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第69羽 ジャシン

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ジャシンの影が焼き払われ、完全に消滅したのを確認して槍を下ろす。

「けほっ」

それなりの量の毒を吸い込んでしまいましたが、致命的な段階になる前に終わらせることができました。魔素の方も影響は出ていますが中毒というほどの症状でもないです。毒はこのまま『頑強』が中和してくれますし、魔素も洞窟から出れば体内で魔力に変化して無害かします。
ジャシンの影が出した毒自体は残っているので近づけば危険ですが、ここに用がなければ誰も立ち寄らないでしょう。私に対処は無理なので龍帝に任せます。

長居しても良いことはないと洞窟を出れば龍帝が待っていました。

『良くやってくれた。溢れたジャシンの影は全て消え去った。お主のおかげだ。礼を言おう』

「いえ、まあ……」

丸投げされた上にやらないと世界もろともマズそうだったので選択肢なんてなかったんですが。
それに。

「案外強くありませんでしたよ?」

『なに?ならば封印されている間に力が弱まったか……?』

そういうものですかね……。難しい顔をして考えている龍帝にさらに質問を投げる。

「それでジャシンというのは何なんですか?」

フレイさんが言っていた、遙か昔に世界を滅ぼしたことがあるということくらいしか知りません。

『ああ、あれは約1000年程前だ……』

今と同じように世界には生き物が栄えていた。人は人として、魔物は魔物として。
当時は天帝が存在しなかったので、龍帝は空の支配者としても恐れられていた。今のように霊峰ラーゲンに居を構えることもなく、気ままに世界を放浪していた時それは突如として出現した。

それがジャシン。

最初は名もなかったそれは驚異とも呼べない小さな存在だった。龍帝は存在すら知らなかったという。
だがそれは徐々に成長し、世界を覆い尽くすほどの脅威となった。人の世は荒らされ魔物も襲われた。当時の帝種も何体か殺され、挑んだ龍帝も命からがら敗走したらしい。

人よりも圧倒的に強い帝種ですら勝ち得ない存在。それを知った人間も絶望を深めた。

そんな時現れたのが1人の人間だった。その人間はメキメキと頭角を現し、世界を壊し尽くそうとしていたジャシンの進行を押しとどめた。

曰く世界を救うために神から力を授かったと。

しかしそれだけではジャシンを倒すには至らなかった。

自分1人の力では無理だと判断したその人間は俯く人類を鼓舞し、仲間を集め、やがて協力を求めて生存していた帝種にすら会いに来たと言う。もちろん龍帝にも。
当時気位の高かった龍帝はその要求をつっぱねた。しかし何度もやってくるその人間に痺れを切らし戦闘。激戦の末龍帝は敗北。帝種にすら届く力を身につけていたその人間の要求を飲んだ。
最初は龍帝もその人間に対して思うところがあった。しかしジャシンとの戦いで強力する中でその人となりに魅せられ友となったという。

そしてその人間は数多の協力もあって滅びる一歩手前だった世界を救い上げたのだ。

『とはいえ成長したジャシンは強力すぎた。我が友は倒しきることは不可能と考え、ジャシンを四つに分け力を封印したのだ。封印に使った宝玉はそれぞれ東西南北の大陸のどこかに一つずつ封印されている』

「その一つがここと言うわけですね。他の場所は?」

『我も詳しい場所はここしか知らん。封印した我が友は「沈黙は金なり」と言っていた。秘密とは知っている者が少ないほど強固に守られる。我が友がいない今となっては封印の地を全てを知るものはいない。破られることのない秘密となったのだ』

なるほど。全てを知るものがいないというのは秘密としてこれ以上なく効果的です。しかし物理的な防護を考えると、各地それぞれ龍帝のように守護者と呼べる存在がいると考えられます。
そして世界を救い上げた帝種に勝てる人間。

「その人間は神から力を授かったと言ったそうですが、今その神はどこに?」

『知らぬ。ジャシンを封印してから奴の信者はめっきりと減った。力が弱まった奴の気配はどことも知れん』

信者が減ることで神の力が弱まったと言うことですね。そして居場所はわからない。

「あれ?じゃあ白蛇聖教は何なんですか?」

聞く限りこの世界の宗教として一強です。人間に力を授けた神は白蛇聖教の神だと思ったのですが。

『知らぬ。ジャシンを封印した後、気づけば世界に蔓延っていた。白蛇なんてものを崇める人類の気は知れんがな。長く生きたが人類には理解できない部分もまだまだある……』

龍帝知らないことばかりじゃないですか……。

簡単に歴史をまとめると。
1:ジャシンが現れる。
2:強くなったジャシンに世界が滅ぼされかける。
3:世界最強格の帝種も敗れる。
4:世界を危惧した神が人間に力を授ける。
5:様々な協力もあり封印が成功。世界各地に隠す。
6:神が隠れ白蛇聖教が増える。
7:ジャシン教がジャシンの復活を目論む。

といった感じでしょうか。

というかお母様いつ生まれたんでしょう。後追いで龍帝を下して天帝に収まったって事ですよね。実際はどれだけ強いんですか……?

考えを巡らせていた私に念話こえをかけてきた。

『ところで天帝の娘よ』

「はい?なんでしょう」

空を見上げて嫌そうな顔をした龍帝がこちらに目を向けた。その話の内容は実にタイムリーなものだった。

『天帝が南の大陸で荒れ狂っているのだがなにか知らんか?』

「へ?」
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