45 / 156
第39羽 コアイマ
しおりを挟む声からして女性でしょうか。体はすっぽりローブに覆われ、深くフードを被ったその人物の異様な雰囲気にその場が静まりかえる中、冒険者のうちの1人が近づいていく。
「なああんた、今来てよくわからないのかも知れないが、街が魔物に襲われて大変だったんだ。済まないが冒険者ギルドに行ってくれないか?あそこならまだ人がいるから、あんたの助けくらいにはなるはずだ」
「……ハァ」
女性は何も答えずため息をはき出したかと思えば、突然魔力を高め始めた。
――何を!?
「邪魔よ」
ためらうことなく魔力を解放。純粋な暴力の嵐が周辺一帯を蹂躙した。あまりの威力にそこに居た全員が吹き飛ばされ、広場の周りの家屋すら破壊される。
巻き上げられた砂埃が消えた後、立っていたのはその女性だけだった。
僅かな間の後、倒れていた冒険者の一部がモゾリと体を動かし声を発した。
「おい……、お前ら生きてるか?」
「なんとかな……」
「何なんだ、あいつ……!!」
「麻痺った奴らを避難させた家は……!?」
「ギリギリ範囲外だ。もしもを想定してかなり離れた場所に移動させてて良かった。じゃなきゃ押しつぶされて死んでたぞ……!!」
――死者は……居ないようですね……。良かった。
魔力が爆発する寸前に、今できる私の全力の魔力で相殺を試みました。それでも少ししか弱めることができず、この有様です。私に近かった人は比較的無事ですが、離れるほど倒れたまま動かない人が増えていきます。特に真正面で受けた冒険者はかなりの重傷の様です。
「おい!大丈夫か!?」
「ダメだ!このままだと死ぬぞ!!」
「白蛇聖教の治療師が麻痺った奴らを回復させてたはずだろ!そこに連れてってこいつを先に治療させろ!!」
動ける冒険者のうち数人が重傷の方を急いで運んで行きました。助かると良いのですが。
それにしてもあの女性は一体なんてことを……!!
「お……おい……!!アレ見ろよ……!!」
冒険者の震える指の先。
約二倍ほどの広さになってしまった広場の中心には、風のせいかフードが外れた女性が立っていた。
「紫の肌に縦に裂けた瞳孔、耳があるはずの場所に上向きに生えた小さな角……!!間違いねえ!こいつ、コアイマだ!!」
――コアイマ?アレが。
「ぎゃあぎゃあうるさいわね、人類風情が。あとその名前嫌いなのよ……。次それを口にしたら……殺すわよ?」
「ひッ!!」
瞳からは欠片も暖かさを感じられず、人を見る目は虫けらか何かを見るようで。人を対等だなんて考えておらず害するのが当たり前だと考えている。
見た瞬間にわかりました。フレイさんが言っていた人類と相容れないという言葉は誇張でもなんでもなく事実なんだということが。あれは人類を殺すために存在している……!!
人類と敵対している種族は何度も見てきました。でもそこには人間らしい理由がありました。欲、怒り、憎しみ、愛など様々な理由が。でもこいつにはそれがない……!!まるでそうあれと作られたように……!!
――あれ?フレイさん?
そんな時違和感に気づきました。爆風から起き上がった後、座り込んだままフレイさんが全く動いていない。
これは……怯えている……?
――ログさん、ターフさん!!フレイさんが!!
コアイマも気になるが動きはない。今はフレイさんだ。
「マズいな……!!そういえばフレイは……」
「故郷をコアイマに滅ぼされているんだな……!!」
――そんな!!
普段はあんなに明るいフレイさんにそんな過去があったなんて……!!フレイさん、ここは危険です!ともかく移動しましょう!!
その時、私の意識がフレイさんに向いていました。
そのためいつの間にか背後に立っていたコアイマの存在に気づくのが遅れてしまった。
――しまッ!?
「強い奴はいないはずなのに、変なのが湧いて……!!」
――がはッ!?
「折角育てていたペットを殺してくれたわね……!!」
反応するまもなく衝撃。サッカーボールのように蹴り飛ばされ宙を舞う。無事だった家の壁を貫通してようやく止まった。
「あんたらもよ」
「ぐっ!?」「うわぁ!?」
咄嗟に武器を構えようとしたログさんとターフさんも抵抗などまるでないように吹き飛ばされた。強すぎる。あまりの実力差に威圧され誰も動けない。
「全く……、空腹だからってゲートを無理矢理こじ開けて通り抜けるなんて……。そのせいでゲートは壊れてるし、こいつにかけた育成時間が全部パアよ。それになんでわたしがあんな奴の指示に従わなくちゃいけないのよ……!!あら……?」
「あ……」
ぶつくさと文句を言っていたコアイマが震えているフレイさんの存在に気がついた。
「あら怯えているの?かわいいわね、持ち帰って飼ってあげましょうか?」
「い……や……」
瞳に涙を浮かべて後ずさることしかできないフレイさんに向けてコアイマが嗜虐的な笑みを浮かべる。その時、何かに気づいたような表情を浮かべた。
「もしかして貴女、あのときの生き残り……?」
「あ……う……」
その言葉でトラウマが刺激されてしまったのか頭を抱えてうずくまってしまった。反応にコアイマがやはりと言った表情をする。
「当たりね。復讐しに来るのを嬲ってやろうと気まぐれに生かしておいてあげたけど……、これはこれで面白いわね。喜びなさい、貴女だけは生かしてあげる」
あまりの恐怖で動けないフレイさんへ、コアイマが伸ばした手を。
――――蹴り飛ばした。
――その人に……近寄るな……!!
「チッ!魔物風情が……!!」
コアイマが手を引いて飛び退る。そのまま追撃を加えていくが、余裕の表情で防がれる。こいつ……強い……!!感触は竜種の鱗を蹴ったときの様に硬い。
呼気が熱を持つ。激しい動きと合わせて今までにない時間の戦い。逃げることがなく籠もった熱が動きを鈍らせていく。鳥の体にこんな弱点があるなんて……!!
こいつに勝てるのはこの場ではきっと自分だけ。長期戦になるのは不利。募る焦り。
――【貪刻】!!
それが致命的な隙を作った。
強烈な一撃が空気を揺らす。空気を揺らすだけ、蹴りの先にコアイマはいない。スルリと避けられてしまった。
戦撃は途中で止めることはできない。体は蹴った姿勢のまま硬直し動けない。
――マズいマズいマズい……!!
ニンマリと笑ったコアイマがいつの間にか手に持っていた剣を、地面を這うように振りかぶって言った。
「隙だらけよ」
「メ……ル……?」
真下から袈裟懸けにされ、その小さな体が血と共に宙を舞った。
0
お気に入りに追加
257
あなたにおすすめの小説
猛焔滅斬の碧刃龍
ガスト
ファンタジー
ある日、背後から何者かに突然刺され死亡した主人公。
目覚めると神様的な存在に『転生』を迫られ 気付けば異世界に!
火を吐くドラゴン、動く大木、ダンジョンに魔王!!
有り触れた世界に転生したけど、身体は竜の姿で⋯!?
仲間と出会い、絆を深め、強敵を倒す⋯単なるファンタジーライフじゃない!
進むに連れて、どんどんおかしな方向に行く主人公の運命!
グルグルと回る世界で、一体どんな事が待ち受けているのか!
読んで観なきゃあ分からない!
異世界転生バトルファンタジー!ここに降臨す!
※「小説家になろう」でも投稿しております。
https://ncode.syosetu.com/n5903ga/
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる