大切なあのひとを失ったこと絶対許しません

にいるず

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あのひとはやはり存在していました

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 時を超えたアシュイラ皇国の民は、その時誰も住んでいなかった砂漠に住み着いた。アシュイラ皇国にあった魔道具で魔法を操り、水を出しオアシスを作り細々ながらも平和に暮らしていた。
 
 しかしあるとき好戦的な部族が現れて、その地を乗っ取ろうと攻撃してきたのだ。
 皇国の人びとは、もともと平和的な性格で、魔法は武器としては役に立たず、ろくに武器もないため一方的にやられていった。しかし皆、皇国の王子を逃すため必死に戦い、マーク達はやっとのことでこの地まで来たのだった。
 マークはもともとこの公爵家の執事としていたものの息子としてこの公爵家に入り込んだのだった。マークは皇国王から預かった秘宝の魔道具を使い、皆の記憶を操ったのである。それもすべて大切な今は亡き皇国王族最後の生き残りである王子のためだった。
 
 「旦那様申し訳ございません。皆様をだましておりました」

 「じゃあスティーブやバーバラと一緒に遊んだりしたのもみんな嘘だったの?!」

 キャスリンはマークに叫んだ。

 「いえ、それは本当のことにございます。私どもがこちらでお世話になり始めたのが、キャスリン様が5歳の時ですから。娘のバーバラには皆様にかけた同じ魔法を使っております。バーバラは当時6歳です。下手な記憶はないほうがいいかと思いまして。ですからバーバラもこのことは全く何も知りません。たた王子であるスティーブ様にはすべてお話ししたようですが...」

 「そうなの。よかった。じゃあ私がみんなと一緒に遊んだ記憶は嘘じゃないのね」

 キャスリンは安どのため息を吐いた。

 「マーク、でも私にはキャスリンが言っているスティーブというものの記憶はないのだが」

 当主であるスコットの言葉に、マークは悲しみをたたえた目をしてキャスリンのほうを向いた。

 「私も王子の記憶はございませんでした。しかしお嬢様のお話を聞いて、部屋の中をいろいろ探してみました。そこで手紙を見つけました。これも時を超えてきたものだと思われます」

 マークはそういい、その手紙をスコットに渡した。スコットは手紙を読みすすめ、目を赤くしながらその手紙を兄のクロードに手渡した。兄のクロードも読み進めているうちに、手紙の上にぽたぽたと涙が落ちた。
 兄のクロードは自分の涙でにじんでしまった手紙をキャスリンに渡した。
 
 震える手で手紙を受け取ったキャスリンは、手紙を読み始めた。涙がぽろぽろとこぼれてきて、うまく字が読めない。手の甲で涙をぬぐいながらその手紙を読んでいった。令嬢にあるまじき行為に周りのだれも注意をする者はいなかった。

 「あぁぁぁ__スティーブ!私のために時を超えたのね。だからスティーブがここにいないのね。どうしたらいいの」

 キャスリンは手紙を握りしめたまま、マークのところに走っていき、マークに縋りついた。

 「ねえ、マーク教えて。どうしたらスティーブは戻ってくるの?お願い教えて!」

 キャスリンはマークをつかんで何度も何度も言ったが、マークは深い悲しみをたたえた目でキャスリンを見つめるだけだった。
 キャスリンの力が抜けて床に座り込むと、マークはキャスリンをゆっくりと立ち上がらせて椅子に座らせていった。

 「お嬢様、時を超えることは、自然の摂理に反しております。皇国の民を逃がすために使った魔法はとても高い代償を払わねばなりませんでした。それが王族である皇王と王妃の命。今回もキャスリン様を助けるために使われたのは、皇国唯一の王族である王子の命です。時戻りは特に代償が大きいのです。魔力がずば抜けてあったと思われる王子だからこそできたことなのかもしれません。私もまさか時戻りが実際に行われたとは今でも信じられないほどなのです。あまりに自然の摂理から逸脱している時戻りは、それを行ったものの存在さえ奪ってしまうものだったのですね」

 「そんな~」

 「ただどうしてこんなことが起きなくてはいけなくなったのか、どうして王子がそうしなくてはいけなくなったのか、それを知りたいと思っております。そしてそんなことをした者たちを許したくはありません」

 マークの顔は悲しみから一転憤怒の顔になった。

 「そうだ。なぜキャスリンが毒杯を飲まなくてはいけなくなったのか、それを知らなくては。キャスリン、教えてくれないか」

 キャスリンは父親のスコットの言葉を聞いて、怒りがわいてきた。そうなのだ。どうして毒杯を飲まなくてはいけなくなったのか。あの時には仕方ないとあきらめてしまった。自分さえいなくなればいいと思ってしまった。
 まさか大切なひとスティーブが、この世界からいなくなるなんて夢にも思わなかった。
 もしわかっていたら力の限りあがいただろう、あの運命に。
 
 いや今からでも遅くない。こんな運命をもたらしたあの人たちを絶対に許すものか、キャスリンはそう心に誓った。

 キャスリンは、死ぬその時までの事を話し始めた。
 
 

 
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