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27 ちょっとした事件です

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 私たちは今月の検針を終えて支店に戻りました。いつものんびりとしている支店内が今日は何だかざわついています。青木さんと顔を見合わせたぐらいです。

 「お帰りなさい」

 「「行ってきました」」

 自分たちの部署に戻った時です。近藤さんの笑顔に迎えられました。しかし鈴木課長と小田係長は、落ち着きがなくなんだかそわそわふわふわしていてそれどころではないようでした。

 「どうかしたんですか?」

 「ちょっとこっちきて」

 近藤さんは周りを見てから私を給湯室に連れて行きました。青木さんは自分の席に戻りましたが、いぶかしそうに課長や係長を見ています。

 「どうかしたんですか?」

 「今みんなにお茶入れるわね。私たちはここでお茶を飲ましょう。飲みながら話してあげるわ」

 私がこそっと聞くと、近藤さんがみんなのお茶を入れ始めました。いつもなら三時にいれるはずのお茶を、今日はどうしたことかもう四時も過ぎている今頃入れています。近藤さんは机に座っている三人にお茶を配った後に、今日支店に起きたちょっとした事件の事を話してくれるようです。
 給湯室のテーブルの上には、有名な和菓子屋さんの箱が置いてありました。近藤さんは、その箱を開けてお饅頭を二つ私にどうぞといって渡してくれました。これはあの有名なお饅頭じゃあありませんか。私が嬉しそうにそれを見ると、近藤さんが笑いながら教えてくれました。

 「これ、今日来た人たちが手土産に持ってきたのよ。みんなにはさっき一個ずつ配ったけど、二つ余ったから、私と柳さんは二個ずつね」

 嬉しいですね。でも一階の人達の分はあるんでしょうか。ちょっと私が心配したのがわかったのでしょうか。

 「大丈夫。一階にも配ってあるから。たぶんみんなも二個あるはずよ」

 近藤さんは嬉しそうにお饅頭を持ち上げました。よかったです。みんなとは女性陣のことですね。

 
 「二時頃だったかしら。急に一階がざわざわしだしたの。びっくりするような人たちが支店に視察に来たのよ。そしてね二階にも上がってきたの...」

 そういって近藤さんは今日二時から起きた出来事を私に話してくれました。


 二時頃、急に一階がざわざわしだしたそうです。そう人の行き来がある支店ではないので、二階にまで聞こえる事はめったにあることではありません。近藤さんが働き始めてからは、一度もなかったそうです。二階の近藤さんたち三人がお互いに顔を見合わせたぐらいです。
 階段を上がってくる音が聞こえてきました。しかも複数の足音です。びっくりして近藤さんたちが階段につながる廊下を見つめた時です。がやがやとした声とともに何人もの一団がフロアーに入ってきました。
 先頭にいるのは、支店長でした。ちょっと顔がこわばっています。どうやら支店長が案内してきたようです。

 「こちらが検針部です。ああ、鈴木君ちょっといいかね」

 「あっ、はい」

 鈴木課長が慌てて支店長に駆け寄りました。支店長の後ろに何人か人がいます。

 「この部署はここにいるだけなのかな」

 「いえっ。あと二人おりますが、今外出しております」

 「外出?」

 「はい。今検針のメンバーが足りないので、その二人には検針に行ってもらっています」

 「検針? 検針て水道メーターの検針業務かな?」

 「そうです。今二人が行ってくれているのは、ちょっと大変なエリアでして。なかなか人が集まらないんです」

 なぜか支店長は後ろにいる人達に振り向き顔色を窺っているようです。支店長の後ろにいる人達は明らかに支店長より歳が若い方々ですが、みなさん支店長より地位は上の様です。その中のきりっとした背の高いいかにも仕事が出来そうな感じの眼鏡の男性が、鈴木課長に聞いてきました。

 「その二人の社員というのは?」

 「一人は本社からこちらに来た青木というものです。もう一人は柳といいましてこちらに配属された新入社員です」

 「そうですか」

 眼鏡の男性は、自分の横にいる男性の顔を見ました。その人も顔の作りが整っていてまるでモデルの様です。ただその男性には、若いのに威圧感というかただものではないオーラを感じたと後で近藤さんが教えてくれました。その男性も鈴木課長に聞いてきました。

 「どうですか。その人たちの仕事ぶりは」

 「はい。とてもまじめに仕事に取り組んでくれています。今日の仕事もそうですが、大変にもかかわらず率先してやってくれています」

 「そうですか」

 「その人たちの帰りは何時ごろに?」

 再び眼鏡の男性が、鈴木課長に帰る時間を聞いてきました。

 「そうですね。たぶん4時過ぎにはなるんじゃないかと思いますが」

 鈴木課長の答えに眼鏡の男性が、威圧感が半端ない男性に視線を向けました。視線を向けられた男性が首を振ります。

 「ありがとうございました。支店長もありがとうございます」

 眼鏡の男性は、鈴木課長にまずお礼を言ってから、支店長にもお礼を言いました。それを聞いた支店長は明らかにほっとした顔をしました。

 それからその一団は帰っていきました。皆が二階の窓からこっそりのぞくと、支店長が90度の角度で頭を下げています。その先には、黒塗りの大型車とちょっと小ぶりの車二台が滑らかに去っていくところでした。
 
 近藤さんが書類を届けるふりをして一階に行くと、待ってましたとばかりに桧垣さんや新山さんと目が合いました。二人に一階の給湯室に連れていかれ、手土産だというお饅頭の箱と先ほど来たお客さんの事を話してくれたそうです。
 話し終えた三人が給湯室から出ると、杉さんがぼーっと机の前に座っていました。どうやらあのイケメン軍団にあてられたようです。先ほど案内していた支店長はと見やれば、支店長は支店長で安川部長の横でぐったりと椅子にもたれかかり半分魂が抜け出たようになっていたそうです。

 「それでね、あのイケメン軍団なんだけど、なんと清徳グループの御曹司とその仲間達だったらしいのよ」

 ぷっぷっぷ___。
 
 近藤さんの言い方に私が思わず吹き出してしまいました。

 「仲間達っていうのは?」

 「ああ、確か秘書たちらしいわよ。まあ御曹司も今は秘書の仕事をしているらしいんだけど。ねえ残念だったわね。あの場にいなくて。なかなか見れないものね。清徳グループの御曹司なんて。スマホで撮っておいてあげたかったんだけど、さすがにあの場ではね~」

 近藤さんはとても残念そうでした。何でも家族にも見せてあげたかったようです。すごいですね。まるで有名人の様ですね。

 「でもなんでこんな支店まで来たのかしらね」

 私はドキッとしながらも平然を装いました。

 「なんででしょうね?」

 何でも杉さんを見に来たのではないようだと近藤さんは、いつまでも首をかしげていました。

 私は仕事に出ていてよかったと心から思いました。
 
 
 
 
 
 
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