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65 思ったよりさくさく進みました
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私は、白目をむいている清徳さんの胸に着いている黒い物体を、軍手をはめた手で勢いよく払い落としました。黒い物体は床に落ちたかと思うと、すごい速さで消えていきました。
「大丈夫ですか」
「ああ」
しばらくしてようやく息を吹き返した清徳さんが返事をしました。そして黙って棒を私によこしてきます。私はその棒を無言で受け取りました。
それからは、結局私一人で検針をしました。清徳さんはと見れば、私のずいぶん後ろに突っ立ています。もうとても検針をする気にはなれないようです。目もうつろです。
ただそのおかげで、検針はさくさく進みました。
「いったん車に戻りましょうか」
ノルマの分の検針を終えて車に戻ることにしました。まだ青木さんたちは戻ってきていませんでした。
私と清徳さんは日陰に移動して待つことにしました。私はバッグの中からウエットティッシュを出して、清徳さんに渡しました。清徳さんは、一袋丸ごと使ってしまう勢いで先ほど黒い物体が付いた作業服の上を何度も拭いています。手も何度も何度も拭いています。結局一袋すべて使ってしまいました。あなた、そんなに拭いていますがろくに作業していませんよね。ウエットティッシュを何個か持ってきていて正解でした。
「どうぞ。これ私たちの同じ課の方々からの差し入れです」
清徳さんが拭き終わったのを確認して、私は飲み物の袋を差し出しました。お茶かスポーツドリンクを自分で選んでもらうためです。
「やっぱり一仕事終えた後はうまいな」
清徳さんはそういって、おいしそうに選んだスポーツドリンクを飲んでいます。その姿はちょっとだけ恰好がよかったのですが、胸のあたりが先ほど拭いたせいでびしょびしょに濡れています。濡れて作業服の色が少し変わっているせいか、なんだか飲み物をこぼした後の様で様になっていません。少し笑えてきました。
私がにやにやしているのを目ざとく見つけた清徳さんが、不審そうに私を見てきました。
私はそ知らぬ顔をしてスポーツドリンクを飲みました。暑かったのでおいしいですね。
私と清徳さんが飲み物を飲み終わるころ、やっと青木さんと杉さんが戻ってきました。青木さんはいつも通りですが、杉さんの方は、髪はよれ洋服も少し土が付いていました。なんとなく状況を理解した私は無言で、杉さんにウエットティッシュを渡しました。杉さんも先ほどの清徳さんと同じようにウエットティッシュであちこち拭きまくっていました。
「お疲れ様です。はかどりましたか?」
私が飲み物の袋を青木さんに手渡しながら聞くと、青木さんがニヤッと笑いました。
「最後の方ははかどったよ。そっちは?」
「こちらも同じです」
私の返事に青木さんは、素早く清徳さんの姿を一瞥してから胸の色が変わっている場所を見てくすっと笑いました。私は、やっと拭き終わった杉さんに飲み物を渡しに行きました。杉さんも午前中でへとへとになったようです。日陰でおいしそうに飲み始めました。
「お昼はどうします? いつものところでいいですよね」
「そうだね」
「お昼はどこで食べるんだ?」
私が青木さんに聞いているのが聞こえたのか、日陰にいたはずの清徳さんが、足早にこちらにやってきました。先ほどまで日陰でだらりとしていたのによく聞こえましたね。
「この先の公園で食べます。近くのコンビニで買っていくつもりです」
青木さんが清徳さんに説明をしました。たちまち清徳さんの顔が曇っていきます。
「公園? 暑くないか? それより近くの店に入った方が...」
清徳さんは私と青木さんにそういいながら、考え込み始めました。もしかしたらここの近くのお店を思い出しているのかもしれませんね。でも私たちは仕事で来ているんです。清徳さんが満足するようなお店に入ったら、お料理を食べ終えるだけでどれだけ時間がかかることか。
「午後からも仕事があるんです。昼食にあまり時間は取れません」
青木さんは、そういって清徳さんにきっぱりと言いました。そうです。もっといってやってください。案の定その言葉を聞いた清徳さんがたちまち不機嫌顔になりました。すごく文句を言いたそうにしています。
「そんなに食べたいなら仕事が終わってから、行ったらいかがです?」
「そうか。じゃあ仕事が終わったら食べに行こう。いいところがあるんだ」
私がこの話は終わりだとばかりにそういうと、清徳さんの顔が明らかに笑顔になり私を見てあろうことか変なことを言ってきました。何言ってるんだこいつという顔を見せてやると、清徳さんは何を勘違いしたのか頓珍漢なことを言い始めました。
「まあ今日は急だから、少しカジュアルな店でもいいな。突然だったから服装も準備してないだろう?」
「行きませんよ。仕事が終わったらすぐ家に帰ってシャワーを浴びてのんびりするんです」
私の言葉に隣にいた青木さんは吹き出し、言われた清徳さんはびっくりした顔をしました。何びっくりしているんですか? もういいなずけではあるまいし、行くわけないじゃないですか。まあいいなずけの時でさえお誘いなんて受けたことは一度もありませんでしたしね。今日は汗だらけですから早くさっぱりしたいです。
私はまだ唖然とした顔をしている清徳さんをほおって、日陰でぐったりとしている杉さんのもとに行きました。杉さんも飲み物を飲んでしまったようです。杉さんにもコンビニに行く旨を言いました。杉さんはさすがに清徳さんとは違い、何も言ってきませんでした。
では皆さん、コンビニに行ってお昼を買いましょうかね。
「大丈夫ですか」
「ああ」
しばらくしてようやく息を吹き返した清徳さんが返事をしました。そして黙って棒を私によこしてきます。私はその棒を無言で受け取りました。
それからは、結局私一人で検針をしました。清徳さんはと見れば、私のずいぶん後ろに突っ立ています。もうとても検針をする気にはなれないようです。目もうつろです。
ただそのおかげで、検針はさくさく進みました。
「いったん車に戻りましょうか」
ノルマの分の検針を終えて車に戻ることにしました。まだ青木さんたちは戻ってきていませんでした。
私と清徳さんは日陰に移動して待つことにしました。私はバッグの中からウエットティッシュを出して、清徳さんに渡しました。清徳さんは、一袋丸ごと使ってしまう勢いで先ほど黒い物体が付いた作業服の上を何度も拭いています。手も何度も何度も拭いています。結局一袋すべて使ってしまいました。あなた、そんなに拭いていますがろくに作業していませんよね。ウエットティッシュを何個か持ってきていて正解でした。
「どうぞ。これ私たちの同じ課の方々からの差し入れです」
清徳さんが拭き終わったのを確認して、私は飲み物の袋を差し出しました。お茶かスポーツドリンクを自分で選んでもらうためです。
「やっぱり一仕事終えた後はうまいな」
清徳さんはそういって、おいしそうに選んだスポーツドリンクを飲んでいます。その姿はちょっとだけ恰好がよかったのですが、胸のあたりが先ほど拭いたせいでびしょびしょに濡れています。濡れて作業服の色が少し変わっているせいか、なんだか飲み物をこぼした後の様で様になっていません。少し笑えてきました。
私がにやにやしているのを目ざとく見つけた清徳さんが、不審そうに私を見てきました。
私はそ知らぬ顔をしてスポーツドリンクを飲みました。暑かったのでおいしいですね。
私と清徳さんが飲み物を飲み終わるころ、やっと青木さんと杉さんが戻ってきました。青木さんはいつも通りですが、杉さんの方は、髪はよれ洋服も少し土が付いていました。なんとなく状況を理解した私は無言で、杉さんにウエットティッシュを渡しました。杉さんも先ほどの清徳さんと同じようにウエットティッシュであちこち拭きまくっていました。
「お疲れ様です。はかどりましたか?」
私が飲み物の袋を青木さんに手渡しながら聞くと、青木さんがニヤッと笑いました。
「最後の方ははかどったよ。そっちは?」
「こちらも同じです」
私の返事に青木さんは、素早く清徳さんの姿を一瞥してから胸の色が変わっている場所を見てくすっと笑いました。私は、やっと拭き終わった杉さんに飲み物を渡しに行きました。杉さんも午前中でへとへとになったようです。日陰でおいしそうに飲み始めました。
「お昼はどうします? いつものところでいいですよね」
「そうだね」
「お昼はどこで食べるんだ?」
私が青木さんに聞いているのが聞こえたのか、日陰にいたはずの清徳さんが、足早にこちらにやってきました。先ほどまで日陰でだらりとしていたのによく聞こえましたね。
「この先の公園で食べます。近くのコンビニで買っていくつもりです」
青木さんが清徳さんに説明をしました。たちまち清徳さんの顔が曇っていきます。
「公園? 暑くないか? それより近くの店に入った方が...」
清徳さんは私と青木さんにそういいながら、考え込み始めました。もしかしたらここの近くのお店を思い出しているのかもしれませんね。でも私たちは仕事で来ているんです。清徳さんが満足するようなお店に入ったら、お料理を食べ終えるだけでどれだけ時間がかかることか。
「午後からも仕事があるんです。昼食にあまり時間は取れません」
青木さんは、そういって清徳さんにきっぱりと言いました。そうです。もっといってやってください。案の定その言葉を聞いた清徳さんがたちまち不機嫌顔になりました。すごく文句を言いたそうにしています。
「そんなに食べたいなら仕事が終わってから、行ったらいかがです?」
「そうか。じゃあ仕事が終わったら食べに行こう。いいところがあるんだ」
私がこの話は終わりだとばかりにそういうと、清徳さんの顔が明らかに笑顔になり私を見てあろうことか変なことを言ってきました。何言ってるんだこいつという顔を見せてやると、清徳さんは何を勘違いしたのか頓珍漢なことを言い始めました。
「まあ今日は急だから、少しカジュアルな店でもいいな。突然だったから服装も準備してないだろう?」
「行きませんよ。仕事が終わったらすぐ家に帰ってシャワーを浴びてのんびりするんです」
私の言葉に隣にいた青木さんは吹き出し、言われた清徳さんはびっくりした顔をしました。何びっくりしているんですか? もういいなずけではあるまいし、行くわけないじゃないですか。まあいいなずけの時でさえお誘いなんて受けたことは一度もありませんでしたしね。今日は汗だらけですから早くさっぱりしたいです。
私はまだ唖然とした顔をしている清徳さんをほおって、日陰でぐったりとしている杉さんのもとに行きました。杉さんも飲み物を飲んでしまったようです。杉さんにもコンビニに行く旨を言いました。杉さんはさすがに清徳さんとは違い、何も言ってきませんでした。
では皆さん、コンビニに行ってお昼を買いましょうかね。
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