【悲報】無限に転生してきた私、遂に人類をやめる【タスケテ】

ねむ鯛

文字の大きさ
上 下
72 / 156

第66羽 大戦犯では??

しおりを挟む

槍の先端から滴る血を振り払い、未だ驚いた顔のメリィさんに向かって駆け出す。欠片を踏み砕く音にハッと気を取り直した彼女は慌てたように体に力を込めたメリィさん。

私の接近に合わせて突き出された拳の力を槍で巻き込み手前に引っ張ればバランスを崩してつんのめる。その隙にテイクバックしていた槍で脇を打ち据えた。鈍い感触に表情を歪めた彼女はその場に踏ん張って反撃を試みてきた。痛みのせいか少しだけ踏み込みが浅い。体をずらして拳を避け、蹴り飛ばした。

クリーンヒットして宙を舞った彼女をすぐさま追いかける。空中で体勢を立て直したメリィさんが後ろに飛び退りながらこちらを見据え、高速で拳が空を乱打した。なにを?

答えはすぐにでた。勢いよく飛来した冷たい輝きが頬を撫でる。氷だ。拳に生み出した氷を殴った勢いで飛ばしてきたのだ。それも連打で。多数の氷塊に魔術での迎撃を選択。

《赤陣:火穿葬槍かせんそうそう

握りしめられた手の先の魔術陣から、人体程度なら軽く飲み込めそうな大きさの炎の槍が射出された。貫通性能に特化したそれは氷拳の雨を消し飛ばし、その奥にいたメリィさんにも到達。
氷によって威力が落ちていたため彼女の拳の一振りでかき消されてしまったが、しっかり仕事をしてくれた。

息を整える暇を与えることなく低空を飛ぶように接近。渾身の突きを放った。タイミングはバッチリです。この距離で避ける場所はありません。
するとメリィさんは避けるでもなく地面を這うように接近してきた。両手のガントレットをクロスし下からすくい上げ、槍を持ち上げるように踏み込んできた。既視感のある状況。これでは先ほどの二の舞。また頭突きをお腹にもらってしまう。

なので私は全力で槍を握りしめると翼をはためかせ『急降下』で地面に罅が入るほど力強く踏み込んだ。もちろんその負荷はメリィさんにも行くわけで。
最初は耐えていた彼女だったが、やがて腕が下がって頭で支える形になり、足も体を支えきれず膝を突き、最後には全身を地面に叩きつけられた。

さっきのお返しです。二度目どころかこちらが誘導したので食らいませんよ?今の状況なら下から横に力の向をずらしていった方がなんとかなったかもしれませんね。

そんな事を考えていると地面に倒れ伏したメリィさんから冷気の放出が止まる。それに喜ぶでもなく私は訝しんだ。
気絶した……?いえ、戦った感じではまだ彼女には余裕があるはず。死んだふりでしょうか?

――ッ!!

メリィさんを中心に大きく魔力が胎動する。
それを感じ取った瞬間後ろに大きく飛び退けば。

――――閃光が爆発した。

これは……雷……?

迸るイカヅチの中心でメリィさんがユラリと体を起こす。電気の影響かメリィさんの髪がふわりと浮かび広がっている。まるでメリィさんが大きくなったように感じた。正確には違います。彼女から感じる圧力が大きくなったのです。

バチリバチリと弾けるような衝撃が空気を叩いている。すごい威力だ。飛散する雷の余波で鍾乳石が砕けている。冷気の放出を止めたのはこの魔法を使うためですか……!!

メリィさんの口が「ちょっとだけ、全力……!!」と動いた。

私の耳が聞こえていたならバリッという音が聞こえたのではないでしょうか。メリィさんの姿がかき消える。視界が横にブレた。そう思った時には背中から壁に叩きつけられていた。

認識できないほどの速度で真横から蹴り飛ばされたのだ。

――ッ!!

脇腹がものすごい熱を持っている。肋骨がいくつか折れているようです。それだけではありません。実際に脇腹が焦げています。雷の影響でしょう。『高速再生』を使って急いで治療していく。口元を伝った血を手で拭って壁から飛び出した。

目の前に拳を振りかぶったメリィさん。現れるのは一瞬だった。咄嗟に柄で受け止めれば、衝撃が突き抜ける。

――くっ!?体が痺れて……!!

槍がガントレットから流れてきた電気を通し、体が硬直する。無理矢理力を入れ、衝撃に合わせて後ろに飛び退れば、いつの間に追いついたのか真横に。全速力で槍を巡らせ攻撃を防ぎ、後ろに飛び退くことで威力を逃がすもののメリィさんはすぐに追いついてくる。何度防いで下がっても距離を離せない……!!電気による痺れがそれを助長する。。速すぎてまともに目で追えない……!まるでコマ送りでもされているような速度で、今の私では対処が難しいレベルです。

仕方がありません。少々無茶しますが……。

またもや突然現れたメリィさんの攻撃をなんとか防ぎ、距離を離しつつ呼吸を変化させていく。
片手を突いて地面を削りながら失速。そのさなかに体を蒼の闘気が包み込む。氣装纏鎧エンスタフトだ。

体に蒼をまとったまま槍を振るい、コマ送りのような速度で迫ってきた彼女の攻撃にぶつけ合わせる。感電は……しない。槍にまとっていた炎を消して、《黄陣:付加》で雷をまとい武器の接触による通電を防いだからだ。これでまともに打ち合える……!!
威力を相殺し拳を弾けば、驚いたように彼女の目が僅かに大きくなる。しかしそれも一瞬のこと。すさまじい速度で動かれればもはやまともに目で追えなくなる。

次だ。目で追えなくても反応はできる。感覚を研ぎ澄ませろ。
魔力を使って風を周りに送り出す。『空間把握』で周りの障害物を認識し『風靡』で周りの空気の流れを掴む。風の発生源とこれから通る道筋、そして終点を予測。自然に発生する風を判別していき、メリィさんが作り出す風をあぶり出す。

そこだッ!!

首を動かせば目が合った。
背後に回り込んで拳を大きく振りかぶったメリィさん。そのがら空きの胴体に。

――【下弦月かげんげつ

後方180度をなぎ払うカウンターバックのなぎ払いが直撃した。反撃が来るとは思っていなかったメリィさんは、くの字で吹っ飛んでいった。好機!!
駆け出すと同時に握りしめた左手を目の前へ。同時に闘気を爆発させ戦撃の構えを取る。

――《紫陣:加速》

紫の魔術陣の先に見えるメリィさんを見据え、地面を踏み砕く。

――【魔喰牙ばくうが】!!

次の瞬間にはメリィさんの目の前にいた。未だ体勢の整わない彼女は咄嗟にガントレットでのガードを選択。しかしそんなもの関係ありません。

魔術による加速と戦撃による加速。そこに私の全身の力を一点に集中させた片手突きは。
ガントレットを容易く割り砕いて、その衝撃が彼女の全身を貫いた。

ゴム鞠のように軽々と吹き飛んで地面にバウンドしたメリィさんは起き上がったもののどこか足取りが力ない。戦撃は私の通常の攻撃よりも遙かに威力が高いです。いくら格上だろうとなんども食らえばタダでは済みません。
メリィさんが発生させている雷も威力が下がっているように見えます。こちらは単純に魔力不足でしょうか。

その時、洞窟の入り口から極大な雷の奔流がメリィさんめがけて殺到した。この魔力、龍帝ですか!?
体にダメージが残っていたメリィさんは避ける暇もなく飲み込まれてしまった。

私が受けたら一瞬で消し炭になるような威力。いくらメリィさんとはいえ、耐えられるものでは……。戦闘で高まっていた熱が急激に冷めていく。

成り行きで敵対していたメリィさん。彼女の本質はきっと悪ではなかった。一時とは言え仲良く過ごすことのできた彼女がいなくなってしまうのは、なんだかこの霊峰の冷たい風が胸に吹き込んでくるように感じられました。

――いや、まだ生きている!?

龍帝の攻撃で消し飛んでしまったはずのメリィさんは未だ健在でした。雷を扱うが故にメリィさんに雷の耐性があったのかもしれないとか、龍帝が洞窟を壊さないように加減をしているのかもしれないとかそんな考えが浮かびましたが、一瞬で吹き飛ぶような出来事が起きてしまいました。
龍帝の攻撃をその身で受け止めていたメリィさん。彼女が徐々に攻撃の向きを逸らし始め、やがて斜め後方に受け流すことに成功し。
そして狙ったのかそうでないのか、受け流された強力な雷のブレスは宝玉に直撃してしまったのです。その途端、軋むような嫌な音が。マズい!!

――龍帝!!攻撃を止めてください!!宝玉が!!

『なに!?』

巨大な雷の光線は収まったものの既に遅かった。
罅の入った宝玉から黒い影が這い出してきたからです。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

Link's

黒砂糖デニーロ
ファンタジー
この世界には二つの存在がいる。 人類に仇なす不死の生物、"魔属” そして魔属を殺せる唯一の異能者、"勇者” 人類と魔族の戦いはすでに千年もの間、続いている―― アオイ・イリスは人類の脅威と戦う勇者である。幼馴染のレン・シュミットはそんな彼女を聖剣鍛冶師として支える。 ある日、勇者連続失踪の調査を依頼されたアオイたち。ただの調査のはずが、都市存亡の戦いと、その影に蠢く陰謀に巻き込まれることに。 やがてそれは、世界の命運を分かつ事態に―― 猪突猛進型少女の勇者と、気苦労耐えない幼馴染が繰り広げる怒涛のバトルアクション!

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした

赤白玉ゆずる
ファンタジー
【コミックス第1巻発売中です!】 皆様どうぞよろしくお願いいたします。 【10/23コミカライズ開始!】 『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました! 颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。 【第2巻が発売されました!】 今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。 イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです! 素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。 【ストーリー紹介】 幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。 そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。 養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。 だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。 『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。 貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。 『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。 『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。 どん底だった主人公が一発逆転する物語です。 ※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

器用貧乏の底辺冒険者~俺だけ使える『ステータスボード』で最強になる!~

夢・風魔
ファンタジー
*タイトル少し変更しました。 全ての能力が平均的で、これと言って突出したところもない主人公。 適正職も見つからず、未だに見習いから職業を決められずにいる。 パーティーでは荷物持ち兼、交代要員。 全ての見習い職業の「初期スキル」を使えるがそれだけ。 ある日、新しく発見されたダンジョンにパーティーメンバーと潜るとモンスターハウスに遭遇してパーティー決壊の危機に。 パーティーリーダーの裏切りによって囮にされたロイドは、仲間たちにも見捨てられひとりダンジョン内を必死に逃げ惑う。 突然地面が陥没し、そこでロイドは『ステータスボード』を手に入れた。 ロイドのステータスはオール25。 彼にはユニークスキルが備わっていた。 ステータスが強制的に平均化される、ユニークスキルが……。 ステータスボードを手に入れてからロイドの人生は一変する。 LVUPで付与されるポイントを使ってステータスUP、スキル獲得。 不器用大富豪と蔑まれてきたロイドは、ひとりで前衛後衛支援の全てをこなす 最強の冒険者として称えられるようになる・・・かも? 【過度なざまぁはありませんが、結果的にはそうなる・・みたいな?】

元剣聖のスケルトンが追放された最弱美少女テイマーのテイムモンスターになって成り上がる

ゆる弥
ファンタジー
転生した体はなんと骨だった。 モンスターに転生してしまった俺は、たまたま助けたテイマーにテイムされる。 実は前世が剣聖の俺。 剣を持てば最強だ。 最弱テイマーにテイムされた最強のスケルトンとの成り上がり物語。

処理中です...