上 下
102 / 104

101 私は仕事を頑張ります!

しおりを挟む
 三人が三人とも口を大きくあけて、言葉も出ないなか久美ちゃんだけがにんまりと笑っています。
 
 それはそうですよね。久美ちゃんは、ずっと間近で見ていたのですから。私が自分で手作りしたミニチュアハウスをうっとりと眺めてはため息をついていたのを。
 しかも私は、久美ちゃんに駄菓子屋さんをやるにはどれくらいの費用が掛かるのか聞いていたのです。
 きっと久美ちゃんは、私の思いをわかっていたのでしょう。私が久美ちゃんに聞いた数日後には、私の机の上に厚い書類が置かれていました。
 そこには駄菓子屋さんにかかるもろもろの費用や駄菓子屋さんを始める上で必要なことがすべて書かれていました。そして極めつけは久美ちゃんのあるひとことです。

「もしお店を持ちたいなら、応援するとご両親からもOKが出ましたよ」

 私は、ちょうど家族がそろっているときに、その書類を持っていきました。部屋に入るなり、私が持っている書類にお兄様がちらりと目を向けました。なんだか口の端がぴくぴくしている気がするのは気のせいでしょうか。

「お父様、お母様。久美ちゃんから聞いていると思いますが、私お店を経営してみたいんです」

 私が両親に切り出すと、二人とも驚くことはありませんでした。

「聞いているよ。千代子が持っているその書類を見せてもらったからね」

「いいんじゃないの? オープンしたら私もぜひ行ってみたいわ~」

 久美ちゃんが言った通り、反対するどころか応援されているようです。嬉しいですね。

「ありがとうございます!」

「ああ。久美ちゃんにいろいろ聞いてみなさい」

 お父様は、久美ちゃんに全信頼を寄せているようです。まあ久美ちゃんが仕切ってくれれば鬼に金棒ですからね。今世はお金持ちに生まれて幸せです!好きなことが出来るんですから。


 
 三人の唖然とした表情を見ていた私は、この前の家族とのやり取りを思い出して、ちょっとだけ笑ってしまいました。実は、もうすでに少しだけ動き始めているんですよね。久美ちゃんが、物件をすでに探してくれているんです。私が無意識に笑ってしまったのを三人が見逃すはずがありません。

「もう決まっているんだね」

「そうなのか!」

「じゃあ、一度国に帰ってまた来るよ。その時には、その駄菓子屋という店に行ってみたいな」

 まずはじめに言葉を発した青木さんの中では、私が駄菓子屋さんを始めると思っているようです。清徳さんも私の顔を見て確信したようです。ジェフさんは、もうお店に来る気でいます。気が早いですね。

「はい。頑張って開店させようと思っています。ですからしばらくは、仕事に全力投球ですね」

 暗に恋はまだ先の話です! と三人に言ったつもりでした。

「そうか。じゃあできたらすぐ教えてくれよ。行くからな」

 さすが私の思いを全然気にしていない清徳さんです。青木さんとジェフさんは、私の言葉に苦笑いを浮かべています。私の意図することを理解してくれたようですよ。

「じゃあ、僕も開店したら花を届けるよ」

「私も早く日本に来られるように、向こうで仕事を頑張るよ! その時には両手いっぱいの薔薇を持っていくよ」

 えっ__? 二人も理解してくれていなかったんですか? もう~。

 私は三人を置いて久美ちゃんと会場に戻ることにしました。三人を残してすたすた歩いていきます。すると後ろから声が聞こえてきました。

「私たちも戻りましょうか」

「そうですね」

「それまで抜け駆けはなしだぞ!」

 後ろの三人が騒がしいです。それにしても清徳さんの言っている抜け駆けとは何なのでしょう。さきほども言った通り、私はこれから仕事に一直線なんですから!
 でもこれでお得意様が三人出来たようです。今から会場に戻れば、きっと皆さんも応援してくれるでしょうね。
 あとぜひ近藤さん達にも来てもらえたらいいですね。

 今から楽しみです♪


 おわり    

 ※今まで読んでいただいてありがとうございました。これで完結とさせていただきます。
この後清徳視点など予定しています。


 



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです) hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

【1/23取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

酒の席での戯言ですのよ。

ぽんぽこ狸
恋愛
 成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。  何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。  そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの。

朝霧心惺
恋愛
「リリーシア・ソフィア・リーラー。冷酷卑劣な守銭奴女め、今この瞬間を持って俺は、貴様との婚約を破棄する!!」  テオドール・ライリッヒ・クロイツ侯爵令息に高らかと告げられた言葉に、リリーシアは純白の髪を靡かせ高圧的に微笑みながら首を傾げる。 「誰と誰の婚約ですって?」 「俺と!お前のだよ!!」  怒り心頭のテオドールに向け、リリーシアは真実を告げる。 「わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの」

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

忘れられた薔薇が咲くとき

ゆる
恋愛
貴族として華やかな未来を約束されていた伯爵令嬢アルタリア。しかし、突然の婚約破棄と追放により、その人生は一変する。全てを失い、辺境の町で庶民として生きることを余儀なくされた彼女は、過去の屈辱と向き合いながらも、懸命に新たな生活を築いていく。 だが、平穏は長く続かない。かつて彼女を追放した第二王子や聖女が町を訪れ、過去の因縁が再び彼女を取り巻く。利用されるだけの存在から、自らの意志で運命を切り開こうとするアルタリア。彼女が選ぶ未来とは――。 これは、追放された元伯爵令嬢が自由と幸せを掴むまでの物語。ざまあ要素たっぷりの胸がすくような展開と、新たな一歩を踏み出す彼女の成長を描きます!

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

処理中です...