上 下
61 / 156

第55羽 高山の洗礼

しおりを挟む

「ごちそうさまでした」

調理も終わり、身の丈を越えるイノシシ鍋を食べたことで腹八分。調子も抜群です。
とはいっても寒いので食べ終わったら人化を解除します。羽毛があったかいですぅ。

さて。
目指すべき山頂を見やれば未だ遠く。どうにも途中から吹雪いているように見える。ここにも疎らに雪が残っています。
この山、登るだけでも死ぬ可能性があるのに強力な魔物までいる。人が登ろうとしないのは当たり前ですね。

今の私ではまともに飛べないため歩いて行くしかありません。マンドラゴラと情報の為、頑張りますよー!


■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ 


――【側刀そばがたな

「キャイン!?」

飛びかかってきた狼のような魔物をカウンターで吹き飛ばせば、実力差を悟ったのか逃げ去っていった。
食べないなら殺す必要もないですからね。
度々襲いかかってくる魔物を適当に撃退しつつ、既に数時間。空が完全に雷雲に覆われてしまった。山にドームの様に覆い被さっているため登れば登るだけ青空は見えなくなっていく。

太陽の光は届かず、周囲は薄らと暗い。

――これなら使えるかも?

ソウルボードのメインの部分に吸血鬼を設定する。数秒待っても太陽に焼かれる痛みはない。

――よし、大丈夫みたいですね。

吸血鬼が持つ能力は高い。これならもっとハイペースで探索ができそうです。

吸血鬼の『空間把握』の能力もあって奇襲を受けることもなくなり、探索は順調です。マンドラゴラは見つかりませんが、魔物からちょくちょく血液を貰いつつストックしていきます。

さくりさくりと足下が音を立てる。
そこそこ雪が深くなってきました。未だに上空を覆う雷雲のせいか、私が知る山より雪が少ない。
なにより既に標高はとうに1万メートルを超えている。それでもまだまだ先があるという事実。とんでもないですね。
普通の人間だったらまともに活動もできない世界。この世界の人間には魔力があるのでまだなんとかなるかも知れませんが、それでも苦しいはず。
やはりワールさんでなく私が来たのは正解だったかも知れません。

と、ここで頭上に影が咄嗟に飛び退けば、暴風と共に巨大な体躯が足下の雪を巻き上げる。

強靱な四肢に、薄暗い中でも輝く鱗。背中には巨大な皮膜の翼が。
ドラゴンだ。サイズは僅かにヒドラより大きい。

――また鱗ですか!もういい加減にして下さい!!

偶然ここに降り立っただけ、という自分でもちょっと無理がある願いは虚しく裏切られ、挨拶とばかりに開幕のブレス。

地面を蹴って横に避ける。顔の横を通り過ぎるブレスに目もくれず接近。近づく私めがけて振り下ろされた鋭い爪を加速し懐に潜り込む事で回避。

――【貪刻どんこく】!!

フルパワーの吸血鬼の力もあって胸元の鱗をけり砕く。

――グオオオォォォォオオ!!

痛みに仰け反ったドラゴンは翼を使い後ろに飛び退いた。

――逃がしませんよ。

いつもの感覚で空へ飛び出せば、翼が空を掻く。空気抵抗が少なく、上手く加速できない。

――しまった!!

急いで魔力を巡らし、風の補助を強めるが遅かった。
目の前には既に視界いっぱいに広がるドラゴンの巨体。滑空しての空中タックルだ。

――ぐうぅっ!!

反射的に【血葬《けっそう》】を盾のように使いガード。それでもあの巨体です。盾の上から衝撃を貰い吹き飛ばされる。二回、三回と雪を吹き飛ばしながら弾み、柔らかい雪に受け止められてようやく止まる。
すぐさま風を爆発させ周りの雪を吹き飛ばして飛び退く。今までいた場所に、ズン!という音と共にドラゴンが墜ちてきた。あんなのに潰されたら前進骨折どころかミンチです。

泣きっ面に蜂。悪いことは重なるもので。
タックルのダメージがようやく治ってきたと思ったら。

――ヒュウウウゥゥゥ

急に風が強くなり出し、視界に舞う程度だった雪が殺意をもって横殴りに襲いかかってきた。

――吹雪が……!!

羽毛の体に風が襲いかかり、攫われそうになる。

――いくら私の羽毛がもふもふで暖かくて魅力的といえどこの吹雪では流石に凍えてしまいます。どこか風をしのげる場所を探さなくては。

それにこの吹雪。は虫類は変温動物。寒さには弱いはず。

その仲間であるであるドラゴンも戦いを止めるはず……。

そう思ってドラゴンを見やれば、そこには絶望が。

体に叩きつけられる雪は瞬時に解け蒸発し、足下は水たまりとなり地面が露出している。

こんな現象が起こる理由は一つ。体温が高いのだ。

竜種は爬虫類なのに体温が高い。冬眠でもしてしまうのではと思ったが尻尾をフリフリ、翼をバサバサ、首を巡らせ咆哮を一つ。
実に元気そう。あら、微笑ましいですね。

嘘ですが??
微笑ましいとか全然嘘ですが??
憎たらしいくらいですが??

――戦闘中は雪が解けてるかどうかなんて見逃していましたが―――――全然問題なさそうですね……。

死ぬほど不利な状況で戦闘が開始した。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

猛焔滅斬の碧刃龍

ガスト
ファンタジー
ある日、背後から何者かに突然刺され死亡した主人公。 目覚めると神様的な存在に『転生』を迫られ 気付けば異世界に! 火を吐くドラゴン、動く大木、ダンジョンに魔王!! 有り触れた世界に転生したけど、身体は竜の姿で⋯!? 仲間と出会い、絆を深め、強敵を倒す⋯単なるファンタジーライフじゃない! 進むに連れて、どんどんおかしな方向に行く主人公の運命! グルグルと回る世界で、一体どんな事が待ち受けているのか! 読んで観なきゃあ分からない! 異世界転生バトルファンタジー!ここに降臨す! ※「小説家になろう」でも投稿しております。 https://ncode.syosetu.com/n5903ga/

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...