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10 新しい仕事です
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会社で仕事をしていると、がやがやと二階の部屋に人がどんどん入ってきました。そして皆長テーブルに座って何やら仕事をし始めました。全部で8人ほどいます。
そういえば近藤さんが、今日はメーター検針の人たちが会社に出社する日だといっていました。私も昨日メーターの検針の集計に必要なものを近藤さんと用意しました。
近藤さんの言うとおり、彼女たちがいるとにぎやかで普段静かな事務所が活気づく気がします。私は、前世での保険会社を思い出しました。やはり雰囲気が似ています。今日は、検針に必要なものを取りに来る日で明日から1週間ぐらいで各家々の水道の検針をして回るそうです。
「柳さん、ちょっといい?」
「はい」
鈴木課長が、私を長テーブルのところに連れていきました。
「今月入社した柳さんです。皆さんよろしく」
「柳千代子です。よろしくお願いします」
きっちりと挨拶しておきます。長テーブルにいる人達が、皆次々に挨拶してくれました。ただ名前はすぐには覚えられません。近藤さんが彼女たちの名前が書いてある紙をくれたので、後でメモしておきましょう。
私は席に戻りましたが、鈴木課長は検針メンバーのまとめ役の人とまだ何やら話をしています。
「まだ決まらなくて。ごめん。今月もこっちであのエリアを回らせてもらうよ」
「いいんですか?」
「ああ、あなたたちにそうそうやってもらうわけにもいかないからね」
「すみませんねえ」
鈴木課長はそういって席に戻ってきました。彼女たちは、皆お昼前で帰っていきました。今日の午後から検針に回る人もいるらしいです。
「やっぱり雨に降られると嫌だから、晴れているときに少しでも回りたいみたいね」
「それで皆さん早く帰られたんですね」
「そうそう。それにお子さんや高齢者がいる人も多いから、出来るときにしておきたいのよね」
「出来るとき?」
「お子さんや高齢者の家族が元気な時よ。病気になったら、病院や看病でとても検針してられないでしょ?」
「そうなんですね」
近藤さんがお昼ご飯を食べながら教えてくれました。私は先ほどの気になっていたことを聞いてみました。
「先ほど鈴木課長と検針メンバーの方がいっていたのは?」
「ああ、あれね。今検針の人を募集しているんだけど、なかなか定着しないのよ」
私が次を聞きたがっているのを感じて、近藤さんは笑いながら教えてくれました。
「今募集しているのは、あるエリアを回ってほしいからなんだけど、ちょっと問題があってね。そこのエリアは、田舎だから家と家が離れているし、いろいろ大変らしいのよ。だからそのエリアを回ってもらうと、みんな鈴辞めちゃうの。今いるメンバーもそこだけは、嫌だっていうのよ。だから今は課長や係長なんかが回ってるの。手分けしてね」
「そうなんですね。エリアでずいぶん違うから大変ですよね」
「あらっ、よく知ってるわね。ご家族で検針していらした方でもいらっしゃるの?」
「はい。母がやっていた時がありました」
私は、前世を思い出していました。前世では、工場を経営していたが仕事が激変してから母が家計の足しにと検針の仕事をしていたのです。工場の仕事と掛け持ちで。聞いた話では、大変なこともあるといっていました。ただ時間の融通が利くので、母は私たち家族のために頑張ってくれていたことを今思い出しました。涙が出そうです。
「そうなの。じゃあ、よく知ってるのね」
近藤さんは、私の話になるほどといった顔をしました。
昼食を終えて、また仕事をしていた時です。鈴木課長が、席を立って私たち皆を見回して言いいました。
「今月もまだ検針の人が見つかっていないんだ。だから、申し訳ないが今月もみんな手伝ってくれないか。特に男性陣小田係長に青木君、検針の手伝いをしてほしい。あと女性陣は、私たちが不在の間いろいろ大変だと思うが、頼むよ」
鈴木課長が私たちに頭を下げてきました。私は手を挙げました。
「はい!」
鈴木課長が突然手を挙げた私を見て、先生が生徒にするように手を差し出して聞いてきました。
「柳さん。何か」
「私も検針のお手伝いをさせていただきます」
「えっ。それは...。ありがたい話だが、入社したばかりの君に...」
「大丈夫です。母が検針の仕事をしておりましたので、仕事内容は一応把握しているつもりです」
「えっ__‼」
私が話している最中に大きな声がしました。皆が一斉にそちらを向くと、どうやら青木さんが発した声でした。
「すみません」
日ごろクールな青木さんが、少し顔を赤らめている様子に鈴木課長や小田係長が目を丸くしています。
「じゃあ、柳さんと青木君に今回検針をやってもらうというのはどうでしょう。1人では大変ですからふたりで一緒に回るということで」
近藤さんが席を立って鈴木課長に進言しました。話し終わった後、私にどや顔をしたのはきっと気のせいだと思いたいです。
「いえ、私ひとりでも」
私は青木さんを巻き込んでは申し訳ないので、すぐさまそう発言したのですが、当の青木さんは私を見てしかめっ面をしています。申し訳ないことです。
鈴木課長は、先ほどの近藤さんの私に向けたどや顔や青木さんの様子をつぶさに見て、何やら考え込んでいました。
「いいじゃないですか、課長。この仕事も今後生かせますし、まだ2人はこちらの部署に来たばかりで急ぎの仕事があるわけでもないので」
小田さんが、正確に近藤さんの意向を組んで鈴木課長に畳みかけるように話しています。あまりに熱意のある発言にとうとう鈴木課長が折れました。
「そうか。じゃあ今月はお願いしようか」
「はい!」
柳千代子こと私は、明日から検針の仕事をすることになりました。前世の母が、やっていた仕事を体験できることがうれしくなりました。明日から頑張ります。
そういえば近藤さんが、今日はメーター検針の人たちが会社に出社する日だといっていました。私も昨日メーターの検針の集計に必要なものを近藤さんと用意しました。
近藤さんの言うとおり、彼女たちがいるとにぎやかで普段静かな事務所が活気づく気がします。私は、前世での保険会社を思い出しました。やはり雰囲気が似ています。今日は、検針に必要なものを取りに来る日で明日から1週間ぐらいで各家々の水道の検針をして回るそうです。
「柳さん、ちょっといい?」
「はい」
鈴木課長が、私を長テーブルのところに連れていきました。
「今月入社した柳さんです。皆さんよろしく」
「柳千代子です。よろしくお願いします」
きっちりと挨拶しておきます。長テーブルにいる人達が、皆次々に挨拶してくれました。ただ名前はすぐには覚えられません。近藤さんが彼女たちの名前が書いてある紙をくれたので、後でメモしておきましょう。
私は席に戻りましたが、鈴木課長は検針メンバーのまとめ役の人とまだ何やら話をしています。
「まだ決まらなくて。ごめん。今月もこっちであのエリアを回らせてもらうよ」
「いいんですか?」
「ああ、あなたたちにそうそうやってもらうわけにもいかないからね」
「すみませんねえ」
鈴木課長はそういって席に戻ってきました。彼女たちは、皆お昼前で帰っていきました。今日の午後から検針に回る人もいるらしいです。
「やっぱり雨に降られると嫌だから、晴れているときに少しでも回りたいみたいね」
「それで皆さん早く帰られたんですね」
「そうそう。それにお子さんや高齢者がいる人も多いから、出来るときにしておきたいのよね」
「出来るとき?」
「お子さんや高齢者の家族が元気な時よ。病気になったら、病院や看病でとても検針してられないでしょ?」
「そうなんですね」
近藤さんがお昼ご飯を食べながら教えてくれました。私は先ほどの気になっていたことを聞いてみました。
「先ほど鈴木課長と検針メンバーの方がいっていたのは?」
「ああ、あれね。今検針の人を募集しているんだけど、なかなか定着しないのよ」
私が次を聞きたがっているのを感じて、近藤さんは笑いながら教えてくれました。
「今募集しているのは、あるエリアを回ってほしいからなんだけど、ちょっと問題があってね。そこのエリアは、田舎だから家と家が離れているし、いろいろ大変らしいのよ。だからそのエリアを回ってもらうと、みんな鈴辞めちゃうの。今いるメンバーもそこだけは、嫌だっていうのよ。だから今は課長や係長なんかが回ってるの。手分けしてね」
「そうなんですね。エリアでずいぶん違うから大変ですよね」
「あらっ、よく知ってるわね。ご家族で検針していらした方でもいらっしゃるの?」
「はい。母がやっていた時がありました」
私は、前世を思い出していました。前世では、工場を経営していたが仕事が激変してから母が家計の足しにと検針の仕事をしていたのです。工場の仕事と掛け持ちで。聞いた話では、大変なこともあるといっていました。ただ時間の融通が利くので、母は私たち家族のために頑張ってくれていたことを今思い出しました。涙が出そうです。
「そうなの。じゃあ、よく知ってるのね」
近藤さんは、私の話になるほどといった顔をしました。
昼食を終えて、また仕事をしていた時です。鈴木課長が、席を立って私たち皆を見回して言いいました。
「今月もまだ検針の人が見つかっていないんだ。だから、申し訳ないが今月もみんな手伝ってくれないか。特に男性陣小田係長に青木君、検針の手伝いをしてほしい。あと女性陣は、私たちが不在の間いろいろ大変だと思うが、頼むよ」
鈴木課長が私たちに頭を下げてきました。私は手を挙げました。
「はい!」
鈴木課長が突然手を挙げた私を見て、先生が生徒にするように手を差し出して聞いてきました。
「柳さん。何か」
「私も検針のお手伝いをさせていただきます」
「えっ。それは...。ありがたい話だが、入社したばかりの君に...」
「大丈夫です。母が検針の仕事をしておりましたので、仕事内容は一応把握しているつもりです」
「えっ__‼」
私が話している最中に大きな声がしました。皆が一斉にそちらを向くと、どうやら青木さんが発した声でした。
「すみません」
日ごろクールな青木さんが、少し顔を赤らめている様子に鈴木課長や小田係長が目を丸くしています。
「じゃあ、柳さんと青木君に今回検針をやってもらうというのはどうでしょう。1人では大変ですからふたりで一緒に回るということで」
近藤さんが席を立って鈴木課長に進言しました。話し終わった後、私にどや顔をしたのはきっと気のせいだと思いたいです。
「いえ、私ひとりでも」
私は青木さんを巻き込んでは申し訳ないので、すぐさまそう発言したのですが、当の青木さんは私を見てしかめっ面をしています。申し訳ないことです。
鈴木課長は、先ほどの近藤さんの私に向けたどや顔や青木さんの様子をつぶさに見て、何やら考え込んでいました。
「いいじゃないですか、課長。この仕事も今後生かせますし、まだ2人はこちらの部署に来たばかりで急ぎの仕事があるわけでもないので」
小田さんが、正確に近藤さんの意向を組んで鈴木課長に畳みかけるように話しています。あまりに熱意のある発言にとうとう鈴木課長が折れました。
「そうか。じゃあ今月はお願いしようか」
「はい!」
柳千代子こと私は、明日から検針の仕事をすることになりました。前世の母が、やっていた仕事を体験できることがうれしくなりました。明日から頑張ります。
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