18 / 104
18 青木視点2
しおりを挟む
俺は、今日から働く予定の支店の前に立っている。この前行った清徳グループ本社のビルとの違い。あまりに歴然としている。しかもこの建物、相当年季が入っている気がする。まあこの建物ならお嬢様もすぐに辞めそうだ。俺も辞められる。まあいっか。
俺が支店で働き始めた翌日、ターゲットのお嬢様がやってきた。押村から聞いていた外見とはずいぶん違わないか? ただそのお嬢様は、俺が聞いていた通り『柳千代子』と名乗った。やっぱり彼女に間違いない。さっそく彼女を見張ることにする。
しかしこの後、俺は驚愕することとなるのだ。
お嬢様であるはずの柳さんは、ものすごくいやものすごすぎるぐらいにこの支店になじんでいる。俺の方が、ちょっと浮いている感が強い。ちょっとだけ悲しい気がする。いやこれは俺の勘違いだ。俺は悲しくなんかないぞ。
食堂でも同僚と一日目から和気あいあいとやっている。特に俺たち同じ部署の近藤さんという姉御肌的な女性にあっという間に好かれてしまった。
給食の弁当もおいしそうに食べている。本当に清徳グループ会長直々のコネで入ったお嬢様か?と思いたくなるぐらいの庶民ぶりだ。
そのあとに入った女性の方がどう見てもお嬢様っぽかった。系列会社の人たちもやはり勘違いしている。杉さんといったか。やはり柳さんとの対応の違いがすごい。
どうだ?これなら嫌気がさして辞めないか?俺は、そう確信した。しかし柳さんは上手をいっていた。彼女はどう見ても今の状況を絶対に楽しんでいる。考えたくはないが、どう見てもそのようにしか見えない。
俺がよく彼女柳さんを見ているからだろうか。柳さんもこちらを時々見る。俺は慌てて目をそらすが、その様子を見られていたとは思わなかった。
「柳さんね、彼氏いないんだって。いたこともないんだって」
廊下ですれ違った時、同じ部署の近藤さんに言われた。どうやら俺は、勘違いされているらしい。
ある日の事だ。柳さんがあろうことか検針の手伝いをすると言い出した。待て! 困るじゃないか、どうしよう。仕方ない。俺も立候補するしかないのか、そう思っていた時だ。
あの近藤さんが俺も一緒にやるようにと言い出した。同じ職場の小田係長も言い出す始末だ。近藤さんは俺と柳さんをくっつけたいという意図だが、小田係長は違うな。あれは、自分がやりたくないから人に押し付けたいだけだ。でもあの二人のおかげで、俺と柳さんのふたりで検針の仕事をやることになった。しかしなんで俺がやらなきゃいけないんだ。その日は早くから布団に入ってふて寝した。
翌日柳さんは、やる気満々で出社してきた。俺は、やる気ゼロだけどな。不機嫌な顔をしていたら、そんな俺にお構いなしに作業服を渡してきた。いやいやながらも仕方なく着てみる。うん? 何だこの着心地の良さは。しかも通気性もよさそうでおまけにずいぶん軽い。
柳さんに感想を聞かれそのままいうと、彼女はやけに嬉しそうだった。
ふたりで軽自動車に乗って目的地に向かう。あれっ、助手席乗るんだ。お嬢様の定位置は後部座席だとばかり思っていた俺は正直びっくりした。
その時まで検針の仕事も、きっとほぼ俺一人でやらされるんだろうなとひとりやさぐれていた。相手はお嬢さまだしな!
しかしこれにはいい意味で驚かされた。柳さんは、黙々と検針をこなしている。初めて俺が検針したときにも俺がつい嬉しくて、彼女を見れば彼女もすごく喜んでくれた。ちょっとだけかわいく見えた。目の錯覚だ。
団地の仕事を終えて車のところに戻った時には、冷たい飲み物まで買っておいてくれた。勢いで飲み干すと、隣で彼女も冷たさを味わう様に飲んでいた。目の錯覚がまたおこった。
お昼を食べる時間になったが、お嬢様は何を食べるんだろう? やはりカフェか? そう考えた時だ。彼女の口からコンビニ、公園という言葉が出た時には、思い切り聞き返してしまった俺は悪くない。まさかお嬢様の口から出る言葉とは思わないだろう? 普通。
彼女と公園で食べた弁当はおいしかった。たまには外で風に吹かれながら食べるのもいいものだと思った。そのあと彼女からもらったチョコは、うまかった。不思議だ。
午後の検針を終えて車に戻ると、彼女はあろうことか地面にじかに座り込んでいた。そういえば鍵を渡すのを忘れていた。詫びると、当の本人は全然気にしていないようだった。
帰りの車の中は行きの時と違い、時間が穏やかに過ぎていく気がする。たぶんそれは俺の気持ちの違いだ。行くときには、正直自分一人でやらされると思い込んでいた検針の仕事のせいで、気持ちが沈んでいたから。
今は、彼女とふたりでやった仕事は、正直楽しかった。明日もやりたいと思うぐらいには。
ただ、翌日からの検針に不思議なことが起こり始めた。覚悟して向かった先は、メーター付近の草がきれいに刈られていた。メーターの上に車も植木鉢もない。確かに鈴木課長から聞いていた気がするのだが。結局この不思議な出来事は、検針が終わるまで続いた。彼女は、何かを隠している。俺は、もやもやとした気持ちを無意識に顔に出してしまっているのだろう。彼女の気遣うような視線を何度も感じた。
俺は、今月の検針が終わったその夜、友人である押村に電話した。
俺が支店で働き始めた翌日、ターゲットのお嬢様がやってきた。押村から聞いていた外見とはずいぶん違わないか? ただそのお嬢様は、俺が聞いていた通り『柳千代子』と名乗った。やっぱり彼女に間違いない。さっそく彼女を見張ることにする。
しかしこの後、俺は驚愕することとなるのだ。
お嬢様であるはずの柳さんは、ものすごくいやものすごすぎるぐらいにこの支店になじんでいる。俺の方が、ちょっと浮いている感が強い。ちょっとだけ悲しい気がする。いやこれは俺の勘違いだ。俺は悲しくなんかないぞ。
食堂でも同僚と一日目から和気あいあいとやっている。特に俺たち同じ部署の近藤さんという姉御肌的な女性にあっという間に好かれてしまった。
給食の弁当もおいしそうに食べている。本当に清徳グループ会長直々のコネで入ったお嬢様か?と思いたくなるぐらいの庶民ぶりだ。
そのあとに入った女性の方がどう見てもお嬢様っぽかった。系列会社の人たちもやはり勘違いしている。杉さんといったか。やはり柳さんとの対応の違いがすごい。
どうだ?これなら嫌気がさして辞めないか?俺は、そう確信した。しかし柳さんは上手をいっていた。彼女はどう見ても今の状況を絶対に楽しんでいる。考えたくはないが、どう見てもそのようにしか見えない。
俺がよく彼女柳さんを見ているからだろうか。柳さんもこちらを時々見る。俺は慌てて目をそらすが、その様子を見られていたとは思わなかった。
「柳さんね、彼氏いないんだって。いたこともないんだって」
廊下ですれ違った時、同じ部署の近藤さんに言われた。どうやら俺は、勘違いされているらしい。
ある日の事だ。柳さんがあろうことか検針の手伝いをすると言い出した。待て! 困るじゃないか、どうしよう。仕方ない。俺も立候補するしかないのか、そう思っていた時だ。
あの近藤さんが俺も一緒にやるようにと言い出した。同じ職場の小田係長も言い出す始末だ。近藤さんは俺と柳さんをくっつけたいという意図だが、小田係長は違うな。あれは、自分がやりたくないから人に押し付けたいだけだ。でもあの二人のおかげで、俺と柳さんのふたりで検針の仕事をやることになった。しかしなんで俺がやらなきゃいけないんだ。その日は早くから布団に入ってふて寝した。
翌日柳さんは、やる気満々で出社してきた。俺は、やる気ゼロだけどな。不機嫌な顔をしていたら、そんな俺にお構いなしに作業服を渡してきた。いやいやながらも仕方なく着てみる。うん? 何だこの着心地の良さは。しかも通気性もよさそうでおまけにずいぶん軽い。
柳さんに感想を聞かれそのままいうと、彼女はやけに嬉しそうだった。
ふたりで軽自動車に乗って目的地に向かう。あれっ、助手席乗るんだ。お嬢様の定位置は後部座席だとばかり思っていた俺は正直びっくりした。
その時まで検針の仕事も、きっとほぼ俺一人でやらされるんだろうなとひとりやさぐれていた。相手はお嬢さまだしな!
しかしこれにはいい意味で驚かされた。柳さんは、黙々と検針をこなしている。初めて俺が検針したときにも俺がつい嬉しくて、彼女を見れば彼女もすごく喜んでくれた。ちょっとだけかわいく見えた。目の錯覚だ。
団地の仕事を終えて車のところに戻った時には、冷たい飲み物まで買っておいてくれた。勢いで飲み干すと、隣で彼女も冷たさを味わう様に飲んでいた。目の錯覚がまたおこった。
お昼を食べる時間になったが、お嬢様は何を食べるんだろう? やはりカフェか? そう考えた時だ。彼女の口からコンビニ、公園という言葉が出た時には、思い切り聞き返してしまった俺は悪くない。まさかお嬢様の口から出る言葉とは思わないだろう? 普通。
彼女と公園で食べた弁当はおいしかった。たまには外で風に吹かれながら食べるのもいいものだと思った。そのあと彼女からもらったチョコは、うまかった。不思議だ。
午後の検針を終えて車に戻ると、彼女はあろうことか地面にじかに座り込んでいた。そういえば鍵を渡すのを忘れていた。詫びると、当の本人は全然気にしていないようだった。
帰りの車の中は行きの時と違い、時間が穏やかに過ぎていく気がする。たぶんそれは俺の気持ちの違いだ。行くときには、正直自分一人でやらされると思い込んでいた検針の仕事のせいで、気持ちが沈んでいたから。
今は、彼女とふたりでやった仕事は、正直楽しかった。明日もやりたいと思うぐらいには。
ただ、翌日からの検針に不思議なことが起こり始めた。覚悟して向かった先は、メーター付近の草がきれいに刈られていた。メーターの上に車も植木鉢もない。確かに鈴木課長から聞いていた気がするのだが。結局この不思議な出来事は、検針が終わるまで続いた。彼女は、何かを隠している。俺は、もやもやとした気持ちを無意識に顔に出してしまっているのだろう。彼女の気遣うような視線を何度も感じた。
俺は、今月の検針が終わったその夜、友人である押村に電話した。
0
お気に入りに追加
634
あなたにおすすめの小説
今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
hotランキング1位入りしました。ありがとうございます
【1/23取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
酒の席での戯言ですのよ。
ぽんぽこ狸
恋愛
成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。
何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。
そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
忘れられた薔薇が咲くとき
ゆる
恋愛
貴族として華やかな未来を約束されていた伯爵令嬢アルタリア。しかし、突然の婚約破棄と追放により、その人生は一変する。全てを失い、辺境の町で庶民として生きることを余儀なくされた彼女は、過去の屈辱と向き合いながらも、懸命に新たな生活を築いていく。
だが、平穏は長く続かない。かつて彼女を追放した第二王子や聖女が町を訪れ、過去の因縁が再び彼女を取り巻く。利用されるだけの存在から、自らの意志で運命を切り開こうとするアルタリア。彼女が選ぶ未来とは――。
これは、追放された元伯爵令嬢が自由と幸せを掴むまでの物語。ざまあ要素たっぷりの胸がすくような展開と、新たな一歩を踏み出す彼女の成長を描きます!
断罪された挙句に執着系騎士様と支配系教皇様に目をつけられて人生諸々詰んでる悪役令嬢とは私の事です。
甘寧
恋愛
断罪の最中に前世の記憶が蘇ったベルベット。
ここは乙女ゲームの世界で自分がまさに悪役令嬢の立場で、ヒロインは王子ルートを攻略し、無事に断罪まで来た所だと分かった。ベルベットは大人しく断罪を受け入れ国外追放に。
──……だが、追放先で攻略対象者である教皇のロジェを拾い、更にはもう一人の対象者である騎士団長のジェフリーまでがことある事にベルベットの元を訪れてくるようになる。
ゲームからは完全に外れたはずなのに、悪役令嬢と言うフラグが今だに存在している気がして仕方がないベルベットは、平穏な第二の人生の為に何とかロジェとジェフリーと関わりを持たないように逃げまくるベルベット。
しかし、その行動が裏目に出てロジェとジェフリーの執着が増していく。
そんな折、何者かがヒロインである聖女を使いベルベットの命を狙っていることが分かる。そして、このゲームには隠された裏設定がある事も分かり……
独占欲の強い二人に振り回されるベルベットの結末はいかに?
※完全に作者の趣味です。
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる