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第二十七羽 VSエセ忍者&巻き髭
しおりを挟む「【下弦月《かげんげつ》】」
飛んできた二対の斬撃へ『無明金剛』を振るい、散り散りに消し飛ばす。その間に下手人はエセ忍者の方へと到達していました。
その下手人は……さっき捕まえていたはずの巻き髭。飛ぶ斬撃、使えたんですね。
簡単には抜けられないようかなり強固に捕縛していたはずの巻き髭。自力で抜け出せたのでしょうか? それとも誰かに助けて貰った? そんな彼はこちらを警戒しながらエセ忍者を引き起こした。
「随分手ひどくやられたであるな」
「……遅かったでござるね。なにをやっていたのでござるか」
「なに、そこのガールに不覚を取っていたのだよ」
「私が女で子供だからと手加減してボコボコにされた上、土で出来た手の平に埋まって顔だけ出してたんですよね。面白かったので絵に描いて貰って保存したかったです」
「なにか我輩に恨みでもあるのか!? くっ! お前のせいで……我輩は……生き恥を晒している……!!」
恨みというか、子供を殺そうとするやつが嫌いなだけですけど。至極当然の反応をしていると、涙を滝のように流している巻き髭が、取り出した黒くて小さな丸いものをエセ忍者に食べさせた。
え……まさか……。
「丸めた……その……鼻の汚物を食べさせるのは罰ゲームにしてもさすがにかわいそう……」
「これは鼻くそじゃねーでござるよ!! 兵糧丸でござる!!」
あら、そうなんですね。さっきまで動くのも辛そうだったエセ忍者が叫ぶ。あれ、さっきより元気になっている? さっきのは丸薬なのでしょう、回復されてしまいました。……私、なんで邪魔しなかったんでしょうか。
……う~ん、思ったよりも疲れているのでしょうか。みすみす回復行為を見逃すことなんてないんですけど……。不利になるだけなので。疑問に思いつつ眉間をもみほぐした。気を取り直して立ち上がったジャシン教幹部二人に『無明金剛』を向ける。
「ところでガール、目が覚めた時に我輩の剣がなかったのであるが……」
「ああ、これのことですか?」
巻き髭を倒した後、アイテムストレージにしまっていた2本の剣を取り出す。捕縛しておくにしても武装は解きますよ。今持っている剣は間に合わせのものでしょうか。
「せっかくである。正々堂々勝負したいのであるよ、さあ返すのである」
「それはもちろん……」
勝負に無粋な真似を御法度です。剣を渡そうとして……あれ? これ渡す必要ないですよね。思い直してアイテムストレージにしまい込んだ。
「……いや返すわけないじゃないですか。二対一なのに正々堂々もないでしょう。これは後で売ってご飯代にします」
「……それは……残念であるな。我輩の愛剣が……」
「なんで渡すと思ったんですか」
意気消沈する巻き髭。街中で暴れるような危険人物に武器を渡すとか絶対あり得ないですよ。一つ息をついて眉間をもみほぐす。
「さて、最後です。投降して下さい。もう辺りで戦闘音は聞こえません。ジャシン教の教団員はもうまともに動けていないでしょう。あなた方が何をしたかったのかは分かりませんが、もうおしまいです。これ以上続けても無意味でしょう」
再度投降を促すように呼びかける。
返答は―――魔法だった。
「……《バブル・ボブル》」
ブクブクと拳大の泡が無数に現れる。無秩序に見えて私を包囲するように広がっていく虹色のシャボン玉。一見幻想的な風景ですが、見た目で判断するのは間違いです。どんな危険な効果を持っているかわかりません。
下手に接近せず破壊するのが得策でしょう。
「《黄陣:誘岐連》」
一条の雷撃が拳の先から打ち出される。魔法に引き寄せられる効果に従って先頭のシャボンに到達し破壊、次々に破壊していく。バチンバチンとかなり大きな音を立てて弾けるシャボンの群れ。その裏の二人に魔法が到達するところで土の壁が隆起した。魔法ですね。
「《ロックウォール》」
電撃を防ぎきった土壁を縦に切り裂いて斬撃が飛来する。黒棍を振るい明後日の方向へ受け流した。その間にも消したはずのシャボンが再び増していく。またですか、切りがないですね。もう一度消して―――? いや、光を反射するシャボンで見えずらいですがエセ忍者が壁の後ろにいない気が……?
「ッ!!」
足元から発生した悪意に、急いで地面から飛び上がる。僅かに遅れて石畳を突き破ってきた腕が空をきった。壁に隠れて地面を潜ってきたのでしょう、エセ忍者のものですね。捕まえるのを断念した腕が地面を叩けば、隆起した地面が6本ほど、槍の様に鋭く襲いかかってきた。腕は再び地中へ。
次々に地面から迫るそれらを宙から槍でそらし、壊し、躱しながら対処する。そう簡単には当たりませんよ。
伸びてきた石槍を逆に足場にして下っていく間に、かなりの範囲にシャボンの包囲網は広がっていた。
ふわりと近づく一つのシャボン玉。石槍を足場に滑り降りるさなか接触しないように警戒しつつ通り過ぎる。
「いたッ!!?」
途端、触れてもいないシャボンが勝手に弾けた。それもかなりの衝撃で感覚的には今の私が殴りつけられたと感じるくらいのもの。市民の方だったら骨折で済まないかもしれません。
足場から押し出され、眼下には無数のシャボン。『天駆』で切り抜けるか……。
いえ、これ以上シャボンを広げさせるのは得策ではありませんね。やはりもう一度破壊しましょう。
「《黄陣:誘岐連》」
広がる雷撃がシャボンを先ほどと同様に破壊。着地すればグチュリと、足下が気味の悪い音を立てた。
「これは……」
泡、それとも粘液でしょうか……? 十中八九弾けたシャボン玉から発生したもの。脚を持ち上げればねっとりと糸を引いています。あ、さっき弾けた分が私の体にもついてますね……。なんだか気持ち悪い……。こんな場所で転けたら大変な事になりそうです。
そこに飛来する手裏剣が多数。対処をしようと体を動かしたところ―――ズルリと脚が滑った。なんとか転けることはなかったものの体勢は崩れてしまった。
「わ、わわ……! ふ、ふーちゃん!!」
「―――♪」
「ちッ……」
飛来する手裏剣が風の力で明後日の方向に飛んでいく。
よ、良かった! ふーちゃんいてくれた……!!
ふーちゃんは精霊ゆえ、自由にあちこち移動するうえに面白いことがあるとそっちに気を取られて呼びかけが聞こえてないこともあるのです。事前確認していないとたまになにも起きずに慌てることになります。なにも起きなかったときは本当に心臓に悪いです……。
私の咄嗟の風魔法では威力不足で全部を防げなかったかも知れません。魔術では間に合わなかったですし、これを食らうのは避けたかった所です。手裏剣が刺さったところで大きなダメージにはなりませんが……手裏剣が落ちた泡から紫色の煙が立ち上っています。これは毒ですね。確か半年前も毒を使っていましたっけ。
滑らないように注意しつつ、泡の落ちていない所に移動したときには再びシャボンが広がっていた。前より量が少なくなっていると思いましたが……どうやら上の方にも広がっていますね。
近づくと強い衝撃を受け、壊せば足下に粘液が広がる。対応のし辛いシャボン。なかなか……戦いづらいですね……。
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