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番外編 ジョイナス王子ナリスと出会う

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 私ジョイナスは、サクリウ国の国王と王妃の間に生まれ唯一の王位継承権を持っている。昔から父である国王と母である王妃は、それはそれは仲が良かった。父は、私が母にべったり甘えるといつも乳母のもとに私を連れて行って、母を独占していた。私は、幼いゆえにそんな父が理解できなかった。私は父の唯一の子供である。母がかかわらないときには、父は私に優しい。しかしいったんそこに母が加わると、父は私を排除しようとするのだ。

 「ねえ、マーサ。お父様は僕の事が嫌いなの?」

 私の乳母であるマーサに聞いた時だ。マーサは複雑そうな顔をした。

 「国王は、王妃様のお子様であるジョイナス王子の事を大切にしていらっしゃいますよ」

 そういったマーサの言葉は妙に歯切れが悪かった。大きくなるにつれ私が母といると、父の機嫌がなんとなく悪くなるということに気が付いた。
 その頃には私には友達ができた。本当は友達でなく臣下なのだが。レリフォル家の嫡男であるランダル・レリフォルだ。ランダルもまだ幼かったせいか、私の事を次期国王というより友達として接してくれた。

 ある日私は、ランダルに聞いた。

 「ねえランダルのおうちは、お父様とお母様は仲がいいの?」

 「うん、仲がいいってみんなが言うから仲いいんだろうなあ」

 ランダルからは、そんなのんきな返事が返ってきた。ランダルのその答えに、私が日ごろ感じているもやもやを話せずにいた時だ。

 「ねえジョス、僕に妹ができたんだよ。今度うちに来て見てごらんよ。小さくてかわいいんだ!」

 ランダルは私の事を愛称で呼ぶようになった。親しい人同士だけの呼び方らしい。私はすごく気に入ったけど、ランダルが言うにはこの呼び方は、私とランダルふたりだけの時しかいけないらしい。

 「父上に怒られたんだ。王子様に愛称はいけないってさ」

 「ふう~ん、私はいいのに」

 ランダルは、私と二人の時だけその愛称で私を呼ぶようになった。そのランダルが、今日はずいぶん興奮している。そしていつもならゆっくり王宮にいるのに、今日は急いで飛ぶように帰ってしまった。

 「また妹を見に来てね。妹の名前はナリスっていうんだ!」

 私は母を父にとられ、ランダルをそのナリスという謎の物体にとられむしゃくしゃしていた。

 「ねえマーサ、今日ランダルったら早く帰っちゃったんだよ。妹ができたんだって」

 「そういえばそうでしたね。あのレリフォル公爵様が、王宮にいらして国王様にニコニコお話しされていたってもっぱらの噂でしたよ」

 「そうなんだ」

 レリフォル公爵は、普段から国王といえどしっかり仕事をしていないと国王にさえ厳しい。以前国王である、父上に食って掛かっているレリフォル公爵を見た時には、びっくりしたものだ。そんな公爵でも娘ができるとうれしいのか。ランダルも嬉しそうだったな。私は、まだ見ぬ娘に興味がわいた。
 私は、次の日突然レリフォル公爵家に向かった。いつのなら先に連絡しておくのだが、待ちきれなかったのだ。

 「びっくりしたよ」

 ランダルが私を見ていった。突然の訪問にもかかわらず、レリフォル公爵家は私を温かく出迎えてくれた。

 「王子、いつも息子と遊んでいただいてありがとうございます」

 そういったのはレリフォル公爵でありランダルの父であった。その父親がへばりついてるのは、小さなベッド。その周りにはランダルやランダルの母もいた。

 ランダルの父は、私がベッドの中をのぞき込もうとすると、なぜか邪魔をするのでなかなか中が見られない。

 「あなた、何やっていらっしゃるの?せっかく王子が見に来てくださいましたのに」

 そういってランダルの母は、父親を無理やりつかんだ。私はやっとベッドの中を見ることができた。中で何かがもぞもぞと動いている。ちょうど起きたのか、棒切れのような小さな手を動かしていた。私は驚いた。あまりに小さい。

 「小さいな」

 「そうだろう!」

 私が思わず出てしまった言葉に、ランダルが返事をした。ランダルは私がそう感想をいっただけなのに、どうやらそれさえ褒め言葉のように嬉しそうだった。ランダルがその棒切れのように小さい手に触れると、棒切れのような手がランダルの指をつかんだ。
 私もランダルにつられて、つい手を差し出していた。すると私の指を棒切れのような手がつかんだ。思ったより力がある。つかまれた指が温かくなった気がした。何やら私の胸の中にその温かさが流れてくるような感じだ。
 それまで目を閉じていた赤子の目が、ふいに見開いて私を見た。ふにゃと笑っている。
 私はもう目を離せなくなった。

 「あらっ。この子、王子様がお気に入りなのかしら」

 横で、ランダルの母の声がした。

 「なんだって?そんなことあってたまるか」

 私の横で、ランダルの母親と父親が何か言いあっているのが聞こえた気がするが、私はそれどころではなかった。自分の指を握っている赤子から目が離せないのだ。いつまでそうしていたのだろう。その赤子の手が離れて、私を見ていた目は瞼が閉じられた。
 私は、その小さな小さなぬくもりが自分の指から消えたとたんすごい消失感を感じた。

 「ジョイナス王子」

 私があまりに寂しそうな顔をしたせいだろうか。ランダルの父が声をかけてきた。先ほどまでは、子供の私に意地悪をしていたはずが、私のあまりにしおれた顔を不憫に思ったのか、ランダルの父が言ってきた。

 「ジョイナス王子、ぜひまた来てください。娘もジョイナス王子を気に入ったようですし」

 最後の一言は、あからさまに悲しそうな顔をしている私を慰めるための方便であったのだが、それを聞いた私の沈んだ心が浮き上がるのを感じた。

 「うん、また来る!」

 それからだ。私は、毎日のようにナリスを見にいった。そのせいだろうか。ナリスが一番初めに覚えた言葉は、『ジョス』でランダルの父は地団太を踏んで悔しがったのだった。

 いつの間にか、父と母を見た時のもやもやが消えていた。父の気持ちが少しだけわかるような気がした。
  

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