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第二十九羽 嘘じゃないよホントだよ

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 手の中の『無明金剛シラズガナ』をクルクルと弄びながら、二人に流し目を送りつつ周りをゆっくりと旋回する。その私の体の周りには闘気が迸っていて。

「……お二人とも、流石ですね。これは使わずに済めば良いと思っていたのですが……」

氣装流威エントリー』。

 この半年間で闘気の長期間維持の修行をしていた際に生まれた技です。

 闘気を電気のように見立て、動かす体の部位へと一瞬だけ流すことで刺激し、瞬間的に強化する技術です。動く度に強化する部位を変更するので慣れるまでは難しかったですが、今までの積み重ね・・・・のおかげで形にすることが出来ました。それがなければ、動く為に必要な部位ごとへの瞬間強化なんて無理でしたね……。
 スピードが爆発的に上がり、それに応じて攻撃する際の瞬間攻撃力も上がっています。強化するのが一瞬なので『氣装纏鎧エンスタフト』と比べて燃費が圧倒的に良いです。

 とは言え弱点もあり、『氣装纏鎧エンスタフト』の完全上位互換とはなっていません。
 瞬間強化なので『蒼気硬化』の鎧効果は強化した部分だけで短い時間、それに純粋なパワーでは負けています。

氣装纏鎧エンスタフト』がパワーと防御力に特化した重騎士タイプで。

氣装流威エントリー』がスピードと燃費に特化した軽戦士タイプといった感じでしょうか。

 それで目標としていた闘気の長時間維持は……頑張りました!! ちょっとだけ伸びましたよ! ……はあ……本当に私の才能って……。

「ガール……、君はさっきまで粘液に絡め取られ、動く事もままならない状況だった。なのに今は粘液の上を滑ることもなく歩くことができている。これはどう言う事であるか?」

 内心で落ち込んでいたら険しい顔つきになった巻き髭から硬い声がかけられる。

「そうですね……」

 これは……教えた方が有利ですね。

「私が体にまとっているこの蒼い闘気。これは―――魔法を、魔力を拒絶します」

「な……!! そうであるなら……!!」

「ええ、先ほど言いましたが……相性は最悪ですよ」

 巻き髭の使う粘液は性質が任意で変化できる、持続型の魔法であるということ。すなわち、私の闘気で拒絶できる。

 もう、このシャボンの魔法は私には効かない。その可能性に思い至ったのか巻き髭の表情は苦しげなものに変わっていきます。

 今言いましたが、使っている『氣装流威エントリー』は別に巻き髭の粘液に対する特殊な効力は存在しません。それを有しているのは……闘気。
 私が闘気を使っている間、魔法による搦め手はあまり効果を成さなくなります。

 そして私が粘液の上でも歩けているわけ。それは至って簡単です。足下に粘液が存在していないから。

 歩く度に蒼気が足先へと走り抜け、脚が地面に着く頃には闘気の拒絶効果によって粘液は押しのけられているのですから。その後は闘気の残滓が粘液を押し返してくれます。

 私の足下の粘液にポッカリと円形の穴があいていて、その縁は不可視の力に押し返されているように小さなさざ波を見つけることができるでしょう。

 飛んでくるような魔法を避けさせる程の反発力は直接闘気と触れなければ発生しませんが、止まっているものなら話は別です。特に『氣装流威エントリー』は瞬間的に流動させるので勢いも相まって、魔力は押しのけられます。

 さらに。

 魔法に直接闘気を流し込めば、魔力を拒絶する闘気の効果によって構成を維持することが出来ずに消え去ります。この技術は半年前にお母様のホーミングチート羽攻撃に対処したときに使っていましたね。言葉ほど簡単ではないのですが、長年の修練によって使えるようになった技です。

 私の体に触れていたとりもち粘液は闘気を流し込まれたせいで形を維持することも出来ずに、消滅してしまったというわけです。

「わかりましたか? 貴方のシャボンの魔法は私には効きません。貴方のお望み通り、魔法なしで直接対決と行こうではありませんか」

「く……!! 魔法が……効かないであるとは……!!」

 不利な状況に歯がみする巻き髭。先ほどの二対一の有利な状況で押されていたわけです。苦しげな表情になるのを頷けるというもの。

「―――まあ待つでござるよ、タラバン」

 そこに静観を貫いていたエセ忍者の声が落ち着かせるように割って入る。

「そこの手羽先野郎は『魔法を、魔力を拒絶する』と言ったのでござるよ」

 は? 手羽先でも野郎でもありませんが? 

「タラバンのとりもち粘液をかき消して離脱。足下の粘液は押し返している。この様子からおそらく嘘は言ってないでござろう」

「ええ、嘘だなんてとんでもない」

「ところで―――シャボンが爆発する時の衝撃はどうなるのでござるか?」

「…………」

「おや、返事がないでござるな。まあ良いでござるよ、実際に使ってみればわかるだけのこと」

 困ったものだといった風に薄い笑みを浮かべて首を振るエセ忍者。その様子に思わず額の血管が浮き出そうになる。このやろう……です。

「……助かったのである。危うく自分から手札を一つ捨てるところであった」

「なに、したり顔で騙そうとしているのが気にくわなかっただけでござるよ」

 ……うるさいですね。確かに魔法で間接的に起こされた事象は拒絶できませんがなにか? そうでなくても攻撃系の魔法は弾かないとダメージ貰いますけども。
 ……せっかく魔法を使わないように誘導していたのに……全部パアですよ。ホントに嫌いですあのエセ忍者。

「それに魔法ではない拙者の毒は効いているはず」

「はい? 私、毒には耐性があるので全然効いてなんかないですよ」

 全く何を言っているのでしょうか。あの程度の毒で効いているなどと片腹痛いですね。……あれ? 本当に痛い?
 その痛みのせいで思わず咳き込んでしまった。

「……ごふっ」

「ほら、効いているでござる。強がりは―――」

 口を押えた手には僅かに血が。それを見て目を閉じて嘲笑を浮かべ、やれやれと首を振るエセ忍者。

 その隙に一気に距離を詰めた。『氣装流威エントリー』の効果で私の速度はかなり上がっています。それは一瞬の出来事で。

 異変を感じ目を開くエセ忍者の眼前には、『氣装纏武エンハンスメント』で蒼い刃が現れた『無明金剛シラズガナ』を大きく後ろに引き絞りバチバチと闘気を迸らせた私の姿が。

「……よすでござるよ?」

 すごくうるさいので……黙らせてあげます☆

「【魔喰牙ばくうが】!」

 ドゴッ!!!!と脇を抉られたエセ忍者が言葉もなく吹き飛んでいった。

「さあ、毒なんか全く効いていないですが、覚悟の準備はよろしいですか?」

「それはなかなか無理があるのであるよ、ガール」

「これは貴方のシャボンの魔法に因る物です。貴方の魔法はすごいですよ」

「……うむ、この状況で褒められても全然嬉しくないのであるな……」

 額から冷や汗を垂らして二刀を構える巻き髭に『無明金剛シラズガナ』を突きつけた。
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