97 / 156
第91羽 不変の普遍
しおりを挟む「ここで良ィか……」
『ッ!!』
血にまみれた翼を持っていたドゥークが天帝を無造作に床に放り出す。痛みは相当な物だろうに泣き言一つ溢さないその姿に舌打ちを漏らして、あざけるような笑みを作り出した。
「災難だったな天帝。ガキを庇ってやられるなんてよォ」
その言葉に身を起こした天帝は鼻で笑ってみせた。
『見解の相違だな。あれは幸運だった。娘を守ることができたのだから。ただ見ているしかできない恐怖よりも、この痛みの方が何千倍もマシだ』
「チッ、そう言っていられンのも今のうちだ。お前はもうすぐ俺に殺される。そしたらあいつもすぐにお前の所に送ってやるよ」
今度こそ狼狽えるような反応を引き出せるとドゥークは思っていた。怒りでも、悲壮感でも良かった。帝種最強格の存在にそんな反応を引き出させ、殺す。なんとも心躍る話だ。
しかし帰ってたのは、そのどれでもなく。嘲るような失笑だった。
『お前如きではあの娘には勝てんぞ?』
その言葉でドゥーク脳内にほとんど攻撃を当てられず、逆に押し込まれ続けていた光景がフラッシュバックした。憤怒の表情に変わり、こらえることが出来なくなる。
「ならあの世であのガキが俺に殺される所を見てるんだな!!」
もう少し、強者を見下せるこの状況を楽しむつもりだった。だがここまで馬鹿にされては仕方がない。
感情のままに致死の大剣を振り上げ――――そこに蒼の彗星が着弾した。
■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □
吸血鬼の『空間把握』と『強風の力』を併用して全速力でお母様を捜索。見つけたときには既にドゥークが大剣を動けないお母様に振り下ろそうとする所でした。
それが目に入った瞬間、後先考えずに体が動いていた。
「【崩鬼星】ッ!!!」
横合いから全力のドロップキック。意識外からの攻撃にドゥークは避けることも出来ずに、まともに食らうことになった。
「てめェ……、また邪魔――――」
「うるさい……!!《紫陣:加速》+【銃苦】ッ!!」
ドゥークが顔を上げた瞬間、顔面に朱槍が突き刺さった。オーバースローで振りかぶり、槍を投げつけたのだ。
戦撃と魔術の合わせ技は音速を軽く超えて。朱槍は砕け散ったものの、声だけを残しドゥークをどこかへと連れ去った。そのなものには目もくれず、すぐさまお母様に駆け寄る。
『……来たか、随分早かったな』
「いえ、遅すぎるくらいですよ」
『高速再生』で治っていた親指を再びかみ切り、傷口に血を一滴垂らす。吸血鬼の『高速再生』の力を込めた血液です。これならしばらくすれば動けるようになるでしょう。それから傷口に『血葬』を被せていく。これで更なる出血は抑えられるはず。きっと大丈夫。これなら助かる。
「痛みますよね……。庇わせてすみませんでした」
『さっきも言ったぞ? 我は母親なれば、娘くらい守って当然だ。それともなんだ? お前は我が母では不服か?』
「……いいえ。貴女が母親で本当に良かった……」
『……ふん。ならばさっさと終わらせてこい』
「ええ、すぐに」
振り返れば、痛みに顔を押さえ、怒りを湛えたドゥークが戻ってきていた。
「返せよ。そいつは俺の獲物だ」
その言葉に、思わず翼の羽がゾワりと逆立った。
「お前の……? 獲物……?」
何を言っているんだ、こいつは? 欠片も理解できない。そんなわけあり得るはずもないのに。
「この人は、私の、母だ。断じてお前の獲物なんかではない」
――――コイツも、そうだ。人を害することに抵抗がなく、寧ろそれを楽しんですらいる。他者を平気で食い物にし、弱者のことなど考えもしない、自分を捕食者と考えている、敵。
唾棄すべき、滅ぼすべき、敵だ。
お前が私達を獲物だと言うのなら。
私が逆に喰らってやろう。獲物はお前なのだと教えて見せよう。
「喰らうのはお前じゃない。――――私だ」
心に導かれるまま腕を伸ばせば、虚空に手応えを掴んだ。それを引き抜くと、手の中に現れたのはただの棒だった。長さは私の得意な槍と同じくらい。黒いだけで穂先すら無く、何の変哲もないそれをまるで槍の様に構える。
それを見てドゥークが嘲るように嗤った。
「なんだ?その棒ッ切れで俺と戦おうってか?またさっきみたいに砕いてやるよ!!」
「これを砕く……?」
揚々と大剣を携え突貫してくるドゥークに対し、私は出し惜しみの無く闘気を棒に送り込んでいく。
そして激突。さっきまで受け流すか、避けることしか選択肢が無かった攻撃を軽々と真正面から受け止めてみせた。
「なに!?」
まさか受け止めることが出来るとは思っていなかったのだろう。驚愕の声を上げるドゥーク。
「この子の能力の一つが『不壊』。決して壊れることがなく、私に応え続けてくれます」
壊れることがない。つまりこの棒にどれだけ闘気を送り込んで『氣装纏武』を施そうと限界なんて訪れることはないのだ。
「行きますよ、『無明金剛』」
確かめるように握りしめれば、送り込んだ闘気を喰らって蒼の刃が伸びていく。
棒の先端からはオーソドックスな槍の穂先の形の蒼い刃が。
側面からは、戦斧の様な重厚な刃が現れ、先端は角のように曲がり、細くなって槍の穂先に寄り添っている。
反対の側面からは、スケートのエッジのようなものが現れ、叩きつけることを主目的としていることが伺える。先端は戦斧の部分と同じように槍の穂先の様に細く尖っている。
つまるところ、この蒼刃の形状はハルバードとトライデントが混ざったようなかたちになっているのだ。
突いて良し、切って良し、叩いて良し。そして蒼刃に重さは無いため、重心は常に手元にあり、私の思うがままに振るうことが出来る。
私のあらゆる戦撃が最大限の効果を発揮するように誂えて貰った、私専用、オーダーメイドの武器。
それがこの『無明金剛』。
時に。
私はたくさんの転生を経験してきました。その中で、鬼になり、吸血鬼になり、呪人族になり、その他多数の種族として生きてきましたが、同じ種族になることは終ぞありませんでした。
ただ一つの例外を除いて。その例外こそが人間。あらゆる人類種の基礎とされる種族。全世界で変わることの無い、普遍の種族。
私の転生の半数以上は人間だったような気がします。何度も転生してきた人間としての経験は、人生は『普人種』という一つの項目にに集約されていきました。
他種族に比べて特殊な能力がない人間。その中で唯一特異だったのが、各世界ごとに違いが見られるその保有エネルギーの種類。
有名な魔力に加え、聖気・星気・チャクラ・プラーナ・エーテル・etc。ただ私の才では一度の人生で習熟出来ないほどの技術形態のあるものが幾つも存在しました。習熟状況が中途半端なまま次の人生が始まり、そこでも別のエネルギーの技術が存在する。そして私には全てのエネルギーの技術を平行で修行できるほどの器用さはありません。
だから早い段階でその全てに見切りを付けた。それらの技術を捨て去ることを決めた。
――――ただその代わりに。
膨大な量の闘気が噴出する。
「なンだよ……それ」
『その量のエネルギー、一体どこから……』
下火になっていた闘気の量が目に見える形で押し上げられていく。数多のエネルギーを喰らい、闘気がその総量を増していく。炉心は私の思うがままにその働きを変え、生命力と魔力、そして魔素を混ぜて闘気を生み出すのではなく、既にある闘気にエネルギーを混ぜることで増加させていく。闘気が増えれば増えるほど、その増加速度も増していく。
まるで闘気という種火に材料を焚べていくように。
私の胸の中心、炉心から溢れる闘気の蒼に、キラキラと金のきらめきが混じる。
闘気には自身の魔力との親和性があると言いました。ですが正確には自身の保有するエネルギーとの親和性です。
鬼の保有能力である『鬼気』然り、私の持つエネルギーは全て闘気に混ぜ込むことができる。中途半端になりうる数多の技術を捨て、純粋なパワーを手にする。それが私の選択。
取り戻したる力は『普人種』。私が人間として歩んできた人生が全て詰まったそれは、今まさにソウルボードの『メイン』で私に力を湧かせ続けてくれる。
―― ソウルボード ――
コア:アジャースカイファルク
・メイン:普人種
サブ:鬼
サブ:吸血鬼
サブ:呪人族
サブ:
サブ:
――――――――――――――――――――――――
溢れる力のままに、受け止めたドゥークの大剣を振り払う。
お母様の怪我は庇わせた私が弱かったから。それでも傷付けたコイツを私は許せない……!!
「【剛破槍】ッ!!!!」
「!!?!?」
怒りを込めた全力の両手突きは、ドゥークの硬い皮膚をものともせずに貫く威力で。
ドゥークは抵抗も許されず、衝撃波をまき散らしながら眼下の地面へと叩き落とされ、木々をなぎ倒しながら、わかりやすい巨大な通り道を作り上げることになった。
0
お気に入りに追加
258
あなたにおすすめの小説

Link's
黒砂糖デニーロ
ファンタジー
この世界には二つの存在がいる。
人類に仇なす不死の生物、"魔属”
そして魔属を殺せる唯一の異能者、"勇者”
人類と魔族の戦いはすでに千年もの間、続いている――
アオイ・イリスは人類の脅威と戦う勇者である。幼馴染のレン・シュミットはそんな彼女を聖剣鍛冶師として支える。
ある日、勇者連続失踪の調査を依頼されたアオイたち。ただの調査のはずが、都市存亡の戦いと、その影に蠢く陰謀に巻き込まれることに。
やがてそれは、世界の命運を分かつ事態に――
猪突猛進型少女の勇者と、気苦労耐えない幼馴染が繰り広げる怒涛のバトルアクション!

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした
赤白玉ゆずる
ファンタジー
【コミックス第1巻発売中です!】
皆様どうぞよろしくお願いいたします。
【10/23コミカライズ開始!】
『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました!
颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。
【第2巻が発売されました!】
今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。
イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです!
素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。
【ストーリー紹介】
幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。
そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。
養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。
だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。
『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。
貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。
『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。
『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。
どん底だった主人公が一発逆転する物語です。
※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。

元剣聖のスケルトンが追放された最弱美少女テイマーのテイムモンスターになって成り上がる
ゆる弥
ファンタジー
転生した体はなんと骨だった。
モンスターに転生してしまった俺は、たまたま助けたテイマーにテイムされる。
実は前世が剣聖の俺。
剣を持てば最強だ。
最弱テイマーにテイムされた最強のスケルトンとの成り上がり物語。

転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる