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78 ずいぶん遠くに来たものです
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いつの間にか青木さんたちの乗ったボートとはかなり離れてしまいました。横を見れば肩で息をしている清徳さんがいます。
「大丈夫ですか?」
あまりにも額に汗をかいているので、思わず声をかけていました。
「平気。平気~」
まだ息が上がっているせいか声が少しかすれていますね。大丈夫ですか? それにしても湖の真ん中のほうまで来たようです。ボート乗り場が小さく見えます。
「千代子ちゃ~ん」
私がぼーと景色を見ていました。もちろんペダルの上に足を乗せたままです。漕いでいません。その時です。また私を呼ぶ声が聞こえました。声のした方を見れば横に白鳥の頭が見えました。ちょっと離れたところから手を振っている白井さんの姿がありました。その隣では、満面の笑みをした舞子さんが座っています。
私も手を振ります。
「お互いずいぶん来たね~」
白井さんが私に話しかけてきました。私も答えます。
「そうですね~」
「湖の上は気持ちいいね」
「思ったより涼しいですね~」
確かに白井さんは涼しそうです。あまり汗をかいていませんね。舞子さんもちゃんと漕いでいるんですかね。ちょっと申し訳なくなった私は、漕いでくれている隣を見ました。清徳さんは、先ほどの汗も引かないまま再び真剣に漕ぎ始めています。私は清徳さんに教えてあげることにしました。清徳さんもそんなに真剣にこがなくてもいいですよ。白井さん達に手を振ってみたらどうですか? 舞子さんが喜びますよ。
「隣に同じ白鳥のボートがきていますよ」
「ああ」
清徳さんは私の話より漕ぐのが楽しいのか、私への返事をおざなりに汗をだらだら流しながらも必死で漕いでいます。私は再び白井さんたちのボートを見ました。
あらっ。さっきより距離が開いていませんか。
「また後で~」
白井さんは手を振りながら私にそういって、私のボートと離れていきました。白井さんたちの乗ったボートがどんどん小さくなっていきます。どれだけ乗っていたのでしょう。気が付けば私たちの周りにはボートが一つも見えなくなっていました。私は再び隣の清徳さんを見ました。
隣の清徳さんの顔からは汗がしたたり落ちています。私は、汗をぬぐう様にハンカチを差し出しました。
「どうぞ」
私が差し出したハンカチを見て、清徳さんはやっとペダルをこぐのをやめました。
「ありがとう」
清徳さんは、素直にハンカチを受け取り汗をぬぐいました。結構汗が出ていたんですね。水色のハンカチの色が濃くなっていきます。
清徳さんが汗を拭いている間、私は景色を見ることにしました。
えっ? ここはどこですか? 湖の上ですが、ボート乗り場が見えません。ちょっと離れた湖の岸に真っ赤な鳥居が見えます。もしかしてあの鳥居ってボート乗り場の反対側ではないですか?
「清徳さん。あれって鳥居ですよね」
「鳥居? あっ、ほんとだ」
私が指さしたほうを清徳さんも見ました。どうやら清徳さんの目にも真っ赤な鳥居が見えるようです。
「ここってボート乗り場の反対側ですよね」
「そうだな」
どうやら今私たちがいるボートは、湖の反対側まできてしまったようです。
「また引き返すには大変ですね」
「そうだな」
あらっ。清徳さんの顔が少しひきつっていませんか。それに心なしか顔色が悪いようですよ。汗のかき過ぎで寒くなってしまったんでしょうか。
それとももしかしてまた戻ることを考えたせいでしょうか? どうやらそっちの方だったみたいですね。
清徳さんが改めて景色を見てがっくりと肩を落としています。私もちょっと漕いだだけで、足が少し痛いのです。清徳さんはどんなに疲れていることでしょう。それにしてもいくらボートに乗るのが好きでも、ここまで漕ぐことはなかったですよね。私ももっと気を付けるべきでした。後悔してもしたりません。
ボートの中はどんよりとした空気に覆われています。
「ボート乗り場まで頑張りましょう。今度は私もしっかり漕ぎますから」
このどんよりとした空気を消し去るべく、私は自分を鼓舞するように右手を突き上げました。
私がいきなり隣で大声を出したからでしょう。肩を落としていた清徳さんが、はっとしたように私を見ました。まさしくじ~っと、音でも聞こえそうなほど見られています。その様子を見ていた私は思わず視線を外してしまいました。
「ありがとう」
視線を外して景色を見ていた私に小さな声が聞こえました。つい声のした方を見ると、顔を少し赤くした清徳さんがいました。汗がすっかり引いていますが、顔の赤さは暑いからではなさそうです。私と目が合うと、今度は清徳さんが先に視線を外しました。
もしかして照れているんでしょうか。照れた清徳さんを見るのは久しぶりの気がします。まだ仲が良かった子どものころを思い出しました。ずいぶんイケメンになり最近ではすました顔しか記憶になかったのですが、昔はこんな顔をしたこともありましたね。
私たちは、ボートの向きを変え二人で再びペダルをこぎ始めました。
「大丈夫ですか?」
あまりにも額に汗をかいているので、思わず声をかけていました。
「平気。平気~」
まだ息が上がっているせいか声が少しかすれていますね。大丈夫ですか? それにしても湖の真ん中のほうまで来たようです。ボート乗り場が小さく見えます。
「千代子ちゃ~ん」
私がぼーと景色を見ていました。もちろんペダルの上に足を乗せたままです。漕いでいません。その時です。また私を呼ぶ声が聞こえました。声のした方を見れば横に白鳥の頭が見えました。ちょっと離れたところから手を振っている白井さんの姿がありました。その隣では、満面の笑みをした舞子さんが座っています。
私も手を振ります。
「お互いずいぶん来たね~」
白井さんが私に話しかけてきました。私も答えます。
「そうですね~」
「湖の上は気持ちいいね」
「思ったより涼しいですね~」
確かに白井さんは涼しそうです。あまり汗をかいていませんね。舞子さんもちゃんと漕いでいるんですかね。ちょっと申し訳なくなった私は、漕いでくれている隣を見ました。清徳さんは、先ほどの汗も引かないまま再び真剣に漕ぎ始めています。私は清徳さんに教えてあげることにしました。清徳さんもそんなに真剣にこがなくてもいいですよ。白井さん達に手を振ってみたらどうですか? 舞子さんが喜びますよ。
「隣に同じ白鳥のボートがきていますよ」
「ああ」
清徳さんは私の話より漕ぐのが楽しいのか、私への返事をおざなりに汗をだらだら流しながらも必死で漕いでいます。私は再び白井さんたちのボートを見ました。
あらっ。さっきより距離が開いていませんか。
「また後で~」
白井さんは手を振りながら私にそういって、私のボートと離れていきました。白井さんたちの乗ったボートがどんどん小さくなっていきます。どれだけ乗っていたのでしょう。気が付けば私たちの周りにはボートが一つも見えなくなっていました。私は再び隣の清徳さんを見ました。
隣の清徳さんの顔からは汗がしたたり落ちています。私は、汗をぬぐう様にハンカチを差し出しました。
「どうぞ」
私が差し出したハンカチを見て、清徳さんはやっとペダルをこぐのをやめました。
「ありがとう」
清徳さんは、素直にハンカチを受け取り汗をぬぐいました。結構汗が出ていたんですね。水色のハンカチの色が濃くなっていきます。
清徳さんが汗を拭いている間、私は景色を見ることにしました。
えっ? ここはどこですか? 湖の上ですが、ボート乗り場が見えません。ちょっと離れた湖の岸に真っ赤な鳥居が見えます。もしかしてあの鳥居ってボート乗り場の反対側ではないですか?
「清徳さん。あれって鳥居ですよね」
「鳥居? あっ、ほんとだ」
私が指さしたほうを清徳さんも見ました。どうやら清徳さんの目にも真っ赤な鳥居が見えるようです。
「ここってボート乗り場の反対側ですよね」
「そうだな」
どうやら今私たちがいるボートは、湖の反対側まできてしまったようです。
「また引き返すには大変ですね」
「そうだな」
あらっ。清徳さんの顔が少しひきつっていませんか。それに心なしか顔色が悪いようですよ。汗のかき過ぎで寒くなってしまったんでしょうか。
それとももしかしてまた戻ることを考えたせいでしょうか? どうやらそっちの方だったみたいですね。
清徳さんが改めて景色を見てがっくりと肩を落としています。私もちょっと漕いだだけで、足が少し痛いのです。清徳さんはどんなに疲れていることでしょう。それにしてもいくらボートに乗るのが好きでも、ここまで漕ぐことはなかったですよね。私ももっと気を付けるべきでした。後悔してもしたりません。
ボートの中はどんよりとした空気に覆われています。
「ボート乗り場まで頑張りましょう。今度は私もしっかり漕ぎますから」
このどんよりとした空気を消し去るべく、私は自分を鼓舞するように右手を突き上げました。
私がいきなり隣で大声を出したからでしょう。肩を落としていた清徳さんが、はっとしたように私を見ました。まさしくじ~っと、音でも聞こえそうなほど見られています。その様子を見ていた私は思わず視線を外してしまいました。
「ありがとう」
視線を外して景色を見ていた私に小さな声が聞こえました。つい声のした方を見ると、顔を少し赤くした清徳さんがいました。汗がすっかり引いていますが、顔の赤さは暑いからではなさそうです。私と目が合うと、今度は清徳さんが先に視線を外しました。
もしかして照れているんでしょうか。照れた清徳さんを見るのは久しぶりの気がします。まだ仲が良かった子どものころを思い出しました。ずいぶんイケメンになり最近ではすました顔しか記憶になかったのですが、昔はこんな顔をしたこともありましたね。
私たちは、ボートの向きを変え二人で再びペダルをこぎ始めました。
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