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第七羽 いやちゃうねん
しおりを挟むダラムさんのニコニコした笑顔を向けられて、冒険者カードに伸ばした手が自然と落ちる。
「メルさん? どうしました?」
「いえ、なんでもありませんよ……」
項垂れていた私の顔を心配そうに覗き込んできた彼女に乾いた笑みを返す。想定外の事態に混乱して忘れていましたが、彼女たちと約束をしていたのでした。それを反故にするわけにもいきませんし、そんなことをすればきっととても困るはず。
このカードを見せてしまったのが運の尽き。今更カードを取り下げるわけにもいきません。これも私の自己責任です。でも……ちょっと言い訳をさせてください。
大陸横断が難しいこの世界で他大陸のカードなんて持ってたら悪目立ちは必至だなんてことよく考えればわかります。しかし、しかしですよ? 記念写真感覚でカード貰ったときの私はそんなことまで考えてなかったんですよ。それにここの冒険者カードなんてまだ見たことないんですから、マークが違うなんてわかるはずないでしょう!? そんなの気づけるわけないじゃないですか!! 気づいた人いますか!? いないでしょう!?
くっ……、言い訳していてもなんの解決にもなりません。こうなればこの場でそれっぽい話をでっち上げるしか……。そう言えば、モルクさんの話に参考になりそうなものがあったような……。唸れ……!! 私の灰色の脳細胞……!!
「なにかあったんですか?」
「たいしたことではないのですが、私の冒険者カードが他大陸で登録されたものなので、受付のお姉さんが珍しがられたのですよ」
「あら、本当ですか?」
「はい、冒険者様はここではなくノッセントルグ大陸で登録なされています」
「えっと……昔、お友達についていって別の大陸に渡ったことがあったのですよ。その時冒険者登録をして、色々あってBランク冒険者に……」
「そうなんですか!? 昔ってことは、冒険者様は今よりも幼い時から強かったのですね!!」
「そうなんですかメルさん!? すごいです!!」
「あ、あはは……。そんなことないですよ……」
二人のキラキラした視線が突き刺さる。それはさながら吸血鬼に対する太陽光のように。思わず顔を背けてしまう。
こ、心が痛い……。そんな目で見ないでください。全部嘘ですし、今それなりに強いのもチートでズルしているだけなんです。私に才能なんて無かったんです……。もちろんそんなことを打ち明けることも出来ず、しばらく彼女たちの視線に焼かれ続けた。これが嘘をついた罰なのですか……。
「そのお友達はどんな方だったのですか?」
「それが、今よりもさらに幼かった時のこと故、あまり覚えていないのですよ。そのお友達も家のゴタゴタだとかでこちらに返ってきてからずっと会えず……。どのような立場の人なのか分からず仕舞で……」
秘技!『小さい頃のことだから覚えていません』。これで乗り切る……!! そっと窺ってみれば二人とも不審に思った様子はありません。これは勝った……!! ……ん?
「そうか……。そういうことなんですね……!!」
急に納得したように頷いてどうしたのですかダラムさん??
「メルさんが他大陸に渡ろうとしているのはそのお友達を探すためなのですね!!」
どうしてそんな話に!? なんで貴女は私が他大陸に渡りたがっているのを知っているのですか!?
「オーナーに聞きました。貴女が他大陸に渡ることを目的にこの街へ訪れたことは……!!」
あ、そうですか。ご丁寧に教えてくださってありがとうございます。モルクさん、何してくれたんですか???? この暴走娘さんを止めてくれませんか?
「私、感動しました……!! 幼いながらもお友達と再開するために、自力で渡航手段を得ようとするその姿勢……!! それだけでなく、困ったわたし達を助けてくれようとするその在り方……!! 尊敬します……!!」
いや、そもそもお友達が別大陸にいるなんて一言も言ってないですけど?? そんな美談欠片も存在しないですけど?? 嘘と勘違いのミルフィーユですけれども??
助けを求めて横を見れば胸元で手を握りしめ、キラキラとこちらを見つめるお姉さん。ウサミミがピコピコと上下に忙しい。あ、思いっきり信じていますね。これ……、修正不可能ですか? ……無理に否定すれば話が変にこじれるかも知れません。別大陸でないのなら、なぜこの大陸で探さないのか、とか聞かれればまた嘘を考える必要があります。
……今は上手く乗っかって、ここだけの話にすればなんとか収まるでしょう。これが一番クレバーな考えですね。
「あのこの話は……」
「はい!!任せてください!! 全力で広めて見せます!! わたしの全霊にかけて!!」
いや、ちゃうねん。
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