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58 とりあえず報告です
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ホテルのラウンジでのんびりとケーキをいただいた後、また電車に乗って帰りました。
「帰りはタクシーで帰る?」
「できれば電車がいいです。いいですか?」
「もちろん。疲れたかなあと思って聞いただけだから。でもどうしてで電車がいいの? 珍しいから? いつもどこへ行くにも送り迎えだもんね」
「そうですね。電車の窓から見た景色と車から見た景色って、なんとなく違うんですよね」
そういって私は、電車から見える景色を見ました。前世と似ているような似ていないような。もしかしたら、自分の中で違いを確かめたいのかもしれませんね。景色を食い入るように見ている私の姿を、青木さんがじっと見ていたことに気が付きませんでした。もちろんいつの間にかそっと私の手の上に置かれていた青木さんの手にも。
我が家の近くにある駅に着きました。二人で手をつなぎながら歩きます。ずいぶん慣れましたね。青木さんとの手つなぎも。そういえば弟妹ともよく手をつないでいました。
夕方になってまだ明るいながらも、日が傾いて西日が差している中を歩いているうちに、少しだけセンチメンタルな気分になりました。
「また一緒に出掛けたいな。誘ってもいい?」
「はい。もちろんです。今日はありがとうございました」
「今日は本当に楽しかったよ。千代子さんはどうだった?」
「もちろん私も楽しかったですよ。電車にも乗れましたし、おいしいバーガーも食べましたし。ただ思い出したくなかったことはありましたけど」
「あっはっは。でもあの爆弾発言にはびっくりしたよ。どうだったかまた教えてくれる?」
ちょっとしかめっ面になった私の顔を見た青木さんが笑いました。
「面白がっていません? じゃあ、またわかったら聞いてくださいね。愚痴っちゃいますけどいいですか?」
「もちろん」
そう話をしている間に、気が付けば家の前に着いていました。
「じゃあ、また会社で」
「ありがとうございました」
青木さんは持っていた図録を私に渡すと、来た道を戻っていきました。私は、青木さんが見えなくなるまで見送ることにしました。途中でまだ私が立っていることに気が付いたのでしょうか。青木さんは、時々後ろを振り返りながら手を振ってくれました。そのたびに私も小さく手を振ります。
とうとう青木さんの姿が見えなくなってしまいました。青木さんの姿が見えなくなってしまうと、なんだかすごく寂しい気持ちになりました。
私は玄関に入りました。びっくりしたことに久美ちゃんが廊下に立っています。
「おかえりなさいませ」
「ただいま」
「楽しかったですか?」
「うん。そうだ! 久美ちゃん、私、久美ちゃんに結婚祝いでクッションを贈りたいんだけどいい?」
「ありがとうございます。嬉しいです」
「ほんと? よかった。でもね、今日お店でいろいろ見たんだけどなかなか決まらなくて。やっぱり一緒に見てもらって決めていい? またデパートの外商の人に、カタログを持ってきてもらいたいんだけど」
「はい。では手配しておきますね」
「ありがとう。それと、今日お兄様いる?」
「今はお出かけになっております。でも夕食までにはお戻りになると思いますよ」
「そう。ありがとう」
私は自分の部屋に戻りました。久美ちゃんは、私が持っている厚い図録にちらりと視線を向けてから離れていきました。たぶんデパートの外商の人に連絡を取ってくれるのかもしれませんね。
部屋でのんびりしていると、不意に思い出しました。絵画の事ではありません。そういえば私、青木さんに告白されていたんでしたよね。まだ返事をしていないにも関わらずデートしていません? 今日の事って一般的にはデートって呼ぶんですよね。
きゃ~! 恥ずかしい! 手までつないでしまいましたよ。生まれて(前世含む)今まで彼氏というものがいたことのない私には、こんなことでも恥ずかしくて仕方ありません。
でもよかったです。もし青木さんと会っている最中に意識してしまったら、恥ずかしすぎて顔がとんでもないことになっていましたね。
どうしましょう。青木さんにお返事をなんてしたらいいでしょうね。久美ちゃんに聞くのも恥ずかしすぎますね。
その時にドアをノックする音がしました。入ってきたのは久美ちゃんでした。
「どうかされました?」
私がソファに寝転がって、足をバタバタさせているのを見た久美ちゃんが首をかしげています。
「何でもないの」
私はすぐに姿勢を戻して、ソファに座り直しました。
「どうかした?」
「先ほど言われたデパートの外商ですが、明日カタログを持って来るそうです。よろしいですか?」
「ありがとう」
「ではその様に手配しておきますね」
私は、至極真面目な顔つきで返事をしたつもりでした。でも久美ちゃんがくすっと笑って、部屋を出ていきました。久美ちゃんには、きっとばれていますね。
夕食前には兄が帰ってきました。夕食の時に兄に聞こうと思いましたが、今日は運悪く両親も一緒に夕食をとっています。いつもは忙しいはずの二人なのですが。さすがに両親がいる夕食の席では聞けません。黙って夕食をとっているときです。
「どうだった?」
兄が両親をちらりと見てから私に聞いてきました。主語がないですよ、お兄様。それでも私には、兄が何を聞きたいのかわかってしまいました。兄の言葉で、もう父や母の視線が痛いぐらいに突き刺さっていますからね。私が言い淀んでいると、とうとう三人は食事をとるのもやめて私をじっと見ています。仕方ありませんね。
「今日は、美術館に行ってきました」
「へえ~。それで?」
兄はそれで許してはくれませんでした。もちろん、父と母もテーブルから少し身を乗り出しています。
「電車で美術館まで行って...」
結局三人の前で、今日の事をすべて話していました。ただ絵画の事だけは言っていませんが。三人を前にして話すのは恥ずかしいですね。いったい何かの罰ゲームでしょうか?
「そう。楽しかったようでよかったわね。ねえあなた!」
母が父にそういって、二人は見つめあってからふたたび食事に戻りました。ただ兄だけは、なんとなく私を見ては首をかしげていました。
あらっ? 私、何か顔に出ています?
「帰りはタクシーで帰る?」
「できれば電車がいいです。いいですか?」
「もちろん。疲れたかなあと思って聞いただけだから。でもどうしてで電車がいいの? 珍しいから? いつもどこへ行くにも送り迎えだもんね」
「そうですね。電車の窓から見た景色と車から見た景色って、なんとなく違うんですよね」
そういって私は、電車から見える景色を見ました。前世と似ているような似ていないような。もしかしたら、自分の中で違いを確かめたいのかもしれませんね。景色を食い入るように見ている私の姿を、青木さんがじっと見ていたことに気が付きませんでした。もちろんいつの間にかそっと私の手の上に置かれていた青木さんの手にも。
我が家の近くにある駅に着きました。二人で手をつなぎながら歩きます。ずいぶん慣れましたね。青木さんとの手つなぎも。そういえば弟妹ともよく手をつないでいました。
夕方になってまだ明るいながらも、日が傾いて西日が差している中を歩いているうちに、少しだけセンチメンタルな気分になりました。
「また一緒に出掛けたいな。誘ってもいい?」
「はい。もちろんです。今日はありがとうございました」
「今日は本当に楽しかったよ。千代子さんはどうだった?」
「もちろん私も楽しかったですよ。電車にも乗れましたし、おいしいバーガーも食べましたし。ただ思い出したくなかったことはありましたけど」
「あっはっは。でもあの爆弾発言にはびっくりしたよ。どうだったかまた教えてくれる?」
ちょっとしかめっ面になった私の顔を見た青木さんが笑いました。
「面白がっていません? じゃあ、またわかったら聞いてくださいね。愚痴っちゃいますけどいいですか?」
「もちろん」
そう話をしている間に、気が付けば家の前に着いていました。
「じゃあ、また会社で」
「ありがとうございました」
青木さんは持っていた図録を私に渡すと、来た道を戻っていきました。私は、青木さんが見えなくなるまで見送ることにしました。途中でまだ私が立っていることに気が付いたのでしょうか。青木さんは、時々後ろを振り返りながら手を振ってくれました。そのたびに私も小さく手を振ります。
とうとう青木さんの姿が見えなくなってしまいました。青木さんの姿が見えなくなってしまうと、なんだかすごく寂しい気持ちになりました。
私は玄関に入りました。びっくりしたことに久美ちゃんが廊下に立っています。
「おかえりなさいませ」
「ただいま」
「楽しかったですか?」
「うん。そうだ! 久美ちゃん、私、久美ちゃんに結婚祝いでクッションを贈りたいんだけどいい?」
「ありがとうございます。嬉しいです」
「ほんと? よかった。でもね、今日お店でいろいろ見たんだけどなかなか決まらなくて。やっぱり一緒に見てもらって決めていい? またデパートの外商の人に、カタログを持ってきてもらいたいんだけど」
「はい。では手配しておきますね」
「ありがとう。それと、今日お兄様いる?」
「今はお出かけになっております。でも夕食までにはお戻りになると思いますよ」
「そう。ありがとう」
私は自分の部屋に戻りました。久美ちゃんは、私が持っている厚い図録にちらりと視線を向けてから離れていきました。たぶんデパートの外商の人に連絡を取ってくれるのかもしれませんね。
部屋でのんびりしていると、不意に思い出しました。絵画の事ではありません。そういえば私、青木さんに告白されていたんでしたよね。まだ返事をしていないにも関わらずデートしていません? 今日の事って一般的にはデートって呼ぶんですよね。
きゃ~! 恥ずかしい! 手までつないでしまいましたよ。生まれて(前世含む)今まで彼氏というものがいたことのない私には、こんなことでも恥ずかしくて仕方ありません。
でもよかったです。もし青木さんと会っている最中に意識してしまったら、恥ずかしすぎて顔がとんでもないことになっていましたね。
どうしましょう。青木さんにお返事をなんてしたらいいでしょうね。久美ちゃんに聞くのも恥ずかしすぎますね。
その時にドアをノックする音がしました。入ってきたのは久美ちゃんでした。
「どうかされました?」
私がソファに寝転がって、足をバタバタさせているのを見た久美ちゃんが首をかしげています。
「何でもないの」
私はすぐに姿勢を戻して、ソファに座り直しました。
「どうかした?」
「先ほど言われたデパートの外商ですが、明日カタログを持って来るそうです。よろしいですか?」
「ありがとう」
「ではその様に手配しておきますね」
私は、至極真面目な顔つきで返事をしたつもりでした。でも久美ちゃんがくすっと笑って、部屋を出ていきました。久美ちゃんには、きっとばれていますね。
夕食前には兄が帰ってきました。夕食の時に兄に聞こうと思いましたが、今日は運悪く両親も一緒に夕食をとっています。いつもは忙しいはずの二人なのですが。さすがに両親がいる夕食の席では聞けません。黙って夕食をとっているときです。
「どうだった?」
兄が両親をちらりと見てから私に聞いてきました。主語がないですよ、お兄様。それでも私には、兄が何を聞きたいのかわかってしまいました。兄の言葉で、もう父や母の視線が痛いぐらいに突き刺さっていますからね。私が言い淀んでいると、とうとう三人は食事をとるのもやめて私をじっと見ています。仕方ありませんね。
「今日は、美術館に行ってきました」
「へえ~。それで?」
兄はそれで許してはくれませんでした。もちろん、父と母もテーブルから少し身を乗り出しています。
「電車で美術館まで行って...」
結局三人の前で、今日の事をすべて話していました。ただ絵画の事だけは言っていませんが。三人を前にして話すのは恥ずかしいですね。いったい何かの罰ゲームでしょうか?
「そう。楽しかったようでよかったわね。ねえあなた!」
母が父にそういって、二人は見つめあってからふたたび食事に戻りました。ただ兄だけは、なんとなく私を見ては首をかしげていました。
あらっ? 私、何か顔に出ています?
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