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80 ようやく岸に上がれそうです
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清徳さんから爆弾発言をされて唖然としていた時です。肩掛けバッグの中から音がしました。バッグをのぞくと、スマホが鳴っています。画面を見ればお兄様からでした。
「今どこにいる? ボートが見当たらないんだけど」
どうやら私たちの乗っているボートが見当たらないので、連絡してきたようです。私がお兄様からの電話に出てすぐ、清徳さんのスマホも鳴りました。清徳さんも電話に出ています。どうやら押村さんからの様です。きっとお兄様と同様に、私たちのボートが見当たらないので、心配したんでしょうね。
「今いるのは赤い鳥居のそばです」
「赤い鳥居ってボート乗り場と反対の方向だよね。あんなところにいるの?」
電話の向こうでお兄様が絶句しています。周りには他の人たちでしょう、声が聞こえてきます。どうやら皆さん驚いているようです。そうですよね。私も驚いているぐらいですから。
「今から戻ると大変だろう? 確か鳥居のそばにボートを停泊できるところがあったはずだよ。そこに行って。迎えをやるから」
「お願いします」
お兄様の電話が切れました。私はほっとしました。正直もう足がつらくなってきたんですよね。きっと隣の彼も足がつらいはずです。二人で漕いでいるのに、先ほどまでとは違い全然前に進まないのですから。どうやら清徳さんも兄が言ったことと同じことを押村さんに言われたようで、ほっとした声を出しています。
「聞きました? あの鳥居のそばに岸に上がれるところがあるみたいですよ」
「そのようだね。じゃあそこまで行こう」
「そうしましょう」
私たちは最後の力を振り絞ってボートを漕ぎました。ただボートをこぎながらも、先ほど清徳さんが言ったことを忘れたわけではありません。私はあの会社が気に入ってるんです。簡単に辞めてやるなんて嫌です。むっとしながら黙ってこいでいると、横にいる清徳さんがちらりちらりとこちらを見ています。どうやら私の不機嫌さに気がついているようです。
「さっき言ったことなんだけど...」
「なんですか?」
清徳さんが恐る恐る話しかけてきました。先ほど言った自分の言葉を少し悔やんでいるようです。
「ごめん。君とのつながりをなくしたくない。だからあの会社を辞めないでほしい。それに...」
「それになんですか?」
「これからもっと努力するから、これからの私を見てほしいんだ!」
「あなたは、私の中で地に落ちているんですけど」
「そうだよね。じゃあプラスになるよう頑張るよ。マイナスからプラスになるってすごくない?」
「今さらなりますか? そんなに人間変われませんよ。すぐには」
「君は変わったじゃないか。だから私だって」
さすが清徳さんです。ずいぶんと前向き思考ですね。私は前世を思い出したから変われたんですとはさすがに言えませんでした。私がじとりと彼を見やれば、清徳さんは何を勘違いしたのか、私が黙ったのを勝手にいい方に解釈したようです。
「これから頑張るよ!」
ひとりはりきりだしてペダルをこぎはじめました。ボートは先ほどより前に進み始めます。私は疲れたこともあり彼に反論するのをやめました。下手に反論して、彼のペダルを漕ぐやる気をそいではいけませんしね。
私が悶々と考えている間に岸が見えてきました。先の方にはボートの停泊する場所があります。これで湖からやっと上がれますね。
私と清徳さんは、やっとボートから降りることが出来ました。行きの時と違いボートから降りるときには、なんと清徳さんが手を差し出してきました。清徳さん、エスコートきちんとできるんですね。
私がむっとしながらも手を差し出せば、まるでお姫様にでもなったような、それはそれは見事なエスコートをしてくれました。そのせいで少し顔が赤くなってしまったのには困ってしまいました。
地面に足が付くと、今さらながら足の疲れがどっと出てきました。
「お待ちしておりました」
眼の前に赤池さんが立っています。疲れたせいで、まったく気が付きませんでした。兄の指示で迎えに来てくれたようです。
「ボートはこのままで結構です。取りに来てくれるそうですので」
「ありがとう。よろしく頼むよ」
私より先に清徳さんが赤池さんにお礼を言っています。
「いえいえ。さあ車にどうぞ」
私たちは車に乗り込みました。ここでも清徳さんが私をエスコートしてくれます。いったいどうしたんでしょうね。先ほどまでとは全然違いますよ。私は、笑いをこらえしごくまじめな顔を作って乗り込みました。
ただ乗り込むときに、私たちの後ろに控えていた赤池さんと目が合いました。赤池さんも少し変な顔をしています。やっぱり清徳さんの変化に気が付いたのでしょうか。私がにやりとすると、赤池さんも同じようにちょっとだけ口をにゅっとしました。清徳さんは気が付いてないようで、あっさりと乗り込みます。
「すみません。皆さん先にお昼を召し上がられました」
車が走り出してすぐ、赤池さんが申し訳なさそうに私たちに言ってきました。
「兄から聞きました。こちらこそすみません。準備が大変でしたよね。ありがとうございました」
「悪かったね。ありがとう」
私が言った後に、清徳さんも赤池さんにお礼を言いました。ミラー越しに赤池さんとまたもや目が合ってしまいました。
いきなりお礼を言われてびっくりしましたよね。彼の午前中の態度からしてみれば別人かと思っちゃいますね。
「今どこにいる? ボートが見当たらないんだけど」
どうやら私たちの乗っているボートが見当たらないので、連絡してきたようです。私がお兄様からの電話に出てすぐ、清徳さんのスマホも鳴りました。清徳さんも電話に出ています。どうやら押村さんからの様です。きっとお兄様と同様に、私たちのボートが見当たらないので、心配したんでしょうね。
「今いるのは赤い鳥居のそばです」
「赤い鳥居ってボート乗り場と反対の方向だよね。あんなところにいるの?」
電話の向こうでお兄様が絶句しています。周りには他の人たちでしょう、声が聞こえてきます。どうやら皆さん驚いているようです。そうですよね。私も驚いているぐらいですから。
「今から戻ると大変だろう? 確か鳥居のそばにボートを停泊できるところがあったはずだよ。そこに行って。迎えをやるから」
「お願いします」
お兄様の電話が切れました。私はほっとしました。正直もう足がつらくなってきたんですよね。きっと隣の彼も足がつらいはずです。二人で漕いでいるのに、先ほどまでとは違い全然前に進まないのですから。どうやら清徳さんも兄が言ったことと同じことを押村さんに言われたようで、ほっとした声を出しています。
「聞きました? あの鳥居のそばに岸に上がれるところがあるみたいですよ」
「そのようだね。じゃあそこまで行こう」
「そうしましょう」
私たちは最後の力を振り絞ってボートを漕ぎました。ただボートをこぎながらも、先ほど清徳さんが言ったことを忘れたわけではありません。私はあの会社が気に入ってるんです。簡単に辞めてやるなんて嫌です。むっとしながら黙ってこいでいると、横にいる清徳さんがちらりちらりとこちらを見ています。どうやら私の不機嫌さに気がついているようです。
「さっき言ったことなんだけど...」
「なんですか?」
清徳さんが恐る恐る話しかけてきました。先ほど言った自分の言葉を少し悔やんでいるようです。
「ごめん。君とのつながりをなくしたくない。だからあの会社を辞めないでほしい。それに...」
「それになんですか?」
「これからもっと努力するから、これからの私を見てほしいんだ!」
「あなたは、私の中で地に落ちているんですけど」
「そうだよね。じゃあプラスになるよう頑張るよ。マイナスからプラスになるってすごくない?」
「今さらなりますか? そんなに人間変われませんよ。すぐには」
「君は変わったじゃないか。だから私だって」
さすが清徳さんです。ずいぶんと前向き思考ですね。私は前世を思い出したから変われたんですとはさすがに言えませんでした。私がじとりと彼を見やれば、清徳さんは何を勘違いしたのか、私が黙ったのを勝手にいい方に解釈したようです。
「これから頑張るよ!」
ひとりはりきりだしてペダルをこぎはじめました。ボートは先ほどより前に進み始めます。私は疲れたこともあり彼に反論するのをやめました。下手に反論して、彼のペダルを漕ぐやる気をそいではいけませんしね。
私が悶々と考えている間に岸が見えてきました。先の方にはボートの停泊する場所があります。これで湖からやっと上がれますね。
私と清徳さんは、やっとボートから降りることが出来ました。行きの時と違いボートから降りるときには、なんと清徳さんが手を差し出してきました。清徳さん、エスコートきちんとできるんですね。
私がむっとしながらも手を差し出せば、まるでお姫様にでもなったような、それはそれは見事なエスコートをしてくれました。そのせいで少し顔が赤くなってしまったのには困ってしまいました。
地面に足が付くと、今さらながら足の疲れがどっと出てきました。
「お待ちしておりました」
眼の前に赤池さんが立っています。疲れたせいで、まったく気が付きませんでした。兄の指示で迎えに来てくれたようです。
「ボートはこのままで結構です。取りに来てくれるそうですので」
「ありがとう。よろしく頼むよ」
私より先に清徳さんが赤池さんにお礼を言っています。
「いえいえ。さあ車にどうぞ」
私たちは車に乗り込みました。ここでも清徳さんが私をエスコートしてくれます。いったいどうしたんでしょうね。先ほどまでとは全然違いますよ。私は、笑いをこらえしごくまじめな顔を作って乗り込みました。
ただ乗り込むときに、私たちの後ろに控えていた赤池さんと目が合いました。赤池さんも少し変な顔をしています。やっぱり清徳さんの変化に気が付いたのでしょうか。私がにやりとすると、赤池さんも同じようにちょっとだけ口をにゅっとしました。清徳さんは気が付いてないようで、あっさりと乗り込みます。
「すみません。皆さん先にお昼を召し上がられました」
車が走り出してすぐ、赤池さんが申し訳なさそうに私たちに言ってきました。
「兄から聞きました。こちらこそすみません。準備が大変でしたよね。ありがとうございました」
「悪かったね。ありがとう」
私が言った後に、清徳さんも赤池さんにお礼を言いました。ミラー越しに赤池さんとまたもや目が合ってしまいました。
いきなりお礼を言われてびっくりしましたよね。彼の午前中の態度からしてみれば別人かと思っちゃいますね。
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