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17 青木視点1
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親父から言われた一言から始まった。
「そういえばお前、友達が清徳グループにいるって言ってたよな。ちょうどいい。お前にやってもらいたいことがあるんだ」
そういって父から告げられたのは、なんとも不思議な依頼だった。ある一人の女性の安全を守ることと監視するというものだ。
我が家は、法律だけでなく経営コンサルタントもやっている会社を経営している。その中の一つの大得意先として清徳グループ会社がある。将来は、兄が法律部門を私が経営部門を引き継ぐ予定だ。そのために大学はアメリカで経営学をきっちりと学んできた。日本に帰国して半年間うちの会社で修行していたが、ある日父親に呼ばれそう告げられた。
「その女性って誰なんだよ。どうして守ったり監視するんだ?」
「清徳グループ会長からの直々の依頼だ。その女性は四月から新入社員として清徳グループに入るらしい。会長としてもむげにできない方から依頼されたようでな。その女性に気づかれないようにその女性を守ってほしいそうだ。まあ監視も含めてな」
「なんだよ、それ。じゃあ結構ながいんじゃないの。年単位のスパンだろ」
「いや。たぶんすぐに辞めるだろうとの事だ。何しろお嬢様らしいからな」
「ふう~ん。わかった」
俺は、てっきり清徳グループで働くものとその時には一ミリも疑っていなかった。どうして俺が、系列会社の支店にいかされなきゃいけないんだ。経営学を極めた俺がだぜ。
あの時親父の話に安易にうなづいた俺を自分で殴ってやりたい衝動を抑えるのに、これほど必死になるとは思わなかった。
その女性は、四月から出社という予定が何か理由ができたとかで五月からになった。やっぱりお嬢様だからな。
俺は、おやじの指示で清徳グループ本社に向かった。やはり大企業だけあって都心の一等地にでかでかと立っている近代的なビルを見上げた。受付で名前を言うと、きれいな受付嬢が微笑んでくれ、近くのテーブルに案内してくれた。俺は、さっきの子かわいかったなと思いながら、その子が持ってきてくれたコーヒーを飲みながら待っていた。
「お待たせ」
颯爽と現れたのは、俺の小学校からの親友押村友一だった。名刺を渡され見れば、第二秘書課と書いてある。
「今何やってるんだ?」
第二秘書課という文字に興味をひかれた俺に、押村はニヤッと笑った。
「ここの次期社長になる清徳正樹の秘書だよ」
「なるほど。それで第二秘書課なのか。確かお前とは親戚だったよな」
そうなのだ。目の前の押村は、清徳グループの会長の親戚にあたる。しかしそんな身分にもかかわらず気さくでいい奴だ。
「それで俺は何をすればいいんだ。おやじには直接聞けって言われただけなんだ」
「そうか。仕事は、ある女性の安全と監視かな」
「それは親父から聞いている。でもさ、安全ってなんだ? 特に危険なことなんかないだろう?」
俺は、この素晴らしくきれいなビルを見上げた。俺のいる場所は吹き抜けになっている。すばらしい眺めだ。
「ここならな」
「ここならって。ここで働くんじゃないのか?」
「まあな。ここの系列会社の支店で働いてもらう」
「えっ? そうなのか?」
「ああ。これはその女性の家族も了承している。家族も本音は働いてほしくないんだそうだ」
「確かお嬢様だったよな。だったら働かせなきゃいいじゃん」
「それがな。やっぱりお嬢様だけあってわがままなんだろうな。働いてみたいんだとさ。だからここじゃなくてもっと辺鄙なところだったらすぐ辞めるだろう? それでも何かあったらこちらの責任だから、お前に来てもらったわけ」
「だったらちゃんとしたボディーガードでも雇えばいいじゃないか? 俺素人だし」
「うちとしてもお嬢様にばれたくないらしい。ただそんなに危ないことはない。いくら支店でもな。だからお前も同じ会社の社員として支店に行ってほしい」
「わかった。で、お嬢様ってどこの人なんだ?」
「それは、まあうちと取引がある会社の方だよ。それより今からいうことをよく覚えておいてくれ」
「なんだ?」
「そのお嬢様が働く支店に、もう一人同じ年頃の女性も働くことになっている。それでこちらで書類を操作して、その女性とお嬢様の書類を入れ替える。系列会社はもちろん支店の方も、その女性とお嬢様の書類を入れ替えたことに気が付かない。だからお前の出番だ。期待しているぞ」
「なんだよそれ。でもいいのか。そんなことしたら、お嬢様が大変な部署にならないか?」
「だからだよ。もし清徳グループの会長のコネということが、系列会社に伝わった日には上へ下への大騒ぎになるだろう。きっとずいぶん気を遣うはずさ。だから入れ替えるのさ。ちょうどお嬢様と一緒に入る女性も系列会社のコネで入るらしいからさ。コネはコネさ。まあ大変な職場になればきっと一日で辞めるだろうよ。その前に支店にいっただけで辞めるかもな。まあ頼むよ」
「わかった」
俺は、しぶしぶうなづいた。ただ気になったことがあった。
「で、お嬢様が辞めた後、その女性についてはどうするんだ?」
「ああ一応考えている。その支店では働きにくくなるから、系列会社の本社にでも配置換えしてもらうさ。その女性にも悪くない話だろう?」
俺はそんなものかと深く考えるのはやめた。なぜなら話の通りならきっと2、3日で片が付くはずだから。
「そういえばお前、友達が清徳グループにいるって言ってたよな。ちょうどいい。お前にやってもらいたいことがあるんだ」
そういって父から告げられたのは、なんとも不思議な依頼だった。ある一人の女性の安全を守ることと監視するというものだ。
我が家は、法律だけでなく経営コンサルタントもやっている会社を経営している。その中の一つの大得意先として清徳グループ会社がある。将来は、兄が法律部門を私が経営部門を引き継ぐ予定だ。そのために大学はアメリカで経営学をきっちりと学んできた。日本に帰国して半年間うちの会社で修行していたが、ある日父親に呼ばれそう告げられた。
「その女性って誰なんだよ。どうして守ったり監視するんだ?」
「清徳グループ会長からの直々の依頼だ。その女性は四月から新入社員として清徳グループに入るらしい。会長としてもむげにできない方から依頼されたようでな。その女性に気づかれないようにその女性を守ってほしいそうだ。まあ監視も含めてな」
「なんだよ、それ。じゃあ結構ながいんじゃないの。年単位のスパンだろ」
「いや。たぶんすぐに辞めるだろうとの事だ。何しろお嬢様らしいからな」
「ふう~ん。わかった」
俺は、てっきり清徳グループで働くものとその時には一ミリも疑っていなかった。どうして俺が、系列会社の支店にいかされなきゃいけないんだ。経営学を極めた俺がだぜ。
あの時親父の話に安易にうなづいた俺を自分で殴ってやりたい衝動を抑えるのに、これほど必死になるとは思わなかった。
その女性は、四月から出社という予定が何か理由ができたとかで五月からになった。やっぱりお嬢様だからな。
俺は、おやじの指示で清徳グループ本社に向かった。やはり大企業だけあって都心の一等地にでかでかと立っている近代的なビルを見上げた。受付で名前を言うと、きれいな受付嬢が微笑んでくれ、近くのテーブルに案内してくれた。俺は、さっきの子かわいかったなと思いながら、その子が持ってきてくれたコーヒーを飲みながら待っていた。
「お待たせ」
颯爽と現れたのは、俺の小学校からの親友押村友一だった。名刺を渡され見れば、第二秘書課と書いてある。
「今何やってるんだ?」
第二秘書課という文字に興味をひかれた俺に、押村はニヤッと笑った。
「ここの次期社長になる清徳正樹の秘書だよ」
「なるほど。それで第二秘書課なのか。確かお前とは親戚だったよな」
そうなのだ。目の前の押村は、清徳グループの会長の親戚にあたる。しかしそんな身分にもかかわらず気さくでいい奴だ。
「それで俺は何をすればいいんだ。おやじには直接聞けって言われただけなんだ」
「そうか。仕事は、ある女性の安全と監視かな」
「それは親父から聞いている。でもさ、安全ってなんだ? 特に危険なことなんかないだろう?」
俺は、この素晴らしくきれいなビルを見上げた。俺のいる場所は吹き抜けになっている。すばらしい眺めだ。
「ここならな」
「ここならって。ここで働くんじゃないのか?」
「まあな。ここの系列会社の支店で働いてもらう」
「えっ? そうなのか?」
「ああ。これはその女性の家族も了承している。家族も本音は働いてほしくないんだそうだ」
「確かお嬢様だったよな。だったら働かせなきゃいいじゃん」
「それがな。やっぱりお嬢様だけあってわがままなんだろうな。働いてみたいんだとさ。だからここじゃなくてもっと辺鄙なところだったらすぐ辞めるだろう? それでも何かあったらこちらの責任だから、お前に来てもらったわけ」
「だったらちゃんとしたボディーガードでも雇えばいいじゃないか? 俺素人だし」
「うちとしてもお嬢様にばれたくないらしい。ただそんなに危ないことはない。いくら支店でもな。だからお前も同じ会社の社員として支店に行ってほしい」
「わかった。で、お嬢様ってどこの人なんだ?」
「それは、まあうちと取引がある会社の方だよ。それより今からいうことをよく覚えておいてくれ」
「なんだ?」
「そのお嬢様が働く支店に、もう一人同じ年頃の女性も働くことになっている。それでこちらで書類を操作して、その女性とお嬢様の書類を入れ替える。系列会社はもちろん支店の方も、その女性とお嬢様の書類を入れ替えたことに気が付かない。だからお前の出番だ。期待しているぞ」
「なんだよそれ。でもいいのか。そんなことしたら、お嬢様が大変な部署にならないか?」
「だからだよ。もし清徳グループの会長のコネということが、系列会社に伝わった日には上へ下への大騒ぎになるだろう。きっとずいぶん気を遣うはずさ。だから入れ替えるのさ。ちょうどお嬢様と一緒に入る女性も系列会社のコネで入るらしいからさ。コネはコネさ。まあ大変な職場になればきっと一日で辞めるだろうよ。その前に支店にいっただけで辞めるかもな。まあ頼むよ」
「わかった」
俺は、しぶしぶうなづいた。ただ気になったことがあった。
「で、お嬢様が辞めた後、その女性についてはどうするんだ?」
「ああ一応考えている。その支店では働きにくくなるから、系列会社の本社にでも配置換えしてもらうさ。その女性にも悪くない話だろう?」
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