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第32羽 パルクナット その2 宗教・世界地図

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「それで調査結果はどうだったかの?」

 そうフレイに問いかけたのは椅子に腰掛けた小さな老人だった。

「なにもなかったよギルドマスター」

 ギルドマスターとは冒険者ギルド、つまり冒険者に仕事を凱旋するこの施設のボスだ。
 ギルドは他大陸にも存在し、一つの組織として相互に連携を取って活動している。

「ふむ、そうか。なにもなかったか。あんなにも目撃情報があったのに」

 森の付近で不審な影を見たと言った話が冒険者の間からいくつも上がっていた。証言は大体「大きな影」「たくさんの影が揺れていた」「聞いたことのない鳴き声を聞いた」とほぼ似通っていた。

 目撃者は多数いた。なのになにもなかった。

 まるで・・・隠されて・・・・いるかのように・・・・・・・

「そうそう、龍帝の息子だっていうグレーターワイバーンが現れたんだが、そいつもなにか探している様だったぜ」

「なるほどのう。こちらでも打てる手を打っておこう」


 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ 


「おーい、メル?どこに……って何やってんのあんた」

 私を中心に全ての魔物が倒れ伏す中、いつの間にかやって来たフレイさんに背後から声をかけられました。

 ――なにって、少し撫でてあげただけですよ……。本当に少しだけね。

 ふふ、我ながら自分の才能が恐ろしいです……。

 そう、この動物をなでなでするテクニックが!!
 私、最初の人生から動物が好きでして、たくさん撫でていたんですよ。するとですね動物に喜んでもらえる撫で方というのが段々わかってきまして、ドンドン上手くなっていったのですよ。
 お母様も一分と立たないうちに逃げ出したことから、その実力がわかるかと思います。

 最近は命の危険の方が大きく、動物を愛でる機会がなかなか無かったので、この大きな狼が来たときについ張り切ってしまいまして。折角なのでと、全ての魔物をなでなでしたのです。
 しかし私の撫で方はどうも気持ちよすぎるらしく、皆ピクピクしながら眠ってしまうのです。

「クウ~ン」

 この狼だけは例外で、しばらくすると起き上がってすり寄ってくるんですよ。なのでなんども撫でてあげられるんです。最初はなんだか威嚇しているような雰囲気で近寄ってきていたんですが、照れてたんでしょうね。おお~よしよし。

「クウ~nッ!?ビクンビクンッ!!」

「あの凶暴で有名な魔狼を手なずけてる……」

 私が天からもらった唯一の才能といっても過言ではないでしょう。……なんだか自分で言ってて悲しくなってきました。私の才能、動物を撫でるだけって……。

「なんでいきなり落ち込んだのさ……。ほら、こっち来な」

 失意のままにフレイさんの元にトボトボ歩いて行けば、側にもう一人。

 金糸のような髪を肩口で切りそろえ、目鼻立ちの整ったかわいい女の子です。

「どうも!受付嬢やってます!ラクトです!あの魔狼が従うなんて鳥さん凄いですね!」

 ――受付ジョー……。鳴き声は「アイボウ!」でしょうか?

 そんなバカな事を考えていると、ラクトさんが鞄をゴソゴソして、手の平サイズの水晶玉を取り出しました。これは?

「この水晶に触れて頂くとフレイさんとの従魔登録が完了します。フレイさんと一緒なら自由に人の街に出入りできるようになりますよ」

 わかりました。水晶に触れると僅かに魔力が吸い出される気配が。

「……はい、大丈夫です。登録が完了しました!これでフレイさんの冒険者カードに鳥さんの情報が追加されました。これからは都市や街、村などの入り口でカードを提示して頂ければ簡単に出入りできますよ」

 ――こんな小さな水晶と冒険者カードが連携しているのですか。なんだか凄いオーバーテクノロジーな気がしますが普通なのでしょうか。

「ありがとね、ラクト。よし、じゃあ帰るよ」

 ――おっと。

 抱き上げられて頭の上に載せられました。ラクトさんも不思議な目で見上げてきます。やっぱり変では?

 ――また来ますからね。

 立ち去る際、視線を送るとビクリと倒れ伏した魔物達は反応した。


 ギルドでログさんとターフさんと合流し、その帰り道。フレイさんの頭の上から露店や出店を眺めていると、今までとは一風変わった建物を見つけました。あれは何でしょうか?

「あれは白蛇聖教の教会だ。白蛇聖教ってのは幸運の白蛇の神さまがいるから、それを信仰しとけばみんな幸運になれるぜって教えの宗教だよ。一番メジャーだな」

 ジッと眺めているとログさんがすぐさま教えてくれました。気遣いが凄いですね。実はあなた女性にモテるのでは?私は訝しんだ。

「反対に悪い意味でメジャーなのがジャシン教ってのでな、世界中で悪事を働いている」

「ジャシン教は訳のわからない事をいろいろやっているんだけど、総じて皆ジャシンを復活させようとしてるんだな」

「でジャシンってのが結構な代物で、遙か昔に世界が一度滅ぼされたらしいんだ」

 ――なるほど。さっきの水晶玉と冒険者カードはその文明のものなのでしょう。

「まあ、今生きてるのはその時に生き残った奴らの子孫ってことさ」

「しかもジャシン教の活動にコアイマが関わっているらしいんだ」

 ――コアイマ?何でしょうそれは。

「コアイマってのは人類の不倶戴天の敵。人の姿をしている癖に人類とは永遠にわかり合えることができないバケモノ。魔物ですら敵意をむき出しにする存在だ。しかも途方もなく強いんだ。実際かなりの数の人類が殺されている。あんたも会えばわかるよ、あれは生きてちゃいけないものだ」

 俯いたフレイさんの声は非常に暗いものでした。頭上にいる私からはその表情をうかがい知ることはできません。

「……さ、着いたよ。ここがあたいらが取ってる宿。『萌えよドラゴン』さ」

 ――その名前はアウトなのでは?

 私の懸念は一気に吹き飛んだ。


 取っていた部屋は二つ。フレイさんは自分の部屋に不要な荷物を置くともう一つの部屋の扉をノックして入り込んだ。
 私が世界規模の迷子っぽいので、行く先を探す手がかりを見つけてくれる様なのです。……感謝しかありません。

「さて、これが世界地図だよ。この世界は四つの大陸と一つの島国から成り立っている。私達がいるのがここ」

 地図には東西南北にそれぞれ大きな大陸があり、地図の中央に島国が存在していた。
 フレイさんが指さす。一番上、北だ。

「ノッセントルグ大陸。基本年中寒い」

 次々に指さしていく。西のウェイストリア大陸。東のイスタルカム大陸。南のサウザンクルス大陸。

「そして中央の島国はセントラルクス、白蛇聖教の聖地が位置している。これでなにかわかるかい?」

 ――うん。さっぱりわかりません。私は自分が住んでいた森の名前すら知らないのですから。

 そもそも私は本当に別大陸に居るのでしょうか……。情報源があの泣き虫翼竜ですからつい疑ってしまいます。
 もし本当ならなぜ……。今唯一原因と考えられるのは地竜のいた洞窟でしょうか。あそこの空間がねじ曲がっていて、出てくる先が別の大陸だったとか。推測の域を出ませんがそれくらいしか思いつきません。
 あの洞窟に戻ろうにも、記憶が曖昧で森一帯を捜索しなければいけませんし、そもそも自分が倒れていた場所ませ連れて行って貰うように伝えなければなりません。
 言葉が話せない現状なかなか難しいですし、洞窟にたどり着いた所で帰りの通路は大量の瓦礫で塞がっています。問題しかありません。

「てい」

 ――あいたっ!?

 いつの間にか考え込んでいた様でフレイさんからチョップを頂いてしまいました。

「無視すんな」

 ――うぐ、ごめんなさい。

「やっぱわかんないか。魔物のあんたじゃ人間の地図は見たことないのは予想済みだから良いとして……。いっそあんたと世界中を旅して回るのも良いけどね」

 ――それは流石に負担を掛けすぎですよ。

「いきなりなんだな。それに別の大陸に渡るのは白蛇聖教の許可がいるから大変なんだな……」

 ――それって宗教が物流を握っているって事ですか?マズいのでは?私は魔物なので今世ではあまり関係ないですが、神が不在の宗教ほど厄介なものはありません。独自解釈でなんとでも言えますから。結果宗教そのものに苦手意識があるんですよね。

「とりあえずしばらくはこの大陸の地理について教えていくよ。地図を見たことないとはいえ、なにか知ってるかもしれないしね。とは言え今日は疲れたからまた明日ね」

 そうですね、私も闘気をかなり消費したので休みたいです。全員が同意すると今日は解散になりました。

 フレイさんがの部屋に着くと宿から借りた大きめの桶を取り出し、お湯を張り始めた。体を拭うのでしょうか。お待ちかねのお色気シーンですかと頷いていると桶に私が浸けられた。何故に?

「今日はあんたを抱き枕にする予定なんだ。綺麗に洗ってあげるからね」

 ――ちょっと待ってもらえませんか??私に拒否権は??

 ありませんでした。

 この後めちゃくちゃ洗われて、めちゃくちゃ抱き枕にされた
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