15 / 16
番外編 ジョイナス王子ナリスと出会う
1
しおりを挟む
私ジョイナスは、サクリウ国の国王と王妃の間に生まれ唯一の王位継承権を持っている。昔から父である国王と母である王妃は、それはそれは仲が良かった。父は、私が母にべったり甘えるといつも乳母のもとに私を連れて行って、母を独占していた。私は、幼いゆえにそんな父が理解できなかった。私は父の唯一の子供である。母がかかわらないときには、父は私に優しい。しかしいったんそこに母が加わると、父は私を排除しようとするのだ。
「ねえ、マーサ。お父様は僕の事が嫌いなの?」
私の乳母であるマーサに聞いた時だ。マーサは複雑そうな顔をした。
「国王は、王妃様のお子様であるジョイナス王子の事を大切にしていらっしゃいますよ」
そういったマーサの言葉は妙に歯切れが悪かった。大きくなるにつれ私が母といると、父の機嫌がなんとなく悪くなるということに気が付いた。
その頃には私には友達ができた。本当は友達でなく臣下なのだが。レリフォル家の嫡男であるランダル・レリフォルだ。ランダルもまだ幼かったせいか、私の事を次期国王というより友達として接してくれた。
ある日私は、ランダルに聞いた。
「ねえランダルのおうちは、お父様とお母様は仲がいいの?」
「うん、仲がいいってみんなが言うから仲いいんだろうなあ」
ランダルからは、そんなのんきな返事が返ってきた。ランダルのその答えに、私が日ごろ感じているもやもやを話せずにいた時だ。
「ねえジョス、僕に妹ができたんだよ。今度うちに来て見てごらんよ。小さくてかわいいんだ!」
ランダルは私の事を愛称で呼ぶようになった。親しい人同士だけの呼び方らしい。私はすごく気に入ったけど、ランダルが言うにはこの呼び方は、私とランダルふたりだけの時しかいけないらしい。
「父上に怒られたんだ。王子様に愛称はいけないってさ」
「ふう~ん、私はいいのに」
ランダルは、私と二人の時だけその愛称で私を呼ぶようになった。そのランダルが、今日はずいぶん興奮している。そしていつもならゆっくり王宮にいるのに、今日は急いで飛ぶように帰ってしまった。
「また妹を見に来てね。妹の名前はナリスっていうんだ!」
私は母を父にとられ、ランダルをそのナリスという謎の物体にとられむしゃくしゃしていた。
「ねえマーサ、今日ランダルったら早く帰っちゃったんだよ。妹ができたんだって」
「そういえばそうでしたね。あのレリフォル公爵様が、王宮にいらして国王様にニコニコお話しされていたってもっぱらの噂でしたよ」
「そうなんだ」
レリフォル公爵は、普段から国王といえどしっかり仕事をしていないと国王にさえ厳しい。以前国王である、父上に食って掛かっているレリフォル公爵を見た時には、びっくりしたものだ。そんな公爵でも娘ができるとうれしいのか。ランダルも嬉しそうだったな。私は、まだ見ぬ娘に興味がわいた。
私は、次の日突然レリフォル公爵家に向かった。いつのなら先に連絡しておくのだが、待ちきれなかったのだ。
「びっくりしたよ」
ランダルが私を見ていった。突然の訪問にもかかわらず、レリフォル公爵家は私を温かく出迎えてくれた。
「王子、いつも息子と遊んでいただいてありがとうございます」
そういったのはレリフォル公爵でありランダルの父であった。その父親がへばりついてるのは、小さなベッド。その周りにはランダルやランダルの母もいた。
ランダルの父は、私がベッドの中をのぞき込もうとすると、なぜか邪魔をするのでなかなか中が見られない。
「あなた、何やっていらっしゃるの?せっかく王子が見に来てくださいましたのに」
そういってランダルの母は、父親を無理やりつかんだ。私はやっとベッドの中を見ることができた。中で何かがもぞもぞと動いている。ちょうど起きたのか、棒切れのような小さな手を動かしていた。私は驚いた。あまりに小さい。
「小さいな」
「そうだろう!」
私が思わず出てしまった言葉に、ランダルが返事をした。ランダルは私がそう感想をいっただけなのに、どうやらそれさえ褒め言葉のように嬉しそうだった。ランダルがその棒切れのように小さい手に触れると、棒切れのような手がランダルの指をつかんだ。
私もランダルにつられて、つい手を差し出していた。すると私の指を棒切れのような手がつかんだ。思ったより力がある。つかまれた指が温かくなった気がした。何やら私の胸の中にその温かさが流れてくるような感じだ。
それまで目を閉じていた赤子の目が、ふいに見開いて私を見た。ふにゃと笑っている。
私はもう目を離せなくなった。
「あらっ。この子、王子様がお気に入りなのかしら」
横で、ランダルの母の声がした。
「なんだって?そんなことあってたまるか」
私の横で、ランダルの母親と父親が何か言いあっているのが聞こえた気がするが、私はそれどころではなかった。自分の指を握っている赤子から目が離せないのだ。いつまでそうしていたのだろう。その赤子の手が離れて、私を見ていた目は瞼が閉じられた。
私は、その小さな小さなぬくもりが自分の指から消えたとたんすごい消失感を感じた。
「ジョイナス王子」
私があまりに寂しそうな顔をしたせいだろうか。ランダルの父が声をかけてきた。先ほどまでは、子供の私に意地悪をしていたはずが、私のあまりにしおれた顔を不憫に思ったのか、ランダルの父が言ってきた。
「ジョイナス王子、ぜひまた来てください。娘もジョイナス王子を気に入ったようですし」
最後の一言は、あからさまに悲しそうな顔をしている私を慰めるための方便であったのだが、それを聞いた私の沈んだ心が浮き上がるのを感じた。
「うん、また来る!」
それからだ。私は、毎日のようにナリスを見にいった。そのせいだろうか。ナリスが一番初めに覚えた言葉は、『ジョス』でランダルの父は地団太を踏んで悔しがったのだった。
いつの間にか、父と母を見た時のもやもやが消えていた。父の気持ちが少しだけわかるような気がした。
「ねえ、マーサ。お父様は僕の事が嫌いなの?」
私の乳母であるマーサに聞いた時だ。マーサは複雑そうな顔をした。
「国王は、王妃様のお子様であるジョイナス王子の事を大切にしていらっしゃいますよ」
そういったマーサの言葉は妙に歯切れが悪かった。大きくなるにつれ私が母といると、父の機嫌がなんとなく悪くなるということに気が付いた。
その頃には私には友達ができた。本当は友達でなく臣下なのだが。レリフォル家の嫡男であるランダル・レリフォルだ。ランダルもまだ幼かったせいか、私の事を次期国王というより友達として接してくれた。
ある日私は、ランダルに聞いた。
「ねえランダルのおうちは、お父様とお母様は仲がいいの?」
「うん、仲がいいってみんなが言うから仲いいんだろうなあ」
ランダルからは、そんなのんきな返事が返ってきた。ランダルのその答えに、私が日ごろ感じているもやもやを話せずにいた時だ。
「ねえジョス、僕に妹ができたんだよ。今度うちに来て見てごらんよ。小さくてかわいいんだ!」
ランダルは私の事を愛称で呼ぶようになった。親しい人同士だけの呼び方らしい。私はすごく気に入ったけど、ランダルが言うにはこの呼び方は、私とランダルふたりだけの時しかいけないらしい。
「父上に怒られたんだ。王子様に愛称はいけないってさ」
「ふう~ん、私はいいのに」
ランダルは、私と二人の時だけその愛称で私を呼ぶようになった。そのランダルが、今日はずいぶん興奮している。そしていつもならゆっくり王宮にいるのに、今日は急いで飛ぶように帰ってしまった。
「また妹を見に来てね。妹の名前はナリスっていうんだ!」
私は母を父にとられ、ランダルをそのナリスという謎の物体にとられむしゃくしゃしていた。
「ねえマーサ、今日ランダルったら早く帰っちゃったんだよ。妹ができたんだって」
「そういえばそうでしたね。あのレリフォル公爵様が、王宮にいらして国王様にニコニコお話しされていたってもっぱらの噂でしたよ」
「そうなんだ」
レリフォル公爵は、普段から国王といえどしっかり仕事をしていないと国王にさえ厳しい。以前国王である、父上に食って掛かっているレリフォル公爵を見た時には、びっくりしたものだ。そんな公爵でも娘ができるとうれしいのか。ランダルも嬉しそうだったな。私は、まだ見ぬ娘に興味がわいた。
私は、次の日突然レリフォル公爵家に向かった。いつのなら先に連絡しておくのだが、待ちきれなかったのだ。
「びっくりしたよ」
ランダルが私を見ていった。突然の訪問にもかかわらず、レリフォル公爵家は私を温かく出迎えてくれた。
「王子、いつも息子と遊んでいただいてありがとうございます」
そういったのはレリフォル公爵でありランダルの父であった。その父親がへばりついてるのは、小さなベッド。その周りにはランダルやランダルの母もいた。
ランダルの父は、私がベッドの中をのぞき込もうとすると、なぜか邪魔をするのでなかなか中が見られない。
「あなた、何やっていらっしゃるの?せっかく王子が見に来てくださいましたのに」
そういってランダルの母は、父親を無理やりつかんだ。私はやっとベッドの中を見ることができた。中で何かがもぞもぞと動いている。ちょうど起きたのか、棒切れのような小さな手を動かしていた。私は驚いた。あまりに小さい。
「小さいな」
「そうだろう!」
私が思わず出てしまった言葉に、ランダルが返事をした。ランダルは私がそう感想をいっただけなのに、どうやらそれさえ褒め言葉のように嬉しそうだった。ランダルがその棒切れのように小さい手に触れると、棒切れのような手がランダルの指をつかんだ。
私もランダルにつられて、つい手を差し出していた。すると私の指を棒切れのような手がつかんだ。思ったより力がある。つかまれた指が温かくなった気がした。何やら私の胸の中にその温かさが流れてくるような感じだ。
それまで目を閉じていた赤子の目が、ふいに見開いて私を見た。ふにゃと笑っている。
私はもう目を離せなくなった。
「あらっ。この子、王子様がお気に入りなのかしら」
横で、ランダルの母の声がした。
「なんだって?そんなことあってたまるか」
私の横で、ランダルの母親と父親が何か言いあっているのが聞こえた気がするが、私はそれどころではなかった。自分の指を握っている赤子から目が離せないのだ。いつまでそうしていたのだろう。その赤子の手が離れて、私を見ていた目は瞼が閉じられた。
私は、その小さな小さなぬくもりが自分の指から消えたとたんすごい消失感を感じた。
「ジョイナス王子」
私があまりに寂しそうな顔をしたせいだろうか。ランダルの父が声をかけてきた。先ほどまでは、子供の私に意地悪をしていたはずが、私のあまりにしおれた顔を不憫に思ったのか、ランダルの父が言ってきた。
「ジョイナス王子、ぜひまた来てください。娘もジョイナス王子を気に入ったようですし」
最後の一言は、あからさまに悲しそうな顔をしている私を慰めるための方便であったのだが、それを聞いた私の沈んだ心が浮き上がるのを感じた。
「うん、また来る!」
それからだ。私は、毎日のようにナリスを見にいった。そのせいだろうか。ナリスが一番初めに覚えた言葉は、『ジョス』でランダルの父は地団太を踏んで悔しがったのだった。
いつの間にか、父と母を見た時のもやもやが消えていた。父の気持ちが少しだけわかるような気がした。
8
お気に入りに追加
2,455
あなたにおすすめの小説
【完結】私よりも妹が大事なんですか?~捨てる親あれば拾う王子あり~
如月ぐるぐる
恋愛
「お姉ちゃんのお洋服かわいいね、私の方が似合うと思うの」
昔から妹はこうだった。
両親も私より妹の方が可愛いみたいだし、いい加減イジメにも飽き飽きしたわ!
学園を卒業したら婚約者と結婚して、さっさと家を出てやるんだから!
「え? 婚約……破棄ですか?」
「すまない、僕は君の妹と結婚する事にしたんだ」
婚約破棄されましたが全てが計画通りですわ~嵌められたなどと言わないでください、王子殿下。私を悪女と呼んだのはあなたですわ~
メルメア
恋愛
「僕は君のような悪女を愛せない」。
尊大で自分勝手な第一王子クラントから婚約破棄を告げられたマーガレット。
クラントはマーガレットの侍女シエルを新たな婚約者に指名する。
並んで立ち勝ち誇ったような笑顔を浮かべるクラントとシエルだったが、2人はマーガレットの計画通りに動いているだけで……。
婚約破棄ですか、すでに解消されたはずですが
ふじよし
恋愛
パトリツィアはティリシス王国ラインマイヤー公爵の令嬢だ。
隣国ルセアノ皇国との国交回復を祝う夜会の直前、パトリツィアは第一王子ヘルムート・ビシュケンスに婚約破棄を宣言される。そのかたわらに立つ見知らぬ少女を自らの結婚相手に選んだらしい。
けれど、破棄もなにもパトリツィアとヘルムートの婚約はすでに解消されていた。
※現在、小説家になろうにも掲載中です
【完結】女癖の悪い第一王子に婚約破棄されました ~ところでお二人は王妃様の教育に耐えられますか?~
つぼみ
恋愛
レーナは婚約者のロイド様のことでいつも頭を悩ませていた。
ロイド様は第一王子なのに女癖が悪く、数々の令嬢を泣かせてきた人で、レーナはその後始末をやっていた。
そんなある日、レーナはロイド様に婚約破棄をされてしまう。
ロイド様はリリカさんという一番のお気に入りと婚約するらしい。
ショックを受けたレーナは家族に相談をする。
すると、家族は思い思いの反応をしめす。
一週間王宮に行かなくていいといわれたレーナはその間自由に過ごすことにする。
そのころロイド様とリリカさんは王妃様から教育を受けていて……。
*婚約破棄ざまぁものです。
*ロイド、リリカ、ともにざまぁ展開があります。
*設定ゆるゆるです(コメントでいろいろ教えていただきありがとうございます。もっと勉強しようと思います)
溺愛されている妹の高慢な態度を注意したら、冷血と評判な辺境伯の元に嫁がされることになりました。
木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラナフィリアは、妹であるレフーナに辟易としていた。
両親に溺愛されて育ってきた彼女は、他者を見下すわがままな娘に育っており、その相手にラナフィリアは疲れ果てていたのだ。
ある時、レフーナは晩餐会にてとある令嬢のことを罵倒した。
そんな妹の高慢なる態度に限界を感じたラナフィリアは、レフーナを諫めることにした。
だが、レフーナはそれに激昂した。
彼女にとって、自分に従うだけだった姉からの反抗は許せないことだったのだ。
その結果、ラナフィリアは冷血と評判な辺境伯の元に嫁がされることになった。
姉が不幸になるように、レフーナが両親に提言したからである。
しかし、ラナフィリアが嫁ぐことになった辺境伯ガルラントは、噂とは異なる人物だった。
戦士であるため、敵に対して冷血ではあるが、それ以外の人物に対して紳士的で誠実な人物だったのだ。
こうして、レフーナの目論見は外れ、ラナフェリアは辺境で穏やかな生活を送るのだった。
婚約破棄された令嬢が呆然としてる間に、周囲の人達が王子を論破してくれました
マーサ
恋愛
国王在位15年を祝うパーティの場で、第1王子であるアルベールから婚約破棄を宣告された侯爵令嬢オルタンス。
真意を問いただそうとした瞬間、隣国の王太子や第2王子、学友たちまでアルベールに反論し始め、オルタンスが一言も話さないまま事態は収束に向かっていく…。
聖女の力を失ったと言われて王太子様から婚約破棄の上国外追放を命じられましたが、恐ろしい魔獣の国だと聞かされていた隣国で溺愛されています
綾森れん
恋愛
「力を失った聖女などいらない。お前との婚約は破棄する!」
代々、聖女が王太子と結婚してきた聖ラピースラ王国。
現在の聖女レイチェルの祈りが役に立たないから聖騎士たちが勝てないのだと責められ、レイチェルは国外追放を命じられてしまった。
聖堂を出ると王都の民衆に石を投げられる。
「お願い、やめて!」
レイチェルが懇願したとき不思議な光が彼女を取り巻き、レイチェルは転移魔法で隣国に移動してしまう。
恐ろしい魔獣の国だと聞かされていた隣国で、レイチェルはなぜか竜人の盟主から溺愛される。
(本作は小説家になろう様に掲載中の別作品『精霊王の末裔』と同一世界観ですが、200年前の物語なので未読でも一切問題ありません!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる