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18 青木視点2

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 俺は、今日から働く予定の支店の前に立っている。この前行った清徳グループ本社のビルとの違い。あまりに歴然としている。しかもこの建物、相当年季が入っている気がする。まあこの建物ならお嬢様もすぐに辞めそうだ。俺も辞められる。まあいっか。

 俺が支店で働き始めた翌日、ターゲットのお嬢様がやってきた。押村から聞いていた外見とはずいぶん違わないか? ただそのお嬢様は、俺が聞いていた通り『柳千代子』と名乗った。やっぱり彼女に間違いない。さっそく彼女を見張ることにする。
 しかしこの後、俺は驚愕することとなるのだ。

 お嬢様であるはずの柳さんは、ものすごくいやものすごすぎるぐらいにこの支店になじんでいる。俺の方が、ちょっと浮いている感が強い。ちょっとだけ悲しい気がする。いやこれは俺の勘違いだ。俺は悲しくなんかないぞ。

 食堂でも同僚と一日目から和気あいあいとやっている。特に俺たち同じ部署の近藤さんという姉御肌的な女性にあっという間に好かれてしまった。
 給食の弁当もおいしそうに食べている。本当に清徳グループ会長直々のコネで入ったお嬢様か?と思いたくなるぐらいの庶民ぶりだ。
 そのあとに入った女性の方がどう見てもお嬢様っぽかった。系列会社の人たちもやはり勘違いしている。杉さんといったか。やはり柳さんとの対応の違いがすごい。
 どうだ?これなら嫌気がさして辞めないか?俺は、そう確信した。しかし柳さんは上手をいっていた。彼女はどう見ても今の状況を絶対に楽しんでいる。考えたくはないが、どう見てもそのようにしか見えない。

 俺がよく彼女柳さんを見ているからだろうか。柳さんもこちらを時々見る。俺は慌てて目をそらすが、その様子を見られていたとは思わなかった。

 「柳さんね、彼氏いないんだって。いたこともないんだって」

 廊下ですれ違った時、同じ部署の近藤さんに言われた。どうやら俺は、勘違いされているらしい。

 
 ある日の事だ。柳さんがあろうことか検針の手伝いをすると言い出した。待て! 困るじゃないか、どうしよう。仕方ない。俺も立候補するしかないのか、そう思っていた時だ。
 あの近藤さんが俺も一緒にやるようにと言い出した。同じ職場の小田係長も言い出す始末だ。近藤さんは俺と柳さんをくっつけたいという意図だが、小田係長は違うな。あれは、自分がやりたくないから人に押し付けたいだけだ。でもあの二人のおかげで、俺と柳さんのふたりで検針の仕事をやることになった。しかしなんで俺がやらなきゃいけないんだ。その日は早くから布団に入ってふて寝した。

 翌日柳さんは、やる気満々で出社してきた。俺は、やる気ゼロだけどな。不機嫌な顔をしていたら、そんな俺にお構いなしに作業服を渡してきた。いやいやながらも仕方なく着てみる。うん? 何だこの着心地の良さは。しかも通気性もよさそうでおまけにずいぶん軽い。
 柳さんに感想を聞かれそのままいうと、彼女はやけに嬉しそうだった。

 ふたりで軽自動車に乗って目的地に向かう。あれっ、助手席乗るんだ。お嬢様の定位置は後部座席だとばかり思っていた俺は正直びっくりした。
 その時まで検針の仕事も、きっとほぼ俺一人でやらされるんだろうなとひとりやさぐれていた。相手はお嬢さまだしな!

 しかしこれにはいい意味で驚かされた。柳さんは、黙々と検針をこなしている。初めて俺が検針したときにも俺がつい嬉しくて、彼女を見れば彼女もすごく喜んでくれた。ちょっとだけかわいく見えた。目の錯覚だ。
 団地の仕事を終えて車のところに戻った時には、冷たい飲み物まで買っておいてくれた。勢いで飲み干すと、隣で彼女も冷たさを味わう様に飲んでいた。目の錯覚がまたおこった。

 お昼を食べる時間になったが、お嬢様は何を食べるんだろう? やはりカフェか? そう考えた時だ。彼女の口からコンビニ、公園という言葉が出た時には、思い切り聞き返してしまった俺は悪くない。まさかお嬢様の口から出る言葉とは思わないだろう? 普通。

 彼女と公園で食べた弁当はおいしかった。たまには外で風に吹かれながら食べるのもいいものだと思った。そのあと彼女からもらったチョコは、うまかった。不思議だ。
 
 午後の検針を終えて車に戻ると、彼女はあろうことか地面にじかに座り込んでいた。そういえば鍵を渡すのを忘れていた。詫びると、当の本人は全然気にしていないようだった。
 帰りの車の中は行きの時と違い、時間が穏やかに過ぎていく気がする。たぶんそれは俺の気持ちの違いだ。行くときには、正直自分一人でやらされると思い込んでいた検針の仕事のせいで、気持ちが沈んでいたから。
 今は、彼女とふたりでやった仕事は、正直楽しかった。明日もやりたいと思うぐらいには。
  
 ただ、翌日からの検針に不思議なことが起こり始めた。覚悟して向かった先は、メーター付近の草がきれいに刈られていた。メーターの上に車も植木鉢もない。確かに鈴木課長から聞いていた気がするのだが。結局この不思議な出来事は、検針が終わるまで続いた。彼女は、何かを隠している。俺は、もやもやとした気持ちを無意識に顔に出してしまっているのだろう。彼女の気遣うような視線を何度も感じた。

 俺は、今月の検針が終わったその夜、友人である押村に電話した。

 
 
 
 
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