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第39羽 コアイマ

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 声からして女性でしょうか。体はすっぽりローブに覆われ、深くフードを被ったその人物の異様な雰囲気にその場が静まりかえる中、冒険者のうちの1人が近づいていく。

「なああんた、今来てよくわからないのかも知れないが、街が魔物に襲われて大変だったんだ。済まないが冒険者ギルドに行ってくれないか?あそこならまだ人がいるから、あんたの助けくらいにはなるはずだ」

「……ハァ」

 女性は何も答えずため息をはき出したかと思えば、突然魔力を高め始めた。

 ――何を!?

「邪魔よ」

 ためらうことなく魔力を解放。純粋な暴力の嵐が周辺一帯を蹂躙した。あまりの威力にそこに居た全員が吹き飛ばされ、広場の周りの家屋すら破壊される。
 巻き上げられた砂埃が消えた後、立っていたのはその女性だけだった。

 僅かな間の後、倒れていた冒険者の一部がモゾリと体を動かし声を発した。

「おい……、お前ら生きてるか?」

「なんとかな……」

「何なんだ、あいつ……!!」

「麻痺った奴らを避難させた家は……!?」

「ギリギリ範囲外だ。もしもを想定してかなり離れた場所に移動させてて良かった。じゃなきゃ押しつぶされて死んでたぞ……!!」

 ――死者は……居ないようですね……。良かった。

 魔力が爆発する寸前に、今できる私の全力の魔力で相殺を試みました。それでも少ししか弱めることができず、この有様です。私に近かった人は比較的無事ですが、離れるほど倒れたまま動かない人が増えていきます。特に真正面で受けた冒険者はかなりの重傷の様です。

「おい!大丈夫か!?」

「ダメだ!このままだと死ぬぞ!!」

「白蛇聖教の治療師が麻痺った奴らを回復させてたはずだろ!そこに連れてってこいつを先に治療させろ!!」

 動ける冒険者のうち数人が重傷の方を急いで運んで行きました。助かると良いのですが。
 それにしてもあの女性は一体なんてことを……!!

「お……おい……!!アレ見ろよ……!!」

 冒険者の震える指の先。
 約二倍ほどの広さになってしまった広場の中心には、風のせいかフードが外れた女性が立っていた。

「紫の肌に縦に裂けた瞳孔、耳があるはずの場所に上向きに生えた小さな角……!!間違いねえ!こいつ、コアイマだ!!」

 ――コアイマ?アレが。

「ぎゃあぎゃあうるさいわね、人類風情が。あとその名前嫌いなのよ……。次それを口にしたら……殺すわよ?」

「ひッ!!」

 瞳からは欠片も暖かさを感じられず、人を見る目は虫けらか何かを見るようで。人を対等だなんて考えておらず害するのが当たり前だと考えている。
 見た瞬間にわかりました。フレイさんが言っていた人類と相容れないという言葉は誇張でもなんでもなく事実なんだということが。あれは人類を殺すために存在している……!!

 人類と敵対している種族は何度も見てきました。でもそこには人間らしい理由がありました。欲、怒り、憎しみ、愛など様々な理由が。でもこいつにはそれがない……!!まるでそうあれと作られたように……!!

 ――あれ?フレイさん?

 そんな時違和感に気づきました。爆風から起き上がった後、座り込んだままフレイさんが全く動いていない。
 これは……怯えている……?

 ――ログさん、ターフさん!!フレイさんが!!

 コアイマも気になるが動きはない。今はフレイさんだ。

「マズいな……!!そういえばフレイは……」

「故郷をコアイマに滅ぼされているんだな……!!」

 ――そんな!!

 普段はあんなに明るいフレイさんにそんな過去があったなんて……!!フレイさん、ここは危険です!ともかく移動しましょう!!
 その時、私の意識がフレイさんに向いていました。
 そのためいつの間にか背後に立っていたコアイマの存在に気づくのが遅れてしまった。

 ――しまッ!?

「強い奴はいないはずなのに、変なのが湧いて……!!」

 ――がはッ!?

「折角育てていたペットを殺してくれたわね……!!」

 反応するまもなく衝撃。サッカーボールのように蹴り飛ばされ宙を舞う。無事だった家の壁を貫通してようやく止まった。

「あんたらもよ」

「ぐっ!?」「うわぁ!?」

 咄嗟に武器を構えようとしたログさんとターフさんも抵抗などまるでないように吹き飛ばされた。強すぎる。あまりの実力差に威圧され誰も動けない。

「全く……、空腹だからってゲートを無理矢理こじ開けて通り抜けるなんて……。そのせいでゲートは壊れてるし、こいつにかけた育成時間が全部パアよ。それになんでわたしがあんな奴の指示に従わなくちゃいけないのよ……!!あら……?」

「あ……」

 ぶつくさと文句を言っていたコアイマが震えているフレイさんの存在に気がついた。

「あら怯えているの?かわいいわね、持ち帰って飼ってあげましょうか?」

「い……や……」

 瞳に涙を浮かべて後ずさることしかできないフレイさんに向けてコアイマが嗜虐的な笑みを浮かべる。その時、何かに気づいたような表情を浮かべた。

「もしかして貴女、あのときの生き残り……?」

「あ……う……」

 その言葉でトラウマが刺激されてしまったのか頭を抱えてうずくまってしまった。反応にコアイマがやはりと言った表情をする。

「当たりね。復讐しに来るのを嬲ってやろうと気まぐれに生かしておいてあげたけど……、これはこれで面白いわね。喜びなさい、貴女だけは生かしてあげる」

 あまりの恐怖で動けないフレイさんへ、コアイマが伸ばした手を。
 ――――蹴り飛ばした。

 ――その人に……近寄るな……!!

「チッ!魔物風情が……!!」

 コアイマが手を引いて飛び退る。そのまま追撃を加えていくが、余裕の表情で防がれる。こいつ……強い……!!感触は竜種の鱗を蹴ったときの様に硬い。
 呼気が熱を持つ。激しい動きと合わせて今までにない時間の戦い。逃げることがなく籠もった熱が動きを鈍らせていく。鳥の体にこんな弱点があるなんて……!!

 こいつに勝てるのはこの場ではきっと自分だけ。長期戦になるのは不利。募る焦り。

 ――【貪刻どんこく】!!

 それが致命的な隙を作った。

 強烈な一撃が空気を揺らす。空気を揺らすだけ、蹴りの先にコアイマはいない。スルリと避けられてしまった。
 戦撃は途中で止めることはできない。体は蹴った姿勢のまま硬直し動けない。

 ――マズいマズいマズい……!!

 ニンマリと笑ったコアイマがいつの間にか手に持っていた剣を、地面を這うように振りかぶって言った。

「隙だらけよ」

「メ……ル……?」

 真下から袈裟懸けにされ、その小さな体が血と共に宙を舞った。
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