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77 お相手はまさかのあの人でした

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 舞子さんたちがお兄様と話をしています。花蓮さんが肩にかけていた小さなバッグから手帳を取り出しました。どうやらあみだくじを作るようです。

「さあ名前を書いてくださいな。棒を一本引いてくださいね」

 速攻で作ったのかあみだくじを書いた紙を持って、舞子さんがやってきました。男性陣のところにはお兄様が回っています。
 私は自分の名前を書いて願いを込めて棒を一本引きました。久子さんも続きます。私と久子さんが書いた後に舞子さんたちも自分の名前を書き入れていました。
 お兄様が紙を持ってやってきました。舞子さんたちとあみだくじの結果を確認しています。
 私と久子さんはその様子を少し離れたところから見ていました。

 その時です。それまで紙を見ていたお兄様が、不意に顔を上げて私の方を見ました。なんだか残念そうな変な顔をしているではありませんか。いやな予感がします。

「では、発表します!」

 舞子さんが男性陣の紙と女性陣の紙を見比べています。舞子さんが名前を読み上げていきます。

「え~っとまずは、千代子さんは清徳さんですね。それから久子さんは慎一郎さん。花蓮さんは押村さん。京香さんは青木さん。私は白井さんです。以上です」

「一緒だな。よろしく」

 私の隣に清徳さんがやってきました。
 私はその声を無視して、舞子さんが持っている紙のところに向かいました。舞子さんが私に紙を渡してくれます。その紙を見ると、なんと私が付けた棒が原因でした。もっとほかのところに付ければよかった。後悔しても仕方ありません。私ががっくりと肩を落としたのを見ていたお兄様が、私の肩をそっとたたいてくれます。まるでどんまいといっているように感じました。

「早く行こう」

 そんな私の気持ちをよそに、再び清徳さんが私の横にやってきました。なんだかせかされています。
 私は、のろのろと亀の様に歩きながら周りを見渡しました。ちょうど私の先に立っている押村さんが見えました。押村さんは、まるで花蓮さんをエスコートでもするかのように案内しているではありませんか。花蓮さんも嬉しそうです。
 他の人たちはと見れば久子さんも心なしか顔を赤くして、お兄様と仲良く並んでボートのほうに歩いていっています。舞子さんは地面から五センチほど足が浮いているぐらいの勢いで、白井さんの腕をつかんでボート乗り場に小走りに急いでいます。白井さんは苦笑いしながらも後に続いています。
 
 その先に青木さんと京香さんが見えました。青木さんと京香さんはボート乗り場に向かうところでした。私と目が合った青木さんは、手を振ってくれます。隣にいる京香さんも私に手を振ってくれました。なんだか楽しそうに見えますよ。
 
 楽しそうな二人を見送って、気が付けば私一人だけ取り残されていました。清徳さんはどこ行った! と見やれば、彼はすでにボートの前に立っています。手を振り回して私を手招きしているではありませんか。 
 先ほど見た押村さんと大違いです。人をほおって自分だけ先に行っているとは。私がむかむかしながら行くと、清徳さんが満面の笑みで言ってきました。

「白鳥型のボートにしておいた。昔気に入っていただろう」

 清徳さんは先にボートを選びに行ったのですね。まるで子供ですね。それにしても白鳥型のボートは足でペダルを押して進むんですよ。私も手伝わないといけないじゃないですか。
 
 ボート乗り場では、皆さんボートに乗り込むところでした。男性陣は、皆女性陣が乗り込むのをお手伝いしています。女性陣の皆さん、あんなに嬉しそうな顔をして乗っていますよ。うらやましい限りです。
 清徳さんは先に一人でどんどん乗り込んでしまったので、私は係りの人に支えられてボートに乗り込みました。私は、面白くなくて思いっきりむっとした顔をしてしまいました。
 気が付けば、乗り込むお手伝いをしてくれた係りの人が申し訳なさそうな顔をしています。すみません。あなたにではないですよ。清徳さん、少しは周りを見てください!

「さあいこう」

 清徳さんは、私が乗り込むや否や勝手にこぎ始めました。ずいぶんご機嫌です。私もいやいやこぎ始めます。

「狭いな」

 こいでいると、隣から声がしました。見ると、清徳さんは窮屈そうです。狭いせいで足が思う様に伸ばせなくてこぎにくそうです。反対に私は、座席からペダルの距離が遠くてこぎにくくて仕方ありません。足がつりそうです。
 私が清徳さんのこぐ様子をじっとりと見ていたせいでしょう。清徳さんと目が合いました。今度は、清徳さんが私のこぐ様子をじっと見ています。

「足がおろそかになっていますよ!」

 あまりに見られて恥ずかしくなり、清徳さんに喝を入れてあげました。清徳さんは、私の意図に気が付いたのか、にやりとして前をむいてこぎはじめます。
  
「反対にこぎにくそうだな。大丈夫! 二人分こぐから」

 情けは無用です。私はこぐペダルに力を込めました。
 しかし一分もしないうちに、暑さと疲れでペダルに足をのせているだけになっていきました。まあ清徳さんもああいったしお任せするかと思い、ちらりと清徳さんを見れば、私と違い思ったより涼しい顔でこいでいます。

 私が、周りの景色を堪能し始めた時です。

「千代子さん!」

 声がしました。声のする方を見れば、青木さんが二人乗りのボートをこぎながら手を振っています。私も手を振ります。ボートをこいでいる青木さんは、湖面からきらきら光る太陽を受けてよりかっこよく見えました。
 ちょうど私たちが乗っているボートと青木さんの乗っているボートの速度が同じなのでしょう。並走しています。
 私はのんびりと青木さんのボートを眺めていました。

 すると急に私と青木さんのボートが、すーっと離れていきました。どんどん距離が離れていきます。
 えっ? と思い横を見れば、先ほどまで涼しそうな顔をしていたはずの清徳さんの眉間に、しわが寄っています。しかも額にはうっすらと汗がにじんでいるようです。足元を見れば先ほどより、こぐ速度が増しているではありませんか。

 再び青木さんのボートを見ると、青木さんと隣に乗っている京香さんが手を振っているのが見えました。ボートがどんどん小さくなっていきます。

 さようなら~。

 
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