【悲報】無限に転生してきた私、遂に人類をやめる【タスケテ】

ねむ鯛

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第91羽 不変の普遍

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「ここで良ィか……」

『ッ!!』

 血にまみれた翼を持っていたドゥークが天帝を無造作に床に放り出す。痛みは相当な物だろうに泣き言一つ溢さないその姿に舌打ちを漏らして、あざけるような笑みを作り出した。

「災難だったな天帝。ガキを庇ってやられるなんてよォ」

 その言葉に身を起こした天帝は鼻で笑ってみせた。

『見解の相違だな。あれは幸運だった。娘を守ることができたのだから。ただ見ているしかできない恐怖よりも、この痛みの方が何千倍もマシだ』

「チッ、そう言っていられンのも今のうちだ。お前はもうすぐ俺に殺される。そしたらあいつもすぐにお前の所に送ってやるよ」

 今度こそ狼狽えるような反応を引き出せるとドゥークは思っていた。怒りでも、悲壮感でも良かった。帝種最強格の存在にそんな反応を引き出させ、殺す。なんとも心躍る話だ。

 しかし帰ってたのは、そのどれでもなく。嘲るような失笑だった。

『お前如きではあの娘には勝てんぞ?』

 その言葉でドゥーク脳内にほとんど攻撃を当てられず、逆に押し込まれ続けていた光景がフラッシュバックした。憤怒の表情に変わり、こらえることが出来なくなる。

「ならあの世であのガキが俺に殺される所を見てるんだな!!」

 もう少し、強者を見下せるこの状況を楽しむつもりだった。だがここまで馬鹿にされては仕方がない。
 感情のままに致死の大剣を振り上げ――――そこに蒼の彗星が着弾した。



 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ 


 吸血鬼の『空間把握』と『強風の力』を併用して全速力でお母様を捜索。見つけたときには既にドゥークが大剣を動けないお母様に振り下ろそうとする所でした。
 それが目に入った瞬間、後先考えずに体が動いていた。

「【崩鬼星ほうきぼし】ッ!!!」

 横合いから全力のドロップキック。意識外からの攻撃にドゥークは避けることも出来ずに、まともに食らうことになった。

「てめェ……、また邪魔――――」

「うるさい……!!《紫陣:加速》+【銃苦ガングル】ッ!!」

 ドゥークが顔を上げた瞬間、顔面に朱槍が突き刺さった。オーバースローで振りかぶり、槍を投げつけたのだ。
 戦撃と魔術の合わせ技は音速を軽く超えて。朱槍は砕け散ったものの、声だけを残しドゥークをどこかへと連れ去った。そのなものには目もくれず、すぐさまお母様に駆け寄る。

『……来たか、随分早かったな』

「いえ、遅すぎるくらいですよ」

 『高速再生』で治っていた親指を再びかみ切り、傷口に血を一滴垂らす。吸血鬼の『高速再生』の力を込めた血液です。これならしばらくすれば動けるようになるでしょう。それから傷口に『血葬』を被せていく。これで更なる出血は抑えられるはず。きっと大丈夫。これなら助かる。

「痛みますよね……。庇わせてすみませんでした」

『さっきも言ったぞ? 我は母親なれば、娘くらい守って当然だ。それともなんだ? お前は我が母では不服か?』

「……いいえ。貴女が母親で本当に良かった……」

『……ふん。ならばさっさと終わらせてこい』

「ええ、すぐに」

 振り返れば、痛みに顔を押さえ、怒りを湛えたドゥークが戻ってきていた。

「返せよ。そいつは俺の獲物だ」

 その言葉に、思わず翼の羽がゾワりと逆立った。

「お前の……? 獲物……?」

 何を言っているんだ、こいつは? 欠片も理解できない。そんなわけあり得るはずもないのに。

「この人は、私の、母だ。断じてお前の獲物なんかではない」

 ――――コイツも、そうだ。人を害することに抵抗がなく、寧ろそれを楽しんですらいる。他者を平気で食い物にし、弱者のことなど考えもしない、自分を捕食者と考えている、敵。
 唾棄すべき、滅ぼすべき、敵だ。

 お前が私達を獲物だと言うのなら。
 私が逆に喰らってやろう。獲物はお前なのだと教えて見せよう。

「喰らうのはお前じゃない。――――私だ」

 心に導かれるまま腕を伸ばせば、虚空に手応えを掴んだ。それを引き抜くと、手の中に現れたのはただの棒だった。長さは私の得意な槍と同じくらい。黒いだけで穂先すら無く、何の変哲もないそれをまるで槍の様に構える。
 それを見てドゥークが嘲るように嗤った。

「なんだ?その棒ッ切れで俺と戦おうってか?またさっきみたいに砕いてやるよ!!」

「これを砕く……?」

 揚々と大剣を携え突貫してくるドゥークに対し、私は出し惜しみの無く闘気を棒に送り込んでいく。
 そして激突。さっきまで受け流すか、避けることしか選択肢が無かった攻撃を軽々と真正面から受け止めてみせた。

「なに!?」

 まさか受け止めることが出来るとは思っていなかったのだろう。驚愕の声を上げるドゥーク。

「この子の能力の一つが『不壊イモータル』。決して壊れることがなく、私に応え続けてくれます」

 壊れることがない。つまりこの棒にどれだけ闘気を送り込んで『氣装纏武エンハンスメント』を施そうと限界なんて訪れることはないのだ。

「行きますよ、『無明金剛シラズガナ』」

 確かめるように握りしめれば、送り込んだ闘気を喰らって蒼の刃が伸びていく。
 棒の先端からはオーソドックスな槍の穂先の形の蒼い刃が。
 側面からは、戦斧の様な重厚な刃が現れ、先端は角のように曲がり、細くなって槍の穂先に寄り添っている。
 反対の側面からは、スケートのエッジのようなものが現れ、叩きつけることを主目的としていることが伺える。先端は戦斧の部分と同じように槍の穂先の様に細く尖っている。

 つまるところ、この蒼刃の形状はハルバードとトライデントが混ざったようなかたちになっているのだ。
 突いて良し、切って良し、叩いて良し。そして蒼刃に重さは無いため、重心は常に手元にあり、私の思うがままに振るうことが出来る。
 私のあらゆる戦撃が最大限の効果を発揮するように誂えて貰った、私専用、オーダーメイドの武器。

 それがこの『無明金剛シラズガナ』。

 時に。
 私はたくさんの転生を経験してきました。その中で、鬼になり、吸血鬼になり、呪人族になり、その他多数の種族として生きてきましたが、同じ種族になることは終ぞありませんでした。
 ただ一つの例外を除いて。その例外こそが人間。あらゆる人類種の基礎とされる種族。全世界で変わることの無い、普遍の種族。

 私の転生の半数以上は人間だったような気がします。何度も転生してきた人間としての経験は、人生は『普人種』という一つの項目にに集約されていきました。

 他種族に比べて特殊な能力がない人間。その中で唯一特異だったのが、各世界ごとに違いが見られるその保有エネルギーの種類。
 有名な魔力に加え、聖気・星気・チャクラ・プラーナ・エーテル・etc。ただ私の才では一度の人生で習熟出来ないほどの技術形態のあるものが幾つも存在しました。習熟状況が中途半端なまま次の人生が始まり、そこでも別のエネルギーの技術が存在する。そして私には全てのエネルギーの技術を平行で修行できるほどの器用さはありません。
 だから早い段階でその全てに見切りを付けた。それらの技術を捨て去ることを決めた。

 ――――ただその代わりに。

 膨大な量の闘気が噴出する。

「なンだよ……それ」

『その量のエネルギー、一体どこから……』

 下火になっていた闘気の量が目に見える形で押し上げられていく。数多のエネルギーを喰らい、闘気がその総量を増していく。炉心は私の思うがままにその働きを変え、生命力と魔力、そして魔素を混ぜて闘気を生み出すのではなく、既にある闘気にエネルギーを混ぜることで増加させていく。闘気が増えれば増えるほど、その増加速度も増していく。

 まるで闘気という種火に材料をべていくように。

 私の胸の中心、炉心から溢れる闘気の蒼に、キラキラと金のきらめきが混じる。

 闘気には自身の魔力との親和性があると言いました。ですが正確には自身の保有するエネルギーとの親和性です。

 鬼の保有能力である『鬼気』然り、私の持つエネルギーは全て闘気に混ぜ込むことができる。中途半端になりうる数多の技術を捨て、純粋なパワーを手にする。それが私の選択。

 取り戻したる力は『普人種』。私が人間として歩んできた人生が全て詰まったそれは、今まさにソウルボードの『メイン』で私に力を湧かせ続けてくれる。


 ―― ソウルボード ――

 コア:アジャースカイファルク

 ・メイン:普人種

 サブ:鬼

 サブ:吸血鬼

 サブ:呪人族

 サブ:

 サブ:


 ――――――――――――――――――――――――


 溢れる力のままに、受け止めたドゥークの大剣を振り払う。

 お母様の怪我は庇わせた私が弱かったから。それでも傷付けたコイツを私は許せない……!!

「【剛破槍ごうはそう】ッ!!!!」

「!!?!?」

 怒りを込めた全力の両手突きは、ドゥークの硬い皮膚をものともせずに貫く威力で。
 ドゥークは抵抗も許されず、衝撃波をまき散らしながら眼下の地面へと叩き落とされ、木々をなぎ倒しながら、わかりやすい巨大な通り道を作り上げることになった。

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