わかりましたわ」
「本当にわかってるんだろうね」
「...はい」
父親であるスコットに、この件にかかわるなと何度も念押しされたキャスリンは部屋に戻った。
やはりあの男コルトは男爵家にいたんだと思うと、なんだか怒りが込み上げてきた。あの男は、この公爵家で好き勝手していたに違いない。この家の事はすべてストラ男爵家、ひいては後ろで糸を引いていたハビセル侯爵家に筒抜けだったのだ。ストラ男爵家と聞いてすぐ、あの第二王子メルビスの婚約者となった男爵家の令嬢イソベラのことも思い出した。自分に猛毒ガオミールを飲ませたことと何か関係があるに違いない。
父親のスコットにはかかわるなと言われたが、調べるぐらいいいだろう。キャスリンには誰にも持っていない武器があるのだから。
本の中身を知ってからキャスリンはひそかに訓練していた。
訓練といっても、あの女性のまねをしてるだけだが。あの女性の頭の中にいた時、あの女性はいろいろなことをやっていた。
確か王妃になってからも浮気を疑って探ったりしたのよね~。なんと言ったかしら?トウメイニンゲン?そうそうまるで自分がいないかのように、縦横無尽に王宮を歩き回っていたわ。
キャスリンは女性がやったことを頭の中でイメージした。すると部屋にある目の前の鏡からキャスリン自身が突然消えた。
「わあ~!」
びっくりして大声を出したが、どうやら誰にも聞こえていないらしい。もし聞こえていたらきっと誰かすぐこの部屋に飛び込んできただろう。
キャスリンが時戻りしてから、この屋敷の警備は以前よりもずいぶん厳しくなった。
キャスリンはそお~っと部屋を出た。ドアは開けなくてもそのまま通り抜けることができた。まず今日の夕食をのぞいてみようと厨房に行ったが、誰一人気づく者はいなかった。それから公爵家直属の騎士たちが訓練する訓練場に行ってみたがやはり誰も気づかなかった。ひとり団長であるトーマスだけは、キャスリンの気配を感じたのかきょろきょろしていた。キャスリンは慌てて訓練場を離れたのだった。
急いで部屋に戻ったキャスリンは、鏡の前に立ち姿を現すイメージをした。鏡にキャスリンの姿が映った。
こうして丸二日間キャスリンは、トウメイニンゲンの訓練をしたのだった。頑張ったおかげで楽に使えるようになった。
しかしただ一つ困ったことがあった。キャスリンはお嬢さまなので一人で家を出たことがない。だからストラ男爵家に行けないのだ。家庭教師について勉強をしているし、前の人生の時にも勉強したので、地図ではどこにあるか理解できている。しかしそこへ行く手段がない。前の人生でもいつもどこか出かけるときには、馬車に乗って出かけていた。
今日父のスコットに念押しされたので、誰もキャスリンを連れて行ってくれないだろう。注意されていなくても連れて行ってくれるはずがない。敵地なのだから。
キャスリンは、まずストラ男爵家がどこにあるのか確認しようと、本棚にある地図を机の上に開いた。ストラ男爵家領地を確認すると、キャスリンのダイモック公爵家の領地からは遠いが、ハビセル侯爵家領地には近い。隣国のペジタ国からはもっと近い。ただこのペジタ国とストラ男爵家領の間には、第一王子の婚約者であるサーシャの実家ロスタル侯爵領が横たわっている。しかもロスタル侯爵家に連なるトレント辺境伯爵領が直接ペジタ国と接している。
キャスリンはストラ男爵家のある場所を指でなぞった。
「ここは遠いわね。簡単に行けたらいいのに」
キャスリンがそうつぶやいた瞬間、キャスリンは部屋から見事に消えていた。
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