82 / 104
82 気持ちを吐き出す場となりました
しおりを挟む
久子さんの言葉に私たち皆が顔を見合わせました。久子さんにしてはとても珍しいことです。久子さんはいつも穏やかで、他のお嬢様方との橋渡しもやってくださったのですから。私は、久子さんのおかげで今ここにいるお嬢様方と仲良くなったといっても過言ではありません。
「清徳さん、千代子さんとはもういいなずけではないのですから、少し距離をとった方がよろしいんじゃありません?」
「距離とは?」
清徳さんも久子さんの言葉に少しむっとしたようです。
「パーティでよくお見かけした方と、仲良くされていればいいのでは。私たちよくお見かけしましたのよ。ねえ皆さん」
久子さんがそういいながら他のお嬢様方を見渡します。
「そうですわね」
京香さんが久子さんに同意します。隣では花蓮さんも大きくうなづいています。その横で舞子さんが困った顔をしているのが見えました。
「まあまあ」
久子さんの険を含んだ声に、押村さんが慌ててやってきました。「落ち着いて、落ち着いて」と久子さんをなだめ始めました。ですがどうやらそれが火に油を注ぐ形となってしまいました。
花蓮さんがずいっと清徳さんの前に立ちました。
「私たち見ておりましたのよ。清徳さんが千代子さんをないがしろにしているのを。ずう~っと。今さらじゃありませんこと?」
「そうですわ。いくら千代子さんの髪型が、あまりに奇抜だったとしてもあれはありませんでしたわ」
京香さんも花蓮さんの横に立って清徳さんに言い放ちました。どこかで豪快にお茶を噴く音が聞こえました。京香さんの言った奇抜な髪型に反応したのですね。私は思わず音のした方を見ました。
お兄様が慌てて口を拭いています。お兄様! 私はお兄様をにらみつけました。お兄様は、私の怒りの視線を感じて慌てて顔をそらしました。
「私も学生時代おとなしい髪型でしたの。高校の時に好きになった方に告白したんですけど、その方なんて言ったと思います? 地味すぎるからごめんといわれましたのよ」
気が付けば京香さんは、私の事ではなく自分語りを始めていました。私の髪型発言から昔を思い出してしまったようです。京香さんの嘆きは続きます。
「私の初恋でしたのに~」
京香さんは涙目で清徳さんに言っています。ここまで来ると、清徳さんもそしてその隣にいる押村さんもどうしていいのかわからず、何とも言えない表情を浮かべています。その京香さんの横で、花蓮さんも微妙な顔で京香さんの背中をさすっています。ここまで来たらすべて出し切った方がいいと思ったのでしょう。目の前の清徳さんや押村さんに目で謝っています。
「京香さん、スイッチが入ってしまいましたわね」
そういって私の隣に来たのは久子さんでした。久子さんはスマホを見せてきます。そこには高校生時代の京香さんが映っていました。三つ編みに大きなメガネ姿、確かに地味な格好です。今の華やかな姿からは想像もできません。
「髪型でずいぶん雰囲気が変わるからね。今の京香さんはとってもかわいいよ。きっと京香さんの今の姿を見たら、京香さんに失言をしたやつもとっても後悔すると思うよ」
白井さんがそういいながら、泣いている京香さんのところに行って頭をなで始めました。京香さんははじめこそ白井さんにびっくりしていましたが、次第に心が落ち着いてきたのでしょう。顔を真っ赤にさせてうつむいています。
さすが白井さんですね。女性にモテるわけです。
「男性も雰囲気イケメンがいますもんね。髪型って大切ですわね~」
泣き止んだ京香さんに安心したのか、隣にいた花蓮さんが舞子さんと話し始めました。私もほっとしました。
「ごめんなさいね。まさか私の発言からこんなことになるなんて。でも清徳さんが許せませんでしたの」
久子さんもほっとしたようです。やはり意図的に先ほどの発言をしたんですね。
「実はボートの上で私も清徳さんに言ってやったんです。だからすっきりしました。でも久子さんがおっしゃってくださった事とっても嬉しかったです。ありがとうございます」
「まあ~、そうでしたの?」
私と久子さんは笑いあいました。京香さんたちの方を見ればもう場は和んでいます。
あれっ、ついさっきまであそこにいた清徳さんんの姿が見えません。白井さんや押村さんは、笑いながら京香さんや舞子さん、花蓮さんとしゃべっています。
お兄様はと見ると、お兄様はいまだ椅子に座っています。先ほど吹き出した時にむせたのでしょう。まだ少しのどが絡んでいるようです。仕方ありませんね。ちょっとすっきりしました。私はお兄様から目を移して、清徳さんを探しました。リビングにいません。
もしかしたら? 私は久子さんに断ってリビングを出ました。
庭に続く道を抜けて湖に出ると、大きな木の下に清徳さんがいました。ひとり木の下にもたれてたたずんでいます。
私は黙って清徳さんのところに歩いていきました。近くまで行くと清徳さんが私に気づいたのか、こちらを見ました。大きな体が何だか小さく見えます。まるでしおれた菜っ葉のようですよ。
「清徳さん、千代子さんとはもういいなずけではないのですから、少し距離をとった方がよろしいんじゃありません?」
「距離とは?」
清徳さんも久子さんの言葉に少しむっとしたようです。
「パーティでよくお見かけした方と、仲良くされていればいいのでは。私たちよくお見かけしましたのよ。ねえ皆さん」
久子さんがそういいながら他のお嬢様方を見渡します。
「そうですわね」
京香さんが久子さんに同意します。隣では花蓮さんも大きくうなづいています。その横で舞子さんが困った顔をしているのが見えました。
「まあまあ」
久子さんの険を含んだ声に、押村さんが慌ててやってきました。「落ち着いて、落ち着いて」と久子さんをなだめ始めました。ですがどうやらそれが火に油を注ぐ形となってしまいました。
花蓮さんがずいっと清徳さんの前に立ちました。
「私たち見ておりましたのよ。清徳さんが千代子さんをないがしろにしているのを。ずう~っと。今さらじゃありませんこと?」
「そうですわ。いくら千代子さんの髪型が、あまりに奇抜だったとしてもあれはありませんでしたわ」
京香さんも花蓮さんの横に立って清徳さんに言い放ちました。どこかで豪快にお茶を噴く音が聞こえました。京香さんの言った奇抜な髪型に反応したのですね。私は思わず音のした方を見ました。
お兄様が慌てて口を拭いています。お兄様! 私はお兄様をにらみつけました。お兄様は、私の怒りの視線を感じて慌てて顔をそらしました。
「私も学生時代おとなしい髪型でしたの。高校の時に好きになった方に告白したんですけど、その方なんて言ったと思います? 地味すぎるからごめんといわれましたのよ」
気が付けば京香さんは、私の事ではなく自分語りを始めていました。私の髪型発言から昔を思い出してしまったようです。京香さんの嘆きは続きます。
「私の初恋でしたのに~」
京香さんは涙目で清徳さんに言っています。ここまで来ると、清徳さんもそしてその隣にいる押村さんもどうしていいのかわからず、何とも言えない表情を浮かべています。その京香さんの横で、花蓮さんも微妙な顔で京香さんの背中をさすっています。ここまで来たらすべて出し切った方がいいと思ったのでしょう。目の前の清徳さんや押村さんに目で謝っています。
「京香さん、スイッチが入ってしまいましたわね」
そういって私の隣に来たのは久子さんでした。久子さんはスマホを見せてきます。そこには高校生時代の京香さんが映っていました。三つ編みに大きなメガネ姿、確かに地味な格好です。今の華やかな姿からは想像もできません。
「髪型でずいぶん雰囲気が変わるからね。今の京香さんはとってもかわいいよ。きっと京香さんの今の姿を見たら、京香さんに失言をしたやつもとっても後悔すると思うよ」
白井さんがそういいながら、泣いている京香さんのところに行って頭をなで始めました。京香さんははじめこそ白井さんにびっくりしていましたが、次第に心が落ち着いてきたのでしょう。顔を真っ赤にさせてうつむいています。
さすが白井さんですね。女性にモテるわけです。
「男性も雰囲気イケメンがいますもんね。髪型って大切ですわね~」
泣き止んだ京香さんに安心したのか、隣にいた花蓮さんが舞子さんと話し始めました。私もほっとしました。
「ごめんなさいね。まさか私の発言からこんなことになるなんて。でも清徳さんが許せませんでしたの」
久子さんもほっとしたようです。やはり意図的に先ほどの発言をしたんですね。
「実はボートの上で私も清徳さんに言ってやったんです。だからすっきりしました。でも久子さんがおっしゃってくださった事とっても嬉しかったです。ありがとうございます」
「まあ~、そうでしたの?」
私と久子さんは笑いあいました。京香さんたちの方を見ればもう場は和んでいます。
あれっ、ついさっきまであそこにいた清徳さんんの姿が見えません。白井さんや押村さんは、笑いながら京香さんや舞子さん、花蓮さんとしゃべっています。
お兄様はと見ると、お兄様はいまだ椅子に座っています。先ほど吹き出した時にむせたのでしょう。まだ少しのどが絡んでいるようです。仕方ありませんね。ちょっとすっきりしました。私はお兄様から目を移して、清徳さんを探しました。リビングにいません。
もしかしたら? 私は久子さんに断ってリビングを出ました。
庭に続く道を抜けて湖に出ると、大きな木の下に清徳さんがいました。ひとり木の下にもたれてたたずんでいます。
私は黙って清徳さんのところに歩いていきました。近くまで行くと清徳さんが私に気づいたのか、こちらを見ました。大きな体が何だか小さく見えます。まるでしおれた菜っ葉のようですよ。
0
お気に入りに追加
634
あなたにおすすめの小説
今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
hotランキング1位入りしました。ありがとうございます
【1/23取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
酒の席での戯言ですのよ。
ぽんぽこ狸
恋愛
成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。
何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。
そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの。
朝霧心惺
恋愛
「リリーシア・ソフィア・リーラー。冷酷卑劣な守銭奴女め、今この瞬間を持って俺は、貴様との婚約を破棄する!!」
テオドール・ライリッヒ・クロイツ侯爵令息に高らかと告げられた言葉に、リリーシアは純白の髪を靡かせ高圧的に微笑みながら首を傾げる。
「誰と誰の婚約ですって?」
「俺と!お前のだよ!!」
怒り心頭のテオドールに向け、リリーシアは真実を告げる。
「わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの」
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
忘れられた薔薇が咲くとき
ゆる
恋愛
貴族として華やかな未来を約束されていた伯爵令嬢アルタリア。しかし、突然の婚約破棄と追放により、その人生は一変する。全てを失い、辺境の町で庶民として生きることを余儀なくされた彼女は、過去の屈辱と向き合いながらも、懸命に新たな生活を築いていく。
だが、平穏は長く続かない。かつて彼女を追放した第二王子や聖女が町を訪れ、過去の因縁が再び彼女を取り巻く。利用されるだけの存在から、自らの意志で運命を切り開こうとするアルタリア。彼女が選ぶ未来とは――。
これは、追放された元伯爵令嬢が自由と幸せを掴むまでの物語。ざまあ要素たっぷりの胸がすくような展開と、新たな一歩を踏み出す彼女の成長を描きます!
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる