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49 プリンのお土産です

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 家に帰ると、久美ちゃんが玄関にいました。まさしくどこかの像の様に仁王立ちしているではありませんか。

 「久美ちゃん、ただいま」

 「お帰りなさい」

 まるでにこりともしません。今日急に青木さんと会うことになってしまったので、どうやら心配してくれていたようです。帰りの車内で、久美ちゃんに青木さんと会っていたことを軽く報告してしまったことも一因にあるのではないでしょうか。

 「久美ちゃん、お土産。ここのプリンおいしいんだよ。後で一緒に食べよう!」
 
 なるべく久美ちゃんを刺激しないようにお土産のプリンを見せると、少しだけ久美ちゃんの顔が和らいだ気がします。ただ久美ちゃんの言葉で反対に私の顔が引きつることになってしまいました。

 「後で、しっかりと青木さんとのお話聞かせてくださいね」

 「はい」

 私はすごすごと部屋に行くしかありませんでした。きっと久美ちゃんの事だから容赦してくれないでしょう。

 案の定食事が終わった後久美ちゃんが部屋にやってきて、プリンを食べながらの報告会になってしまいました。悲しいことに、またもやプリンの味がよくわからなくなってしまいました。
 ただ青木さんとの話を聞いて、久美ちゃんがどんな反応をするのだろうと、戦々恐々としていたのですが何も言われませんでした。それどころか久美ちゃんの口から、びっくりするような発言が飛び出した時には、驚きすぎて少しだけプリンをのどに詰まらせてしまう結果になってしまったほどです。

 「いいんじゃないですか。お友達なら。青木さんだってお嬢様の正体がわかっていらっしゃるのなら、それ相応の対応をするでしょうし。かえって異性のお友達としてお付き合いの練習になりますね」

 久美ちゃんはそう言ってにこやかに笑いました。しかし私には、久美ちゃんのその笑みが後ろに黒い翼のある悪魔の笑みに見えました。きっと気のせいですね。久美ちゃんには死んでも言えません。

 「じゃあ、青木さんと美術館や映画館に行ってもいいの?」

 「いいんじゃないですか? でも行く前には必ず連絡してくださいね。チケットなどの用意がありますので」

 「ありがとう。久美ちゃん」

 「いいえ。どういたしまして。それにしてもこのプリンは、確かにおいしいですね」

 久美ちゃんはプリンをしっかり食べきると、部屋を出ていきました。ただ久美ちゃんのプリンを見つめる鋭い目が少しだけ恐ろしく感じました。それにチケットは当日買うから用意はしなくていいよとは、あの場ではとても言えませんでした。まあもし青木さんに誘われたら、久美ちゃんの話をいえばいいですよね。

 土日はしっかり休養をとって、月曜日会社に向かいました。ただ朝からなんとなく気恥ずかしい気がしました。青木さんにどんな顔をして会ったらいいでしょうか。それに近藤さんにも、改めてきちんとお礼を言わないといけませんね。そう思って覚悟して会社に行きましたが、更衣室にいた近藤さんからごく普通に挨拶されて拍子抜けしてしまいました。

 「おはよう」

 「おはようございます。あのう金曜日ですが...」

 「いいのよ。気にしないで。それより青木君が今日のお昼、あそこのプリンを持ってきてくれるらしいの。お昼みんなで食べましょうね」

 さすが青木さんです。近藤さんは、もうプリンの事で頭がいっぱいの様です。言葉の最後には見えるはずのない♪マークが見えるほどでした。本当にプリンを食べることを楽しみにしているようですよ。きっと青木さんは、これを予想してプリンを用意したんでしょうね。それにしても前もってプリンを予約しておくなんてなかなか考えつきませんでした。またもやあのプリンが食べられるなんて私もうれしいです。

 席に着くと、青木さんと目が合いました。

 「おはよう」

 「おはようございます」

 私もプリンに浮かれて、青木さんと会ったら緊張しそうだなどと考えていたはずがすっかり忘れていました。近藤さんのことはとても言えませんね。でもそのおかげでごく普通に青木さんと朝の挨拶ができました。よかったです。そのおかげで、それからはもう普通に接することが出来ました。

 お昼に食堂に行くと、私たちがいつも食べるテーブルの上にいくつものプリンがでんと置かれていました。

 「なになに? これってあそこのプリン?」

 目ざとく見つけた桧垣さんがプリンめがけて走っていきます。ほかの人たちもまるでありんこの様にプリンの周りに群がります。もちろんその輪の中に私もいます。

 「このプリン、青木君からの差し入れです!」

 じゃ~んと効果音が聞こえそうなほどの口調で近藤さんが言いました。

 「そうなの~。嬉しい~」

 「ここのプリンおいしいのよね~」

 皆さんとっても嬉しそうです。

 「ここのプリンお値段もいいじゃない。本当にいいの?」

 プリンをガン見しながら桧垣さんが言いました。言いながらもプリンから視線を外そうとはしません。

 「青木君太っ腹だから!」

 「さすが~」

 私たちは、お昼ご飯の後皆さんでプリンをいただきました。ただ桧垣さんが、自分のプリンをそそくさと食べてしまってから近藤さんにこそっと聞きました。

 「ねえ、でもどうして青木君プリンを差し入れしてくれたの?」

 その小声が、私の耳にしっかりと聞こえてきてついむせてしまいました。ただそのむせた私を近藤さんと桧垣さんがニヤッと笑いながら見ていたのには、むせて焦っていた私はまったく気が付きませんでした。


 

 
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