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43 スイーツバイキングです

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 結局、青木さんと電車で行くことになりました。駅では、青木さんが先に切符を買ってくれます。素早いです。いや、お金持ってますからね、私。お財布を出しましたが、受け取ってもらえませんでした。ありがとうございます。ありがたく切符を受け取りました。

 電車は、座ることはできませんでしたがそれほど混んではいませんでした。久しぶりの電車のせいか、つい外の景色に見とれてしまいます。懐かしいですね~。前世の景色とはなんとなく違いますが。
 ふと視線に気が付いてそちらを見やれば、一緒に窓の景色を見ていたはずの青木さんがこちらを見ていました。私と視線が合うと、にっこりほほ笑んでくれます。

 「ずいぶん熱心に見ていたね」

 「あっ、はい」

 青木さんのスマイル攻撃にやられてしまった私は、急いでまた外に視線を戻しました。でもなんだか顔が熱いです。それにまだ青木さんの視線を感じる気がします。恥ずかしくて確認できませんが。おかげで、先ほどまでの景色を楽しむ余裕がまったくなくなってしまいました。残念です。青木さんどうしてくれるんですか。

 「また一緒に乗ればいいよ」

 「えっ?」

 私の心の声に青木さんがリアルに返事をしました。びっくりして青木さんのほうを見ると、先ほどまでのにっこりがより深くなっていました。

 「声に出ていたよ」
 
 思わず口を押えました。でも今更ですよね~。涼しい顔の青木さんとは違い、おたおたしているうちに目的地の駅に着きました。

 「さあ着いたよ」

 さすが都心だけあって、多くの人がその駅で降りていきました。私も降ります。青木さんが防波堤の役割をしてくれて、人が多いもののスムーズに降りることができました。駅を出てすぐに、バッグの中の記事を出そうとすると青木さんが言いました。

 「この先だよ」

 そういって私を促してくれました。さすがです。青木さん。ちらりと見た地図ですぐにわかったんですね。5分ほど歩いたところにそのホテルはありました。ずいぶん大きいですね。そういえば有名なホテルでしたね。もしかしたらパーティーでも来たことがあったかもしれません。
 ロビーに入ると、ラグジュアリーな雰囲気がそこかしこに漂っています。

 青木さんはエレベーターに乗りこむと、戸惑うことなくスイーツバイキングの会場までの階を押しました。もしかしてきたことがあるのでしょうか?

 「青木さん、もしかしてここのバイキング来たことがありました?」

 「あっ、いや。ないよ」

 なぜだか青木さんは、急に慌てたようになっています。なんでしょう? この急な慌てぶりは? 私がじろりと見たせいでしょうか。

 「いや。以前ここに食事に来たことがあって」

 「そうなんですね」

 青木さんは、焦ったように言ってきました。なるほど。もしかしてご家族とでも来たのでしょうか。私もよく家族と行きますからね。
 エレベーターを降りると、すぐに会場ホールの入り口があります。受付のカウンターの前には、待っているであろうお客さんたちがちらほらいます。
 私は受付に向かいました。

 「予約しております柳です」

 「柳様ですね」

 受付の人が名簿を見ています。名前を見つけたのでしょうか? 顔をぱっと上げて、正面にいる私を見ました。そしてよ~く顔を凝視しています。

 「あのう」

 受付の人が私を見たまま何も言わないので、ちょっと聞いてみました。私の言葉にはっとしたのか、また名簿を見てこちらを向きました。

 「申し訳ございません。ご予約の柳様ですね。すぐにご案内いたします」

 そういうが早いが受付の人は、私の前に飛んでくると会場に案内を始めました。なんだか歩き方がおかしくないですか。おもちゃの兵隊さんの様にぴしっと歩いています。隣にいる青木さんを見ると、青木さんも私と同じ感想を持ったのか、私の方を見てきました。

 そうして案内されたのは個室に近い形でした。会場の一番奥にパーテーションで慌てて作られたかのようです。久美ちゃんどんな予約をしてくれたのでしょうか。無駄に広く取ってあります。
 案内してくれた人は、恭しく私の椅子を引いてくれました。お礼を言うと、またピシッとして席を離れました。一言を残して。

 「今係りの者が参りますので、少々お待ちくださいませ」

 私は周りを見渡しました。個室に近いのはいいんですけど、ちょっとスイーツが置いてある会場から遠くないですか? 私としては、できればスイーツが置いてある場所に近いほうがよかったんですが。これでは、何回も行くのに苦労しそうです。何回も? それはそうですよ。元を取らねばいけませんからね。 

 「青木さん、この場所ちょっとスイーツが置いてあるところから遠いですね」

 私がいかにも残念そうな顔をしていたのでしょう。青木さんがある提案をしてくれました。

 「まあね。でも二人でいろいろ食べ比べればいいよ。一個のスイーツを半分に分ければ、二度おいしいよ」

 「なるほど。すごいアイデアです、青木さん。それならいろいろ選べますね。じゃあ頑張っておいしいものを選びましょう!」
 
 私の気合の入った返事に青木さんが、にっこりと微笑んでくれました。鼻がまた少しだけつんとしました。

 2人でというよりひとり私が意気込んでいると、カラカラとカートが鳴る音がしました。結構ながく続いていますよ。やけにカートが鳴る音が多くないですか?

 「お待たせいたしました」

 係りの人が数人、カートを押してやって来ました。なんとやってきたのは、カートが4台です。そしてそれは、きれいに私たちのテーブルの前に並べられました。
 そして係りの人が、手際よく私たちのテーブルの上にナプキンやフォークなどをセッティングしてくれます。もう一人はグラスを並べていきます。
 
 並べられた一つ目のカートには、飲み物がピッチャーに入っています。小型のコーヒーサーバーまであります。そしてもう一つのカートには、色とりどりのスイーツが所狭しと並べられていました。三つ目のカートには、甘くないサンドイッチがきれいに並べられています。そして最後のカートには、なんとパンケーキがその場で焼けるようになっている器具がでんと置かれていました。

 あらっ。いつのまにやらここが、バイキング会場と化してしまいました。お客さんは、私と青木さんの二人だけですが。

 私が何か話しかけようと青木さんの方を見ると、目の前の青木さんの目がこれ以上ないぐらいに見開かれています。びっくりですよね。私もびっくりです。
 
 
 
 

 

 
 
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